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土筆の転職!露店販売には掘り出し物が?

神の使いは女性である場合が多い。
理由はいくつか言われているけれど、最も考えられている理由は『神を殺す事ができない』からだ。
自分が討伐される立場になったとしても、神の使いが女性なら殺られる心配はない。
イスカンデルの神が伊勢神宮の神の使いを捕らえていたのも、男だったからだろう。
でも別に悪い事をしていなければどっちでも良い訳で。
単純に強い人を神の使いにしていたら、女性の方が圧倒的に多かったってのも考えられなくはない。
でも本当の所は、世界の神が男である事が一番の理由じゃないかな?
男性なら女性が好きだし。
俺の場合は‥‥、否定しないよ。

俺たちが欲望ズに入って一日が経った。
一応ギルドメンバーの整理とか確認とかは済ませたようだ。
ギルドメンバーは元々幽霊メンバーも含めて六十人くらいはいたようだけれど、現在はマスターを含めて二十三人にまで減らされた。
マスターと俺たち秋葉原フォウを除けば十八人。
かなり少数精鋭となった。
でもこれだけいれば問題ない。
後は質さえ上げていけばなんとかなるだろう。
それでこのギルドでは、面白い運用をしている所があった。
みんなをコードネームで呼ぶという事だ。
本名で活動したくないって人もいるんだよね。
ゲームじゃないんだからって思ったりもするけれど、そういう人がいるのだからそうなのだろう。
それに俺は、こういうあだ名を付けるのには大賛成なのだ。
俺が死んだ頃の日本では、あだ名で呼んではいけないって風潮が生まれ始めていた。
でもあだ名は愛情表現の一つな訳で、それを禁止するのはどうかと思っている。
全くくだらない事を言う人がいるものだとうんざりさせられたよ。
そんな訳で俺たちにもコードネームが付けられた。
俺は『ナニワ』狛里は『イヌ』想香は『ウサギ』奇乃子は『タケノコ』。
でも流石に今更呼び方を変えられないので、俺たちの間ではそのまま呼ぶ事にした。
ちなみに土筆は『ボス』ね。
一応他のメンバーのコードネームも伝えておこうか。
『ギョルキュー』『シャーリー』『ヨンキュー』『ジャマ』『ゲッツ』『マーチ』『ルペン』『コネコ』『チーママ』『イカサマ』『ズイマー』『サイコ』『モニー』『ミポリン』『メミー』『スズメヤ』『ハラリン』『コユキ』の十八人だ。
まあ一応魔法記憶に留めておいたけれど、覚えておく必要があるかどうかはこれからかな。
それにしても男が七人で女が十一人か。
やっぱり女性の仲間が多い方が良いよね?

さて今日の予定だけれど、奇乃子の希望で今日は土筆‥‥いやボスを転職させる。
ボスはレベル百二十ですっかり成長が止まっており、今のままではなかなか強くなれなかった。
奇乃子曰く、『土筆くんは魔法使いは合わないのだ!自ら戦った方が強いのだ!』なのだそうだ。
当の本人は『俺には後ろからの指揮が向いてんだよ。前行くのこえぇじゃん?』なんて言っているけれどね。
とにかく今回は、ボスも連れて金の岩山へと行った。
「俺にどうやって倒せって言うんだ?確実に瞬殺なんでぜってぇ無理だぞ?」
「じゃあ今までどうやって倒してきたんだ?」
「そりゃ‥‥。俺は状態異常魔法が得意だからな。毒とか麻痺の後にデススペルだよ」
なかなか変わった戦い方をする奴なんだな。
相手を弱らせてデススペルか。
でも確かにこれだとレベル上げが難しい。
転職必須だな。
「分かった。ならば狛里、想香。ゴーレムを弱らせて連れてきてくれ。殺したら駄目だぞ」
「分かったの‥‥でも難しいの‥‥」
「オッケーボス!とりあえずダルマにして持ってくればいいんじゃないでしょうか?」
「それなの‥‥」
なんかゴーレムが気の毒になってくるな。
別に痛覚も何も無いんだろうけどさ。
つかボスがいる前で『オッケーボス』はややこしいな。
「じゃあ全部全力デススペルで行ってみよう!」
「頑張れ土筆くんなのだ!」
「分かったよ。やってやるよ!」
こうしてゴーレム狩りは始まったけれど、直ぐにボスの魔力は尽きた。
百二体しか倒せなかったか。
魔力回復、魔力容量どちらも並だな。
並だから弱いって訳じゃないけれど、戦闘では魔力の使用に関してちゃんと計算が必要になるだろう。
「じゃあ後は奇乃子、金を集めるぞ!」
「またやるのだ?でも土筆くんの為なのだ。頑張るのだ!」
こうして昨日と同じように限界まで今日も頑張ったのだった。

「金は十二億以上集まったな。じゃあボス次だ。課金の泉に行くぞ!」
「へぇへぇ、もう好きにしてくれ」
ボスはまだ疲れが取れない様子だけれど、なんだかんだと言いながら言う通りにしてくれていた。
泉に到着すると、俺は奇乃子にやったように『祝福』の魔法をかけた。
ラックを上げるのはもちろんだけれど、肉体強化も少し入れておいた。
昨日奇乃子がお金を放り込んだのは、泉の割と向こう側だった。
もしかしたらそういう所でもレア度が変わる可能性がある。
強い奴なら遠くに投げ込む。
そんな事もあるかもしれない。
まあジンクス程度のものだけれど、こういうのってゲームのガチャでも気にしたりしていたよね?
「コレが五億円入った袋だ。できる限り向こうの方に投げてくれ」
「分かったよ。俺は魔法使いなんてやってはいるが、割と体力には自信があるんだ」
そう言ってボスは、思いっきり向こう側へお金を投げ入れた。
「結構向こう側まで行ったの‥‥」
「やりますね。ただ僕たちが投げたら泉を通り越してしまうと思われますが」
「嘘だと言いたい所だけれど、きっとそれは本当なのだ」
みんながそんな事を言っている間にも、泉の色が変わっていった。
今回も又金色だ。
これは期待できるぞ。
「おお!すげぇ!レア職だぜ!」
「きっと凄い称号が貰えるのだ!」
昨日と同じように、プラカードを持った小さな妖精さんが現れた。
いったいなんて書いてある?
見るとそこには『|戦闘家《レンジャー》』と書かれていた。
レンジャーと言えば多くのゲームで割と下位職に分類されているけれど、このゲームでは確か上位職だったな。
武道家から武闘家になって、更にその上に位置する職だったと記憶している。
或いは武闘家ではなく格闘家経由だったか。
とにかく武道家というのは、ただ体を使って戦う者って感じだ。
けれど武闘家や格闘家はそれに『魔法のような攻撃』や『必殺技のような攻撃』が追加される。
そして戦闘家ともなると、あらゆる能力を備えた万能タイプではなかっただろうか。
武器も他の職とは違ってあらゆる武器が使用可能で、特に変わった物を扱うのに長けている職業だったはずだ。
奇乃子の話から考えれば、かなり合っていると感じる。
当然ボスには転職してもらった。
「これで称号が変わったのか?」
「そうだな。魔力が若干落ちているし、転職できている。これからは武器を持って戦う事もできるから、すぐに今までのレベルなんて超えられるさ」
「なんだか土筆くんが強そうに見えるのだ!」
「なんだ奇乃子?今までの俺が弱そうだったってぇのか?」
「強そうだったけど‥‥、ちょっと弱そうだったのだ」
「ちっ!」
今まで土筆は腐っていて、確かに弱そうだった。
でも前向きになった今では、まあそこそこ強そうには見えるよ。
「ところで金が結構余ってるだろ?今度は一番良い武器屋に行って、お前たちの武器や装備品を買ったらどうだ?それとも奇乃子が作るか?」
俺が作ってやる事もできるけれど、今こいつらは前向きに生きる楽しさに目覚め始めている。
それに水を差すような事はしない方がいいだろう。
自分たちで稼いだ金で武器を買って、装備を整えた方がきっと喜びも大きいに違いない。
「まだ七億円以上残っているのだ。何でも買えてしまうのだ」
第一大陸なら確かにそうだな。
メチャメチャ良い装備でも一千万円くらいだった気がする。
しかし奇乃子は自分で作ろうとはしないか‥‥。
何か思う所があるのかもしれない。
「一番良いものが売ってんのは『帝都』だろうな。行った事はねぇが、とにかく良い物が売ってるって噂だ」
「俺も聞いた事があるのだ。でも高すぎて買えないので行った事はないのだ」
帝都か。
ゲームの頃も確かそんな感じだったけれど、何かを忘れている気がするな。
そうだ思い出したぞ。
ゲームだったら確か最初の村には地下ダンジョンがあって、その最下層で最強の武器防具がドロップしていたんだ。
でも村にそんな場所はなかった。
とりあえず帝都で揃えるのがいいだろう。
「帝都に行くにはどの町がちけぇかなぁ?」
「ああ帝都なら瞬間移動できるから大丈夫だ」
「あれ?策也は町に行った事がないと行っていたのだ?」
「ああ。そんな事を言っていた日もあったな。でも安心してくれ。昨日軽く廻って来たから」
「昨日はずっと一緒にいたのだ?」
「奇乃子何を言っている?一緒にいなかった時間もあっただろ?」
寝ている時だけなんだけどさ。
妖凛ありがとう。
「そんな時間あったのだ?記憶にないのだ?」
「お前昨日は疲れていただろ?記憶が混乱しているんだな。とにかく帝都に行くぞ」
「わ、分かったのだ」
「勝手にしてくれ」
俺は魔法を発動して、みんなを一瞬にして帝都へと運んだ。
帝都は流石に他の町と違って規模が大きい。
マップのほとんどが町になっている。
つまり二十キロ四方に近い大きさの巨大な町という事だ。
ここなら良い物がきっと買えるに違いない。
しかし町は広かった。
店も他の町と違って数が多い。
全部廻ってどの武器防具が一番良いか、調べるだけでも一日かかる。
そんな訳で俺たちはこの日、少しだけ廻っただけで後は宿屋で休むのだった。

次の日は開店時間から店を廻っていった。
どの店も最高級品を扱っているようで目移りする。
しかしこれだと思える物はなかなか見つからなかった。
「どれも良い物ばかりなのだ。でも俺にしっくりくる物はなかなか見つからないのだ」
錬金術師が使う武器なんて、普通は何が合っているのだろう。
使った事が無いのでよく分からない。
逆にどの武器を使ってもバフは無いのだから、自分が一番使いやすい物って事になるわけだけれど。
そして当然ボスにもいい武器は見つかっていなかった。
戦闘家はどんな武器でも軽いバフがかかるので、選択肢が多すぎて決められないようだ。
結局概ね見て廻ったけれど、どこも似たような感じで決め手に欠ける武器ばかりだった。
これは適当な所で妥協かな。
そう思っていると、露店販売している冒険者が目に入った。
そう言えばこのゲーム、冒険者の露店販売ができるんだったな。
こういう所に割と掘り出し物があったりする。
俺はなんとなく並べられている物を覗いた。
するとどうやらほとんど売り切れてしまっているようで、箱の中身が残っているのはよく分からない武器が一つだけだった。
やけに細い棒にグリップが付いている。
太さは旅行のお土産で売っている|十手《じって》くらいだろうか。
トンファーのようにも見えるけれど、この細さだと違う気もする。
「これは武器なのか?」
俺は気になって聞いてみた。
「ああ武器だぞ。トンファーだな」
やはりトンファーか。
「しかしこの細さだと武器としては弱いんじゃないのか?」
この細さだと、相手へのダメージも大して与えられるとは思えない。
ある程度重さが乗らないと駄目な武器だからな。
「それ、箱ごと持ち上げてみな。そしたら分かるよ。おっとトンファーには触れるなよ。触れると何が起こっても責任は持てないぜ?」
俺は少し鑑定してみた。
なるほど、呪いに麻痺に毒効果が付与されているのか。
つかこんな武器普通誰も使えないだろ?
俺はそんな事を思いつつ箱ごと持ち上げてみた。
「コレは重いな‥‥」
なんというか、アルカディアの頃に風里に作ってあげたスォードトンファーよりも重いぞ?
「だろ?それはミスリルを特別な加工で重くしてあるらしいんだ。だからトンファーとしてかなり強力になっている」
店の兄ちゃんが言う通り、このトンファーは強力だ。
細くても重くて丈夫なら、普通のトンファーよりも攻撃力が上がる。
接触面積が小さければ小さいほど力が乗るからな。
「それに呪いと麻痺と毒効果か‥‥」
「分かるのか?まあだからその武器は使い手を選ぶんだよ。その武器を持てる者にしか扱えない。だから強力なんだけど今日も売れ残りそうなんだよね」
まあ俺なら使えなくはないけれど、トンファーなんて使わないからなぁ。
そんな事を思っていたら、見ていたボスが口を挟んできた。
「俺、そのトンファーが欲しい!これだよ。こんな武器を俺は求めてたんだ」
確かに言われてみれば割と相性は良いかもしれない。
弱らせてデススペルでとどめを刺す戦い方にも合うし、戦闘家の武器としても割と合っているような気がする。
「ほう。あんたがね。そうだな。その武器があんたを選ぶなら一億で売ってやっても良いぜ?」
「一億だと?」
「そうだ。本当なら二十億以上価値のある武器なんだが、トンファーはマイナーな武器で使う奴がいない。だから五億でも売れなくてな。そろそろ売り切りたいと思っていた所だ。使えるのなら売ってやる」
「二十億の武器なのか‥‥」
ボスにしてみたら高いと感じているのだろうな。
だけれど売ってる方としては安すぎる値段設定。
コレが使いこなせるのなら、この第一大陸では無敵の強さになるかもしれない。
おそらくこの兄ちゃんは先の大陸から売りにやってきている。
そちらで需要が無かったらきっと此処まで売りにきたんだろうな。
「分かっよ。それでどうしたらいいんだ?」
「そのトンファーを手に取るだけでいい。それでお前がそのトンファーにふさわしいかどうかが分かる。ただし駄目な場合は死ぬ事になる。冒険者ならレベルが壱下がるだけだが、かなり苦しい思いはする事になるぞ」
呪いと麻痺と毒だからな。
死ぬまでにそれなりに時間があるはずだ。
その間は地獄の時間となるだろう。
「上等だ。俺に呪いと麻痺と毒で勝てる奴なんていねぇ。それは武器も同じだ!」
そう言ってボスはトンファーのグリップを握った。
一気にトンファーの魔力が上がった。
このトンファーはインテリジェンス武器か。
現在ボスは、このトンファーと戦っているんだな。
俺達なら楽勝だけれど、果たしてボスに扱えるのか‥‥。
十秒ほどして、トンファーの魔力は収束し消えていった。
「ほう、トンファーがお前を認めたか。まさかこんな所に使い手がいるとはな」
これはこの武器に耐性のある者が、まさか第一大陸でって意味だろう。
きっとそれだけ凄い武器なんだ。
少なくとも俺が作る武器と遜色はないだろう。
「この武器、一億だったな。奇乃子、渡してやってくれ」
「分かったのだ。それにしてももうこんな大金を扱うのに慣れてきている自分がいるのだ。おかしいのだ」
「一億を簡単に出せる奴がいるのか。こりゃ世界が動き始めているのかもな」
店の兄ちゃんの言葉はどういう意味だろうか。
世界が動き始めている。
まさかこいつ、この世界の神側の人間じゃないだろうな。
だったら警戒されるかもしれない。
魔力も抑えていそうだし‥‥。
とは言え考えても仕方がない。
それに警戒されるにしても今回はボスだろう。
或いは逆に次期神候補の可能性だって有るわけだしな。
まあ俺はなるべく目立たないようにしよう。
そんな風に思った。
さて、ボスは無事『マーストンファー』を手に入れた。
「しかしこれは危険な武器だな。他人に触らせる事もできねぇ。ならこうすっか」
トンファーを手に入れたボスは、それを持った状態で腕にバンテージで固定していった。
なるほどそういう使い方もいいな。
腕に固定しておけば、重さでパンチのパワーが桁違いに上がるだろう。
敵の攻撃を腕でガードする事もたやすくなる。
「ありがとうよ!いい買い物ができたぜ!」
ボスはそう言って店の兄ちゃんに言ったけれど、既にそこに姿はなかった。
金を受け取って直ぐに去って行ったけれど、アレはかなり高レベルの冒険者だ。
俺たち以外には、誰も去った事に気が付かなかっただろう。
何にしても良い物が手に入った。
ボスにとっては満足かな。
それで問題は奇乃子の武器か。
「俺は‥‥自分の武器は自分で作ろうと思うのだ。そのトンファーと最高級の武器を見てきて、自分で作った方が良い気がしてきたのだ。俺ならきっとそのトンファーに近いレベルの物が作れるのだ」
「ほう。確かにその方がいいかもな」
自分の武器は、自分で作るのが一番良い物ができる。
俺たちはみんなそうしている訳だし。
いや俺が作っているんだけれどさ。
「おっ!奇乃子ならできるぜ!王にも認められた鍛冶師だからな」
「ならば俺から後で良い素材をやるよ。それを使って作ればきっと凄い武器ができるはずだ」
「素材なのだ?」
「そそ。まあ期待しておいてくれ」
こうして今日の所は砦へと戻ることになった。

砦の部屋に入ると、俺は早速闇の家へと入って素材を持ってくる。
この世界にもある物なら持ち込めるはずだ。
俺はいくつかの素材を持ってウインバリアに戻ってきた。
どれも持ち込めていた。
俺は直ぐに奇乃子に届けた。
「これをやるよ」
「これは‥‥。ダイヤモンドミスリルなのだ?極少量なら見た事あったけど、こんなに大きな塊は見た事がないのだ!」
「まあ偶々手に入ってな」
「コレがあれば、強力な武器が作れるのだ。ありがたく頂戴するのだ」
そう言って奇乃子は、早速鍛冶場の方へと向かっていた。
ギルド砦にも鍛冶場はあるからね。
一体どんな武器を作るのか。
少し楽しみだった。
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