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新生欲望ズ始動!第二大陸に向けて!

日本で暮らしていた頃の世界では、女性は男性よりも弱いというのが当たり前だった。
生物として体もそうなっているからね。
でも異世界はそうとも限らない。
魔力というのは、体を強くする成長を魔力成長に回す事でより強くなるからだ。
単純に言えば、魔力は男性よりも女性の方が強くなる。
そして魔力で体を強くする事も可能だから、結果的に女性の方が戦闘力が高くなるのが異世界。
俺が何故女のような容姿になったのか。
それはきっと、魔力のみを鍛え続けてきた事も関係があるのかもしれないね。

ギルド砦に到着した。
前には『欲望ズ』と書かれた看板が出ていた。
まあ色々なゲーマーが色々な名前を付けていたからね。
こんな名前もあるのだろう。
でも少し嫌な予感がした。
入口で止められたりする事も予想していたけれど、俺たちはすんなりと中へ通された。
奇乃子は此処ではよく知られた存在のようだった。
ただ歓迎されているとか、友達が来たとかって雰囲気ではない。
なんとなくだけれど、ネギを背負ってきた鴨を鍋に招き入れるような感覚に思えた。
砦の入口から真っ直ぐ進むと、大きな部屋がある
この辺りはゲームをやっていた頃と同じだ。
此処で敵を食い止めるんだよね。
そして普段はギルドの仲間が集まる場所でもある。
パッと見た所二十人ほどが部屋にいた。
「策也タマ、あの人たちは‥‥」
想香に声をかけられ見てみると、そこには昨日のPKおっさんたちの姿もあった。
あのPKおっさんはこのギルドのメンバーだったのか。
となるとこのギルドはかなりヤバいと感じる。
しかし奇乃子が入りたいという以上、それだけで決め付ける訳にもいかない。
とりあえずバレないように、俺は幻術で少し顔が違って見えるようにしておいた。
この中にマスタークラスを超えるのは三人程度。
幻術が使われているという確信を持たれない限り、見破られる事もないだろう。
あの三人の記憶は、後で消しておかないとな。
「ボス!言われた通りパーティーを作ってきたのだー!」
そう言って奇乃子は、少しヤバそうな兄ちゃんに話しかけた。
この中じゃ一番魔力が高くて、レベル百二十って所だろうか。
第一大陸の中ではおそらく上位の使い手だろう。
つまりこいつがギルドマスターで間違いないか。
「あ?奇乃子か。ほう、貴様が仲間を連れて来られるとはな。で‥‥ほう‥‥なかなかいいな。だけどそっちのでかいのは男、だよな?俺は男を連れてこいとは言ってないぞ?」
「えっと、みんな一緒じゃなきゃ駄目と言われたのだ。だからまとめてお願いするのだ」
「まあいいか。じゃあ一応面接すっから、新人さんたち、あっちの部屋でちょっと待っててくれるか?」
なんとなく分かってきたよ。
こいつは|陸《ろく》な奴ではない。
おそらく想香を仲間にしようとしていた事から、『可愛い子を連れてこい』とでも言われていたのだろう。
そしてその目的は、決まりきっているよな。
俺たちは奇乃子がボスと呼んでいた者の指示によって、別のメンバーに部屋まで案内された。
「この部屋で少し待っていてくれ」
ドアは二重ドアになっていた。
こりゃもう決まりだな。
この部屋には何かがある。
とは言え今の俺たちなら、何が有っても対応は可能だろう。
俺は迷い無く部屋へと入っていった。
直ぐに想香からテレパシー通信が入る。
『この部屋、魔封じの結界が施されているのです』
『そうだな。この後多分狼が襲いにくるんだろ?』
『でも魔封じ耐性が僕たちにはあるのです』
『可哀想に、やってきた奴は死ぬな』
この世界じゃ相手が冒険者なら手加減は不要だ。
狛里が容赦なく|打《ぶ》ちのめすだろう。
『打ちのめすの‥‥』
だよねー‥‥。
ちなみに妖女隊の二人とはテレパシー通信ができる。
神と神の使いは以心伝心なのだ。
他にも視覚、聴覚、嗅覚の共有も可能。
もちろん相手は女の子だから、無闇に共有はしないよ?
ちゃんと許可はとるからね。
予想通り、間もなくガタイの大きな男が三人やってきた。
魔力が封じられれば、概ね純粋な筋力で強さが決まるからね。
でも俺たち、準備万端用意してきた神なのよねぇ。
「お前たちには悪いが、この魔封じの手枷を付けてもらう。今日からお前たちは俺たちの性奴隷‥‥」
全て話し終わる前に、狛里が三人を屠っていた。
こりゃ御臨終ですな。
まあ元々あまりレベルの高くない奴だし、大したデメリットにはならないだろう。
なんせレベルが低い内はレベルは上がりやすく、高くなると上がらなくなってくるからさ。
俺は男たちが持ってきた手枷を拾った。
それを持って部屋を出て、ボスの所へと歩いていった。
「おう。みんな残念だったな。不採用‥‥だ?‥‥」
後ろを見ずに話していたボスは、振り返って現状を把握したようだった。
「どうしたのだ?不採用ってどうしてなのだ?」
奇乃子は状況が理解できていないようだった。
「奇乃子は騙されていたんだよ。仲間に入れてやるって言って、ただのパシリにされていたんだ」
「酷いの‥‥ぶっ飛ばすの‥‥」
「狛里さんがマジで暴れるとマズイので、僕は結界を張って全力防御してますね」
「そんなはずないのだ。希望通り連れてきたのだ。欲望ズに入って、ちゃんと第一大陸を制覇する為にみんなで頑張るのだ」
この奇乃子って子は、悪意にとても鈍感なんだろうなぁ。
昔日本で住んでいた頃、友達がよく言っていたよ。
『夢のような儲け話なんて全部詐欺に決まっているだろう。だから騙される方が悪い。騙された奴らには同情できない』って。
でもさ、純粋に人を信じられる人ってのはいるんだよね。
或いはもしかしたら奇乃子の場合は、|藁《わら》にも|縋《すが》る気持ちだったのかもしれない。
今の自分を助けてくれるのは、このボスだけだったんだ。
だから無条件に信じるしかなかった。
そういう場合も世間には往々にしてある。
まあどちらにしても、俺は騙された方が悪いなんて思えないよ。
「奇乃子ちゃんは、私が助けて上げるの‥‥」
「安心してください。今回は料金無しで手伝って上げるのです」
「だ、そうだ。奇乃子は第二大陸に行く必要があるんだろう?俺たちもそうだ。だから連れて行ってやるよ」
しかし奇乃子の浮かない顔はそのままだった。
「そんなはずないのだ‥‥ボスは俺の味方なのだ‥‥」
俺たちが話している間に、ギルドのメンバーが周りを取り囲んでいた。
「何さっきから貴様たちで話してんだ?たかが手枷を付けられなかっただけで、俺たちに逆らえるとでも思ったのか?めでてえ奴らだな。ははははは」
「君こそおめでたいの‥‥。ぶっ飛ばすの‥‥」
『狛里ちょっと待てよ。念の為昨日のPK野郎の記憶だけは消しておくから』
『早くしてほしいの‥‥』
完全に狛里はキレているなぁ。
さっさとしないと次の瞬間この部屋は血の海だ。
まずはシアエガを発動する。
この魔法が発動されている間、効果が出ている人の記憶は残らない。
この中で効果を受けないのは当然俺本人と妖女隊だけだ。
そして炎の吸血鬼召喚!
こいは記憶を奪う能力をもった吸血鬼を召喚する魔法だ。
吸血鬼は戦ってもかなり強く、魔力レベルはドラゴンクラス。
魔力をちゃんと感じられる奴には、この中じゃ当然一番強く見えるはずだ。
「おいちょっと待て。なんだその魔法は?そんなとんでもねえ奴が召喚できるなんて、聞いてねぇぞ!」
言ってないし。
「吸血鬼!あの三人の中にある、昨日の俺たちの顔に関する記憶を奪ってくれ!」
「了解した‥‥」
吸血鬼は三人に噛みつき、記憶を奪っていった。
「じゃあ戻っていいぞ!」
記憶を奪った後、直ぐに吸血鬼は姿を消した。
そしてその流れでシアエガを解除する。
これでシアエガを発動してから解除するまでの記憶はみんなには残らない。
「じゃあそろそろぶっとばすの‥‥」
「おいボスとやら。奇乃子に謝るのなら今の内だぞ?でないとみんな死ぬ事になる」
「何を寝言を言っている。みんなやっちまえ!」
終わったな。
次の瞬間、バタバタと人が倒れていった。
俺たち以外には狛里の姿は捉えられないだろう。
ただ突然人が血を流しながら倒れてゆく。
恐ろしい光景を見ているはずだ。
「なっ!何が起こっているんだ?」
「後二秒でお前も死ぬ」
「何なんだいったい‥‥」
タイムリミットだ。
俺がそう思った時、奇乃子が声を上げた。
「待ってほしいのだ-!」
狛里の手刀が、ボスの首の二ミリ手前で止まっていた。
他はみな死んで、順次姿が消えてゆく。
蘇生できる奴もいなかったのかな。
魂は全て教会へ行ったか。
この部屋には、秋葉原フォウのメンバーとボスだけが残っていた。
「ボス‥‥。|土筆《つくし》くん!俺と一緒に第五大陸に行くって約束したのだ!土筆くんは裏切らないのだ!」
奇乃子の悲痛な叫びに土筆と呼ばれたボスもそれに応えた。
「何言ってるんだ!どう見ても俺達じゃ無理だろ?だいたい貴様はなんで専属鍛冶師にならなかった!?しかも魔法使いとか。俺は貴様に冒険者なんかになってほしく無かったんだよ!だから魔法使いになれっていったんだ!」
「それは違うのだ!魔法使いになるのは俺の望みなのだ!別に土筆くんに言われたからじゃないのだ!」
「ドワーフの貴様が何いってんだ!魔法使いになんて、なる理由なんかないじゃないか!」
「あるのだ!俺は男になりたいのだー!」
「えっ?」
一瞬あたりの時間が止まったように静かになった。
話はなんとなく分かったよ。
この二人はまあ友達か何かなんだろうな。
それも幼馴染のような割と近しい関係のね。
それで子供の頃から冒険者になって第五大陸まで行くってのが二人の夢みたいなもんだったんだろう。
しかし現実は甘くなく、そんな中で王の専属鍛冶師に誘われた。
凄くいい話なのに、奇乃子はそれを断り冒険者になる夢を諦めなかった。
土筆は夢を諦めさせる為に、だったら魔法使いになれと無理を言った。
でもそれは奇乃子の望む所だった。
だから土筆は無理難題で奇乃子を諦めさせようとしていた。
まあそう考えると土筆もそう悪くない奴に思えるけれど、今回やろうとした事は許せないよなぁ。
どうすっかね?
本気で想香をどうこうするつもりだったら、悪いけどこいつは百二十回殺して魔力レベルを壱にしてやる。
「土筆とやら。一つ聞きたいんだけど良いか?」
「あ、ああ」
「今回俺たちを捕らえてどうするつもりだったんだ?」
「言い訳するつもりはねぇよ‥‥。みんなには奴隷にするって言ってたからな」
なるほど、奴隷にするつもりはなかったか。
|大方《おおかた》奇乃子が自分に失望して去ってくれれば、お役御免で開放したんだろうな。
「奇乃子は土筆と一緒に第五大陸まで行って‥‥えっと‥‥男になりたいんだよな?」
「もちろんなのだ。その気持が変わった事もないのだ」
「土筆はどうなんだ?奇乃子が本気でそう思っていても、お前の気持ちは違うのか?もう諦めたのか?」
土筆がやる気なら、俺たちは手伝うしかないだろう。
今の流れだと、こいつが神候補の可能性が一番高い。
奇乃子が男になって神になる可能性も無いわけじゃないけれど、そもそもそんな事ができるのかどうかが疑問だ。
俺には一応試せる二種類の魔法があるけれど、どちらも真の意味で男になれる訳じゃない。
どちらの方法でも神は倒せないだろう。
ならばやはり土筆なのだ。
「俺は‥‥俺だってやれるならやりたいさ。だけどこれ以上全然強くなれねぇんだよ!コレじゃギルド砦を増やす事もできねぇんだ」
「強くなれるの‥‥」
「そうです。この世界は寿命にならない限り死ぬ事はないのです。何度でもチャレンジできるのです!」
確かに第一大陸にいたんじゃ、これ以上のレベル上げは難しいかもな。
強い相手モンスターが少ないから。
この世界がゲームに限りなく近いのなら、時々強いイベントモンスターが現れるくらいだろう。
でもそれは他のギルドも同じだ。
しっかりと準備をして仲間を増やせれば、勝って次のステージへ行ける。
行ってる人間も大勢いるんだからさ。
「貴様らが手伝ってくれるてぇいうのかい?」
「手伝うのは構わない。でも二度と奇乃子を裏切るなよ」
「土筆くん。俺ももっと強くなるのだ。必ず第五大陸までいくのだ」
さっきはスルーしたけれど、こいつ最初第二大陸って言ってなかったか?
あくまで当面の目標ってだけだったのかねぇ。
「分かったよ。だけど嫌な奴らを結構ギルドに入れちまった。それに最近こねぇ奴らもいる。その辺りの立て直しから始めねぇとなぁ」
「良かったのだ!土筆くんが戻ってきたのだー!」
「こら奇乃子!俺の事はボスと呼べと‥‥」
「土筆くんは土筆くんなのだー!」
奇乃子は土筆に抱きついて喜んでいた。
いいコンビじゃないか。
つかカップル?
どうして男になりたいのか知らないけれど、これはこのままで良いのかもしれない。
そんな訳で俺たちは、正式にプレイヤーズギルド『欲望ズ』に入る事となった。
それでコンソール画面を操作して登録していたのだけれど‥‥。
「なんだ貴様らこの称号は?!魔神に巫女侍に賢者だと?」
称号ってのは|職業《クラス》の事ね。
RPGでは能力的特性を示すものを『職業』と書かれている事が多いんだよねぇ。
なるほど確かに称号って呼ぶ方がしっくりくるな。
「お前たちお金を持っていなかったのだ。もしかして『課金の泉』で称号変更を行ったのだ?」
そういえば俺がゲームをやめた後、そんなシステムが導入されたってニュースを見た事があるな。
第二大陸以降ができて職業も追加されたんだ。
上位職みたいなのも増えて、それは課金ガチャによって変更が可能だったと記憶している。
「あの泉で称号変更を行うには、五億の金を泉に投げ入れる必要があるんだぞ?しかも魔神なんて称号は一万回に一回くらいの確率でしかなれねぇという噂だ」
この世界ではそんな事になっているのか。
説明してくれて助かったよ。
「まあ運が良かったんだよ。それよりもギルドの状況がマジで酷いな。人数はいるんだから全員レベル上げが必要だ。それと砦の防御力が弱すぎる。せめて六時間は放置しても大丈夫なくらい堅くしないと。まずはギルドを立て直せよ」
俺がゲームをしていた頃はそれくらいが当たり前だったけれど、それが此処でも通用するかは知らない。
「六時間だと?どれだけフナムッシーの魔石を集めなくちゃならないんだ?」
「おそらくこの大陸での戦いなら、一秒間に一撃攻撃ができるとして、たったの二万一千六百個だな。余裕余裕」
フナムッシーってのは、大陸の海沿いに出てくる二十センチほどのモンスターだ。
魔石をドロップする可能性が高く、その魔石は砦強化に使われる。
低レベルの冒険者でも狩る事は可能だけれど、動きが疾く倒すのは難しいとされる。
「貴様がギルドマスターをやらねぇか?」
「何を言っている?俺は手伝うだけだぞ。その代わりちゃんと第二大陸には渡らせてやる」
本気の魔力はあまり見せたくないから、とりあえずは第二大陸までだ。
でもその先大丈夫そうであれば、土筆が神候補かもしれないから目標の第五大陸まで付き合ってやるよ。
「ところで大陸は第五大陸までなのか?」
「ん?そんな事も知らねぇのか?一応そう言われているが、ここまで届いていない情報もあるんじゃないかとも言われている」
「そっか」
ハッキリとは分かってないのか。
でも先は長そうだなぁ。
めんどくせぇ。
「でも第五大陸まで行けば、全ての魔法を覚えられる可能性があると言われているのだ。だから俺はそこまで行ければいいのだ」
奇乃子が良くても、もしも先があるのなら付き合ってもらわなければならなくなるかもしれない。
土筆が神候補の可能性が今の所は高い訳だしな。
何にしてもまずは新生欲望ズの始動だ。
立て直しは大変そうだけれど。
当面の目標は第一大陸の砦制覇。
ぶっちゃけ俺たちが本気になれば今日にでもできるかも知れないけれど、土筆や奇乃子にはそれにふさわしい使い手になってもらわなければならない。
此処だけクリアできても、次は難しいからね。
こうして俺たちはプレイヤーズギルド欲望ズに入り、目標の砦制覇へと動き出すのだった。
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