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クラス委員長と副委員長

 愛美のドジっ子を解放してから、一週間が過ぎた。
 俺はなんとか生存競争に勝利し、ようやく愛美のドジも落ち着き始めていた。
 と言うか、感じとしては、いつも苦笑いしていた、中学校入学当初のような感じか。
 でも、愛美のドジ自体も、本当の意味で、笑って許せる範囲に落ち着いていた。
 だけどそうなってくると、逆にクラスメイトにとっては見過ごせないのか、それとも、萌えに反対する組織の陰謀か、委員長と副委員長が、俺たちに話しかけてきた。
「君たちに、話があるんだな」
「主に、九頭竜さんに‥‥話が‥‥あるんだけど‥‥ふふ」
 ‥‥なんだろうか‥‥これまたキャラの強い二人だな‥‥
 最初に話しかけてきた委員長は、世間一般ではオタクと呼ばれている、正に|漢《おとこ》の風体をしている。
 喋り方もそれにふさわしいものだ。
 そして副委員長は、ヤバイ世界の住人である事がすぐに分かる、それはもう異質のオーラを纏った女だった。
 要するに、どちらかと言うと、同類かと思われた。
 だから、「友達になろう」とでも言う流れの方が、ぶっちゃけしっくりくるはずなのだが、二人から発せられる気配は、それとは真逆に感じた。
 俺は居住まいを正して、二人を迎え撃つ事にした。
「なんだ?愛美のサインが欲しいなら、一昨日の十二時に受付は終了したが?」
 俺がそう言うと、委員長は一瞬ハッとした顔をしたが、すぐに元の崩れた顔に戻した。
「別にサインが欲しいわけじゃないんだな。今日は君たちに注意しにきたんだな」
 やはりそうか。
「授業中に、カナブンに釣り糸をくくりつけて飛ばしていたのは、流石にまずかったか」
 俺がそう言って茶化すと、委員長は少しムッとした顔をした。
 だけど副委員長は全く表情を変えず、俺のボケに対応してくる。
「それは‥‥聞き捨てならない‥‥犯罪ね。動物愛護管理法に‥‥抵触する‥‥恐れが‥‥あるわ‥‥ふふふ」
 ふむ、この副委員長、名前は忘れたが、なかなかいい線いっているじゃないか。
 バッタモンのヤンデレ、美剣先輩よりは、圧倒的に萌え系だ。
 俺は横の席に座る愛美を見る。
 すると愛美は、モジモジと俯いていた。
 でもまあ、愛美にはかなわないな。
 俺は心の中でノロケてから、再び二人に相対する。
「そうか。実はカナブンを釣り糸にくくりつけて遊んでいたのは、山田なんだがな」
 俺は適当に、聞いた事のある苗字の奴に、存在しない事実からの罪をなすりつけた。
 するといきなり、委員長がツッコミをいれてきた。
「僕はそんな事してないんだな!」
「なんだ、お前が山田だったのか」
 言われてみれば、山田って顔をしてるわ。
 すると何故か、副委員長が先ほどにも増して、クスクスと笑っている。
 ここはとりあえず、一層笑っている事に、ツッコミを入れておかないとな。
「何か面白い事でもあるのか?」
 俺は副委員長に尋ねた。
 すると副委員長は、意気揚々と、死んだ魚のような目で、ダラダラと話し始めた。
「山田の名前‥‥ウケル‥‥|美沙太郎《みさたろう》だって‥‥プッ‥‥ふふふふ」
「仕方ないんだな!女の子が生まれると言われていたから、女の子の名前を考えていたんだな」
 こいつはなんだか、山田が可哀相になってくる話だな。
 女の子が生まれてくると言われていたから、美沙って名前を考えていたら、男が生まれてきたから、それに太郎と付けただけかよ。
 トンデモな親だが、逆に尊敬もしたくなる。
 いやちょっと待て。
 今は子供が生まれてくる前に、性別を調べる事ができる。
 なのになんで、女の子が生まれてくると言われていたのに、こいつが生まれてきたんだ?
 俺は疑問に感じて、山田に尋ねてみた。
「いくらお腹の中でも、女と間違えられるって、何かあったのか?」
 すると山田は、顔をタコのように真っ赤にして、何やら怒っているようだった。
 そして相変わらず副委員長は、笑いがこらえられないといった感じだ。
 俺が疑問に感じていると、隣の愛美がコッソリと言ってきた。
「久弥くん、きっと‥‥小さすぎたんだよ‥‥」
「何が?」
 俺は自分でそうこたえて、納得した。
 ああなるほど、ナニが小さすぎたのか。
 山田、色々な意味で可哀相な奴だな。
 俺はなんだか哀れになってきたので、そろそろ話を聞いてやろうと思った。
 だが、俺が聞く態勢になったのに、副委員長は、俺と愛美の会話が聞こえていたようで、一人爆笑していた。
「ふははは~ふふふははは~」
 なんだろうか、俺はこの副委員長、嫌いではない。
「まあとにかく話を聞こうではないか。注意とはいったいどのような事だ?」
 俺は笑う副委員長は放っておいて、山田に尋ねた。
 すると山田は、ようやく平静を取り戻し、少し偉そうに何やら言ってきた。
「まず九頭竜さんなんだな。色々と人に迷惑をかけて、注意力が足りないんだな。そして神田くんは、九頭竜さんや他の人達を、あおっているように見えるんだな。だから僕が言いたいのは、二人とも、自重しろって事なんだな」
 ふむ、なんだかこの微妙な物言いで言われると、ムカつくと言うか、爆笑だな。
「ふははは!山田お前、普通に喋れないのか!はははは!」
 俺はとりあえず、指を差して笑ってやった。
 すると副委員長も、俺の笑いにのっかるように、ますます笑っていた。
 山田は撃沈していた。
 残るは、この意味不明の副委員長だけだ。
 ボケ属性は無いが、なかなかどうして、侮れない奴だ。
「と言うわけで、お前の相棒の山田は、バミューダ海峡に沈んだぞ。どうするんだ?」
 俺がそう言うと、パタッと笑いをやめ、俺の顔を舐めるように見てきた。
 本当なら、こんな事をされると恐怖を感じるところだが、漂ってくるいい香りと、意外と整った顔に、俺は照れてしまった。
 しかし、それを表情に出しては負けだと思い、俺はダンディな男を演じて、「フッ」と笑みを浮かべた。
 するとどうやら副委員長は、俺の格好良さに絆されて、動きを止めて頬を赤く染めた。
 この勝負も、これで俺の勝ちのようだ。
 いったい何時から勝負をしているのかとか、そもそもなんの勝負なのかは分からないが、俺はとりあえず、勝利を確信した。
「えっと‥‥あなた方は問題児です‥‥みんなに‥‥迷惑かけないように‥‥ポッ」
「はい‥‥」
 あ、負けた‥‥
 結局正論には勝てないんだなと、世の中の理不尽さを、俺は思い知る事になった。
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