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2013年11月4日【月】19時44分48秒
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2013年11月4日【月】19時43分21秒
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俺の彼女は萌えキャラ

 春爛漫、桜咲くこの季節に、この俺「|神田久弥《かんだひさや》」は女を連れて、とある場所へと向かって歩いていた。
 と言ってもこの季節なら、誰もが今の俺と同じような経験をしているに違いない。
 そう、俺は新しい学び舎である、高校の入学式に赴くところだ。
 ただし、多くの男子の場合は、勝手な想像ながら、女連れなどありはしないだろう。
 いや、|同中《おなちゅう》のメンバーで連れ立って登校する場合もあるから、もしかしたら女連れの可能性もあるかもしれない。
 でもそれも、俺の言っている意味とはわけが違う。
 俺が連れている女は、まぎれもなく「俺の彼女」なのである。
 普通の中学生なら、今から彼女なんていたら、高校で彼女を作る楽しみが無くなるではないかと、俺の事を狂ったように否定するだろう。
 しかしだ。
 きっと今の俺の立場にお前らがいたら、否定する以上の夢と希望に胸を膨らませ、学校に向かっているに違いないのだ。
 どうして俺が、そこまで断言できるか、普通の人ならきっと疑問に思う事だろう。
 だから教えてやろう。
 俺の彼女は、中学時代、「ゴミクズ」と呼ばれるくらい、バカで阿呆でボケまくりの、超ダメダメなドジ女だったからだ。
 ん?意味がわからない?
 そうだな、俺も言っていて意味が分からないからな。
 少し説明が必要かもしれない。
 つまりだ。
 中学時代、全然ダメダメだった俺の彼女、「|九頭竜愛美《くずりゅういつみ》」は、誰もが彼女にしたくない女ナンバーワンだった。
 そんな女を俺が彼女にしたのにはわけがある。
 それは、この子はきっと高校生になると、「萌えキャラ」として評価されるに違いないと思ったからだ。
 中学では、評価するヤローも全て中学生だった。
 しかし高校生になれば、自分も含めて、評価する人はより大人になってゆく。
 そうなってくると、この愛美はきっと、評価される事疑いないのだ。
 要するに、俺は彼女の先物買いをして、迫るバブルに胸躍らせているというわけだ。
 うむ、これできっと、みんな分かってくれた事だろう。
 そんなわけで、俺は愛美と共に、意気揚々と登校するのだった。
「ねぇ|久弥《ひさや》くん、さっきからニヤニヤしてるけど、どうしちゃったにょ?って、いててて。舌かんじゃっしゃ」
 今、隣を歩く愛美が俺に話しかけてきたわけだが、いきなり舌を噛んで見せた苦笑いに、おそらくお前らの十二パーセントが萌えたはずだ。
 中学の頃なら、皆ため息をつき、心配もしていないのに、「大丈夫?血、出てない?」なんて言わなければならなかった。
 心の中では、皆うんざりしていたのだ。
 だが、高校生になった俺の対応はこうなる。
「愛美、舌はなめときゃ治るさ」
 俺がそう言うと、愛美は舌で舌をなめようと必死に首をまげていた。
 どうだこの状況、萌えるだろう?
 ツッコミをいれたくなってきただろう。
 此処でエロい高校生なら、「自分でなめられないなら、俺がなめてやるよ」なんて言いたくなったんじゃないかな?
 中学生という者は、大人に憧れ、よりまっとうな人物が評価されるのだけれど、高校生ともなると、そろそろ大人の背中が見えてきて、バカだった頃が恋しくなってくるのだ。
 そして大学生、社会人とジョブチェンジを繰り返した先には、まっとうな人間なんて何処にでも転がっている。
 そうなると、ますます「萌え」は、人々に求められる貴重なものとなってゆくだろう。
 では、「萌え」とは何か。
 それは、大人なのに子供っぽい可愛さであると、俺は断言する。
 だいたい、子供が可愛いのなんて、当たり前なのだ。
 それを、子供を見て「萌え~」とか言っている奴らは、普通極まりないのだ。
 子供なんて、子供っぽくて当然なのだから。
 それが証拠に、萌えのレパートリーの中に、「ツンデレ」なるものがある。
 ツンデレは、高校生以上の女子ならば、「ホント、素直じゃないんだから!」なんて言って、萌えの対象になり得るが、相手が子供だったら、ただのクソガキだ。
 だから本当の萌えとは、高校生以上の大人にしか存在しないスキルなのだ。
 ちなにみ、「ツンデレ」が萌えであると言う人がいるけれど、俺は正直、あまり認めてはいない。
 たとえば彼女に、「ごめん、今手が放せないから、昼食のパンを買ってきて」なんて頼んでみたとしよう。
 するとツンデレの彼女なら、「ふん、どうせついでだから買ってきて上げるけど、今回だけなんだからね!別にあなたの為じゃないんだからね!」などと言われる事になる。
 これに萌えるだと?
 その考えが間違っている事を、俺の彼女を使って証明してやろう。
「愛美、ちょっとイチゴクリームパンが食べたくなったから、コンビニで買ってきてくれ」
「うん、分かったよ。久弥くんの為に、私、頑張っちゃうよ」
 見ろ、この素直な反応。
 そしてこのみなぎるやる気。
 そしてそれは、俺の為だと言う。
 バカだから、どうして自分が買いに行かなければならないのかとか、一緒に行けばいいんじゃないかとか、全く考える事もしない。
 なんの脈絡もなく頼もうとも、喜んで買いに行く彼女。
 どうだ萌えるだろう?
 おっと、萌えている間に、彼女が戻ってきたようだ。
「ただいま~うげぇ!‥‥てへへ、コケちゃった」
「だ、大丈夫か?」
 どうやら愛美は大丈夫だけれど、買ってきたパンは愛美の下敷きになって、ぐちゃぐちゃになってしまったようだ。
 ま、まあ、こんなハプニングも、大人だったらきっと萌えるはずだ。
 高校生の俺にとっては、かなり腹立たしい結果ではあるが。
 きっと高校三年生くらいになれば、「愛美はドジだなぁ。でもパンはぐちゃぐちゃでも、味は一緒だから大丈夫だよ」なんて、爽やかに言って許せるに違いないのだ。
 流石に今の俺には無理だけれど、二年後の俺はきっと、「萌え~」とか言って、有頂天になっているに違いない。
 俺は未来の俺に希望を抱きながら、ぐちゃぐちゃになったパンを頬張り、愛美と共に学校へと向かうのだった。
【Ξ┃】 【┃┃】 【┃>】
ドクダミ

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