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第十六話 発見!と大英帝国

第5エリアでイギリスが押され始めてからしばらく時が流れた。
俺たちは旅団として新たなスタートをきったが、あまり状況は変わらない。
変わったとすれば依然よりもゲームが楽しくなった事くらいだ。

月読命「そこで俺様がこう斬りつけてやったわけよ」
天照皇大神「わぁ~流石久弥くん!かっこいい~」
カッチ「いやどう見ても斬られたの月読命だろ?」
光合成「まるっきり太刀打ちできなかったな」
クシナダヒメ「もう月読命先輩勘弁してよー(泣)」
沖田艦長「全艦に通達しておく」

俺たちの旅団は賑やかだった。
せっかくなので、ここで一応俺の旅団がどんな感じなのか説明しておく。
俺が乗っている旗艦は、『沖田艦長』少将が艦長の『ヤマトG』だ。
ちょっと名前がややこしいな。
俺は司令官でもあるし、旅団の団長でもある。
愛機は当然陽菜(チョビ准将)と共に操る『スサノオ』だ。
他にもそれぞれのソロ機、『大国主』と『ガードナー』が旗艦には乗せてある。
士官は他に『じぇにぃ』准将と『光合成』大佐がいる。
この2人は最初2人乗り機を使っていたが、今はそれぞれソロ機だ。
『ぷりちぃ』と『若葉』が愛機となる。
士官はそれだけで、量産機が25機、その他プレイヤーが50人搭乗している。
旗艦のヤマトGは割と大型の艦船だが、スピード重視で武器は強力なレーザーただ1つ。
人型の戦闘を支援する通常の艦船ではなく、移動(輸送)と要塞攻略用と言える。

続いて第2艦船が、『天照皇大神』准将が艦長の『高天原』。
一応司令官でもあるが、実質同乗する『月読命』がそうなる。
ただし現在月読命は訓練兵なので、設定上は司令官ではない。
もちろん月読命に愛機も存在しない。
量産機しか乗れないのだから。
量産機は10機搭載、士官未満の他プレイヤーは20人搭乗している。
艦船はとにかくスピード型で、武器は無い。
ただ戦場に行って帰る為だけのものだ。
その代わりそのスピードは設定上最高速。
敗走させたらナンバーワンと言われている。

第3艦船が『クシナダヒメ』大佐が艦長で司令官の『山田のお餅』だ。
他に士官はいないが、量産機が50機乗せられる大型艦で、プレイヤーも100人乗っている。
ちなみに最も大きな艦船で人型100機乗せるのが限界である。
ただし生産コストやその他維持費がバカ高いので、現在はこれくらいが限界だろう。
当然だが航行速度は我が旅団内最低だ。
ただしこちらも武器無しで、通常の戦艦よりも速い。

第4艦船が悪即斬中佐が司令官、『このみ』少尉が艦長の『いろは〇』だ。
悪即斬は自らソロ機で出撃する。
愛機は『近藤勇』。
士官はこの二人だけで、量産機が20機、他プレイヤーが40人搭乗している。
こちらも艦船に武器はないスピード艦だが、『高天原』にはスピードで劣る。
艦船の先が大きくとがった形状をしていている。

第5艦船は町田中尉大尉が司令官で艦長の『ガイコツ』。
とにかく軽量化が図られた艦船で、量産機を50機乗せているのにスピードは『いろは〇』と同等。
士官は町田中尉だけで、他プレイヤーが100人乗る。
こちらももちろん武器は積んでいない。

他にも要塞司令官に『呼んだでござるか?』少将、副司令官に『ニムエ』大佐がいる。
両名は宇宙の絆Ⅱの第3回で一緒に戦っていた仲間だが、忙しいので主に防衛だけを担当していた人たち。
絡みは少ない。
しかし天照皇大神からの信頼厚く、この前まではアンタレス要塞の防衛を任されていたわけで、能力は高いと思われる。

これらの説明で分かると思うが、我が旅団は士官が少ない。
そしてとにかく航行スピードを重視した旅団だ。
艦船で戦力となるのは旗艦のヤマトGだけ。
一応武装戦艦だが、沖田艦長は百戦錬磨の艦長であり、ハッキリ言って強いし航行テクニックもある。
だからこの中に入っても十分行動を共にできる。

さて、今日から俺はやりたい事というか、やる事を決めていた。
デブリ帯に抜け道がないか調査をする事だ。
既に多くの国が調査をしているのだが、デブリ帯をまたいで隣接する有人要塞のある空域に、それらしきものはまだ見つかっていない。
その外側のエリアもイタリアが調べていたらしいが、そこも無かったという話だ。
普通に考えれば有人要塞のある空域が一番可能性があるわけだが、俺は違う所に目をつけていた。
有人要塞のある空域から3ブロック先の空域に、割とコストのかかる要塞があったのだ。
普通の人なら使わない要塞は、攻略時に見た情報だけでその要塞を判断する。
一応詳細を調べる人もいるが、この要塞程度の規模でこのコストだと特に何も思わない人が多いのではないだろうか。
しかし俺は違和感を覚えれば調べたくなる質だ。
そしたらこの要塞に無駄なコストがある事を発見した。
そのコストが何に使われているのかを調べても、『維持費』とあるだけで、正直意味が分からない。
何を維持したらこんなにコストがかかるのか。
そう考えたら、この空域にデブリ突破のカギがあるのではと思えてきたのだ。

カッチ「今日はとりあえずついてきてもらったが、やる事を発表する」
じぇにぃ「なんとなぁ~くわかるんだけどぉ~調べるんならここじゃなくなくない?」
月読命「コッソリ調べる為にメンバーを限定したのか。しかしカッチに使われるのはなんだか癪に障るな」
カッチ「ふふふ。いや、ここで良いんだよ。数日前にここの要塞を調べたら、用途不明金が見つかった。コストに『維持費』ってあるんだけど、何を維持するのか分からない」
月読命「用途不明金って、どこぞのなんとか党かい!」
天照皇大神「久弥くんのお小遣いみたいだねぇ~いつのまにかお財布からお金がなくなってる!」
月読命「いやあれは、近所の猫にチャオチュール買ってあげてたんだよ!用途不明じゃなーい!」
天照皇大神「そうだったんだ~流石久弥くん、やさしいよ~」
カッチ「こらこらそこな夫婦、話をききたまへ」
光合成「あー‥‥いいか?ここの要塞落としたの私なんだが、その時は『研究費』になってたぞ?」

和也「マジか!?俺以外にそこまでチェックする人いるんだな」
陽菜「そりゃ一応詳細データまで見れば載ってるからね」
和也「あんな文字と数字だらけの画面、俺は誰も見ないと思っていたよ」
陽菜「こんな要塞のは見てもあまり意味がないからね」
和也「しかしもしも『研究費』が『維持費』に変わっているとしたら、ますます怪しいな」
陽菜「向こう側に抜ける為の通路を研究し、出来上がって維持費と考える事もできるね」

カッチ「これは俺の勘が当たってたくさいな。この人数だから体当たりローラー作戦は無理だから、とりあえず目視で怪しい場所がないか探してくれ」
月読命「本当にチャオチュール買ってたんだよー」
天照皇大神「はーい!お休みなさーい」
じぇにぃ「何で寝るのぉ~」
沖田艦長「全乗組員に通達する!ヤマトG発進!!」

こうして俺たちの抜け道探しが始まった。
俺は陽菜と共に、デブリ帯をゆっくりと見て進んだ。
この広い宇宙の壁を、目視でもじっくり全部調べるのには時間がかかる。
というかむしろこの人数では不可能に近い。
だから俺はデブリ帯が目視できるできるだけ遠い距離まで離れて、一定速度で移動しながら見ていた。

和也「こう同じ景色が続くと、眠くなるな」
陽菜「地下鉄で同じ音を聞いていても眠くなるよね」
和也「そうだな。似たような感じかもな。それにしても広いな。『絆Ⅱ』の時は一応3D宙域だったけど、これだけの高さはなかったもんな」
陽菜「うん。『絆Ⅱ』の時よりも艦船操舵が難しそう‥‥」
和也「方向感覚も狂いそうだ。ん?なんだ?今ちょっと画面に違和感なかったか?」
陽菜「画像処理に少しブランクがあっただけじゃないかな」
和也「ちょっと気になるから、今の所少し戻ってもう一度確認してみよう」

ゲームなら確かに画像処理にブランクが生まれる事はある。
ちょっとチカッとするアレだ。
しかし今のは少しそれとは違う感じがした。
いや、それも含まれるがそれだけではないという所か。
戻る時、同じ場所で同じような感覚があった。

陽菜「確かにこれは何かあるわね」
和也「おう。ほらあそこ。あそこだけ違和感ないか?」

こういったマップの画像というのは、同じ絵をつなぎ合わせて作られている事が多い。
ダンジョンなんかで同じ並びが続くアレだ。
当然このゲームも同じで、これだけ広大なマップを一枚絵で仕上げるのは無理だ。
眠くなるような景色が続くのもその為。
しかし何かがあるなら別の絵にする必要がある。
必要も無いのに違う絵にする必要もない。
俺達は違和感を覚えた所に近づいていった。

そこには確かにあった。
近づきすぎて見ると逆に分かりにくいが、少し離れて見ると、異次元に繋がる通路のような穴が確認できる。
完全にそうだと言い切れるくらい他との違いは無いが、この少しの違いはちゃんと作られたものだ。
つまりこれが通路であると確信できた。

俺は一応旅団チャットの設定を確認する。
参加メンバーは士官、そしてホワイトリストに入っているのは月読命だけだ。
確認を終え、俺はチャットを打ち込んだ。

カッチ「見つけたかもしれんwこれは誰にも内緒だぞ」
月読命「ん‥‥寝てた」
天照皇大神「私もぉ」

確かに眠くなる景色だったけど、マジで寝るなよ。

じぇにぃ「ほんとぉ~これってポイント入るかなぁ~同じ旅団メンバーに入るかなぁ~」
光合成「して、どんな感じだ?」
カッチ「ああ、なんとなくだが、丸い穴のように見える。落とし穴を作って、それを隠したような感じか?」
じぇにぃ「じゃあさぁ~試してみようよぉ~」
カッチ「おい!もし通れたら、いきなり敵の領域だぞ。ちょっと俺に考えがあるし、とりあえず今日は戻るぞ。戻るのは777764要塞だがな」

要塞名を打ち込んだ時、俺は気が付いた。
7777から始まる要塞には意味があるんじゃないか。
そしてその後の数字。
6と4。
第6エリアから第4エリアへ向かう要塞。
中央の777777要塞を知っていた俺だから気が付けたのかもしれない。
俺は確信した。
この要塞は重要拠点だ。
ちなみに777777要塞は、ちゃんとジークが守ってくれている。

カッチ「とりあえずアウストラリス要塞の防衛は呼んだでござるか?少将とニムエ大佐に任せる。ほかの士官は明日夕方までには777764要塞に集合しておいてくれ!今日の任務はそこまでだ」
じぇにぃ「はいはいはいえなじぃ~」
光合成「うむ」
月読命「ついたら寝るは」
天照皇大神「私はもう寝てるよぉ!お布団の中だもん!」
町田中尉「チュー!」
このみ「中将!了解であります!」
悪即斬「分かった」
クシナダヒメ「はーい!」
沖田艦長「了解した。全艦に通達しておく」

俺達は777764要塞に帰投した。
その後は、月読命たちは既に寝ているようだ。
他のメンツは思い思いの行動をするようで任せておく。
そして俺は‥‥

和也「なあ、紫苑と二人で話したいんだけど」
陽菜「うんわかった。メールでとりあえず呼び出してみるね」

陽菜はそう言うと、紫苑さんのID充てにメールを送信した。
するとすぐに返事が返ってきた。

紫苑『どうした?(^0^)』

直ぐにまたメールを送る。

チョビ『うちの旅団長カッチが、二人で話がしたいそおです』

するとまたすぐに返事が来た。

紫苑『そこにいるのか?だったらこのままでメールでも良いが?』

俺はすぐに返してメールチャットを始めた。

チョビ(カッチ)『あ、ども!カッチだけど。お願いがあるんだけど』
紫苑『できる事なら』
チョビ(カッチ)『明日の21時頃、おそらくまた韓国がアルタイル要塞に攻めてくるよね』
紫苑『ああ。あそこは毎週その時間に攻めてくるからな。それも全軍で』

そう、韓国は毎週土曜日の21時頃に、アルタイル要塞に攻め込んでくる。
ここは第4エリアで最も重要な場所だからでもあるが、韓国の本拠地アルナイル要塞(名前が似ていてややこしいな))から一番近いのも理由だろう。
何故なら、全軍で攻めて本拠地を空けても、敵が攻めてくればすぐ戻れるからだ。
直ぐと言っても現在最もスピード重視でも3時間以上はかかる距離。
そしてアルナイル要塞に2番目に近いのが紫苑さんのミアプラキドゥス要塞だ。
ミアプラキドゥス要塞はアルタイル要塞にも近く、此処を本拠地にしている紫苑が、今回の作戦をやってもらうには最も適した人となる。

チョビ(カッチ)『その時間、出撃準備を万全にして待機してほしいんだけど、ほぼ紫苑師団全部で』
紫苑『ふむ。最低限の守りで、そのほか全軍って事やね』
チョビ(カッチ)『そして艦隊戦を想定』
紫苑『ほう。どういう作戦か聞いてもいいか』
チョビ(カッチ)『紫苑なら『デブリ帯』と言えばわかるかな』
紫苑『少しマップ下方で待機しておいた方が良さそうだな』
チョビ(カッチ)『お願いします』
紫苑『これ、ビューティフルベルにも伝えていいか?あそこは主力が身内だから情報が洩れる心配はないだろう』
チョビ(カッチ)『分かった。任せる』
紫苑『じゃあ21時から待ってるから。まあ俺の想像通りなら、合わせて動いてやるよ(^0^)』
チョビ(カッチ)『オッケー!では明日!幸運を祈る!』

陽菜「どういう作戦なの?」

陽菜もだいたいわかっていると思うが、俺は説明した。
まず、韓国は毎週土曜日になると、ほぼ全軍をあげて第1有人要塞に攻めてくる。
明日もおそらくそうなるだろう。
本拠地のアルナイル要塞から3時間以上の行軍だ。
で、アルタイル要塞を攻撃し始めてから、俺達がデブリ帯を突破し、アルナイル要塞を急襲する。
すると韓国軍は慌てて撤退を開始するはずだ。
紫苑師団には韓国軍の退路を断つように待ち構えてもらう。
そして逃げてくる敵の足止めをしてもらう。
現在の俺達の力では、無人だったとしても有人要塞を落とすには3時間以上かかる。
つまりすぐに戻ってこられたら負ける。
紫苑師団がどれだけ足止めできるかが勝敗のカギになる。

陽菜「私たちが有人要塞を攻撃したくらいで韓国は撤退するかしら?」

確かに、言われて思った。
ほぼ全軍で攻めてくると言っても、多少は守りを残しているはずだ。
俺達に攻略できないと考えれば、もしかしたら退却しないかもしれない。

和也「まあ失敗したところで、カッチ旅団が痛い目をみるだけで、戦況に大きな変化はないさ」
陽菜「そうだね。明日の戦闘楽しみだな。久しぶりのマジバトルになるかもしれないし」

それからしばらく、俺達は明日の事を話していた。
気が付けば更にマッタリとした時が流れ、もうすぐ24時になろうかという時間だった。
陽菜が帰り支度をしていたら、突然大きなニュースが画面左上に表示された。
『イギリス、ドゥーベ要塞奪取』
続けて更に
『イギリス、アルデバラン要塞奪取』
と表示された。

和也「何があったんだ?」

全体チャットでは友軍の幹部たちからのメッセージが流れた。

サイファ「何があった?」
グリード「大英帝国つえぇ」
ジーク「これで第5エリアはイギリスが制するか?だとしたらエリア制覇一番乗りだな。」
ビューティフルベル「中国に何かあったのかしら」
紫苑「アヘンでもばらまかれたか?(^0^)」

和也「みんな情報が無いみたいだな」
陽菜「うん。もしかしたら美菜斗さんならとは思うけど」

陽菜がそう言ってまもなく、美菜斗がチャットに入ってきた。

美菜斗「とうとうイギリスがやりましたね。プレイヤーキルをするという話でしたよ」

なるほど。
量産機のゾンビ防衛は、地上戦と違って宇宙ではプレイヤーキルによって攻略できる。
しかしポイントペナルティが大きいので、基本的には何処もやらないと思い込んでいた。

和也「イギリスは追い詰められていたんだろうな。しかし美菜斗は何でも知ってるな」
陽菜「そうね。でもこのペナルティって個人のものだから、チームでの勝利を目指すなら良い手よね。できるならだけど」
和也「いや、俺はきっとこれでイギリスは負けると思うんだけどな」
陽菜「日本人同士の対決ならそうなるかもしれないけれど、世界はそんな事気にしないと思うわ」
和也「確かに、日本人の常識は、世界の非常識なんて言われるもんな」

俺達の感覚で言えば、この作戦は無い。
イギリスだからできたと言えば、おそらくそうなのだろう。
果たして他国はこれをどう見るのだろうか。

和也「大英帝国か‥‥」

そしてこのニュースが、明日の韓国戦に大きな影響を及ぼすのだった。
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