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第五話 先輩

既に俺の高校生活は始まっていた。
新しいお友達も何人かできて、少し宇宙の絆Ⅲの話なんかもした。
ガチでやっているヤツがいたら一緒にゲーム同好会でも作って、何時でもパソコンを使える環境を学校にも整えたいと思っていたが、それは無理そうだった。
ただ、どうやらこの学校には既にゲーム部なるものが存在しているという話を聞いた。
部活紹介ではなかったし、正式な部活リストにも載ってはいなかったのだが、ゲーム部は存在するという話なのだ。

和也「何故ゲーム部はあるという話なのに、ゲーム部は無いのだろうか」

俺は昼休み、あると言われているゲーム部を見つける為、校内をさまよっていた。
校舎裏や体育館の奥によくある隠し部屋、職員室や食堂の中まで探し回った。
しかし一向に見つからない。
昼休みから活動している部活なんて普通無いわけだから、見つかりづらいのは重々承知しているのだが、俺は下校時間になればすぐに帰られねばならないのだ。
愛する幼馴染が俺の事を待っているのだから。
おっと、ついうっかり愛するとか妄想してしまったが、なんというかこのところそういう風に思っても違和感がないんだよな。
かといってドキムネする恋人という感じでもないし、まあとにかく一緒にいるのが自然というか、少なくとも俺は陽菜の事を相棒として認めすぎる以上に認めているようだった。

和也「さてしかし、やはり昼休みに探しても見つかる訳がないか。誰か先生に聞いてみるのが早そうだが、うちの担任は知らなかったんだよな」

入学早々知らない先生に色々と聞くのもどこか抵抗があるし、かといってこのままでは埒が明かない気がする。
困った時は交番を訪ねるわけだが、校内に交番なんてあるはずもなく‥‥
俺はそこまで考えて一つひらめいた。
そうだ、ベタな話だとだいたいこういう時は保健室か生徒会室である。
生徒会室は昼休みに人がいるとも思えないので、俺はとりあえず保健室を訪ねてみる事にした。
特に怪我をしたわけでもないし、体がしんどいわけでもない。
あえて言うなら少し眠いくらいだが、まあ保健室を訪ねる理由としてはこれで良いだろう。
眠いから寝かせてくれと言って、その中で上手くゲーム部の話でも聞ければオッケーだ。
俺は保健室の前に到着すると、まずは軽くドアをノックしてみた。
すると中から女性の声が聞こえてきた。

リナ「はーい!どぞぉ~勝手に入ってきても許しちゃうよぉ~」

保険の先生にしては、やけに子供っぽい喋り方をする人のようだ。
ちょっとこのまま無視して教室に帰りたくなる気持ちもあったが、どんな人なのかも気になったので、俺は意を決して保健室のドアを開けた。
するとそこには、いかにも保健室の養護教諭らしい服装をしたちょっとヤバそうな女性と、多分小学生だと思うが、小さな女の子がテレビモニターの前でゲームをしていた。

和也「えっと‥‥どうして保健室に小学生がいるのでしょうか?」

俺は用意していた質問と違う事を聞いてしまっていた。
だって気になるよね。
保健室に小学生がいたら。
しかしよく見ると、その小学生はこの高校の制服を着ていた。
そして少し怒った顔をしているように見えた。
一方保健室の養護教諭っぽい女性は、俺の言葉を気にする事なく、ボーっと俺を見つめながらだらしない姿でスナック菓子を食べていた。

リナ「誰が小学生よぉ~私わぁ~こう見えても2年生なんだからぁ~」

なんだから~なんだから~なんだから~と、俺の頭に先輩らしき女の子の声がこだました。
信じられない。
こんな幼子が高校2年生だなんてありえないのだ。
俺は信じられないと言った気持ちで養護教諭らしき女性に視線を向けた。
するとその女性は、何も言わずにただ頷いていた。

驚きのあまり何秒かフリーズしていた俺だったが、何とか意識を取り戻し、取り繕う為に声を発していた。

和也「やだなぁ~冗談ですよ。先輩ですよね。いやあまりに大人っぽい女性だったので、つい思ってもみない事を言って失礼しました」

養護教諭らしき女性はため息をついていたが、幼子先輩は割と喜んでいるように見えた。
とりあえず幼子先輩の心は守られたので良しとしよう。
俺がホッと胸をなでおろしていると、養護教諭らしき女性が話しかけてきた。

えり「で?なに用かな?」

そうだった。
保健室に来た目的を忘れる所だった。

和也「えっとですね。この学校にはゲーム部というのがあるらしいのですが、何処で活動しているのか知りたくてですね、もしかしたら保険の先生が知っているのではないかと、そう思って来てみたのであります」

少し変な日本語になっているような気もしたが、なんとなくこの養護教諭らしき女性を前にすると普通に喋る事ができなかった。
すると俺の質問に答えたのは幼子先輩だった。

リナ「ここだよぉ~もしかしてゲーム部に入りたいとかぁ?」

俺はその言葉に、改めて養護教諭らしき女性を見た。
すると女性は静かに頷いた。
そういえば幼子先輩はさっきから何やらゲームをしているようだった。
俺は改めて何をしているのかモニターを覗いてみた。
そこに映されていたのはなんと『宇宙の絆Ⅲ』のテストプレイ画面だった。

和也「宇宙の絆|Ⅲ《スリー》!」

俺は声を上げた。
すると俺の声を聞いて何かを思ったのか、養護教諭らしき女性と幼子先輩の顔が明るくなった。

えり「おっ?もしかしてお主もやっておるのか?」
リナ「わぁ~絆仲間が増えたよぉ~ちょっと対戦しよ対戦!」

俺は保健室にいる謎の2人に歓迎されていた。

気が付くと俺はゲーム部に所属する事になっていた。
昼休み終了を告げる予冷が鳴っていた。

次の日の昼休み、俺は再び保健室を訪れていた。
正式にゲーム部に入部し、色々と話をする為だ。
俺は放課後はゲーム部には参加できない。
その辺りを話さなくてはいけない。
ただおそらくだが、保健室の2人も俺と同じ理由で昼休みに活動していたのだろう。
問題はなさそうだった。

和也「俺の名前は柳生和也。宇宙の絆ではカッチという名前でやっている」

俺は割と強い人型乗りだから、知られていても不思議ではない。
きっと俺の事を知れば、尊敬の眼差しで見られる事になるのだ。
俺は少しドキドキしていた。

リナ「私わぁ~『香川リナ』ってゆぅよぉ~!絆では『じぇにぃ』って名前でやってるんだよぉ~」
和也「じぇにぃ?どこかで聞いた事があるな‥‥アレ?もしかして‥‥」
えり「そそ。こいつが|Ⅱ《ツー》の大会で3000万円を獲得した優勝チームの主力だったじぇにぃだ!」

マジか?!
つー事はアレか?
チョビの事も知っていたりするのだろうか。
当然だが一生くんの事も知っているに違いないのだ。
驚いてフリーズしている俺に、養護教諭らしき女性も自己紹介をしてきた。

えり「あ、私は『高橋えり』ね。一応養護教諭。ゲーム名は『光合成』ってゆうの。私もリナと同じ軍でやってたみたいだわ」
和也「マジか‥‥」

何じゃこりゃ?
たまたまだが、割と近くに有力プレイヤーがいるもんだな。
とは言ってもこの二人がどれくらいやるかは分からない。
でも多分、優勝チームにいたわけだから、それなりにやるだろう。
それに確か今、3000万円ゲットしたと言っていた。
これってチョビよりも多い額じゃないか。
何者だこの先輩。
そしておそらくはこの養護教諭も只者ではない気配がする。

リナ「とにかくぅ~ちょっと対戦しようよぉ~」

フリーズしている俺に幼子先輩が対戦を要求してきた。
しかし宇宙の絆Ⅲはまだ始まっておらず、テストプレイでは対戦相手を選べない。
それに2人乗り用の機体で勝手にソロ出動するわけにもいかなかった。

和也「いやでも、今はまだ対戦できないんじゃないかな?」
リナ「違う違う~あっちで勝負だよぉ~」

幼子先輩が指さす所には、バトルグリード3のカセットがあった。
なるほど。
俺と陽菜がやったように、これで力量を測ろうという事か。

和也「分かりました。いっちょもんでやりますか」

2人が何故か白い目で俺を見ていた。

さてゲームは始まった。
俺は得意な近距離パワータイプ、幼子先輩は超長距離のスナイパータイプだった。
こんな機体に乗る人はあまり見かけない。
陽菜の盾もそうだったが、強い人は変わったタイプに乗りたがるものなのだろうか。
そういう俺もあまり主流ではないパワー型だ。
上手い人というのは、大抵がスピード型か瞬発力型を好む。
操作テクニックを存分に見せつけられるからね。
しかし俺はそんな事にはこだわらない。
とにかく勝たないとダメなのだ。
障害物の影から様子をうかがう幼子先輩に対し、俺はとにかく距離を詰めるべく動き回る。
既に相手の射程には入っているだろうか。
そう思ったタイミングでビームが飛んでくる。
しかしこれだけ距離が離れていたらかわすのはたやすい。
俺は目の前に迫るビームを、|既の所《すんでのところ》でかわした。
と思った瞬間、俺の機体に敵の攻撃が命中した。
なんだ?
何があった?
まだ敵との距離があるので、敵の姿は見つけられない。
そういえば敵はスナイパータイプなわけで、こちらから見えない位置からでもこちらを確認できるのだろう。
近づくまでは何発か食らう事も覚悟が必要だと感じた。
しかし接近さえしてしまえば敵ではないはずだ。
俺は多少の被弾は仕方が無いとして、とにかく早期に近づく事を優先した。
しかしなかなか近づけない。
被弾すれば動きも止められるし、超長距離から攻撃されると上手く隅に追い詰めるのも時間がかかる。
これはもしかして陽菜よりも倒すのが難しいのではないだろうか。
伊達に3000万円獲得はしていない。
それでも俺だって第2回と第3回ではトップレベルでやっていたプレイヤーだ。
そう簡単には負けないのだ。
なんとか近接戦に持ち込めたのは残り時間30秒を切った時だった。
ここから一気に削ってやろうと襲い掛かったら、なんとライフルの先についた刃物武器でカウンターされ、残り15秒を残した所で俺は負けていた。

和也「つえぇ‥‥」

俺の顔は笑っていた。
俺は強くて、トップレベルが相手でもやれる自信はあった。
しかしこのざまだ。
じぇにぃはかなり強かったんだろうが、獲得賞金額を見ればまだまだ上がいたに違いないのだ。
陽菜に負け、一生くんに負け、そしてこの幼子先輩にも負けた。
流石第1回の優勝メンバーだ。
かなり悔しかったが、俺は新たに強くなる決心をした。

リナ「ねぇねぇ~和也くん強いねぇ~私とぉ~組まない?」

幼子先輩は、二人乗りの相棒を探していたのだろうか。
でも俺の相棒は既に陽菜に決まっている。
だから俺は断った。

和也「あっ、実は既に相棒は決まってるんだよね。そうそう、第1回大会の有力プレイヤーなら知っていると思うけど、『チョビ』っての知ってる?その子と知り合いでさ、既に一緒にやってるんだ」
リナ「えっ?チョビちゃんとぉ~!?うわぁ~懐かしいぃ~当然だけど一緒の軍でやってたんだよぉ~わぁ~元気してたかなぁ~」
えり「チョビちゃんね。うちの軍ではマスコット的な子だったけど、鉄壁の盾が強かったよね。あのアライヴさんもかなり助けられてたそうだし」
和也「マジですかぁー?!」

この幼子先輩にも驚かされたけど、陽菜って実はメチャメチャ活躍してたんじゃないだろうか。
つか第1回大会ってさ、確か俺たちまだ小学生だったよな。
まあ何にしても、今の俺は気分が晴れやかだった。
俺はまだまだだったんだ。
つまりまだまだ強くなれるはずなんだ。
これからゲームを始めるのがますます楽しみになってきた。
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