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第十四話 戦闘開始

戦闘開始時間までは、数日の猶予が設けられていた。
師団、部隊の再編や配置、作戦会議なども必要となるだろう。
定石どおりにプレイするなら、まずは生産能力を高め、艦船や人型を揃え、十分戦える体制を整えてから他国の攻略を考える事になる。
しかし一方で別の定石もある。
始まった瞬間が一番力の差が無いわけで、出遅れている国は初動が肝心だ。
必ず動く国があるだろう。
そして最も狙われやすいのが、多くの拠点を持つアメリカだ。
最初から全てを守れる体制を持っているなんて事はない。
もちろん取られる事を前提に多くの拠点を攻略したわけでもあるから優位性は変わらないが、最初からあまり攻められないのは精神的には助かる。

さてそして開始までに本拠地も決めなければならない。
艦船がやられた時、脱出艇で逃げる事になるわけだが、その行先が本拠地だから、戦場から遠すぎても問題がある。
そして本拠地設定した拠点の生産能力は幾分上がるので、その辺りも考えて決める必要がある。
これは拠点の少ない国も戦えるよう配慮されているからという事。

ジーク「まず本拠地だが、とりあえず第4エリアのアルタイル要塞にしようと思うが異論のあるやつはいるか?」

特に異論は出ず、これは当然のように決まった。
エリア奥の有人要塞にする手もあるが、デブリ帯の通り抜けができるのかどうかまだわからない。
おそらくできるだろうが、難易度がどの程度かによって運用方法も変わってくるだろう。
確実な情報から結論を出すのは、当然の事だ。
それに規模も他と比べたらやや大きい。

ジーク「次に師団と部隊の配置を決める。まず第1エリアにあるフォーマルハウト要塞は美菜斗がそのまま好きにしてくれ。」

返事はなかったが、これもまあそうなるだろう。

ジーク「次に本拠地に関してはビューティフルベル師団に防衛を任せる。」

和也「おいおいマジか。本拠地ならジーク本体なんじゃないのか?」
陽菜「でも、現状一番最前線になりやすい場所でもあるから、慎重な対応と言えるのかも?」
和也「セオリーなら、まずはエリア統一を考えるんじゃないかな」
陽菜「その場合でも、何処が最前線になるか分からないよね」

なんとなく思うのだが、やはりこのゲームでは陽菜の方が俺よりもよく知っている。
やはり第1回大会を優勝したメンバーは違うと感じた。

ジーク「異論はないようだな。では、エルナト要塞は俺の本軍が、ミアプラキドゥス要塞は紫苑の所、アルニラム要塞はサイファに任せる。」

和也「本体が第1エリア寄りというのは少々気になるけど、美菜斗の所と背中合わせだから今は最も安全な所か」
陽菜「うん。紫苑さんの所は中国が壁の向こうだから、通り抜けができるならある意味最前線になりそう」
和也「サイファの所はイギリスか。腐っても大英帝国だからな。やっかいな相手だと思う」

俺は通り抜けが可能だという前提で考えていた。
そうなると、危険なのはおそらく紫苑の所か、或いはサイファの所か。

ジーク「では第6エリアに関してだが、まあ月読命が好きにしてくれ(笑)」
月読命「了解であります!」

完全に戦力外扱い、期待はゼロのようだ。
でも、これで月読命、というか天照皇大神は第3回大会で優勝したのだ。
いずれ俺達が重要な役割を果たすのではないか、なんとなくそんな風に思えた。

ジーク「他に要塞やコロニーで、何か意見のあるヤツはいるか?」

誰も特に意見はなさそうだった。
その時、俺はあの要塞の事を思い出した。
慌ててチャットで伝える。

カッチ「あ、意見ある!」
ジーク「なんだ?」
カッチ「えっと、中央エリアに要塞番号777777の要塞があるんだけど、ここが凄く面白い形をしている。とにかく守りに固そうだし、防衛しておいてもいいかも?」

確かにここは守りに固そうな要塞だ。
しかし使い道となると今の所思いつかない。
だから俺はハッキリと守っておくべきだと言えなかった。

ジーク「ほう。なら戦闘開始までに確認して、必要そうなら適当な部隊を送っておく。まあ一要塞なんて今はまだ不要だとは思うが、一応確認しておこう。」
カッチ「ども」
ジーク「他に何かあるか?」

どうやら他に意見はなさそうだった。

ジーク「では最初の目標というか、進むべき方向を定めておく。とりあえず韓国をぶっ潰す事だ。俺達は2回負けている。今後もおそらくやられるだろう。だったらやられる前にやれだ!」
ビューティフルベル「つまり取りこぼしたアルナイル要塞を取りにいくのね」
ジーク「それもそうだが、いきなりは無理だろう。しかし放っておいても守りを固められたら手が出しづらくなる。だからその他拠点をまずは一掃する。」
サイファ「とにかく当面の敵は韓国って事か」
グリード「ま、そうしたくなくてもそうなると思うがな」
ジーク「よし、ではそのつもりで準備しておいてくれ。他に何か意見が有れば言ってくれ」
美菜斗「じゃあ、一つ提案です。できる限り全ての国と同盟関係を築いていくのが得策かと思いますので、その辺り任せてもらえませんか?」
ジーク「有力どころへは既に提案しているが?」
美菜斗「小さな勢力も全てです」
ジーク「攻めたい時に攻められなくて足かせになるんじゃないか?」
美菜斗「その可能性は否定しませんが、その時は協力を要請します」

全国バトルだと、同盟関係がどれだけ機能するのか予想ができない。
台湾なんかだとしっかりとした連携が取れるかもしれないけれど、チャットができないから綿密には難しいだろう。
言葉の壁があるので、今回は敵に通信を入れるという事はできなくなっている。
ギャラクシーネットのIDあてにメールを送る事はできるが、それでも言葉の壁はある。
英語を喋る国なら同じ英語圏で手を組むのもたやすいだろうが、日本はその辺り不利だ。

ジーク「俺は英語なら少しは話せるが、他はどうやって協力を求めるんだ?」
美菜斗「僕はゲーム仲間のネットワークが世界中にあります。なんとでもなりますよ」
ジーク「そうか。それなら頼みたいが、万一お前が死ぬような事になっても、訓練兵から俺の本軍に戻って来てその辺りの仕事を最後までやれよ」
美菜斗「僕は死ぬつもりはないけど、それは最後までやらせてもらいますよ」
ジーク「よし。ではその辺り任せる。同盟が決まったら随時連絡をくれ」
美菜斗「了解しました」

こうしてこの日の会議は終了した。

俺はしっかりと準備をしていた。
人型のカスタマイズ、有人要塞の防衛体制構築、部隊内の再編、後は当面やる事を考えてした。

和也「しかし、有人要塞のこの生産能力だと、ここでも地上と同じく量産機でゾンビ防衛が可能じゃないかな?」
陽菜「少なくとも序盤はね。或いは資源と曹長以下のプレイヤーさえ集められれば、基本有人要塞はそう簡単には落とされないね」

曹長以下というのには理由がある。
もちろん尉官以上でも量産機に乗る事は可能だ。
しかし兵士にも給料など経費がかかる。
それが尉官以上だと跳ね上がるのだ。
だから無駄に高官を集めてもつらい。
特に俺達の所は行動を自由にさせてもらっている分、資源も含め必要なものは自前で賄う事になっている。
もっとも現在は有人要塞を3つも所持しているからむしろ余りまくっているくらいだが、いずれは予算も回らなくなってくるだろう。

現在、俺の部屋には陽菜が来ている。
11月24日日曜日、午前4時前だ。
4時から本格的なゲームが始まるわけだが、おそらくそのタイミングでもまた、他国侵攻を考えている国があるのだろう。
幸い俺達日本は、ほとんどの有力国と同盟が成立してる。
第1エリアに美菜斗がいるから断られると思っていたアメリカも、しっかり同盟ができた。
おそらく当面はオーストラリアとのエリア対決を念頭においているのだろうか。
有人要塞保有国で同盟が成立しなかったのは、中国、ロシア、オーストラリア、韓国の4ヶ国。
つまり俺達のいる第6エリアでは、おそらく大きな戦いは起こらないだろうと予想できる。
もっとも、この第6エリアに本拠地を置く国々は、既にゲームでの優勝は諦め、単純に楽しむ人達が集まっているようにも見えるから、当面は比較的安全な所だ。
そうは言っても戦闘を楽しむ人たちは大勢いるだろうから、それなりに戦闘をする事になるとは思うが、おそらく有人要塞を奪われるなんて事にはならないだろう。
その辺りは他のエリアでも同じだとは思うが、正直どうなるのかなんて分からない。

和也「第1エリアはおそらくアメリカとオーストラリアの戦いになるんだろうな」
陽菜「そうね。そして第2エリアは中国対インド。中国は第5エリアのイギリスとも戦うのかな」
和也「そして第3エリアはロシア対EUかな」

ヨーロッパの国々は、ドイツとフランスを中心に協力関係を結び、チームで対抗するようなのだ。
宇宙の絆Ⅱでは国別対抗で盛り上がっていた地域だったが、今度は手を組むというのも面白い。

和也「そして第4エリアは日本対韓国か。中央のモンゴルがどう動くのかも気になるな」
陽菜「中央エリアを手中に収めようとするなら、月は取りたいでしょうね」
和也「ただ今のシステムだと、月を落とすのは現状無理だろう。有人要塞ですら落とせる気がしない」
陽菜「そう簡単に落とせるようだと、ゲームがすぐに終わっちゃう可能性があるしね。おそらく軍が充実していって攻撃側が有利になって、いずれは地球も落とせるようになるって感じでしょうね」
和也「ま、運営側の狙いを考えればそうだな。そう考えると今は状況を見て、おとなしくしているのが吉か」
陽菜「でもきっと攻めてくる国もある‥‥」

時計が4時を告げた。
いよいよ戦闘の始まりだ。
早速敵の襲来を知らせるアラームが鳴る。
無数の情報が一気に流れた。

和也「おいおい、何がなんだか分からんぞこれ」
陽菜「チラッと見えたけど、韓国がアルタイル要塞に侵攻してきたみたい」
和也「とりあえず一つずつ確認していこう」

俺は流れたログを戻して一つずつ確認していった。

和也「どれも無人の要塞やコロニーへの攻撃ばかりだな。流石に現状守れる状況にないから、この辺りは取り合うしかない」
陽菜「それと私たちが一応確保しておいた他エリアの要塞も攻められているみたいね」
和也「放置という訳にもいかないって事か。確かに足元に敵の基地があれば、無人でも気になるよな」
陽菜「今はゴチャゴチャに入り乱れていた拠点を整理する段階のようねぇ」
和也「ま、例外もいたけどな」
陽菜「韓国‥‥やっかいな敵ね」

その後俺たちは特に何もせず、ただ状況を見ながらああだこうだと会話を楽しみつつ過ごした。
気が付いたらお互いもたれ合って眠っていた。
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