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ウィルスの正体

俺は久しぶりに鈴木と会っていた。
「あのウィルスについて、大変な事が分かった。とにかく会って話がしたい。」
そう電話で言われた。
仕事の合間に会う事になったので、話は車の中でする事にした。
俺が山手通り沿いに車を止めていると、窓ガラスをたたく音がした。
鈴木だった。
俺はドアを開け、鈴木を迎え入れた。
「久しぶり。」
「前に会ってから、1カ月ちょいか。」
そう言いながら車内に入ってくる鈴木は、少しやつれているように感じた。
「昨日のダービーは惜しかったな。」
俺はなんでもない話をした。
「そうだな。」
ドアを閉めながら話す鈴木の返事は、そっけないものだった。
どうやらゆっくりと世間話をするつもりはなさそうだ。
「で、会って話ってなんだ?」
俺もそんなに時間はないから、早々に話をきりだした。
「昨日の番組見たよ。」
鈴木の返事に、俺は拍子抜けした。
まさかそんな話をする為に、俺を呼びだしたのだろか。
だが、それも悪くない。
応援してもらえている事は嬉しい事だ。
「どうだ。俺も売れっこになるのは時間の問題かもしれんぞ。」
ちょっと調子に乗って話してみた。
だけど鈴木はあまり興味がないように返事を返してきた。
「頑張ってるな。」
「まあな。」
なんだかどうも、会話がうまくかみ合っていない気がした。
「でも、なんとく、悠二じゃない気がする。俺は前の悠二の方が好きだったな。」
それでも鈴木は、話を続けていた。
本当の事を言っているが、心は別のところにある、そんな感じだ。
「そっか。俺も、やはり自分を貫いていた方が、俺らしかった気がするよ。」
売れてきている事を肯定してもらいたいはずなのに、否定された事に特に反論する気にもなれなかった。
「で、昨日の番組で、あのハエを自由に操る少年、あれはどうなんだ?」
鈴木の目に力が戻っていた。
どうやら話の本題は、此処にあったようだ。
「あれは、俺と同じように、能力者だと思う。確信は持てないし、まだまだ初級の能力者だとは思うが。」
能力は、虫と喋り、虫を自由に操る以外に、虫にあった能力を得る事ができる。
あの番組の少年は、それを使えるような感じは無かった。
まだ気が付いていないと言う事だ。
ハエの能力と言われて、何かは想像がつかないが、きっと何かしらあるのだ。
「あのウィルスな。ウィルスと言うよりは、微生物の出す分泌物と言った方がいいものだった。」
鈴木が真剣な顔で話し始めた。
「この微生物は、永久凍土の中に閉じ込められ、ずっと出てくるべきでは無かった生物だったよ。」
鈴木を見ていると、何か恐ろしい事が起ころうとしているように見える。
確かに、こんな能力者が沢山いたら、大変な事になるだろう。
だけど、能力者が3人集まっても、マフィアのボスひとり捕まえる事が出来なかったわけだし、今後大勢出てきたとしても、困るのはきっと能力者ではないだろうか。
能力者の力を恐れて、普通の人がそれを淘汰する。
むしろ危険なのは能力者。
魔女狩りが行われる事が最大の懸念に思えた。
「この微生物の力、悠二は、対象が虫だけだと思うか?」
鈴木のこの一言、俺は鈴木が恐れている事を悟った。
そうか、もしこの力が人に対して使えたら、大変な事になるかもしれない。
「人に対して使って、この世の中改革してみるか?」
鈴木の言葉に、俺は震えた。
確かに、俺は世界を、腐った世界を変えたいと思っていた。
そして、それができるかもしれない方法が、今目の前に提示された。
できるかもしれない。
俺は本気で悩んでいた。
そんな俺の目の前に、鈴木が資料を突き出してきた。
図解されており、一目でその意味が理解できた。
なるほど。
そういう事だったのか。
鈴木の資料を見て理解できた事はこうだ。
永久凍土に閉じ込められていた微生物は、永久凍土が溶ける事で、再び活動を開始した。
名前は仮に、「ミジンコデビル」と名付けられていた。
形は似ているが、大きさは、実際のミジンコとは比べ物にならないくらい小さく、バッタのような足がついていた。
しかし、こんな形をしていたのなら、俺の体を調べた時に、必ず発見されていただろう。
資料に書かれた絵には、続きがあった。
どうやらミジンコデビルは、ウィルスのような何かを分泌し、それが俺の体内に有ったようだ。
まず、ミジンコデビルは、何かに寄生しないと生きてはいけない。
これは、実験によって確認できているようだ。
俺と会ってから、ゴキブリや蜘蛛に寄生させた旨書かれている。
だから、永久凍土の中から出ても、すぐに死んでしまう。
ただし、氷の中で仮死状態を続ければ、問題はない。
ミジンコデビルは、永久凍土から出ると同時に、寄生先を探す。
寄生は主に小型の虫。
しかし実験で、ネズミにも寄生させる事ができたと書かれていた。
ネズミに寄生させる事ができるという事は、人間に寄生させる事も可能だろう。
ただし、寄生させるのは難しく、自然の中で寄生するのは、小型の虫がほとんどで、人間に寄生する事はまずあり得ないとの事だった。
寄生したミジンコデビルは、その体の中で、体内に、あるものを作り始める。
それが、俺の体の中から見つかった、ウィルスのようなものだ。
それを再び、別のゴキブリや、蜘蛛、ネズミに感染させてみたようだ。
すると、そのゴキブリや、蜘蛛、ネズミは、フェロモンのようなものを発するようになるとの事だ。
寄生させた生物によって、そのフェロモンのようなものの性質も違っていて、おそらくそれは、ミジンコデビルが寄生した生物によるものであると推測されていた。
ただし、此処で最も理解しておかなければならないのは、そのウィルスのようなものは、すぐに死滅してしまうって事だ。
ゴキブリや蜘蛛だと、フェロモンが出始めてすぐに死滅、ネズミで約1時間との事だった。
此処に、俺の検査状況を当てはめてみると、人間に感染したものは、1カ月ほど残ると判断できた。
推測として、人間との相性がいいウィルスのようなものであると書かれている。
人間で実験はできないが、その1カ月で人間の体質が変化し、元の寄生先であった虫の好む、フェロモンを発する体になるかもしれないとの事。
又は、人間そのものが、その虫に近い生物に変化している事もあり得ると。
最後に、寒さに弱いゴキブリや蜂が、永久凍土が溶けたとはいえ、寒い場所で活動できていた事実に関しては、寄生昆虫ネジレバネと蜂の例を出して、ミジンコデビルに寄生されると、寒さへの耐性がつくのではと、能力に関係の無い事も書かれていた。
簡単にまとめると、これが資料に書かれている事の全てだが、とりあえずこれだけでは俺の全能力を説明はできない。
ゴキブリと喋ったり、命令したり、言う事を聞いたりは理解できる。
でも、生命エネルギーに関しては、説明がつかないからだ。
体質変化が起きているから、それが原因かもしれないが、あまりにも無理がある。
まあ、世の中不思議がいっぱいって事だろうか。
それでも、人々に言う事を聞かせられるとなれば、いよいよ世界の変革は可能である。
独裁者、それも、誰も逆らう事のない独裁者になれるのだ。
どうするのが本当にいいのか。
俺はこの時、結論を出す事はできず、後日再び鈴木と会う約束をして別れた。
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ドクダミ

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