★ 

インデックス

 ★
★ 

ネット小説

 ★

適当に書いた小説をアップしていきます♪

 RSS XML
ネトマガ
  • 玄関口
  • 占い診断
  • 萌え辞典
  • オタク遊戯
  • 情報基地
  • 随筆&詩
  • タイトル
  • 川柳ノ歌
--サイト運営者より告知--
2022年2月16日【水】14時07分52秒
syuka.com】では
サイト管理にcookieを使用しています。
2022年1月16日【日】18時18分34秒
【告知】10年くらい前に書いたリア充RPGをこちらにもアップしましたw
2021年12月27日【月】08時34分33秒
【告知】こちらに座右の銘とネタ座右の銘を移動してきました。
2020年5月14日【木】16時24分38秒
【告知】サイト運営継続の為、xcoinによる投げ銭をお願いします。
2017年2月25日【土】11時13分21秒
【(゚∀゚)】フリー写真館を狛犬画像室にリニューアルしました♪
2013年11月4日【月】19時44分48秒
【(*´∇`*)】川柳と短歌を始めました。
2013年11月4日【月】19時43分21秒
【(*´ω`*)】現在エッセイ&詩以外の更新は休止しています。
2013年1月7日【月】18時48分51秒
【(*´∇`*)】サイトをリニューアルしました。他も徐々に変更中です‥‥
--サイト運営者お勧めリンク--
【Amazon】日本人が知らない近現代史の虚妄 江崎道朗
【Amazon】ウルトラマンの伝言 日本人の守るべき神話 倉山満
【Amazon】嘘だらけの池田勇人 倉山満
【Amazon】無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和 渡瀬裕哉
【Amazon】日本分断計画 中国共産党の仕掛ける保守分裂と選挙介入 上念司
【Amazon】緒方竹虎と日本のインテリジェンス 江崎道朗
【Amazon】救国のアーカイブ 公文書管理が日本を救う 倉山満
【Amazon】誰もが知りたいQアノンの正体 みんな大好き陰謀論 内藤陽介
【Amazon】米国共産党調書 外務省アメリカ局第一課作成 江崎道朗
【Amazon】教科書では絶対教えない 偉人たちの日本史 倉山満
【Amazon】世界はいつでも不安定 - 国際ニュースの正しい読み方 - 内藤陽介
【Amazon】史上最強の平民宰相 原敬という怪物の正体 倉山満
【Amazon】新装版 お役所仕事の大東亜戦争 (いまだに自立できない日本の病巣) 倉山満
【Amazon】ウッドロー・ウィルソン 全世界を不幸にした大悪魔 倉山満
【Amazon】税金下げろ、規制をなくせ 日本経済復活の処方箋 渡瀬裕哉
【Amazon】米中ソに翻弄されたアジア史 宮脇淳子 江崎道朗 福島香織
【Amazon】日本人に忘れられた ガダルカナル島の近現代史 内藤陽介
【Amazon】2020年大統領選挙後の世界と日本 “トランプ or バイデン" アメリカの選択 渡瀬裕哉
【Amazon】保守とネトウヨの近現代史 倉山満
【Amazon】中学歴史 令和元年度文部科学省検定不合格教科書 竹田恒泰
【Amazon】天皇の国史 竹田恒泰
【Amazon】ミトロヒン文書 KGB(ソ連)・工作の近現代史 山内 智恵子 江崎道朗
【Amazon】若者に伝えたい英雄たちの世界史 倉山満
【Amazon】経済で読み解く日本史6平成編 上念司
【Amazon】みんな大好き陰謀論 内藤陽介
【Amazon】インテリジェンスと保守自由主義 新型コロナに見る日本の動向 江崎道朗
【Amazon】検証 検察庁の近現代史 倉山満
【Amazon】桂太郎-日本政治史上、最高の総理大臣 倉山満
【Amazon】危うい国・日本 百田尚樹 江崎道朗
【Amazon】「新型コロナ恐慌」後の世界 渡邊哲也
【Amazon】日本外務省はソ連の対米工作を知っていた 江崎道朗
【Amazon】トップの教養 ビジネスエリートが使いこなす「武器としての知力」倉山満
【Amazon】天皇がいるから日本は一番幸せな国なのです・倉山満
【Amazon】日韓基本条約 (シリーズ韓国現代史1953-1965) ・内藤陽介
【Amazon】メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本 (PHP新書)・渡瀬裕哉
【Amazon】なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか ~アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図・渡瀬裕哉
【Amazon】天皇家 百五十年の戦い・江崎道朗
【Amazon】ウエストファリア体制・倉山満
【Amazon】アウシュヴィッツの手紙 改訂増補版・内藤陽介
ねずさんの日本の心で読み解く「百人一首」:千年の時を超えて明かされる真実
たった1つの図でわかる!図解経済学入門
大間違いのアメリカ合衆国
政治経済雑記はこちら♪
【Kindle】電子書籍販売★秋華★

三毛猫の導き

 家に帰ると、音子がパソコンに向かって奇声を上げていた。
「ちょこざいな!黒猫の方が可愛いと申すのか?!おのれ!三毛猫を混ぜてやるのさ!」
 豊には、全く言っている意味がわからなかった。
 豊が靴を脱いで上がっても、音子は豊の帰宅に気づかず、尚もパソコンと格闘してた。
「ははは~!三毛猫の大行列だwさて白猫よ、どう出るさ。」
 豊はコッソリ、パソコンのモニターを覗き込んだ。
 ウイルスに侵された状態はまだ改善されていないようだが、なにやら一部、操作が可能になっているようだった。
 猫の写真が無造作にならんでいた先日とは違い、徐々に綺麗に並べられているように見える。
 どうやら猫の写真を利用した、パズルゲームのようだった。
 今日、後数時間以内には、ウイルスは収束すると三杯は言っていた。
 そして最後にメッセージが出るとも。
 その前に、こんな事ができるとは聞いていなかったが、音子が楽しんでいるようなので、豊はそのまま放っておくことにした。
 豊は一旦部屋をでて、夕飯の材料を買いに行った。
 30分ほどしてから帰ってきたわけだが、音子はまだ何やらやっていた。
「くっ!白猫も黒猫も、ひどいのさ。茶猫まで勢力を伸ばしてきたのさ。」
 豊は買い物を一旦床に置くと、靴を脱いで部屋に上がった。
 そして遠くからパソコンのモニターを見た。
「お?三毛猫かw」
 豊は、モニターが映し出す映像を見てそう言ったのだが、音子にはその意味が理解できなかった。
「三毛猫じゃないのさ。三毛猫は残り1匹しかいないのさ。」
 豊は買ってきた物をテーブルの上に置くと、音子の横まで言ってモニターを見た。
 するとそこには、黒猫や白猫、それに茶猫の小さな写真が無数に並んでいた。
 そしてポツンと1枚、三毛猫の写真があった。
 画面の一番上には「あなたの好きな猫はどれ?」と書かれてあった。
 そして「次の写真」と書かれてあるスペースに、黒猫の写真があった。
 音子はそれを、何処に配置しようか悩んでいた。
 このゲームのルールは、豊にはよくわからない。
 次の写真を何処かに置いて、好きな猫の写真を増やしていくようなゲームにも見える。
 でも、豊には次の写真を置く場所は、一つしかないと思えた。
 そう、先ほど遠くから見た時、全ての写真の配置で、一匹の三毛猫が映し出されているように見えたから。
 そして黒い模様の中に、三毛猫の写真が一枚残っていた。
 音子はどうやら、三毛猫の写真の上以外の場所に黒猫を置きたいようで、マウスをウロウロとさせて悩んでいた。
 そのマウスを豊はサッと奪い取って、黒猫の写真を、三毛猫の写真に重ねた。
「うぎゃー!何するのさ!三毛猫がいなくなっちゃったのさ。」
 豊は、立ちあがった音子をそのままひっぱって、部屋の入口まで下がらせて、パソコンのモニターを指差した。
「あっ!三毛猫なのさ!」
 モニターに映し出される三毛猫を見た音子は大喜びで、豊も心が和んだ。
 再びパソコンに近づくと「ミッションコンプリート!三毛猫ルートのフラグが立ちました!」と書かれていた。
 恋愛シミュレーションゲームでもないのだから、そのメッセージの意味は分からないし、ウイルスでゲームとか理解できない。
 それでも音子が喜んでいて、クリアできたというのだから、豊は素直に喜ぶ事にした。
 それから1分もしないうちに、写真が1枚、また1枚と画面から消えていった。
 どうやらウイルスも、収束に向けて動き出したようだ。
 またパソコンは何も操作できない状態になったので、豊は買ってきた物を冷蔵庫に入れて、適当な食材で夕飯を作った。
 夕飯が出来上がる頃、再びパソコンを見ると、写真が全て無くなり、元のパソコン画面に戻っていた。
 そしてその真ん中に、メッセージが残されていた。
「5月26日午後3時、安田公園中央噴水前にて待つ。三毛猫」と・・・
  
 豊は、昨日パソコンに表示されたメッセージが気になっていた。
「5月26日午後3時、安田公園中央噴水前にて待つ。三毛猫」
 ウイルスが表示した、意味の無いメッセージだと言ってしまえばそれまでだが、このメッセージの中には、偶然とは思えない部分がいくつかあった。
 まずは日時だ。
 この日付は、今週末の土曜日の日付であり、豊が行く事が可能な日時が指定されている。
 パソコンに設定されている時間から、適当にその週の週末を指定しただけかもしれないが、それなら日曜日の方が確実ではないかと考えられる。
 次に待ち合わせ場所だが、グーグルマップとストリートビューで調べたところ、音子が移動してきた、ベクトルのラインに近い場所であり、音子が見覚えのある場所でもあった。
 そして最後に、三毛猫。
 三毛猫ルートに入ったのだから、恋愛シミュレーションゲーム的に考えれば、三毛猫が待っているってのは、当然の話の流れではある。
 しかしやはり、音子の操作していたパソコンに三毛猫ってのは、できすぎではないだろうか。
 それに、あのパズルゲームのようなもので、三毛猫を完成させる事ができなかったら、どういうメッセージが出てきたのだろうか。
 こんなにも色々な事が偶然に重なる確率は、いったいどれくらいだろうかと、豊は考えた。
 おそらく、限りなくゼロに近いと思う。
 となると、このメッセージを音子が受け取った事は、必然だった事になる。
 豊はそんな事を繰り返し考えながら、学校の授業を消化していった。
 昼休み豊は、一応三杯にウイルスの事を話した。
「あの猫ウイルスな、ゲームできたり、三毛猫ルートに入ったり、意外に楽しめたぞ。」
 楽しんでいたのは主に音子だが、実際ウイルスにしては面白いものだったと、豊も思っていた。
「マジか!って、あの後実は少し調べたんだが、あのウイルスって、特定のIPアドレスに、強制的にメッセージを送るのに使われているらしい。」
 ウイルスは犯罪になり得るものであり、決して配布したり、利用したりしてはいけない。
 だけど、そうは言っても、世の中には悪用する人も多く、軽い気持ちで悪戯に使う人や、ウイルスを持っている事を自慢する人さえいる。
「そうなのか?はた迷惑なメールみたいなもんか。」
 豊の印象は、正に的を得ていた。
 一応言っておくが「的を得ていた」と書いたのは、わざとである。
 的を射ても、当たるかどうかわからないし、意味としてどうもあやふやに感じるから、的を得ていたと書いたのである。
 得るとは当たるという意味で、正に豊の発言は当たっていたというわけだ。
「そうそう。だから解除する方法もあるみたいで、いくつかのサイトで紹介されていたぞ?言わなかったっけ?」
 三杯の言葉に、豊は1週間無駄に待たされた気がしたが、たとえ聞いていたとしても、インターネットサイトを調べる術がない。
 いや、学校のパソコンで調べて、プリントアウトして持ち帰っても良かったわけだが、今更なので三杯を責める気にもならなかった。
 だけど、一応お約束というやつだ。
 言っておかなければならない。
「言ってねぇよ!言えよ!」
 うむ、これで全ては丸くおさまる事だろう。
「で、最後のメッセージはなんだったんだ?」
 当然、こんなウイルスを使ってまで送ってきたメッセージだ。
 どんなメッセージなのかは気になるところだ。
 しかし豊は、話す事に少し躊躇した。
 自分は行こうと思っている事、そしてその際、音子を連れていく事に決めていたから。
「いや、なんだかギャルゲーみたいにさ、なん時に公園で待つとか、そんなメッセージだったよ。」
 豊は、時間や正確な場所まで伝えるのはよろしくないと考え、あやふやに伝えた。
 もしも、音子の存在がなければ、豊はきっと三杯と一緒に行ったに違いない。
 もしくは、端から行かない公算が高いか。
 だけど、豊があやふやに伝えた事で、逆に三杯の興味を引いてしまった。
「それ、面白そうじゃん。これは誰かからのメッセージなわけだし、実際に待っている可能性があるぞw」
 豊は考えていた。
 三杯に音子を会わせると、色々面倒な気がする。
 でも、親友の三杯だし、音子自身話されても気にしていない。
 もうこうなったら、普通に話して、成り行きにゆだねようと、豊は思った。
「でもさ、ヤバイ人が待ってるとか、そんな事はないかな?」
「可能性はあるな。その文章正確に、どんなだったんだ?」
 あっさりと正確な内容を、三杯に聞かれてしまった。
 豊は普通に、その内容を伝えた。
「5月26日午後3時、安田公園中央噴水前にて待つ。三毛猫、だってさ。」
 内容は正確に覚えていた。
 なんせ行こうと思っていたから。
「ほう。26日ってのは・・・週末の3時か。安田公園は知らないけど、案外近くだったらマジかもなw三毛猫って名前も悪戯っぽいけど、マジなら女の子の可能性がある。」
 三杯の予想は、だいたい豊の考えと一致していた。
 近くだったらってところは少し違うが、三毛猫が女の子かもしれないってのは、同意する。
 だからこそ、悪意のあるメールではないような気がしていた。
 悪意がある場合、大概の場合、女性の名前を使う事が多い。
 それが一番、相手を安心させるからだ。
 たとえば今回のようなハンドルネームや、有名人などの名前だと、本名を明かさない分警戒心を呼び起こす。
 男性の名前だと、一部女の子は気になるかもしれないが、やはり会いに行くには気が引ける。
 だけどよくある女性の名前だと、本名を明かしている女性ならと安心感がでてきて、実際にアクセスする可能性は高くなるわけだ。
 とは言っても、インターネットをよく知る人たちにとっては、逆に疑われる事になるのである。
 というわけで、それなりにインターネットをしている豊や三杯にとっては、安心感が持てるメッセージであった。
「俺も、普通の女の子だと思う。それにこんなやり方でってのは、きっと学生かな?」
 豊がそこまで話すと、三杯はこの話への興味を失った。
「ま、好きな男にでも届けば良いと思って出したものだな。三毛猫は、その男が見れば、誰だか分かる愛称なんだろw三毛猫なんて知らないし、俺には関係ないな。」
 三杯はそう言って立ちあがり、食べ終わった食器が乗ったトレーを手に取った。
 豊もそれを見て、同じようにトレーを持った。
 結局三杯は、一緒に行こうなどと言う事もなく、音子と会わせる事にはならなかった。
 だけどそれは、ほんの少し出会いが延期される程度のものである事は、この話を読んでいる皆さまの予想どおりであった。
  
 時の流れとは、早いものである。
 特に、日々充実していたのなら尚更だ。
 音子は毎日パソコンと格闘し、猫画像を見る合間に、ストリートビューで、見た事のある景色を探す。
 豊はそれなりに勉強しながら、隣の席が空いているのを見て、ため息をつく日々をおくっていた。
 私が思ったより、充実はしていなかった。
 だけど時は流れるもので、気がつけば26日。
 豊は一度家に帰って、再び音子をつれて出かけた。
 安田公園には、2時半ごろに到着した。
 今日も食事は先にとる予定だったが、音子は相変わらずで、音子の分のパンは、鞄の中に入っていた。
 噴水が見えるあたりに来ると、適当なベンチに座った。
 するとすぐに、音子は鞄からパンを取り出しかぶりついた。
「うんめぇ~!ジャムパン最高~♪」
 音子の食べているパンは、何処にでも売っている、添加物満載のただのジャムパンだ。
 だけど1年前まで猫だった音子にとっては、それはそれは美味しいごちそうであった。
 その食べる姿を見ると、以前にも書いたとおり、豊は心が和むのであった。
 だからといって豊は、必要以上に音子に食事を与える事はしなかった。
 別に太るからとか、健康に悪いからとか、そんな事を考えていたわけではない。
 食費が倍になり、ただ単にお金が無かった。
 更に、毎週週末には出歩き、今月は洋服なんかも買っている。
 週明けには仕送りが振り込まれる予定だが、既に三杯に借金までしており、音子と一緒に暮らして行くには、お金の使い方を真剣に考えなければならないと豊は思っていた。
 豊が音子を見る視線の先には、待ち合わせ場所に指定された、噴水が見えた。
 何人か人がいるが、その人達が待ち合わせに来た人なのか、メッセージを送った人なのか、豊に分かる要素は何もなかった。
 だからとりあえず、豊はボーっと音子の食事を眺めていた。
 しばらくすると音子の食事も終わった。
 音子はゴミを捨てに、少し離れたゴミ箱へと駆けて行った。
 その姿もまた楽しそうで、豊は目を細めた。
 遠くに見えるゴミ箱に向かって、ゴミを投げる音子。
 入らなくてゴミを拾いに行く音子。
 拾ったゴミをゴミ箱に入れる音子。
 どれもなんだか可愛いと思わせる振る舞いだった。
 そんな音子に、一人の女性が話しかけているのが見えた。
 豊はハッと立ちあがり、走って音子に駆け寄って行った。
 別に知らない人に話しかけられても、普通にしていればなんて事はない。
 でも、話しかけていた女性の表情が凄く驚いていたようで、何かがあると豊は思った。
 豊が駆け寄っている途中、音子の声が聞こえてきた。
「私は幸恵じゃないのさ。三毛猫なのさ。」
 すると話している女性が、更に驚いてこたえた。
「え?三毛猫?あのメッセージを出したのは幸恵お嬢様だったのですか?」
 幸恵という名前が出ている事から、話している女性は、川上幸恵を知る人物で、音子を幸恵と勘違いしていると豊は悟った。
 故に、音子がこれ以上下手な事を言うと、状況がややこしくなりそうなので、豊は駆け寄りながら声をあげた。
「おーい、音子!どうしたー」
 すると音子と、話していた女性が、同時に豊の方を見た。
 そこで豊は、二人の所に到着した。
「このお姉さんが、私の事を幸恵と呼ぶのさ。私は幸恵じゃないさ。」
 そこでようやく、女性は冷静に考えられるようになったのか、落ち着いた表情になっていた。
「失礼しました。あまりに似ておられたので、てっきり幸恵お譲様本人かと思いまして。冷静に考えると、こんなところにおられるはずは・・・あ、こちらの話でした。」
 豊は確信していた。
 この人は、川上幸恵をよく知る人物であると。
 そして、これはチャンスだと思った。
 今まで、休んでいる幸恵を心配しても、どうする事もできなかった。
 この人からなら、何か幸恵の情報を聞く事ができるのではと思えた。
 豊は、自分が幸恵のクラスメイトである事を話す事にした。
 でもその前に、女性が思いがけない事を、豊に言ってきた。
「あの、もしよろしければ、家にきませんか?幸恵お嬢様と会って、少し話をさせていただきたいのですが。」
 すると音子は大喜びで「おお!幸恵に会いに行くのさ!」と両手を挙げた。
 それを聞いた女性は再び、少し疑問の顔つきになった。
 もしかして、幸恵の事を知っているのか?と思ったからだ。
 豊はすかさず女性に言った。
「僕、幸恵さんのクラスメイトなんです。川上幸恵さんの。」
 場を落ち着かせ、収拾させる為に豊は言ったつもりだったが、女性には色々と疑問がわき上がる結果となった。
 幸恵のクラスメイトが、幸恵とそっくりの女の子と一緒にいて、何も感じないのだろうか?
 音子と呼ばれている女の子も知っているようだけれど、どう思っているのだろうか?
 落ち着くのに少しだけ時間を要した。
「そうでしたか。では、そちらのネコ?様が、幸恵お嬢様に瓜ふたつの容姿をしておられる事は、ご存じなのですね?」
 女性の質問に、豊は「はい」と一言こたえた。
「では、ついてきてくださいますか。」
 豊は再び「はい」とだけこたえた。
 女性が歩きだすと、豊は「音子、行くよ!」と手を差し出した。
 音子は「おー!」と言って、一人意気揚々と歩きだした。
 豊は、出した手が悲しかった。
 そして、三毛猫との待ち合わせの事は、すっかり忘れていた。
  
 知らない人にはついて行っちゃいけないよ。
 子供の頃、よく親に言われたものだ。
 だけど大きくなると、知らない人について行くなんて事は、普通にあるよね。
 豊はそんな事を考えながら、知らない女性についていった。
「結局、三毛猫って人との待ち合わせは、謎のままだな。」
 今更ながら、豊は思い出した。
 既に時刻は午後3時5分だった。
 今から行けば誰かいるかもしれないが、豊は幸恵の事の方が大切だと判断していた。
「このお姉さんは、音子が幸恵で幸恵が三毛猫だって言っていたのさw」
 音子の言うとおり、確かにそんな事を言っていた。
 音子の事を幸恵と勘違いし、メッセージを出した三毛猫は幸恵だったのかと。
 要するに、この女性もまた、あのウイルスのメッセージを見て、あの場所に来た一人だったという事だ。
「あなた方も、あの三毛猫のメッセージを見て、安田公園に来られたのですか?」
 豊と音子の会話を聞いていたようで、女性が話に入ってきた。
「ええ。色々と気になる事がありまして。」
 豊は、流石に本当の事は言えないと考えていた。
 でも、この女性が家に招待した意味も分からないし、話をしたいような事も言っていたし、もしかしたら話す状況もあり得るかもしれないと思っていた。
 さて、豊たちはほどなくして、高級マンションの前に立っていた。
 この女性の言葉から、既に川上幸恵が、プリンセス級の扱いを受けている事は理解していた。
 だけど、いざそれを目の当たりにすると、豊はやはり少し驚いた。
 その驚いている豊に、女性は話しかけた。
「お名前、うかがってもよろしいですか?」
 普通名前なんてものは、家に誘う前に聞くものだとは思うが、女性も色々と動揺していたので、当たり前の事を忘れていた。
「はい。僕は山下豊。で、こっちが・・・」
 豊は音子の名前を、どう言えば良いのか瞬時に判断できず、言い淀んだ。
 すると音子が、元気よくこたえた。
「音子は、三毛猫なのさ!」
 豊は、以前にもこんな事があったなと思い出していた。
 その時は、ミケが苗字で、ネコが名前だとかわけのわからない事言ってしまったが、丸くおさまったのではなかったか。
 だったらそれで行こうと、豊は思った。
 しかしその作戦は、実行される事はなかった。
「三毛猫さんですか。では、三毛猫さんが三毛猫さんにメッセージを貰ったって事ですね。」
「そうなのさ!」
 女性も、音子も、それで納得していた。
 この女性、ちょっとおかしいと、豊は思った。
「申し遅れました。わたくし、幸恵お嬢様のお世話係をしております、福田明子と申します。では、お入りください。」
 明子の自己紹介が終わったところで丁度、部屋の入り口に到着していた。
 開けられたドアから入ると、マンションの外観以上に、中の景色はセレブだった。
 普通のマンションと違い、靴を脱ぐスペースは、何処かの公共施設の入り口並に広かった。
 ぶっちゃけ、これがマンションの中なのか疑問に思うほど広々としてた。
 リビングに通されると「此処で少しお待ちください」と明子に言われ、豊と音子はソファーに座った。
 あまりのふかふかなソファーに、豊はマジでビビった。
 こんなにふかふかなソファーがある事が信じられなかった。
 音子は、豊の予想どおり大喜びだった。
 ソファーの上でピョンピョンはねていて、私もオイオイとツッコミを入れたくなった。
 そこは代わりに豊がやってくれた。
「音子、ひとの家だから、そんな事はしちゃダメだよ。おとなしくね。」
 音子は、とっても素直だった。
「分かったのさ。音子はおとなしくするさ。」
 手を挙げてそうこたえると、今度はソファーの上で猫のように丸まって、大人しく座った。
 その姿を見た豊は、やっぱり音子は猫なのだなと思った。
 少し待っていると、ドアを開く音が聞こえた。
 豊はドアの方を見た。
 ドアから、幸恵が部屋に入ってきた。
 豊は、久しぶりの再会に、挨拶しようと笑顔で立ちあがった。
 だけど、豊はすぐに挨拶できなかった。
 先に音子が「ニャー!幸恵!音子なのさ!」と、両手を挙げて挨拶していた。
 その挨拶に、幸恵は「ニャー!ねこちゃん!幸恵なのさ!」と挨拶を返していた。
 豊がすぐに挨拶できなかった理由。
 それは幸恵が、前に学校で会った時と、同一人物に見えなかったから。
 雰囲気というか、言葉では説明できないが、とにかく何かが違っていた。
 それでも豊は、かろうじて挨拶した。
「こんにちは。久しぶり。」
 すると幸恵は「あなたとは、以前何処かで会っていたのかなぁ?」と、少し首をかしげた。
 豊はその言葉を聞いて、やっぱり別人なのだと思った。
 豊は、幸恵と見合ったまま、少し動けずにいた。
 音子はそんな事には気づかずに、幸恵に駆け寄って、手を引いて「わぁ~幸恵なのさ!」と、嬉しそうにしていた。
 幸恵は音子に手を引かれるまま、部屋の中をウロウロさせられていたが、表情は柔らかだった。
 ボーっとその様子を見ていた豊に、明子が話しかけた。
「分かったと思いますが、幸恵お嬢様は、以前の幸恵お嬢様ではありません。」
 豊はその言葉を聞いて、やっぱりと思うと同時に、だからと言って、そんな事有るわけがないとも思った。
 だから、豊は聞くしかなかった。
「どういう事ですか?」
 豊は、明子と二人、じゃれ合っている音子と幸恵を見ていた。
「これは、口外しないでいただきたいのですが、お嬢様は、実は、記憶にあやふやなところがありまして。多重人格ってほどではないのですが、今は一番ひどい状況です。」
 豊はなるほどと思った。
 記憶喪失や、多重人格なんてものは、実際にあり得る話だ。
 それによって、その人の雰囲気が変わる事もある。
 豊は、明子の言った事を考えながら、幸恵を見つめた。
 音子と一緒にいる幸恵を見て、今が一番ひどい状況だと言うのなら、それほど懸念する状況でもなさそうに見えた。
 だから普通に、思った事をそのまま口にだした。
「確かに、学校で会った時と比べると、なんだか子供っぽくなっていると言うか。」
 そう、別人に見えた理由は、正にそこだった。
 豊は、自分の発言にハッとした。
 今、音子とじゃれ合っている幸恵。
 以前は完全に別人だと思えたのに、今は少し、音子に似ていると思えた。
 此処で豊の頭の中で、ある想像がわき上がってきた。
 もしかして音子は、実は未来の幸恵なのではないかと。
 しかし、すぐにその考えは否定した。
 理由は、あまりに容姿が似すぎている事だ。
 音子は、1年かけてこの世界にきた。
 そして今は、音子の世界からみて1年前。
 つまり、もし音子が幸恵の未来の姿だとしたら、全く成長していない事になる。
 それにやはり、音子は猫だったわけで、同一人物であるはずが無かった。
「とりあえず、座りませんか?」
 明子の言葉に、豊はずっと立って話している事に気がついた。
「はい。」
 豊は促されるまま、先ほどまで座っていたソファーに再び座った。
 向かいのソファーには、音子と幸恵が座っていて、テーブルにカードを並べていた。
 学校で見たタロットカードだった。
 これを見て豊は、やはり川上幸恵である事を再確認した。
 明子は、今度は音子に話しかけた。
「音子様、音子様は今何処か高校に通っておられますか?」
 豊は少しドキッとした。
 あまり音子の事について聞かれると、自分でも信じられないような話を、またしなければならなくなるかもしれない。
 (音子よ、あまり変な事言うなよ~)と、豊は心の中で祈った。
「学校行ってないのさ!豊がつれていってくれないのさ。」
 本当の事だが、この話の流れに、豊は嫌な予感がした。
 金持ちのお嬢様が、事情があって学校に行けない。
 そこにそっくりな人があらわれたら、アニメなんかだとどうなるか。
「学校に行きたいですか?」
 明子の言葉に、豊は「待って!」と心の中で叫んだ。
「行きたいのさ!」
 音子はとてもうれしそうな顔で、立ちあがり両手を広げた。
「では、幸恵お嬢様の代わりに、学校にいきませんか?」
 ベタだから、この話の展開はやめておけと、私は思った。
「行くのさ!」
 音子の言葉に、やっぱりこういう事になるのかと、豊は肩を落とした。
 だけど今まで、部屋に一人残すのも可哀相だと思っていたし、音子が喜んでいるので、それも良いかとも思った。
「それでは、今日からこちらに住んでいただけませんか?両親にはわたくしからお話しますから。」
 明子の言葉は、ある意味当然であった。
 豊の部屋から共に登校なんて、ちょっと世間体が良くないから。
 でも、豊には聞き捨てならない、そして、返答に困るものであった。
 そんな豊の心の中の葛藤など知る訳も無く、音子はあっさりとこたえた。
「両親は、この世界にはいないのさ。豊が音子の保護者?なのさ!」
 相変わらず、音子はストレートにものを言う。
 両親がいないなんて事を、よくもまあこれだけ明るく言えるものだ。
 豊の父親は、本当の父親ではない事は、以前に話したとおり。
 本当の父親は、子供の頃母親から「死んだ」と聞かされていた。
 1年後、今の父親と母が再婚して、新しい父親となったわけだが、豊は実は、本当の父親は生きているんじゃないかと思っている。
 でもそれを追求する事はしない。
 何故なら、今の父親もとても良い父親だからだ。
 もし生きているなら、そのうち母から話してくれるだろうと、豊は考えていた。
 まっ、そんな事もあり、家族とか両親ってキーワードは、豊には少し思い入れのある言葉だった。
 椎名の時も、聞かなければ良かったと、ショックが大きかったのはその為である。
 でも逆に、両親のトラブルに巻き込まれる境遇の子供達を、助けてあげなければとも思っていた。
 豊が少し物思いにふけっていると、話はどんどん進んでいた。
「豊様が保護者?どういう事ですか?」
「豊は音子の飼い主なのさ!」
「飼い主って猫じゃあるまいし。」
「音子は猫なのさ。」
「意味がわからないのですが。」
「とにかく、豊とは一緒じゃなきゃダメなのさ。」
 音子が、自分と一緒じゃなきゃ駄目だと言ってくれるのは、豊にとってはなんだか嬉しかった。
 (さて、そろそろ僕が話に入っていって、色々と話すべきかな。)
 豊は決意して、ゆっくりと身を乗り出した。
 でも、豊が話し始める前に、幸恵がボソッと声をだした。
「だったら、そちらの豊さんもぉ、一緒に此処に住めばいいのですよぉ。」
 一瞬、豊の時間が止まった。
 豊は心の中で「ちょっと待て!」と言ってから、必死に頭の中を整理した。
 (これはいったいどういう事だろうか。川上さんが此処に住んでいて、音子が代わりに学校に行くから、此処に住む。そうだな、勉強とか色々話す事もあるのかもしれない。でも、命の恩人探しもしなければならないから、僕とはできればなるべく一緒にいたい。だから一緒に住む。すなわち、僕と川上さんが一緒に住む。ふむ、全ての男子高校生が夢見る展開ではないだろうか。)
 などと豊は結論を出した。
 要するに、全然頭の中はまともではなかった。
「でも、両親がなんと言うか。」
 豊はかろうじて、冷静な発言をする事ができた。
 両親にはお金を出してもらっているし、クラスメイトの女の子のところで一緒に住むなんて、言えるわけもない。
 しかし、そんな抵抗も、あっさりと打ち破られた。
「その辺りはご心配なく。わたくしにおまかせいただければ、悪いようにはいたしません。」
 明子の言葉には、絶対的信頼を寄せても大丈夫な何かが感じられた。
「では決まりですねぇ。」
 幸恵はそう言いながら顔をあげて、にっこりと笑った。
 音子は喜びで、その辺りを転げまわっていた。
 喜び死にするのではないかと、心配なくらいだった。
【<┃】 【┃┃】 【┃>】
ドクダミ

仮想通貨お賽銭アドレス
サイト運営を応援し賽銭(投げ銭)を投げて下さる方は、投げ銭に関する注意事項を読んだ上、下記仮想通貨を投げ銭する事ができます。

◆xcoin◇エクスコイン◇イーサリアム◆

xcoin
Ver.5.00 CGIフリー配布サイト