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命を救うということ

 結局今週、転校生の幸恵が登校してくる事はなかった。
 もしこのまま登校してくる事なく、幸恵が豊の前に現れる事が二度となかったら、それは生きていても死んでいても同じ事である。
 少なくとも、この豊の世界線の中では、必要の無い存在と認識されるだろう。
 それだときっと、1年後、死へと向うに違いなかった。
 幸い先生からは、体調不良で休んでいると伝えられており、豊は安心していた。
 土曜日の放課後、豊は椎名と久しぶりに話をしていた。
 話すネタがなければ、特に友達というわけでもないし、こんなものである。
 ただ今日は、音子を交えて会おうという話になっていたから、どちらからともなく話かけていた。
「じゃあ僕は、一旦帰って音子をつれてくるよ。桜花公園に2時半で。」
 豊は、現在の時間と往復時間を計算して、少し余裕を持った時間を伝えた。
「うん。分かった。2時半ねw」
 椎名は笑顔でそうこたえると、他の友達と連れ立って帰って行った。
 向こうから「あんた山下と仲良いよね?」とか「なんで山下なの?」なんて台詞が聞こえてきたが、豊は特に何も思わなかった。
 普通の学生、普通の女の子なら、自分みたいなのと話をしていたら、そう言われる事は、豊の想定内であったから。
  
 豊が音子をつれて、桜花公園に到着したのは、2時半まであと5分という時間だった。
 これは、豊の予定よりは10分ほど遅い時間であったが、待ち合わせ場所に行くには丁度良い時間でもあった。
 予定より遅れたのは、音子が支度に手間取っていたからであるが、女の子だからというわけではない。
 ただ単に、出かける準備をせず、部屋着のままでゴロゴロしていたからだ。
 この辺り、音子の行動は、猫そのものであった。
 好奇心旺盛ではあるが、興味を引くものがない時は、常にゴロゴロしていた。
 音子が準備をする間、豊は買い置きしてあったパンを2つ平らげた。
 今日の昼食である。
 音子には先に食べておくように言っていたが、結局食べる時間がなく、鞄にいれて家を出た。
「おなかすいたのさ。」
「ちゃんと先に食べておくように言ったのに。じゃあ、あのベンチに座って食べよう。」
 豊が公園のベンチに座ると、隣に音子が座って、鞄からパンを取りだした。
 一応言っておくが、音子は既に人間になっているのである。
 だから玉ねぎでもなんでも、人間が食べられるものは、当然食べる事ができた。
 ただし、玉ねぎはやはり、嫌いな食べ物ではあるようだった。
 音子は、とても嬉しそうな顔でパンにかぶりついていた。
 表情豊かな音子の食べ方は、多少お行儀が悪い感じもするが、見ていて微笑ましいものだった。
 要するに、子供が一生懸命食事をしているようだった。
 子供の食事って、見ていて微笑ましいよね?
 音子がパンを一つ食べ終えたところで、豊の視界の隅に、椎名が歩いてくるのが見えた。
 時間は2時半丁度だった。
 私はいつも思うのだが、女の子と待ち合わせすると、時間丁度に来る事って多いよね?
 どんな魔法を使っているのかと、思う事がよくある。
 椎名もまた、私の中の女性を、忠実に実行していた。
「やっ!」
 椎名はベンチに座る音子をチラッと見てから、豊に手を挙げた。
「豊に手を挙げる」って表現は少しおかしいかもしれないが、これは、豊に敬礼するような感じで、しかしそこまでしっかりしていない動作を表現したものだ。
 これからもこういった、おかしいかもしれない表現をする事が多々あると思うが、それは心で感じていただきたい。
「やあ!」
「ニャー!」
 豊も椎名と同じように、椎名に手を挙げ返した。
 音子は立ちあがり、両手を挙げて挨拶していた。
 その姿は正に子供で、女性でも萌える姿であったと、私は伝えておく。
 その音子を見て、椎名は少し考えるそぶりを見せた後、「んー。やっぱり同じにしか見えないんだけど、川上さんじゃないんだよね?」と言葉をもらした。
「ん?川上さん?なんの話なのだ?」
 音子は、頭にハテナマークが見えるような顔をした。
「前に話しただろ?川上さんっていう、音子にそっくりな人が、クラスに転校してきたって。」
 豊の言葉にも、音子の頭のハテナマークは取れなかった。
「あれ?僕、話してなかったっけ?」
 すると椎名も、話しに入っていった。
「そうなの、音子ちゃんにそっくりな幸恵ちゃんって子がね。音子ちゃんかと思ったよ。」
 椎名がそう話すと、音子は何かを思い出したようにハッとした。
「あ!!幸恵!!会いたい!!」
 音子はとてもうれしそうな表情をした。
 だけどすぐ、表情を曇らせて「幸恵も助けたい・・・」とつぶやいた。
 音子は、人間になってから一番最初に会った、自分にそっくりな子の事を思い出していた。
 少し儚げな印象を持つその女の子は、今思えば明らかに、死ぬ直前を感じさせるものである事は理解できる。
 そして今、椎名の言葉に、その女の子の名前が幸恵であった事を思い出した。
「やっぱり、音子が最初に会ったのは、川上さんだったのか。」
 この時、豊の頭の中では、色々な考えが渦巻いていた。
 月曜日、幸恵がやたらと絡んできたのは、やはり何かを知っているからかもしれない。
 もし、幸恵を助ける為に今動いたら、音子はこの世界に来る事がなかったとか、そんな風になってしまうのではないか。
 それとは逆に、何かしなければならないのかもしれない。
 豊はそんな事を考えながら、険しい顔をしていた。
「ちょっと、どういう事?助けたいって、何かあるの?」
 よくわからない椎名としては、当然の疑問である。
 実は椎名には、音子の「死期の近い人が分かる力」については、話していなかった。
 正確には、世界線の未来が短い人を感じる力ではあるが、死期を悟れる力と言っても差支えないだろう。
 椎名に話していなかった理由については、人間なら理解できると思う。
 兄がもうすぐ死ぬ事を、伝えるのが嫌だったからだ。
 だけど、もう時間も無いし、今日話せればと豊は考えていた。
「幸恵に、会いに行きたいのさ!」
 音子は、椎名の言葉を聞いておらず、とにかく幸恵の事で頭がいっぱいのようだ。
 豊は二人に対して、とりあえず一つ一つ話をしていった。
「渡辺さん、それに関して今から話すよ。音子、川上さん・・・幸恵と会いたいのは分かったから、まずは渡辺さんのお兄さんの事を先に、ね。」
 豊の言葉に、音子はハッとして「そうだったのさ。」と、舌を出しておとなしくベンチに座った。
 でも椎名は、豊の言葉を当然スルーする事はできなかった。
「ん?私のお兄ちゃんがどうかしたの?」
 豊が険しい顔をしていた事、音子が助けたいと言った事、これらから不安がわき上がってきていた。
 それに、未来から来たと言っているのだ。
 未来に何かがあったのかと考えるのは当然であった。
 といっても、全ては豊の話を信じていた場合である。
 つまり、椎名は豊の信じがたい世迷言を、信じているというわけだ。
 ちなみに「世迷言」というのは「言っても無意味な不平不満」という意味であり、表現としてはおかしいが、気持ちでとらえて欲しい。
 ついでにもうひとつ言っておくと、おそらく椎名の世界線は、きっと中心付近からそれなりに離れていると予想される。
 まあそんな事は、どうでもいい話ではあるが。
 さて、椎名の質問に豊は、音子が大人しくなった事を確認してから、ゆっくりと話し始めた。
 今まで話せずにいた事を。
 椎名の兄の命を救うのに、椎名に協力を求める為に。
 豊はまず、音子の能力について話し始めた。
「前にも話したけど、音子は、命の恩人の命を救う為に、未来から来た。」
 豊のその言葉に、椎名は頷いた。
「時間、世界線、場所などは、以前に話したとおり。1時間|遡《サカノボ》るのに1時間、時間は、地球上での移動距離、そして時間軸内での移動距離も比例する。」
「そうなのさ。音子の世界線から此処までは凄く遠いので、音子は1年かけて此処までやってきたさ。」
 豊の説明に足りない部分を、音子が埋めた。
「たとえばAさんの世界線へ移動するとして、5日かかるとしよう。でもAさんが1年前に死んでいたとしたら、Aさんの世界線には移動できない事になる。」
「正確には、Aさんの世界線への移動は、回り道して1年以上かけなければならない事になるのさ。」
 ちなみに、豊にも音子にも、わからない事がある。
 果たして音子は、未来に飛ぶ事ができるのだろうかという事。
 豊は、音子の口ぶりなどから、おそらくは過去にしか飛べないと推測していた。
 でも未来は、何もしなくてもやってくるもので、特に話す必要はないかと考えていた。
「要するに、1年飛んできた音子には、1年以内に死んでしまう人が分かると思われる。」
 豊のこの推測や考えは、ほぼ当たっていた。
 そこまで聞いて、椎名は理解していた。
「もしかして、川上さんやお兄ちゃんが、1年以内に死んじゃうって事?」
 まだ、実際に死んだ人を見たわけでもないし、1年というのは豊の憶測にすぎない。
 だけど此処は豊の世界なのである。
 豊がそうだと確信すれば、それが当然となり得るのだ。
「うん、川上さんはまだ実際に会ってないから確認が必要だけど、お兄さんは先週会っていて、音子が見てそう感じたみたい。」
 話の流れから豊は、ようやく言わなければならない事を言えた事に、ホッと胸をなでおろしたが、気持ちは重かった。
「だから、お兄さんを助ける為にも、椎名に協力してほしいのさ。」
 豊の言葉に、音子が思いをつけたした。
 椎名は、音子の言葉に一つ溜息をついてから、質問してきた。
「助けたい、けど、何をしたらいいのかな?」
 その答えは、実は豊にも音子にも分からなかった。
 会えば助けられると思っていたけれど、どうやらそれだけでない事は、先日会った事で証明されている。
 音子の命の恩人は、会えば助けられるという事だが、豊は、それも少し疑問に感じていた。
 豊は正直にこたえた。
「実は、よくわからないんだ。だから、渡辺さんのお兄さんの事、色々教えてもらえないかな?」
 豊の言葉を聞き、椎名はうつむいて口をつぐんだ。
 表情は寂しそうで、話したくないというよりは、思い出したくないといった感じが伝わってきた。
 もしかしたら椎名にも、兄の命が危ないかもしれない事は、別の方向から感じていたのかもしれない。
 豊はそう思った。
 しばらく、椎名が何か言ってくれるのを待っていると、ようやく椎名が重い口をあけた。
 話しの内容は、悲しい現実だった。
 豊と音子は、ただ聞き続けていた。
 椎名は、兄の和也とは実の兄妹で、とても仲良しだった。
 両親とも仲良しで、傍から見れば、理想的な家庭に見えた。
 だけど、実は父親は、椎名が生まれる前から、ある女性と浮気をしていた。
 そしてそれは、数年前に母親の知るところとなった。
 浮気がばれただけなら、此処まで話がこじれる事は無かっただろうが、問題は、椎名の名前だった。
 浮気相手の苗字が、椎名だったのである。
 要するに、浮気相手の苗字を、実の娘の名前にしていたのだ。
 それにショックを受けた母親は、離婚を決断。
 椎名は母親に、兄の和也は父親について行く事なった。
 兄が父親について行く事になったのにはわけがあった。
 母親がショックからか、実の息子であるのにも関わらず、男性というだけで、和也の事が信じられなくなっていたからだ。
 人間不信、男性恐怖症と言ってもいい。
 とにかく椎名が、兄や父親に会う事はほとんどなくなってしまった。
 両親が別れてからすぐ、父親は浮気相手である「椎名恵美」と結婚した。
 兄はグレて、気がつけば不良と呼ばれるようになっていた。
 そんな中、父親が風邪をこじらせ肺炎になり、呆気なくこの世を去った。
 兄は、父親の浮気相手である恵美と二人で暮らす事を嫌い、一人家を出た。
 先日、椎名が兄と会っていたのは、兄がお金を貸して欲しいと連絡してきたからだった。
 椎名からは、連絡する術はない。
 ただ、さつき町にいるのではとの事だった。
 そんな話を椎名から聞かされ、豊は正直後悔していた。
 こんな事、友達とも言えない自分が、聞いて良かったのだろうか。
 どうして自分の、|戯言《ザレゴト》ともとれる話を信じて、こんな大切な事を話してくれたのだろうか。
 だけど、目の前で今にも泣きだしそうな椎名を見ると、聞いてしまった以上、なんとかしなければならないと思った。
 それに、隣で泣きながら、豊の服の袖で鼻水を拭いている音子を見ると、絶対助けなければと思わずにはいられなかった。
 豊は立ちあがった。
「行こう!さつき町に。お兄さんを探しに。」
 三人は、椎名の兄和也を助ける為に、さつき町へと向かった。
  
 三人はさつき町を探しまわったが、和也の姿は何処にもなかった。
 辺りの景色は真っ暗で、夜の町へと変わっていた。
 それでも誰も、帰ろうとは言いだせなかった。
 音子からは、もちろん何処までも探し続けたいという気迫が感じられた。
 椎名も、心配で帰ろうなんて|微塵《ミジン》も考えていないようだった。
 結局、帰る事を考えているのは、自分だけなのだと豊は思った。
 そんな自分が、少し嫌になっていた。
 さつき町は、このあたりでは比較的大きな町だが、東京都心部の繁華街とは比べる由もない。
 東京の住宅街の駅前だけを切り取ったような、そんな町だ。
 駅前だけはソコソコ人通りはあるものの、少し離れると暗くて、都会に住む人なら怖く感じるくらいだ。
 22時を回り、流石に音子にも椎名にも、疲れが見え始めていた。
 食事も昼に食べたパンだけだ。
 そろそろ潮時だろうと、豊は思った。
「今日は・・・」
 一旦帰って、また明日にしようと、豊は言おうとした。
 だが、その言葉は途中で遮られた。
 少し離れた路地から、男性のうめき声のようなものが聞こえてきたからだ。
 それを聞いた途端、椎名は「お兄ちゃん!」と言って走り出していた。
 音子もそれに続いて走り出した。
 豊は一瞬、足がすくんだ。
 どう考えても、豊の想像では、喧嘩していると思えたからだ。
 それでも、音子の後ろ姿を見ていると、自然と足が動いた。
 三人が走って向かっている間も「踏み倒そうとはいい度胸だな!」とか「金を持ってるんじゃなかったのか!」とか、瓦礫が崩れるような音と共に聞こえてきていた。
 一足先に路地の入口についた椎名は、奥へ向かって「お兄ちゃん!」と叫んだ。
 その横に、音子がぴたりとくっついた。
 やや遅れて豊が、音子の横へと駆け寄った。
 路地の奥では、血まみれになって倒れた、和也の姿かあった。
 その前には、男が二人立っていた。
 豊はビビった。
 今すぐ逃げ出したいと思った。
 今まで必死に勉強してきたのはなんの為だったか。
 特に良い事なんて無くていいから、平凡で平和な人生を送りたいと思っていたからだ。
 それがどういう訳か、自ら進んで、身を危険にさらすような場所に来ている。
 一人の女の子、音子の願いをかなえる為だけに無茶をするのも、いつの間にか許容している自分に失笑がもれた。
 ただ、この状況を打開する術は、豊には思いつかなかった。
 二人の男が、豊たちを見た。
「お兄ちゃんだ?」
「てめぇ、妹がいたのか?」
 なんて事を言いながら、ニヤニヤしながら見ていた。
 一人の男が、和也を蹴ってからこちらに歩いてきた。
 和也は、もう声も出ないようだった。
「やめてください!お金なら、私が出しますから!」
 椎名の言葉は、まるで夢の中にいるような感じで、豊の耳に入っていた。
 豊の横では、音子が少し震えていた。
 椎名は、こんな状況でも、兄の為に必死だった。
 人通りもない。
 辺りはかなり暗い。
 豊は命の危険さえ感じていた。
 きっと、命まではとられやしない。
 日本では、そんなに殺人事件なんて起こるものではない。
 でも、殺人事件に巻き込まれる可能性は、ゼロではないんだ。
 そして今回は、自ら進んでこんなところにまで来ているのだ。
 もしかしたらと、豊は思った。
「20万用意できるのか?」
「えっ?それは・・・」
 椎名は泣いていた。
 豊はなんとかしたいと思いながらも、他の事も考えていた。
 僕が此処にいるのは「女の子を置いては逃げられない」と思っているからではない。
「女の子を置いて逃げたら恥ずかしい」から、逃げないだけなんだ。
 豊は自分の事を、最低だなと思った。
 見ているしか、僕にはできないんだと思った。
 こちらに近寄ってきた男が、椎名の腕をつかんだ。
「おお!妹さん、なかなか可愛いじゃねぇか。これなら・・・」
「イヤだ!離してください!」
 椎名の叫びに、豊の中で何かがはじけた。
 椎名は友達でもなんでもないけれど、とても良い子で、嫌いじゃなくて、幸せになって欲しくて、不幸になってはいけないと。
 友達を守らないと・・・
「椎名をはなせーーー!!!」
 豊とは思えない、大きな声だった。
 声は、辺りに響き渡った。
 腕をつかんでいた男は、腕をつかんだまま目を丸くしていた。
 遠くから「どうしたー?!」と、声が聞こえてきた。
 警察が駆けつけて来てくれていた。
 男は慌てて椎名をつかむ手を離し、二人逃げて行った。
 間もなく、救急車のサイレンの音が聞こえてきた。
 警察が駆けつけた後、和也はすぐに救急車で運ばれた。
 椎名は和也に付き添い、一緒に救急車に乗って行った。
 豊と音子は、事情聴取とか言われて、警察に連れて行かれそうになったが、たまたまその場を目撃した事にして、いくつかの質問に答えるだけで帰る事ができた。
 身元とか調べられたら、音子の事はどうにも説明できないので、豊は助かったと思った。
 音子は帰る途中、ずっと笑顔だった。
 豊が叫んだところで、和也の死が回避されたのを確認できたようだ。
 豊は何故そこで、死を回避できたのか、考えなければならなかった。
 何が人を救う事になるのか、どうしたら人を助けられるのか、知っておく必要があると思ったから。
 その時の自分の感情や、言った事を思い出した。
 (そういえば僕、椎名って呼び捨てにしちゃったな。きっと椎名って呼ばれるの、嫌だろうに。)
 そんな事で運命が変わったと思えなかったが、椎名を通して何かが変わったのだろうという事は確信が持てた。
 何故なら、結局和也とは話しもしなかったし、怪我が酷くて、見る事もあまり無かったのだから。
 何はともあれ、椎名が最悪の不幸にならなくて良かったと、豊は思った。
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ドクダミ

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