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第十一話 絶体絶命

ジーク軍と、一部大勢力が率いる連合軍との戦いが、近く大規模に行われるという噂があった。
まあこれだけの大勢力となれば、プレイヤも多く、リークする者もいるだろう。
おそらくは我が軍にもスパイがいるかもしれない。
隠密行動をするなら、信頼できる古くからの戦友に限定しておこなった方がいいかもしれない。
俺らはとりあえずしばしの静観を決め込んでいた。
パープル惑星を手に入れた事で、守りもやりやすくなったし、気を付けるべきは紫苑軍だけ。
先日やられそうにはなったが、相手にもそれなりにダメージを与えているし、大規模には攻撃してこれないだろう。
こちらも力を蓄えないと、もしジーク軍が楽勝したらどうなるか。
最悪のシナリオもシミュレーションしていた。
大規模会戦があるとされていた日は、とても静かだった。
誰もが見守る気持ちだったのかもしれない。
一部空き巣をねらった奴もいたが、逆に瞬殺されていた。
それから3日は何も起こらず、徐々にただのデマだったとの掲示が増えた。
そして以前からの状況に戻りつつあった。
しかし嵐は忘れた頃にやってくる。
それから何日目かの早朝、大規模会戦は突然始まった。
月曜日の朝3時だ。
誰もが眠ってる時間。
プレイヤの少ない時間を狙った攻撃。
始めたのは連合軍のようだ。
俺はたまたまプレイしていた正春に、電話で寝ているところを起こされ、ネットにつないだ。
直ぐに、補給業をしていた時に仲良くしていて、今は友好関係にある軍、七転八倒さんに回線を通す。
 サイファ「始まったの?」
 七転八倒「おう。楽勝楽勝!」
戦場にいないと、関係の無い軍の戦いなんかは見れない。
結果だけなら、全体マップを開いていれば、拠点の所有者だけはわかるのだが、それだけでは物足りない。
数時間後なら、大まかな結果は宇宙新聞というゲーム内の新聞で確認できるが、俺は現状がしりたかった。
だからそれに参加している七転八倒さんに、教えてもらっているというわけだ。
 七転八倒「もろいな。ガンガン拠点いただくぜ。おまえも参加すれば良かったのに。拠点とり放題だぞ」
部隊は数十以上で、ジーク軍前線の拠点を次々と落としてゆく。
更には楽勝だからか、まとまって部隊を形成していた個々の軍の艦隊も、次第に単独行動を取り始め、拠点陥落のペースが上がったようだ。
俺は腑に落ちなかった。
ジーク軍がこんなに弱いわけがない。
 今日子「何かおかしくない?」
ジークの元にいた俺達だから気がついたのだろうか。
やはり今日子さんも疑問に感じているようだ。
 サイファ「だよね。いくらプレイヤがいない時間帯でも、これだけ負けるわけない。むしろ俺は逆の結果を予想してたからね」
 今日子「うん。それに絶対対策は考えていたはずだもん」
俺は今日子さんの言葉に、確信を持った。
おそらく何かある。
今日この時間に攻めてくる事がわかっていなかったとしても、そういった話はあったのだ。
絶対対策している。
もしかすると、いやきっとこの時間に攻めてくる事さえわかっていた可能性も十分ある。
今の状況。
連合軍は今バラバラになり、好き勝手に拠点をとりにいっている。
戦力が分散している。
ジークから見れば、各個撃破の絶好のチャンス。
俺はなんとなく、連合軍の全滅を予想していた。
今現在オンラインの、我が軍の将官クラスのプレイヤは、LOVEキラと真でれらと今日子さんだけだった。
俺は招集をかける。
かなりの遠征になるが、我が軍も現場に行くことにしたのだ。
拠点をとりに行くわけではない。
ただ、ジーク軍を勝たせすぎないようにする為。
他にも友好軍に通信を入れる。
捕まったのはグリードさんだけだった。
 サイファ「おそらく朝5時頃、ジーク軍の一気の反撃があるかもしれないので、俺達も現場にいかない?」
 グリード「ほう。ここからジークが反撃すると考えてんのか?」
 サイファ「ええ。何もなくジークがやられるならそれはそれでいいし、でも俺の予想どおりだったら、俺達が今後かなりつらくなるよ」
 グリード「だな。で、戦場にいって何するんだ」
 サイファ「反撃に出たジーク軍を更に背後から襲って、連合軍を助ける」
 グリード「できるか?間に合わなくね?それにリスク以上のメリットあるか?」
 サイファ「速いのだけで行きます。ジーク軍に完全勝利させないだけでも大きなメリットだよ。連合軍の奴らに恩をうってもメリットがあるかどうかはわからんけど」
 グリード「オケ!で、どうする?」
 サイファ「そっちのが近いので、中央お願いします。ジークが中央から両翼に反撃する可能性高いので、その時は背後をついてください」
 グリード「そうじゃ無ければ?」
 サイファ「その時は見つからないように待機で。連絡入れます。俺はジークの右翼からいきますから」
 グリード「左翼は?」
 サイファ「今から友好軍に連絡いれます。急ぐからこれで」
 グリード「おけ!」
俺達は回線を開いたまま、動き始めた。
戦場に向かうのは、俺の艦隊と、キラ艦隊と今日子艦隊だけ。
スピード重視の艦隊編成にして、とにかく速くの到着を重視だ。
向かっている途中、七転八倒さんに通信を入れる。
 サイファ「俺の勘だと、ジーク軍の大攻勢がそろそろあると思う。俺の勘にのってみない?」
 七転八倒「ほう。この状況で?勝ってるのは、相手が寝てるからだと思うけど?」
 サイファ「それならそれでいいけど、一応信用できる連合軍の人にも伝えておいてくれれば」
 七転八倒「わかった。で、俺はどうすればいい?」
七転八倒さんは、俺の予想に乗ってくれるようだ。
 サイファ「では、ジーク領域の左翼の端辺りに移動しておいてください。もしかしたらもうその辺りにジークの大艦隊がいるかもしれないけど。(笑)」
 七転八倒「いたらどうするんだよ?(笑)」
 サイファ「そこにいると考えて、少し離れた位置で待機してもらっていい?」
 七転八倒「わかった。で、お前は?」
そう言えば、こっちの行動を話してはいなかった。
しかし俺は何故か全てを話す事をためらって、結局、
 サイファ「一応そっちに向かうけど、間に合わないかもな」
そうこたえた。
 七転八倒「お前ならもう向かってると思ってたけどな。」
俺はその言葉に少し引っかかったが、気にせず返事もしなかった。

窓の外が明るくなった頃、ジーク軍の反撃が始まった。
バラバラになった連合軍がまとまる事は無かった。
 達也「七転八倒さんの言うこと、みんな聞いてくれなかったのかな」
俺は普通にそう思った。
予想どおり、左翼と右翼、そして中央からの一斉攻撃が始まったようだ。
正確な状況はわからないが、全体マップのその部分の拠点が取りかえされ始めた事が反撃を教えてくれた。
俺はまず、グリードに通信をいれる。
 サイファ「動き出した。艦隊に余裕があれば両方、無ければどちらかのジーク軍の後背をついて」
 グリード「両方行くぞ。これだけの大会戦、楽しいー!」
 サイファ「無理はしないで。健闘を祈る!」
グリードの通信の後、直ぐに七転八倒さんへの通信を行う。
 サイファ「動き出した。中央へ向けて追撃。後背を狙って!」
 七転八倒「みたいだな。もう動いてるよ」
 サイファ「そっか。健闘を祈る!」
 七転八倒「で、結局お前は?」
また聞かれた。
俺の行動。
何故だ?
共に戦っているのだ。
当然だろ?
しかし何故か俺の勘が、警笛を鳴らしていた。
 サイファ「間に合えば、中央でも行くかな」
俺は嘘では無いが、限りなく嘘に近い返事を返していた。
 達也「さて」
俺は一息つくと、右翼から中央へむけて艦隊を進めた。
前方にはキラ艦隊と今日子艦隊。
数は少ないが、精鋭だ。
しばらくすると、グリードからの通信が入る。
 グリード「裏の裏をつくの楽しいな。現在優位に戦闘中!」
俺は一言「おけ」とかえした。
俺達の前にも、ジーク軍の艦隊が見えた。
連合軍を完膚無きまでに叩きのめして進む、ジーク軍の大艦隊。
俺達はその後ろから、一斉攻撃をかました。
 LOVEキラ「うは!すげえ楽しい」
 今日子「撃てば当たるし、効果も絶大~」
2人とも順調に敵をたたいていた。
本当に順調だ。
俺達は見事ジークの裏をついたのだ。
順調で当然だ。
いや、待てよ?
俺は何故か不安が襲った。
ジークがこの程度か?
いや、今回は俺達のが上回っただけだ。
でも・・・
何かがおかしい。
撤退するか?
そんな事まで考えた時、グリードからの通信が入った。
 グリード「連合軍の七転八倒軍が背後から攻撃してきやがった。助けにきてやったのに!」
俺はしまったと思った。
七転八倒軍は、どういった経緯か、理由かわからないが、既にジーク軍にとりこまれていたのだろう。
俺が何か引っかかっていていたこはこれか。
理由はわからないが、長年のネット経験が人を見分けられるようになっているのか。
通信が入った。
 七転八倒「やばかったよ(笑)教えてくれてありがとう」
 サイファ「ジーク軍に下ってたのか」
 七転八倒「いや、俺だよ。ジークだよ(笑)」
そうか。
そういう事か。
2垢か。
2垢とは、2アカウントの事で、同じプレイヤが2つのプレイヤを使用する事だ。
しかし宇宙の絆は、2垢できないよう本人確認がしっかり行われているはずだ。
どうして。
 サイファ「どうやって2垢なんて?ばれるとやばいんじゃ?」
 七転八倒「ああ、これ弟のキャラ。チャットだけ使わせてもらってるんだよ(笑)」
そういう事か。
身内か。
俺は納得した。
急いでグリードさんに通信した。
 サイファ「俺達の作戦はリークされていた。左旋回でこちらに逃げてくれ。俺が無事逃がすから」
 LOVEキラ「ほっとこうぜ。もう無理だろ?」
 今日子「助けても、もう仲良くしてくれないかもよ」
仲間からの言葉ももっともだったが、どうしても見捨てる事はできない。
見捨ててはいけないと思った。
 サイファ「とりあえず出来るだけするよ。俺の失敗だ」
 LOVEキラ「失敗じゃないだろ。俺達は勝ってるし」
確かにそうだ。
今撤退すれば俺達は勝ち逃げだ。
それでも俺は逃げる事ができなかった。
 サイファ「わるい」
 今日子「しかたないねw」
 LOVEキラ「無理はするな」
2人ともついてきてくれる事に感謝した。
連合軍はほとんど全滅のようだ。
グリード艦隊はなんとかこちらに近づいてきていた。
こちらからも近づき、徐々に距離がなくなる。
見えた。
ボロボロになったグリード軍が表示された。
 達也「うわ~ひど」
グリード軍はかなりひどい状態で、逃げる事以外できそうにない状態だった。
後ろから追いかけてきたジーク軍に、キラと今日子さんが攻撃を始める。
俺はグリード軍を受け入れると、補給を早急に行った。
 サイファ「悪い。七転八倒さんが、ジークの弟だったみたいで、作戦が筒抜けだった」
 グリード「そなんだ。どおりで完璧な反撃だもんな」
 サイファ「俺のミスだ。しばらく押さえるから逃げて」
 グリード「ああ。いずれリベンジしようぜ」
グリードの言葉に、少し救われた。
 七転八倒「やっぱり来てたな。知ってたけど(笑)」
七転八倒本艦隊と、ジーク軍の大艦隊、2つを相手に俺達は直ぐに危険な状態になった。
逃げるのもかなりきつい。
必殺技を使ってもダメだろう。
もうタダの敗走で、成功するか失敗するか、それだけのようだ。
俺は諦めた。
どうにでもなれと。
そんな時、後方から機影が近づいてきた。
友軍だった。
 真でれら「おまたせ~」
高速移動は向かないので、つれてこなかった真が、勝手についてきていたようだ。
 サイファ「助かったかも~サンクス」
俺がそう言うと、真艦隊は、俺らの艦隊の前に出て、鉄壁の守りを見せた。
 サイファ「よし。ゆっくり右に進路を取りながら、戦場を離脱する」
俺達はゆっくりと艦隊を右にずらしていった。
なんとかいけそうだ。
どこかでキラ、今日子、そして真を先に行かせて、最後に俺が逃げれば追撃もできないだろう。
ひとりずつ順番に戦線を離脱してゆく。
そして最後は俺だけだ。
まあスピードで俺についてこれる奴はそうそういない。
俺は撤退を始めた。
敵が追いすがるが、少しずつ引き離せるだろう。
後方への攻撃が徐々に届かなくなる。
俺は息を吐き出した。
うまくいきそうだ。
しかし、敵艦隊の一部が高速で迫ってくる。
 達也「なんですとぉ!」
敵に俺より高速な艦隊があった。
これは完全に誤算だ。
 達也「どんな艦隊だよ!」
俺は弾幕やらミサイルやら、とにかく使用しまくりで、とにかく追撃を振り切ろうとする。
武器も弾幕も全て使い切ったが、なんとか後ろから来る敵を、徐々にひき離す事に成功したようだ。
今度こそ本当に助かったか。
しかし俺は又愕然とする。
 真でれら「そっちにジーク軍本体がいった」
 LOVEキラ「すれ違った。俺達は無視して」
まもなく正面にジークの本艦隊が見えた。
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