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31話 夢との再会

クエストをクリアしたという乙女ちゃんは、その後三龍から特別な武器を受け取っていた。
武器は求める物が貰える仕様で、乙女ちゃんは短剣を2本手に入れていた。
この武器を使って次にするクエストは、多くのドラゴンたちを眷属としている人間たちがいて、その者たち全てを倒す事だった。
眷属として召喚されるドラゴンたちをこの武器で倒せば、契約を解除され魔界に戻されるという話だ。
つまりこの剣でドラゴンを召喚する奴らをとにかく全員倒せというクエストとなる。
町を襲ったドラゴンは、このドラゴン召喚士によって召喚されたドラゴンという事だろう。
そしてそれはあの『アコギ』と関係があるのではないかと俺は考えていた。

さてそれよりも、今は知里ちゃんの事が気がかりだった。
乙女ちゃんとは、俺の部屋でその辺りの事を話していた。
「乙女ちゃんもクエストクリアでこっちに転生してきたわけだね。これはもう確実だな」
「だねぇ~。それでこっちでクエストクリアしたチサトちゃんも、どうやらどこかに更に転生したと‥‥」
「間違いない」
少なくとも知里ちゃんが生きている事は確実だった。
何故なら、俺のかけた常態魔法がまだ生きているからだ。
元の世界へ戻ったのか、或いは新たな世界かは分からないが、とにかく生きていると分かっただけでも安心だ。
最悪別世界なら、俺も何らかのクエストをクリアして追いかけるという手もある。
其処が地獄だったとしても、俺は追いかけなければならないと思った。
「じゃあこれからどうしよっかなぁ~」
「元の世界ではどういう話になっているんだ?」
この転生の件ももちろん、これからの事を相談するならその辺りの情報は聞いておく必要があった。
「もしかしてクエストクリアした人が転生するんじゃね?みたいな話はあったんだよぉ~!それで面白そうだなぁ~って思って、俄然やる気で頑張ったんだぁ~。本当に本当でビックリしちゃったw」
「そ、そっか‥‥」
乙女ちゃんってこんな子だったんだ。
あまり深い付き合いをしてきたわけではない。
ゴッドブレスの創設メンバーであるから、俺達ドリームダストとはライバルであり仲間ではある。
知里ちゃんの旦那である大輔がゴッドブレスのリーダーであるから、俺よりも知里ちゃんの方が付き合いはあったはずだ。
俺はせいぜいゲームで作戦行動を共にする時にチャットで話したり、打ち上げで席を共にする事が偶にあるくらいの関係だった。
ちなみに見た目は可愛い系の子で子供っぽい。
未だ独身という話も聞いている。
歳は前世の俺と同い年で、知里ちゃんの1個上だ。
まあそんな事はどうでも良かったね。
「そうそうそれで重要な話なんだけどさぁ~‥‥このゲーム、後クエスト3回で終了する事になったよぉ~」
「えっ?」
ちょっ!
マジですか?
それってもしかして、この世界が終わるという事なのだろうか。
或いはゲームの手を離れて、別の世界として続くのだろうか。
正直2年暮らしてきて、かなり愛着もある世界だし、無くなってしまうとしたらかなり残念でもある。
というかその時この世界にいる俺はどうなるのだろうか。
これは元の世界に戻らなければならないという事だろうか。
頭が少し混乱してきた。
「なんでもねぇ~、メインプログラマ―の青木さんって人が急に亡くなって、プログラム更新ができなくなったんだってぇ~」
「えっ?青木?それってマスター青木か!」
「マスター青木?それは知らないけどぉ~、なんか結構その人しか知らないブラックボックスがあるらしくてさぁ~、プログラムソースがもう存在しない箇所があるんだってさぁ~。よく分からないけどぉ~」
そういえばそんな話、以前知里ちゃんがしていた気がする。
ギャラクシーネットが運営するゲームは、複雑になり過ぎて一部の人間がいなくなったら継続できないゲームが結構あるって話だった。
プログラムソースを失っているブラックボックスもいくつか存在し、そこはバイナリィ編集でしか変更ができないらしい。
言っている意味が分からないかもしれないが、それくらい難しく、つまりプログラマーの青木が亡くなった事で、その難しいゲーム更新ができる人がいなくなってしまい、運営継続が不可能になったという事だ。
「で、あと3回のクエストってのは内容分かってるの?」
「次は三龍解放クエでしょぉ~‥‥その次は大魔王討伐イベだったかなぁ~‥‥最後のはみんなが楽しめる何かって言ってたけど、まだ発表はされてないよぉ~」
後3回か。
次のクエストは危険だからできれば回避したい。
知里ちゃんは生きているとは言え、どうなったのかわからない。
最悪俺が最後のクエストをクリアして追いかける事になるとは思う。
「乙女ちゃんはどうする?」
次のクエストは回避したとして、誰かが再び転生してきたら、その時に知里ちゃんが戻っているのかどうか確認できる。
そして残り2回でその両名が戻れるのなら、それが一番いいのではないだろうか。
「正直この世界で生きていくのも悪くないかなぁ~って思ったりもするんだけどさぁ~。どう思う?」
逆に聞き返された。
「とりあえず次のクエストは回避する方向でいかないか。その後まだ残り2回はあるわけだし、考える時間は十分にあるよな」
そうなのだ。
今始まるクエストは、おそらく1年後。
そしてその後も1年後で、まだ3年は考える時間もある。
「時間は無いと思うよぉ~。次のイベントは今回のイベントと続いて開催だし、その後もプログラムの都合上イベント終了後すぐに次が始まるんだってぇ~」
「なんだってぇ!」
あのマスター青木を殺した事が、きっとプログラマー青木の死に関係があると思う。
それでこんな事になったわけだが、あの時やらなけば、きっと知里ちゃんが死んでいたわけで、これは仕方がなかったはずだ。
だがどうする?
俺は少し混乱してきた。
こんな時知里ちゃんなら冷静に考えるのだろうなぁ。
「それにしても、乙女ちゃん落ち着いてるね‥‥転生するの初めてだよね?」
「そだよぉ~。でも楽しいじゃん?この世界ならトップを目指せるかもしれないしぃ~」
「乙女ちゃん、前の世界でも十分トップレベルだったんじゃないの?」
乙女ちゃんは割と上位のプロゲーマーである。
回避能力だけなら夢やカズミンとも並ぶと言われていた。
それでも‥‥
「いやぁ~。夢ちゃんとか和己くん、他にもアライヴくんとか、チサトちゃんにだって全く勝てないよぉ~‥‥私なんてただプロゲーマーってだけなんだよねぇ~‥‥」
乙女ちゃんの笑顔は寂しそうだった。
「まあでもまだまだ挑戦はしていくけどねぇ~」
両手に握りこぶしを作って、自分で自分を励ましていた。
結論は、とりあえず次のクエストには手を出さない事で話がまとまった。

クエストはしばらくクリアする者が出なかった。
そもそも三龍クエストすら直ぐにクリアできる者がこちらの世界にはいなかったからね。
それになかなか難解なクエストでもあった。
アコギもやはり絡んでいて、アコギの策で某教会の魔法使いたちが、三龍たちを騙して次々と眷属にしていった。
町を襲ったドラゴンもそいつらの仕業だった。
その辺りの所からこの者たちを探し出し、そして42人の召喚士を相手に戦うわけで、難易度は壊滅級だ。
ソロクリアなんてそもそも無理な設定に思えるくらいで、こちらの世界でクリアできる者なんて限られていた。
それでも再びクエストクリアに燃えたアマテラスが、俺のアドバイスもあり三龍武器を手に入れて、多くの妖精たちの力を借りて次のクエストまでクリアする事に成功した。
こちらの世界で1ヶ月以上かかった。
つまりあちらの世界では3日くらいでクリアした人がいたという事な訳だが。
当然かなりのゲーマーだという事が分かる。
もしやと思っていたが、やはりクリアして転生してきたのは夢だった。
「夢、久しぶりだね」
妖精の城の庭、スター誕生と書かれたその場所で、俺達は再会していた。
「本当に生きてた。というか、私が来た事にあまり驚いてないね」
「まあね。これだけ短時間でこのクエストをクリアできる者となると、あっちの世界でもそう多くはないからな」
夢か、カズミンか、アライヴくらいだろう。
ちなみにアライヴは、夢やカズミンに並ぶ、ゴッドブレスに所属しているトッププロゲーマーだ。
「最初に言っておくと、知里は無事だよ。元の世界に戻ってきた。それで再びこっちに戻るとか言い出したんだけど、旦那が泣きそうな顔してたから、私が即行クリアして来てあげたんだ」
「そうだったのか。知里ちゃんが無事で良かった。突然消えて乙女ちゃんと入れ替わったから、もう頭がこんがらがっちゃったよ」
「そういえば乙女さん来てるんだよね。三龍クエストでまさか負けるとは、超悔しいわ」
そういえばそうか。
なんだかんだ言って乙女ちゃんも凄いゲーマーなんだよな。
「乙女ちゃんは俺の屋敷にいるよ。3人でこれからの事を話すか」
「その為に私は来たんだよ」
夢の表情は、高校時代に天才と呼ばれていた頃の顔に戻っていた。
なんとも頼もしかった。

「まだ最後のクエストは分からない。でももうこの後にこちらに来る人はいなくなる」
「どういう事だ?」
「次の大魔王討伐と最終クエストは、ステータスオールカンストの強力NPCが参加して、クエストクリアする事が決まっているからだよ」
「チサトちゃんが戻った事でぇ~、クエストクリアする事でこっちの世界に飛ばされる事が分かっちゃったもんねぇ~」
乙女ちゃんの言う通り、これ以上こちらの世界に飛ばされると分かっていて、それを放置はできないだろう。
「だったら夢はどうして?」
「誰かが伝えないといけないでしょ。できれば乙女さんが戻ってる事を期待したんだけど、それはまあ無いと思ってた」
確かに一か八かでクエストクリアするという手もあったけど、どうなるか分からなかったからなぁ。
しかしこれで残りクエストが2つ、戻るべき人の数は3人となってしまったわけか。
まあその場合、俺が残ろうとは思っていたけど、いざ取り残されるとなるとちょっと悲しいものがあるな。
久しぶりに夢にも会えたし、やはり前の世界が惜しいという気持ちは大きいか。
「で、夢がそれでも来たって事は、何かあるんだよな」
俺は確信していた。
天才ドリームならこの程度の困難は軽く乗り越えると。
「当然。乙女さんって、戦いのスタイルが私と似てるじゃない?双剣だしスピード重視だし」
「そりゃねぇ~。真っ向から夢ちゃんに勝ちたいと思ってやってるからねぇ~」
二人のプレイスタイルは似ている。
とにかく動かせる最大スピードのキャラを使うのは同じだ。
それを二人とも完璧に使いこなす。
ただ圧倒的に夢の方が勝負強い、それだけである。
ちなみに知里ちゃんが使っていた砂のゴーレムマイヒメは、この乙女ちゃんが別の搭乗型ゲームで使っている機体名だ。
知里ちゃんがマイヒメをゴーレムに選んだのは、夢と似た所があるからかもしれない。
知里ちゃんはずっと夢と組んで来て分かり合っているからね。
「私と乙女さんなら、同じ動きをして同時に大魔王を倒す事も可能だと思うんだよ。同時に倒せば同時に元の世界に戻れるんじゃないかなって。どう?」
「どうって‥‥」
確かに全く同じタイミングで倒せば、同時に元の世界に戻れる可能性は高い。
しかしそんな事が可能なのだろうか。
「私が夢ちゃんについていけるかどうか、だよねぇ~‥‥」
乙女ちゃんは自信がないようだった。
でも今まで見てきた感じだと、ゲームの操作技術にそんなに差は感じない。
やればできる二人だと思うのだけれど、今のままだと失敗しそうな気もした。
「乙女さん、上手いよ。今回の三龍イベントだって、ほんの少しの差だったけど私負けたんだから」
「今回のはあくまで攻略イベントだったわけでぇ~、アクションのコントローラー技術は関係なかったもん」
「いや、私の方が上手ければ、きっと私が勝ってた。少なくとも私は勝ててなかったんだよ」
夢が相手の事をこれほど認めるのも珍しい。
何時も自分が一番と言い張るタイプだからね。
状況が状況だからだろうか。
でも俺には本心に聞こえた。
「乙女ちゃんは上手いよ。少なくともスピードと双剣キャラって事なら、夢と互角だと思う」
乙女ちゃんは少し考えるようなしぐさをしていたが、直ぐにスッキリとした表情になっていた。
「だよねぇ~!私結構やるよねぇ~夢ちゃん、負けないからぁ~」
「私も負けないよ」
おいおい、そこ勝負する所じゃねぇだろ。
まあでもお互い良い笑顔をしていたので、これはきっと上手く行くと思った。
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ドクダミ

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