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21話 一家団欒全員集合

ワイロの町に入ったのは日が暮れてからだった。
門番に聞いた話によると、時々悪魔に襲われる町という事で、どうしてもこの町で働かなければならない人と、悪魔に対抗できる人がほとんどの小さな町だった。
スーパーシティを目指す冒険者が集まるので、冒険者はかなりレベルが高かった。
全体平均という意味ではスーパーシティに負けないレベルの者が集まっている。
ただ、スーパーシティで感じたほどの圧力はなかった。
それにしても、町に入ったは良いが、風呂の付いた宿屋が見つからない。
旅なのだし、できるだけその地の宿屋に泊まりたいと思っているのだが、やはり最低限ってのはある。
俺達はどうするか悩んでいた。
「今日は汗もかいたし風呂に入りたいよなぁ」
俺の常態魔法には、汗を処理してしまう魔法もあるし、ほぼ気にならないと言えば気にならないのだが、やっぱり風呂には入りたかった。
「チェックも入れてあるし、私の家に今日は泊まる?」
「どうすっかねぇ‥‥」
そんな会話をしていたら、突然俺の魔法通信にセバスチャンの声が聞こえた。
「今大丈夫か?」
俺は知里ちゃんとの会話を続け、セバスチャンからの魔法通信が入っている事を話しながら、セバスチャンと魔法通信による会話をした。
思考が複数あると、目の前の人と喋りながら魔法通信をするのも特に問題がないのだ。
「大丈夫だけど、どうしたのセバスチャン?」
「レッドギルドから妖精王国に、新大陸での支援要請が入った」
レッドギルドからって事は、おそらく皇帝アベル、もとい、皇帝ルシフェルからの依頼と同じかと思う。
皇帝がレッドギルドに魔法転送装置の件は任せているからね。
「そっかありがとう。じゃあ今日はそっちに戻るから、飯でも食いながら聞かせてもらってもいいか?」
「了解した。準備しておく」
とりあえず今日は、俺の家に戻る事になった。
「そんなわけで知里ちゃん、今日は俺の家に戻るよ」
「分かったぁ」
知里ちゃんの返事を聞いてから、俺は知里ちゃんを連れて自宅へ瞬間移動した。

さてテーブルを囲って、今日は全員集合だ。
今では俺の家族とも言える妖精一家。
それと偶々だがアマテラスも戻ってきていた。
「全員集合も久しぶりだな」
「こうして全員が一緒に食事するのは初めてじゃないか?」
「知里さんもいるしね」
セバスチャンの言う通り、全員一緒は初めてかもしれない。
アマテラスはほとんど帰ってきた事がないしね。
そしてアサヒの言う通り、知里ちゃんとは誰も一緒した事はなかった。
ただこれだけ揃うと、会話はかみ合わなかった。
みんな好き勝手に話したい人に話す。
するとだんだん話題はいくつかに分かれて、それぞれで話をしていた。
知里ちゃんはアサヒやヒナタと料理の話をしていた。
後でレシピを教えるとかどうとか。
アマテラスの冒険話をツキとユウヒが聞いていた。
そして何故か俺とセバスチャンの会話の中にヒカゲもいた。
「未だ新大陸に渡って戻ってこられた者はいない」
「タツヤと知里さん以外にはね」
「そっか。それで支援要請ねぇ」
「それでだ。アマテラスに話したら、自分が行くという話になった」
アマテラスは冒険好きだから、そういう話があるのなら行きたいだろうな。
「それで私も付いていけたらと話したの」
「えっ?ヒカゲが?」
なるほど。
それでこの会話に入ってきていたのか。
「私も冒険したいの」
「しかし私としては、娘を帰ってこられるのかどうかも分からない危険な所に行かせるわけにはいかない」
それで俺に相談か。
俺が一緒ならまあほぼ間違いなく帰っては来られる。
最悪死ぬような強敵が現れたとしても、妖精たちは人型ゴーレムが壊れるだけで、妖精界に帰るだけだし問題ない。
「俺が一緒なら帰ってくる方法は確保できる。でも万一人型ゴーレムを失えば妖精界に行くわけだ。俺が見つけて連れ帰る事もできなくなる」
「やられる事はないと思うんだけどなあ」
まず大丈夫だとは思うが、娘を預かる以上万全を期したい。
まだ行った事もない場所なわけだし。
「で、支援って具体的にどんな要請が来てるの?」
「魔王城の魔法転送装置によって新大陸に行き、先行している冒険者と合流する。詳細はそこで話すという事だが、求められているのはオーガの討伐だ」
オーガか。
オーガはおそらく亜人種に含まれる悪しき人間と言った位置づけになるだろう。
一言で言うと『鬼』だ。
気性も荒く、血肉を食らい、人間だって食べる事があると言われている。
基本ステータスは亜人種最強で、身体能力では魔人をも圧倒する。
ただ知能が低い分戦闘力は魔人に劣る。
とは言え人間に比べれば遥かに強い種族だし、成長して邪気を失くせば姿形は魔人に近くなり知能も高くなる。
その姿は悪魔と魔人の間のような姿か。
羽の無い悪魔、角の大きな魔人、そんな感じだ。
そこまで行けば魔人より強くなるとも言われていて、気性も落ち着いてくると言う。
尤もそこまで成長するオーガは滅多にいない。
あくまでゲームの頃に集めた情報ではあるけどね。
「支援に行くとしての話だけど‥‥オーガは魔物ではなく亜人種だ。だから俺は基本殺す事はしない。もちろん場合によっては殺すがその辺りは頭に入れておいてほしい」
「討伐は不可という事か?」
「戦闘不能状態にはするし、皆を守る為ならその時はとどめをさすよ」
さて、ヒカゲこれに対してどういう反応をするのか。
魔物ではないという事は、多くの血を見る事になるかもしれない。
それでも行くというのだろうか。
正直俺は行きたくない。
「分かった。私は私なりに考えてやるよ」
ヒカゲが行くというのなら、しゃーなしだな。
「ではこの任務中だけで良いから、ヒカゲには俺の眷属になってもらうよ。万一肉体を失っても、召喚すれば連れ帰る事ができるからね」
「おお、その手があったか」
「ヒカゲは後で妖精名教えてね」
「分かった」
話はついた。
「では出発は明日の朝、俺と知里ちゃん、アマテラスとヒカゲで行くよ」
「そのようにギルドには伝えておく」
食事の後、俺はヒカゲ、妖精名シルフィーと契約を結んだ。
これで俺は何時でもシルフィーを人間界へと呼びだす事ができる。
セバスチャンも安心だろう。
俺は早々に風呂に入って床に就いた。
知里ちゃんはまだ料理を教えると言っていた。
俺は睡眠をしっかりととる方だから、あまり睡眠時間をとらなくても平気な人は凄いと思う。
そんな事を考えていたら、夢の中でも俺は寝ていた。
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