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08話 ガブリエル王の正体

フロンティアの町で一泊した後、俺は朝食を摂ってすぐにポータルの町へと向かった。
ポータルの町までは飛翔で約1時間と少し、景色はウェストランドの南側に広がる農村地と似ていた。
ただ、育てている物は結構違うのだろうけれどね。
ポータルの町が見えてくる頃、俺は適当な所で地上に降り、いつも通りチェックを入れてから砂の分身を作った。
此処から旅の冒険者として町に入る。
「しかし、この町は凄いな‥‥」
前方に高い城壁が左端から右端までそびえたっていた。
ウリエル王国の城塞都市マイクラの比ではないくらい要塞化された町だった。
ただ、入るのに特に問題はなかった。
ギルドカードを見せて身分さえ証明できれば良い。
俺は町の中へ入った。
入って驚いた。
とにかく獣人が多かった。
人口一万五千人ほどの小さな町と聞いていたが、何割かは獣人だ。
そういえばガブリエルの王は、人種差別をとにかく失くそうとしていると聞いた事がある。
差別に罰則を付けているという話も聞く。
獣人が王の獣人の町というのはどこかにあるかもしれないが、この大陸ではまだ聞かない。
だからこのガブリエル王国が、もしかしたら獣人たちの憩いの場になっているのかもしれないと思った。
ちなみにミカエル王国の王はエルフだし、ルシフェル王国の王はドワーフである。
おそらくこれらの領内に入れば、エルフやドワーフが多く生活している事だろう。
「ちゃんとそれぞれの種族が安心して暮らせる国があるという事か‥‥」
俺は少し笑顔になるのを抑えてギルドを廻った。
小さな町ではあるが、ギルドは3種そろっていた。
獣人が多いという事は、身体能力の必要なクエストがこの地に集まるという事でもあるのかもしれない。
ギルドでクエストをチェックした所、狩りや素材集めが多かった。
町を一通り見て回った後、俺は適当に昼食を摂ってから出発する事にした。
北側から町を出る所には、入ってくる時にあった大きな城壁はなかった。
俺は町を出てしばらく歩いた所でチェックを入れておいた。

此処からガブリエル王都までは大した距離はない。
もちろん歩いて行けば1日かかる距離ではあるが、特に急いでいるわけでもないし、俺は素材集めをしていく事にした。
ガブリエル王都とポータルの町の間にある小さな森は、素材の森と言われている。
何故そう呼ばれるかというと、簡単に倒せる小さな魔物が群れで生活しており、多少強い魔法が使えれば素材や魔石が大量に手に入れられるからだ。
しかも小さい魔物の割に大きい魔石だったり使用頻度の高い素材が集まる。
素材としても持っておきたいし、いくらかは売って金になるし‥‥
いや、そんな事どうでもいいのだ。
「そろそろ魔法をぶっ放して俺つえぇしてぇー!」
そんなわけで俺は地上から森へ入っていった。
既に探索魔法には多くの魔物が引っかかっている。
数も半端なく多い。
数えられないほどだ。
俺は片っ端から倒していく事にした。
森を行くと昆虫系の魔物がわんさかわいてくる。
俺は効果のあるファイヤ系やライトニング系魔法でまとめて倒していった。
「無双超爽快!」
やっぱりファンタジー系世界のだいご味は魔法による戦闘だ。
此処まで常に石ころはじいて攻撃するか、砂の分身に砂製の剣を持たせて斬りつけるか、どちらかだった。
ファンタジー世界のもう一つのだいご味、魔剣とか使っての戦闘も無かった。
砂の分身に実際の剣を持たせても対応力が下がるし、装備品含めてすべてが砂を使って作られたものだ。
本体の俺だって、何時大人の自分に戻らないといけなくなるか分からないから、装備の全てを魔法で作っていた。
アイテムを集めて装備する楽しみも無いし、強くなる楽しみもない。
もう魔法による戦闘くらいしか、この世界独特の楽しみなんてないのだ。
チートステータスは安心できるし、普通の楽しみなら他にあるだろうから正直これで良かったと思っているけれど、この世界独特の楽しみが感じられないのは寂しいものだ。
だから今の魔法戦闘は、もう楽しくて仕方がなかった。
高速で移動しながら、片っ端から倒しまくった。
自動で魔石やドロップ品は回収されるので、とにかく魔物退治に没頭した。
森の隅から隅まで廻りならが、太陽の光が少し赤くなるまで続けていた。
「超満足だ」
目の前にガブリエル王都を見ながら、俺は腰に手を当てて胸をそらしていた。
十分に満足した俺は、とりあえずそこでチェックを入れてから、いつも通り砂の分身で王都へと入っていった。
今回は本体を透明にし気配を消して入ったので、通行料金は取られなかった。

さて、町に入る前から感じていたのだが、探索魔法には多くの高レベル冒険者っぽい人物が引っかかっていた。
中には魔人も含まれている。
当然角無しではあると思うが、ウリエル王国内と比べると圧倒的に数が多かった。
おそらくこの地には、魔人の血を引く人間が多いのだろう。
ご先祖に魔人がいれば、稀に魔人が生まれてくるわけだし、二十万人も人がいればこういう事になっても不思議ではない。
とは言え半端なく魔力の高い者もいる。
当然俺と比べればアリンコみたいなものだけど、普通に見ればかなり高い。
「ドラゴンクラスか、魔王クラスにも近いな」
その強い者がいる場所は、王城の中だった。
これは今回見に来たSSSランクのシュメールかもしれない。
そしてその傍にも角無しがいて、こちらもまた同レベルの強さを感じる。
「シュメールは王の側近と聞いていた。つまりどちらかがガブリエル王なのか?」
俺は千里眼を使った。
間違いないと思う。
ガブリエル王とシュメールだろう。
身なりから、より強い魔王クラスの方がガブリエル王と判断できた。
王が角無しなのか。
角無しだと、おそらく肩身の狭い生き方をしてきた者も多いはず。
だからそういう人が王というのは割と問題があるかもしれない。
このガブリエル王国では、差別が強く否定されているのはその為だろう。
いや、獣人がこれほど多いというのは、むしろ逆差別的な過剰差別批判が起こっている可能性もあるのではないだろうか。
まあ皇帝は確か人間って事だから、全体的にはバランスがとれているとも言える。
ただなんとなくだが、俺は嫌な感じがした。
「それはともかく、最も強いと言われていたシュメールも、それ以上のガブリエルも、どちらも角無しって事か」
角無しが魔王を倒す英雄になるとは到底考えられない。
一応同族なわけだしね。
最悪魔王側につく可能性だってある。
仮にそうなった場合、魔王クラス2人以上、ドラゴンクラス1人以上を相手にする事になるわけで、残り10ヶ月だとしたらアベルではおそらく勝てないだろう。
他にも強い冒険者を育てる必要がありそうだ。
考えるのが嫌になった俺は、今日はとりあえず適当な所で宿をとって、飯を食って風呂に入って寝る事にした。
「めんどくせぇ~」
今日は大量に魔物を狩って疲れたし、考えるのは明日にしよう。
俺はすぐに眠りについた。
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