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06話 勇者パーティーとの再会

初のクエストを達成してからしばらく、俺は再び妖精王国の問題解決に奔走した。
人間として生きる為の常識も何も知らない妖精に、ある程度教える事も必要だった。
最初に重要な所は教えていたのだが、問題がある程度無くなるまでにはそこから1ヶ月を要した。
そもそも俺自身この世界の事を知っているわけではない。
だから冒険者を雇って教えてもらったり、私も教えてもらったり大変だった。
まあその甲斐あって、ようやくこの妖精王国も普通の町になってきたのではないだろうか。
妖精ギルドも各ギルドと連携ができて、妖精ギルドは難易度の高いクエストが集まる場所となっていた。
だからこの町を訪れる冒険者は、自ずと高レベルだった。
この町にはまだ勇者は来ていない。
1ヶ月や2ヶ月で妖精ギルドが提示するクエストができるようになるとも思えないが、俺は少し残念だった。
魔王を倒す存在となるなら、そろそろ妖精ギルドへ来るくらいにはなっていてほしかった。
時々アマテラスと魔法通信で話をしているが、そのレベルにはまだしばらくはかかりそうだった。

さて今の俺だが、やっぱりと言うか、割と有名人になってしまっていた。
これだけ色々と妖精王国で妖精王の代理人というか、人間との橋渡し役をやっていれば、それなりに名前も知られてしまう。
まあ強さがバレたわけでも、能力が認められたわけでもないので、問題が無いと言えば無いわけだが、この先厄介ごとに巻き込まれる可能性は大きくなっている。
そろそろ代理人は辞めて、影から支えるただのアドバイザー的なものになりたいと思っていた。
そのためには、しばらくこの地を離れる必要があるだろう。
できるだけ戻ってこない方がいい。
俺はセバスチャンにしばらく戻らない事と、使用人業務はできる範囲で良いという事を伝えた。
いつ帰ってくるかも分からない俺の為に、飯を用意しておいたりしなくて良いという事だ。
帰ってきたら、その時できる範囲で手を貸してくれればいい。
その程度の事にして、普段は好きにしてもらう事にした。
使用人ではなく、家族のような存在になれればと思った。
「何か急ぎの用や重大な事があったら、魔法通信で知らせてくれ」
「分かった。4階と地下以外は好きに使わせてもらうぞ」
この屋敷は俺のものだが、1階から3階はもうセバスチャン家族の家として使ってもらう。
「ああ。行ってきます!」
俺は瞬間移動魔法で、スピカの町の外まで移動した。

「さて、まずはチンクエの港町に行くか」
俺はとりあえずウリエル王国領内にあるすべての町や村を廻る事にしていた。
とにかく色々な所へ行って、この世界の全てを実際に見ておきたいのだ。
移動は当然飛翔していく。
飛翔なら2時間かからないくらいだろうか。
途中精霊の森を越えていく事になる。
此処は木の精霊であるドリアードがいる場所だ。
確かゲームの時にはクエストも存在していた。
悪いドリアードを狩ればそいつの加護を受けられるようになり、木の精霊魔術が使えるようになるのだ。
もちろん俺もゲームの頃にクエストは達成している。
気を付けなければならないのは、良いドリアードを狩ってはいけないという事だ。
悪いドリアードは木の姿で人間を食おうとする。
食われそうになってから反撃するわけで、できれば仲間がいた方が良いクエストだ。
そしてできればクリアしておいた方が良いクエストでもある。
この世界、多くの魔獣は森の中で出現する。
木の精霊の加護を受けていれば、森での戦いが有利になる。
蔓で敵を捕縛したり、あらゆる所で便利に使える魔法も多い。
「懐かしく感じるな」
このクエストに挑んだのは、あっちの世界でだいたい2年前の事か。
すっかりこっちの世界が当たり前になってきているが、俺、二度目の転生をしてしまったんだよなぁ。
少し寂しい気持ちがこみあげていた。
「さて‥‥」
森の上空に入る頃には、俺の探索魔法には多くのドリアードと、亜人種を含む人間たちをとらえていた。
どうやら森でクエストに挑んでいる者がいるようだ。
それも一人や二人ではない。
この森でドリアードを狩るのは、冒険者の登竜門的なものなのかもな。
中には木に食われてしまっている者もいるようだったが、俺は気にせずチンクエの港町を目指した。

森を抜けたら、チンクエの港町が見えてきた。
そこそこ大きな町のようだ。
此処は確かガブリエル王国との貿易が盛んな所だ。
ウリエル王国とガブリエル王国の貿易は、陸路で行う事もあるのだが、国境には大きな森が存在する。
少し山にもなっているので登りは辛い。
盗賊も魔獣も多くて、尚且つたちが悪く危険な事から、運搬コストがバカ高くなる。
だからかなり大回りになるけれど、海路での貿易が中心になっている。
ゲームの進行的には、この森を超えるのはかなりレベルを上げてからだ。
先日護衛クエストを行ったが、集められた冒険者は20人程度で、条件もDランク以上だった。
それでも下手をすればクエスト失敗もあり得たのだ。
こちらを通るクエストはBランク以上が条件になっていたと記憶しているし、人数も40人以上集める事になるだろう。
レベルが全く違うと言って良かった。
まあプレイヤーのギルドランクBってのはピンキリあるので、ゲーム時の俺なら一人で森を抜けるくらいは簡単にできたわけだけどね。
少しこの世界がゲームだった頃の話をしておくと、プレイヤーレベルは基本100まで上げられる事になる。
その中でも更に細分化されていたから、単純に強くなるのが1レベルアップだとしたら、1000レベルくらいまであったという事かな。
その後は地道に一つずつステータスを上げる作業になるので、ハッキリとしたレベルは分からなくなる。
表向きのレベルは100でカンストだけど、実際は何処までも強くなれる仕様と言えるのかな。
しかしそれはプレイヤーに限った話で、例えばドラゴンはレベル150前後のモノが多い。
でもソロでドラゴンを倒せるプレイヤーは結構な数存在した。
レベルが全てではないという事だ。
ちなみに魔王はレベル200、大魔王は250、神クラスは300と言われている。
運営が公式に発表した数字ではないので断言はできないが、攻略サイトではこのように表現されていた。
ちなみに俺はレベル100のカンストで、そこからもそれなりに強くなっていたし、ドラゴンも倒せるレベルだったとは思う。
ただドラゴンを倒した事は無かったけどね。
自分判断になるが、俺はドラゴンクラスくらいの強さだったと言えるのだろう。
ちなみにギルドランクAはドラゴンクラス、Sは魔王クラス、SSは大魔王クラス、SSSは神クラスとも言われていた。
俺はギルドランクBで、表向きはマスタークラスという事になる。
ちなみに転生直前に一緒にプレイしていた他の4人は、皆ドラゴンを倒した事もあるし、夢やカズミンはSSSランクだったと記憶している。
つまり神クラスね。

さて、地上に降りた俺は、人目のつかない所でチェックを入れておいた。
森の外ではあるが、町の辺りには田畑や建物、それなりに木々もあるし、ド田舎といった感じの景色が広がっている事も多い。
単なる草原や荒野、或いは公園のような場所も多々存在するけれど、それなりに人目のつかない所というのは存在する。
だから極偶にではあるけれど、魔獣が出たりもするんだけどね。
町に熊やサルが下りてくるような感じかな。
俺はいつも通り姿を消して、砂の分身を作った。
正直面倒にも感じるこの作業だが、思考が複数あるので作ってしまえば全く問題はない。
俺が二人いて情報共有している、そんな感じだからね。
門から町に入った。
チンクエの港町は人口約三万人で、町としては普通の大きさだ。
だからレッドギルドは存在しない。
とはいえ物流の拠点でもあるし、人以上に物の行き来が激しい所だった。
「とりあえずまずはブルーギルドだな」
俺はブルーギルドを訪れた。
思った以上に冒険者が多い印象だった。
それもそのはず、掲示板に張り出されている仕事の量が半端なく多く見えた。
近くに寄ってみて見ると、輸送の護衛クエストが沢山あった。
ほとんどが安全なルートでの輸送なので、とりあえず人数さえ集めれば良いと言った感じに見えた。
「Fランク以上で10人か‥‥」
正直盗賊に会ったら駄目だろうが、おそらく少量を分けて運ぶのだろう。
或いは量は有っても金にならない食料とかかな。
食料は安全性も重要なので、盗んだものを他に売りさばく事はし辛い。
とりあえず森以外で出現する少数の魔獣対策という事か。
沢山あるそんな輸送警護のクエストの中に、面白そうなクエストを発見した。
『精霊の森でニチリンソウとキラメキの花をそれぞれ100集める』
このクエスト自体はよくあるものだ。
ニチリンソウとキラメキの花は、ヒーリングポーションを作る為に必要な素材である。
おそらくポーションを売っている店か製造者が依頼したクエストなのだろう。
でもこのクエストのポイントはそこではない。
場所が精霊の森という所だ。
こういうクエストをやるついでにドリアードを狩れれば一石二鳥というわけで、ゲームを攻略する上では人気になりそうなクエストである。
ただまあ今はゲームでもなんでもないわけで、効率とか考えてクエストを受ける人はいないのかもしれない。
何となく余っている感じのクエストだからね。
俺はなんとなくそのクエストが書かれた張り紙に手を伸ばした。
すると同時に横でその紙に手を伸ばす人がいた。
この気配、かなりの使い手で、そして知っている感じがした。
見るとそれはアマテラスだった。
「おっ!」
「あれー!久しぶりだねー!」
いきなりアマテラスが俺に抱きついてきた。
見た目は俺好みに作った超絶可愛い女の子なのだが、中身は少し子供の妖精である。
妖精は頭も良いし成長も早いから、おそらく見た目年齢と大きくは違わないくらいまで成長しているはずだが、出会った時が子供だったからだろうか。
俺に対しては子供なのである。
「久しぶり!アマテラスがいるって事は、アベルもいるのか?」
振り返るとそこにはアベルと、その仲間らしき冒険者が2人俺を見ていた。
「よっ!アベル!調子はどうだ?」
「楽しくはやっているぞ。仲間も増えたし、かなり強くなってきたとも思う」
「そっか」
かなり強くなったとはいえ、実際に見て俺は不満だった。
前に出会ったアベルがレベル10くらいだったとして、今は40くらいだろうか。
もちろん伝わってくる魔力というか、圧力というか、そういうものだけで強さってのは測れないのだけれど、概ね分かると言えば分かってしまうわけで。
本当に強いヤツってのは自分の強さを隠す事も多い、と思うから一概にアベルが弱いと言ってしまうのは間違っているかもしれないが、おそらくそういう訳でもないだろう。
ちなみに俺は全力で強さを隠しているし、アマテラスも悟られないよう抑えている。
アベルがもしも強さを隠しているのなら、ドラゴンクラス以上であるわけで、まああり得ないと言える。
「私たちにも紹介してよ」
「そうだな。俺はアベルやアマテラスの仲間で、ジョニーだ!」
「ああ、よろしく。達也だ!」
「タツヤっていう名前なんだ。ちょっと珍しい名前かも。私はミリア。魔法使いだよ」
「よろしく」
ジョニーとミリアか。
どちらも若そうだ。
あの時の獣人の姿は無いが、アマテラスの報告ではギルドに行く時は宿の部屋に残しているとか言っていたな。
こいつらは‥‥年齢的に近いから仲良くなってパーティーを組んだって所だろうか。
見た目は俺と同じくらいに見える。
男のジョニーってのはどうやら槍使いのようだ。
魔力はまずまずだが、コントロールは下手だろうな。
ほぼ魔法は使わなさそうだ。
一方ミリアは完全に魔法使い。
魔力コントロールが安定している。
ただ魔力量はそれほどではなく、戦いを支援するタイプに見える。
正直勇者のパーティーにしては、少し役不足かもしれない。
「で、アベルは今日は何してたんだ?」
「ギルドで掲示板を見てやることってのは皆一緒だろ?」
アベルはそう言いながら、先ほど俺とアマテラスが手を伸ばしていたクエストを剥がして取った。
「ほう。そのクエストをするのか。つまりドリアードの加護狙いかな?」
「そだよー!そろそろその辺りに進む時かなぁーって」
アマテラスの言う通り、そろそろそれくらいの段階には来ているのだろう。
パーティーメンバー的には少しまだレベルが足りないような気もするが、アマテラスがいるから大丈夫と言えば大丈夫か‥‥
「少し早いかもしれないけれど、加護を手に入れてしまえば一段強い所でレベルを上げられるからね」
ミリアの言う事を聞く限り、一応この世界でもレベルという概念はあるんだな。
実際に数字としては表れないけど、ギルドランクはある程度相応な所に落ち着いているようだし。
「俺たち今からクエストに向かうけど、どうだタツヤも」
アベルと話している中、ジョニーがクエストの申請に向かっていた。
「いや、俺はいい。アマテラスもいるし、問題ないだろ?」
「確かにな。アマテラスはよくやってくれているよ。良いヤツを紹介してくれて助かっているよ」
「私頑張っているよー!」
俺はアマテラスの頭をポンポンと叩いた。
「じゃあ俺は行くよ。まだやる事があるからな」
特に急いでやる事ってのは無いが、まだ予定も残っているし、俺は新たにやっておきたい事が見つかっていた。
「そっか。またどこかで会ったらその時は一緒に飯でも食おう」
「美味しい物たべたーい!」
「分かった。じゃあ、アベル、アマテラス、それにミリア、またな。ジョニーにもよろしく」
こうして俺はアベル達と別れた。
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