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19話 最後の町スーパーシティ

知里ちゃんの家がある辺り、山や森には野生のニワトリがいる。
だから卵も手に入れられる。
猪や鹿もいるから、何種類かの肉も食える。
魔法で稲作もできるし、畑野菜も瞬時に育てられるから、自給自足にはもってこいの場所である。
「遅い時間の朝食もまた格別であった」
「よろしゅうおあがり」
「この転生はさ、実は超絶親切なヌルゲーだったのかもなぁ」
俺はうっかり破壊してしまったが、あの山辺りもきっとこんな感じに親切な場所だったのだと思う。
「私はそれでもお兄ちゃんに会うまでは辛かったよぉ」
「そうだな。霧で覆われた場所で1ヶ月も過ごしたわけだし、初めての転生だったんだもんな」
それでもこれだけ色々とやってしまっている知里ちゃんって、本当にたくましいよね。
「それで今日はどうするの?」
「そうだなぁ。別に慌てる事もないけど、この新大陸の町がどんな所なのか早く見てみたい気持ちもある」
セバスチャンから特にメッセージも無いから、魔王城の方はまだ進展はないのだろう。
こちらに渡ってきた冒険者も、今は町を探して内陸へと進んでいる所のはずだ。
どうせなら一番乗りしてみたいよね。
「だったら今日は飛翔で一気に町まで行ってみようよ」
「そうだな。とりあえず昨日歩いた所まで瞬間移動するか」
「分かった」
知里ちゃんはそう言うと、直ぐに瞬間移動魔法を発動し、俺も一緒に昨日の場所まで連れて来てくれた。
「知里ちゃんは魔法を使った時、どれくらいのスピードで魔力って回復するの?」
「チートって言ってもお兄ちゃんとは雲泥の差だよ。流石に全部使いきったら1日かかるね」
「そうなのか。だったら飛翔すると魔力結構ヤバくならないか?」
「飛翔なんてほとんど魔力使わないから、直ぐに回復するレベルだけど‥‥」
そうなのか。
なら大丈夫か。
「でも、お兄ちゃんが何とかしてくれるっていうならお願いしちゃうよ」
兄を立てる妹、なんてできた子なんだ。
お兄ちゃん涙が出てくるよ。
まあ冗談はおいといて。
「だったら砂で飛行バイク作るから、ニケツしていくか」
「うん」
俺はすぐに残っている魔砂を全て取り出し、砂で飛行バイクを創造してみた。
「ギリギリ足りたな」
ゴーレムの魔砂7個分で、5人の砂のゴーレムとジョー、そして飛行バイクまでなんとかできた。
それぞれ多少は魔砂に余裕を持たせてあるけどね。
でも何かあった時の為に俺はゴーレムの魔石を2個取り出し、砕いて魔砂にしておいた。
「そういえば昨日から最果ての森に行っている5人はどんな感じなの?」
知里ちゃんは話しながら、飛行バイクにまたがる俺の後ろに乗ってきた。
「現在集まった種は51個かな。ぼちぼちのペースだね」
俺は飛行バイクを空へと上げた。
「そんなに集まってるんだぁ」
俺はバイクを前へと進めた。
スピードは普段飛翔するスピードと同じくらいで、割と安全運転である。
「調子が出てくればもう少し集まると思うよ。チートに磨きがかかっているからね」
魔力を消費しようと、子供へと若返ろうと、運のステータスは変わらないのだ。
マヂチート状態である。
「これだけ高い所を飛ぶのは初めてだぁ」
振り返ると、知里ちゃんはとても楽しそうに見えた。
正直に言うけど、俺は割と高い所が苦手だから、本当はあまり高く飛びたくないんだけどね。
でも地上から見られると騒ぐ人もいるかもしれないので、出来る限り高い所を飛ぶ事にしていた。
「一応この辺りにもチェックを入れておくか」
俺は昨日の安全装置の転送先に使えないかと思い、なんとなくチェックを入れておいた。
「今の場所で爆発したとしても、あの魔石が爆発したら、この辺り焦土と化すだろうね」
「ああ。まあでもこの辺りは人も魔物も獣も何もいないから、問題はないだろうけどな」
「遠くから見たら花火みたいに見えるかも」
「でも多分みんなビビると思うぞ」
俺達はどうでもいい話をしながら空の旅をしていた。

さて1時間もしない間に遠くに町が見えてきた。
後1週間ほど歩けば到着しただろう距離だ。
俺はすぐにバイクのスピードを落として、人気のない所へ下りた。
「はい、此処からは歩いて行くよ」
俺はバイクにまたがった状態のまま砂の状態に戻して回収した。
以心伝心知里ちゃんは、当たり前のようにうまくその場に立っていた。
「そうそう、コレ渡しておくよ」
俺は知里ちゃんに俺と魔法通信ができる耳飾りを渡しておいた。
これで知里ちゃんとは、何時でもどこでも心の中で会話ができるようになる。
セバスチャンやアマテラス、妖精姫に渡してあるのと同じ、耳たぶではなく耳輪に付けるものだ。
「ありがとう」
「試してみたけど話せてる?」
「ちゃんと聞こえてるよ」
「ちゃんと話せてるね!」
なんだか高校生が初めて携帯電話を買ってもらって目の前の友達と話しているような気分だった。
俺達は町へ向かって歩き出した。
入口までは此処から1キロも無い距離。
俺の探索魔法はだいたい半径2キロまで探索できるから、既に町中の様子もうかがえる。
「魔人が多いな」
「へぇ。この大陸は魔人の大陸なのかもね」
俺は一応この事をセバスチャンに伝えておこうかと思った。
そうすれば、この事は妖精王に伝わり、そこから主要な者たちへ情報が行くはずだ。
各王と皇帝とはギルド水晶で情報共有しているだろうしね。
でも俺は思いとどまった。
いらない事はしない方がいい。
ちゃんと考えてからにしようと思った。
町の門に到着した。
この辺りは天使の大陸にある町と何も変わらない。
ただ3人の門番の内2人が魔人だというだけだ。
いやそれだけというのは違うだろう。
皆かなり強いと感じる。
町にいる魔人だけに限らず、其の他種族も含めて全体に言える事だが、天使の大陸に住む者たちよりも二回りくらい強い魔力を持っていた。
「では、ギルドカードを見せてください」
門番にそう言われたが、さてどうしたものか。
おそらくブルーギルド発行のカードを見せた所で、こちらの大陸では通用しないはずなのだ。
そんな事を考えている間に、知里ちゃんは自分のブルーギルドカードを見せていた。
「これは天使の大陸のギルドカードですね。珍しい。時々あちらから渡ってこられる人がいるんですよね」
えっ?そうなの?
そういえば以前どこかで聞いた事がある。
魔人は逃がされる事があるって。
もしかしてそうして逃がされた魔人たちが、こちらの大陸で生きていたって設定なのかもしれない。
設定と言ってしまう辺り、俺はまだまだゲーム感覚なのかもな。
俺も自分のブルーギルドカードを見せた。
「はい。どちらも確認できました。でもそのカードのままだとこちらのギルドでは使えませんから、新しくカードを発行してもらってください」
「ありがとう」
俺は門番に礼を言ってから町へと入っていった。
分かっていた事だけど、とにかく魔人が多かった。
半分は魔人だろう。
獣人も多くて人間は3番目と言った所か。
エルフやドワーフは今の所見かけないが、探索にはいくつか引っかかっているのでいないわけじゃない。
「とりあえずギルドに行ってみるか」
「そだね。こっちでのギルドカードもあった方が良いみたいだし」
「ま、いずれ統合されるとは思うけどね」
そんなわけで俺達は、この町のギルドへと向かった。
探索魔法とマッピングで場所はすぐに特定できた。
どうやら俺達が入っていった門は、どちらかというとこの町の裏門のようで、ギルドは全く逆の場所にあった。
途中領主の建物を横目に見ながら、ゆっくり歩いて30分ほどで到着した。
看板には、大陸名と町の名前が書かれてあった。
「『魔人の大陸』『スーパーシティ』ね。人口も多くて平和そうだな」
「ギルド名は『ツノギルド』か。魔人推しだね」
俺達は中へと入った。
中は特に驚きもなく、いつも通りのギルドだった。
俺達は受付へと普通に歩いた。
何かいちゃもんを付けてくるヤツがいてもおかしくないと思ったが、冒険者は皆穏やかだった。
強いと逆に余裕があると言った所かね。
「どういったご用件でしょうか」
受付の女性は獣人だった。
この大陸はおそらく天使の大陸よりも天使が集まっているのではないかと思えた。
「ギルドカードを発行していただこうかと思いまして」
俺は改まった口調でブルーギルドカードを渡した。
続いて知里ちゃんもカードを渡す。
「へぇ~この町であちらの大陸のギルドカードを見るとは思いませんでしたよー」
「どうしてですか?」
俺は一瞬疑問に思った。
こういう言い方をするって事は、別の町ではそれなりにある、つまりこの町は特別だという事だ。
「この町、あちらの大陸からだと一番遠い位置にあるんですよ。普通此処に来るまでにカードを発行しますよね」
「ああ。そういう事ね」
受付の獣人さんはその理由が知りたそうだったが、ハッキリとここが西の端にある町だと知ったのは今なんですよ。
他の所の事なんて知らないのですよ。
かといって正直に言うのもどうかと思うんですよ。
そんなわけで俺は適当にごまかすしかなかった。
「いやぁ~気が付いたらこの町まできてしまっていたのですよ、はい」
「そうなんですか。それは大変でしたね」
獣人の人はスッキリしないと言った感じだったけれど、ギルドカードは発行してくれた。
「あれ?俺Bランクですよ?Aになってるんですが?」
「私も違う?SSランクになってる」
「あ、はい。この町で発行するギルドカードは、最低がAランクになっています。この町に来られるだけでその資格があるってわけですね。それでチサトさんは、向こうのランクよりも1ランク下げたものを発行させてもらっています。こちらのクエストの方がレベルが高いですから」
「納得しました」
なるほどねぇ。
本来この町って、そう簡単に来られる場所じゃないのか。
つまりこの先に色々と強い魔獣とか出るって事なんだろうな。
俺達は一度ギルドを出た。
「どうする?マイヒメのギルドカード、此処で作ればAランク貰えるわけだが‥‥」
「この先あった方が良いかもしれないから作っておこうと思う」
「そっか。だったら俺も1枚だけ作っておくか」
俺達は人気のない所で、砂のゴーレムを作った。
知里ちゃんはマイヒメ、俺は6歳サイズの俺の分身にした。
「さっきの冒険者の仲間って事で言えば、そう怪しまれる事もないだろう」
少しドキドキはしたが、カードは問題なく作成できた。

その後俺と知里ちゃんは、しばらく町を散策した。
町の人の会話を聞いたり、時々店の人と話したりしていて分かったのだが、このスーパーシティは、この大陸の全ての冒険者が目指す最後の町という事が分かった。
強き者とその子孫によって作られた町。
この町にいる冒険者は、この大陸の最強レベルなのだ。
此処に来る人は皆強い、そう分かっているからギルド内も穏やかだったのだろう。
「つまりこの町に来た時点で、魔人の大陸をクリアしたみたいなもんなんだな」
「いきなりクリアって、無敵モードでもそんな事できるゲームはないよ」
「そんなゲーム、ゲームにもならんからな」
俺達は適当な店で遅い昼食を取った。
知里ちゃんの作ったものに比べたら味気ない食事だったけれど、俺にとってはここ最近食べなれたモノよりも美味しいと感じた。
「流石最後の町だけあって食事も美味しいな。あくまでこの世界基準だけど」
「そだね」
今度家に帰ったら、知里ちゃんに頼むか。
ヒナタたちメイドに料理を教えてあげてほしいと。
自分の家でくらい最高に美味しいモノが食べたいからね。
食事の後も、俺達はのんびりと町を歩いた。
治安も良さそうで、全くと言って良いほど何もなかった。
転生前の世界で、普通に銀座商店街を歩いていた、そんな感じだった。
「つか銀座商店街ってさ、銀座じゃない所にいっぱいあるよね」
「全国に三百以上あるらしいよ」
流石知里ちゃん。
どうでもいいことをよく知っている。
何かが少し違えば、歴史に名を残す人物になっていたに違いない。
いや、既に有名人にはなっていたんだけどね。
プロゲーマーアイドルだったんだもんな。
結局この日は1日町を散策した後、風呂のある宿屋に泊まった。
同じ部屋に泊まったが、特にお前たちが期待するような事は何もなかった。
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