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20話 悪魔の山

町に入る前、町の中、そして出た所でチェックを入れるのはもう習慣になっている。
朝食を取り適当に町中でチェックを入れた後、俺たちは入ってきた門とは逆側から町を出ようとしていた。
「見かけない顔だな」
門番に声をかけられた。
「ええ。昨日裏の門からこの町に来た旅人なんですよ」
「わざわざ裏門まで回ったのか?なんでまた?」
「特に意味はないんですが、気が付いたらそうなっていたと言いますか」
はっきりとは言えないのです。
瞬間移動魔法なんて、おそらくチート魔法だと思うから。
しかしそんなチート魔法、ゲームの仕様では結構当たり前にあるんだよなぁ。
よくゲームの世界に転生したいって話あるけどさ、そういうチートだからなんだと思う。
本当に何もかもなくてパンピースタートだったら、そんなに楽な世界でもないはずだ。
魔力があっても魔法をほとんど使わないパンピーがこの世界でも当たり前で、冒険者になれる人は一握り。
その多くは低レベルの内に死んで、選ばれた者だけがそれなりの冒険者になれる世界。
チートとまでは言わなくても、ある程度のステータスがあってこその転生希望なんだよなぁ。
「町を出るって事は東に向かうんだろ?昨日今日でまたあの山を越えようとか、よくそんな気分になれるもんだな」
「ええまあ‥‥」
どうやらこの町へ来る為には2ヶ所のルートしかない。
一つは東にある悪魔の山を越えていく方法。
もう一つは、山の向こうにあるワイロの町から船で来る方法だ。
山の名前から分かる通り、どうやらこの山には悪魔がでる。
こちら側に悪魔が山を下りてくる事は滅多に無いのだが、ワイロの町は時々悪魔が下りてきては町の人が襲われる事もあるとか。
宿屋で別の客が話しているのをコッソリ聞いたのだが、どうやらこの魔人の大陸には悪魔が結構な数いるようなのだ。
天使の大陸に色々な魔物が沢山いるように、こちらにはその魔物として悪魔もいるという事。
魔王がその一部を従えて天使の大陸に来たのが、おそらく前回のイベントという事なのだろう。
我々が攻略順の逆から進んでいると考えれば、この大陸での最終クエストは、天使の大陸同様『魔王討伐』というボーナスクエストとなるに違いない。
そこで一気にステータスを上げて次の大陸に進む。
そんな流れが俺には想像できた。
「つまりこの悪魔の山は美味しいボーナスステージの可能性がある。もちろんこの大陸最強の悪魔が揃っているのだろうが、さて知里ちゃんどうしようか」
俺達は町から出て、山の方を見ながらこれからの事を相談した。
「仮にもしも魔王が出てきて倒しちゃったらどうなっちゃうんだろう?」
「ん~‥‥この大陸のミッションクリア?」
「でも次のイベントはドラゴン3頭だよね」
「今のイベントはドラゴンだから、倒したらまずいような魔王は出てこないんじゃないかな?」
そもそもこの世界にゲームのミッションクリアという概念は存在しないはずだ。
しかし知里ちゃんがゲームで魔王を倒したタイミングは、こちらのタイミングと一致する。
万一魔王が出てきて俺達が倒したら、あっちの世界でも誰かが倒したという事にはならないだろうか。
それならそれで問題は無いし、それが駄目なら運営がまだ魔王を登場させないと思う。
「そうだね。もしも出てきたら、それは倒してもいい魔王だよね」
そういう考えもあるな。
この大陸最後のイベントが魔王討伐とは限らないし、今回は単なるモブの可能性もある。
「という事は、知里ちゃん的には山で悪魔たちと遊んで行こうって事かな?」
「悪魔は経験値も高いし、ステータスボーナスも貰えるから、強くなるにはもってこいだよ」
つまり知里ちゃん的には、まだまだ強くなる事に抵抗どころか欲があるというわけか。
「分かった。じゃあ俺はあまり強くなるのはゴメンだから、とにかくサポートに回る事にするよ」
こうして俺達は、戦闘態勢で悪魔の山へと入っていった。

山に近づく頃から、既に悪魔の存在は確認できていた。
宿屋で喋っていた奴らが言うには、ルートによって出現する悪魔の数が違うという事だ。
まあ比較的安全にスーパーシティにたどり着けるルートもあれば、かなり難しいルートもあるという事。
探索魔法によってそれはある程度理解できた。
「千里眼で見た所、悪魔の強さ自体は魔王討伐イベント時と変わらなさそうだな」
「砂のゴーレムもあるし、それなら最も悪魔が出そうなルートでいいかもね」
「ま、最悪俺のチートで何とでもなるからな」
「うん。お兄ちゃんのおかげでゲーム感覚で楽しめそうだよ」
そうだよな。
死なないと分かっていれば、もうそれはゲームと変わらない。
緊迫感とか命を懸けた戦いを楽しみたい奴らにすれば、それはつまらないというかもしれない。
でも俺は常に万全で安全で楽な方が良い。
俺は砂の分身子供バージョンと、ツクヨミを出しておいた。
ついでにジョーも上空から監視する。
そして俺達は、より険しい方の道へと進んだ。
悪魔が襲ってくる。
俺は徹底的に守りに徹しながら、知里ちゃんをサポートした。
何もしなくても知里ちゃんならこれくらい大丈夫だとは思うが、当てにされている時は相応に動かないと上手く行かない。
最初から一人なら一人で戦う方法があるし、俺と組む場合は俺と組む場合の戦い方がある。
共にゲームをしてきて18年、俺達の息はピッタリだった。
俺が石ころをぶつけて隙を作り、それを確実に知里ちゃんが倒していく。
砂の分身たちが動きを抑えて、そこにマイヒメが旋風斬で斬りかかる。
マイヒメはテンプレな動きだが、複雑なオリジナルの動きをされても俺は付いていけないので、その辺りは知里ちゃんが合わせてくれているのだと思った。
俺達の進む道を阻める悪魔はいなかった。
勢いにのってドンドン山を登っていった。
頂上が見えてきた頃、俺は魔王の存在を察知していた。
どうやら既に魔王はいるようなのだ。
一瞬倒していいものか改めて考えずにはいられなかったが、知里ちゃんは気にせず魔王へ挑んでいった。
俺は魔王との戦いに邪魔が入らないよう、周りの悪魔を倒していった。
決着はアッサリついた。
今の知里ちゃんに、魔王クラスの魔王なんて敵ではなかった。
「楽勝だったね」
「うん。このまま雑魚も処理しちゃおう」
この辺りはどうやら悪魔のテリトリーのようで、他に散っていた悪魔が戻って来てるようだった。
「流石に数が多すぎてサポートだけでは無理みたいだな」
「ユー、やっちゃいなよ!」
「しゃーなしだな」
知里ちゃんの、どこぞの芸能プロダクション社長の真似はスルーして、俺は軽くマジックミサイルを放った。
花火が無数に爆発するように、視界にある悪魔を全て一掃した。
それでもまだ悪魔はわいてくるように集まってくる。
でも一度数を減らしてしまえば後は知里ちゃんが倒してくれるだろう。
俺は再びサポートに戻るのだった。
結構な時間戦っていただろうか。
気持ちとしては1時間くらいに感じるが、実際はもっと短かったかもしれない。
集まってくる悪魔ももういなくなった。
「魔王を倒すと他が集まってくる仕様みたい」
「もしそうなら、もうこの大陸にはほとんど悪魔が残っていないかもな」
「ゲームだったら時間が経てば元通りになると思うけどね」
まあそんな事は正直今の俺達にはどうでも良い事だろう。
また出てきたとしても、俺達の敵ではないのだから。

俺達は悪魔のテリトリーと思われる場所でお弁当を食べた後、山を下りて行った。
途中悪魔が数体現れもしたが、面倒なので瞬殺しておいた。
数体倒した所で、もうチート過ぎる俺のステータスはどうにもならない。
それよりも魔力をコントロールできるようになろう。
そう思う事にした。
そうは言っても出来るだけ抑える為に頑張るけどね。

日が暮れる前に、俺達は山の麓へとたどり着いた。
スーパーシティで買った大陸の地図によると、目の前に見える町は、どうやら『ワイロ』の町のようだ。
目の前と言ってもまだかなり距離のある遙か先ではあるが、俺達ならすぐにでも到着する事はできるだろう。
でも夕日が綺麗だったので、俺達は何となくゆっくりと歩いていった。
しかし、魔王を倒しちゃったけど大丈夫かな?
少し笑えた。
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ドクダミ

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