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23話 リオの村を救え

到着した先は海沿いの崖の上だった。
海の向こうには、確かに魔王城が見えた。
魔王城を知らなければ判断できないくらいに遠いけどね。
「此処から森に入って北西に進む。探索魔法で既にいくつかの魔獣の存在も確認できた。俺達なら問題ないレベルだし、一気に村まで行くぞ」
おそらくヒカゲは飛翔できないとの判断から、俺は森の中を行く提案をした。
しかしよく考えれば妖精だ。
妖精は飛ぶものである。
「飛んでいかないの?」
ヒカゲが不思議そうに俺を見上げていた。
「そうだよね。飛んで行った方が速いよね」
「レッツゴー!」
そう言って右手を上げるアマテラスの背中には、妖精のような魔法の羽があった。
妖精のようではなくて妖精だからそうなんだけどね。
ちなみにこの具現化された妖精の羽は、無くても大丈夫だと思われる。
魔王との戦いの時、アマテラスは普通に飛翔していたから。
なのにヒカゲも同じように羽を具現化させていた。
あの時は咄嗟の事だったから具現化しなかったけれど、もしかしたら羽がある方が飛びやすいのかもしれない。
そもそも羽を持っている種族だからね。

俺達はしばらくただ無言で飛行を続けていた。
高速で飛ぶ中会話とか、結構大変だしね。
やる事もないので俺はずっと探索魔法に引っかかる魔獣を確認していた。
天使の大陸にはいなかった魔獣ばかりだ。
似たようなのはいるけれど、そういった場合こちらの方が大きいサイズだ。
知里ちゃんじゃないけど、とりあえずアイテムは揃えておきたいというのはゲーマーの性だろう。
そろそろペースを落として四方探索が必要になるかと言った所で、俺はスピードを上げて皆の前に出て止まる用支持した。
「どうしたのー?」
「そろそろ探索が必要と判断したのかな」
「まあそれもあるんだけど、この辺りから森に降りて、こちらの魔獣も少し狩っておかないか?ヒカゲは魔獣との戦闘経験が無いし、オーガ戦を見据えて人型の魔獣と戦っておくと良いかもしれない」
探索にはゴリラ型の魔獣というのもいた。
天使の大陸にはいなかったタイプた。
ゲームの順路にこの魔獣がいるという事は、オーガ戦の練習用かもしれないと思った。
「うん。正直早く実戦してみたかったんだ」
ぶっつけ本番ってのは、普通誰でも緊張すると思う。
夢みたいに緊張しないヤツもいるだろうけれど、実は俺もオーガ戦の前に少し戦闘の練習をしておきたかった。
皆で森に降りると、早速魔獣が集まってきた。
このメンバーだと楽勝できる相手だと思うが、油断は禁物だ。
「各自油断せずに行こう」
「分かった」
返事をくれたのはヒカゲだけだった。
既にアマテラスは戦闘を楽しんでいるし、知里ちゃんは色々と試しながら、何かを考えて戦っているようだった。
さて俺は、まずジョーを上空へと上げる。
上空からのジョーの目と探索魔法で状況を常に把握する。
これでとりあえず今まで戦ってきたのと同じような形で戦える。
後は今まで通り石ころを弾き飛ばして攻撃するが、強くはじきすぎると石が手元で粉々になるし、射出スピードには限界もある。
石の強度が魔獣の皮膚などに負ければ、ダメージを与える用途には使えなくなってくる。
この辺りの魔獣でももう限界に近い。
隙を作ったりサポートには使えるが、そろそろ石ころのお遊びも続けられない所まで来ているのだろう。
となると別の戦い方が必要なのだが、当然魔法は使えない。
オーガなんて確実に瞬殺してしまうだろう。
村での戦闘なんかした日には、村は壊滅確実だ。
どう戦うべきか‥‥
俺は仲間の戦い方からヒントを得ようと見てみた。
ヒカゲちゃんの戦い方は、風系の魔法が中心のようだ。
妖精だし名前がシルフィーだし、なんとなく合っている。
魔法と言うのはそういった部分が効果に影響したりもするわけで、これはかなり良いと思った。
「そうだ!砂をコントロールして風を起こせないだろうか」
俺は砂を高速回転させて竜巻を発生させてみた。
結構上手く行くものだ。
魔法での攻撃とは違うけど、これなら魔法を使っているようにも見せられるな。
起こした竜巻の中の砂を、小さなカミソリ状のものに変化させて魔獣を攻撃してみた。
カマイタチが起こったように、魔獣にダメージを与えてゆく。
似非魔法だがこれはそれなりに使えそうだ。
「他には‥‥」
アマテラスは、魔法の剣や盾を大量に作って、それで攻守上手く戦っていた。
そういえば巨人の腕を召喚して戦うようなアニメもあったな。
俺は砂でできないか試してみた。
巨大な両腕を砂で作り、砂で作った剣と盾を持たせて戦う。
人型のゴーレムを作って戦う場合より少し重い感じはするし、蹴りで攻撃できないからこれだけだと対応力は少し落ちそうだ。
しかし本体の俺がそのまま参戦もできるわけで、これはこれで十分面白い戦いが出来そうだった。
「砂のコントロールシールドも少々展開しておくか」
となるとゴーレムの魔砂が足りなくなりそうだな。
俺は異次元アイテムボックスからゴーレムの魔石を取り出し砕いておいた。
いざとなれば瞬時に最果ての森にいるゴーレムたちを回収する必要があるかもしれない。
後は知里ちゃんの戦い方だが、おそらく参考にはならないだろう。
知里ちゃんの戦い方は、18年見てきた俺でもよく分からないのだ。
今はシャボン玉みたいなのをばら撒いて戦っている。
こういう時普通ならシャボン玉をコントロールし、敵にぶつけて爆発させるとかそういうのを想像するだろう。
しかし今知里ちゃんがやっているのは、魔獣側からシャボン玉にぶつかるように仕向けて、それでシャボン玉にふれさせ爆発すると言った感じなのだ。
このような面倒な事をしないといけない理由はなんなのか。
もちろん聞けば教えてくれるし、納得もするのだけれど、なかなか他人が真似できるようなものではないのが知里ちゃんの戦い方なのだ。
とりあえず今の所は、砂の手、砂の竜巻、砂のカミソリ、砂の操作盾辺りを駆使して戦う事にするか。
俺自身剣を持ってみてもいいが、今は剣を持っていないので試すのは今度にしよう。
それならそうそう、シャボン玉の爆発で思い出したのだけれど、魔力を込めて爆発しそうになったスライムの魔石が異次元アイテムボックス内にあったな。
これを石ころをはじくように飛ばしたらどうなるのか試してみた。
取り出して爆発する前に弾く。
その時間は、あの大泥棒の相棒ガンマン並だ。
すると丁度敵に当たってから爆発した。
これは割と使える攻撃になりそうなので、同じようにスライムの魔石に魔力を込めてストックしておく事にしよう。
スライムの魔石は腐るほど余っているからね。

俺達は少しずつ目的地へ向けて進みながら、森の魔獣を倒していった。
1時間ほどした頃、少し森が浅くなってきていた。
出てくる魔獣もほとんどいなくなった。
そのタイミングで、俺の探索魔法が10名ほどの人間を探知した。
どうやら合流目的の冒険者のようだ。
「みんな!見つけたぞ。この先の洞窟に身を隠しているようだ」
千里眼で直ぐに確認できた。
「楽しかったのだー!」
「私も初めての戦闘は面白かった」
「魔石や素材も一通り揃えられたし良かったよ」
アマテラスはいつも楽しそうだ。
ヒカゲはこの戦闘を面白かったと言ったが、これから会う冒険者の前では言わない方がいいぞ。
この森を抜けるのに結構死ぬ思いだったに違いない。
知里ちゃんは、やっぱり知里ちゃんだった。
「ところで知里ちゃん、さっきのシャボン玉、どうしてシャボン玉を敵にぶつけようとしなかったの?」
俺は一応聞いておく事にした。
「そりゃそうだよぉ。シャボン玉をコントロールするなら、コントロールするのに魔力がいるしぃ、全てを自在に操れるほど思考があるわけでもないよねぇ」
「まあそうだね」
「しゃぼん玉が割れないように強化も必要だし、それだけ意識が持って行かれれば私が無防備になっちゃうよぉ」
「なるほど。つまり効率的にアレが一番省エネで安全な戦い方って事でいいのかな?」
「流石お兄ちゃん!」
理屈では分かるのだよ。
でもさ、普通はあんな戦い方はできないと思うよ。
『それが普通だよぉー』みたいな顔しているけど、全然普通じゃないからね。
知里ちゃんの戦いは、何処まで行ってもゲームなのかもしれないと思った。

俺達が洞窟に近づくと、中の冒険者が警戒しているのが分かった。
「俺達はレッドギルドに言われて助けに来た者だ!」
俺がそう言うと、警戒しながらも冒険者が出てきた。
「あんたたちが?」
その冒険者はやや怪訝そうな顔をしていた。
まあそうなるかな。
俺達どう見てもまだまだ若造だし、その内女の子が3人だもんな。
大丈夫かと思うのも無理はない。
それにこの冒険者はそんなにレベルも高くなさそうだし、相手の力量を見抜ける目もないのだろう。
しかし後から出てきた冒険者はそれなりにレベルも高く、アマテラスやヒカゲの強さが分かるようだった。
「君たちが?いや助かるよ」
「そっちのはアマテラスじゃないか?魔王との戦いで活躍した勇者パーティーのメンバーだろ?」
リーダーらしき人と、ちょっとスカした見た目強そうな槍使いの言葉で、他の冒険者も安心したように次々と洞窟からでてきた。
勇者パーティーのメンバーって、やっぱり英雄なんだろうな。
少しうらやましい気持ちにもなったが、俺はむしろ今の自分の立場の方が好きだった。
「俺はこの新大陸冒険者チームのリーダーを任されているガゼルだ」
「俺はサブリーダーのシュラト。気軽に話してくれ」
「俺は達也。一応悪魔との戦いには参加していたぞ。で、このヒカゲが一応こっちのパーティーのリーダーだ」
俺もそこそこやれるアピールは必要だろう。
アッサリとスルーされているみたいだが‥‥
「そうなのか?リーダーはアマテラスかと思っていたが」
スカした槍使いのシュラトもそう思うくらいに見る目があるのなら、多分そこそこ強いのだろう。
普通ならかなり強いと言うべきだろうが、俺基準、或いは魔人の大陸に来たなら、そうとは言えない。
「アマテラスはアマテラスだよー!リーダーには向かない子供属性だよー!」
皆確かにと言った顔をした。
「私は知里です」
知里ちゃんは挨拶にはあまり興味が無いと言った感じだった。
その後冒険者たちの紹介も済ませて、俺達は村の近くまで移動した。

「あの村を救うのが今回のミッションだ。理由は2つ。魔法転送装置があの村にある事と、それを使う為の情報を知る者を救出する為だ」
やっぱりそうか。
「で、その救出対象が何処にいるのか分かっているのか?」
「ハッキリとは分からない。ただ、オーガは人を食らう。食料として生かされているだけで、いつ食われても不思議ではない状況だ」
おいおい。
それってメチャメチャ急ぎだったんじゃないだろうか。
「だから思ったよりも早く来てくれて助かった。まさか出発したと連絡を受けたその日に来てくれるとは。連絡が遅れたのかな」
いえ、マジで今朝出発したばかりです。
一応空から村を見た感じ、村自体はさほど被害を受けていない。
探索魔法で多くのオーガは確認できるが、高レベルオーガは村では確認できない。
人がとらえられている場所は、教会のようだ。
一ヵ所にまとめた方が管理しやすいからな。
村人の半分は魔人だが、さほど強さを感じないのでパンピー魔人だな。
村人が戦っても仕方がないレベルと言える。
「オーガが村人を人質として盾にするような事は考えられないし、とりあえずオーガを叩けばオッケーかな」
「簡単に言うな。結構強いヤツもいるから油断しない方が良いぞ」
とりあえず今村には脅威に感じるヤツはいない。
でもガゼルがそういうのだから、一応警戒はしておこう。
「分かった」
本当なら、このガゼルとシュラト以外は戦いに参加しない方がいいだろう。
このメンツならむしろ足手まといだ。
皆マスタークラスに近い冒険者だし、天使の大陸に住むオーガ程度なら問題はない。
でもこちらのオーガはあちらのよりも強い。
おそらく一度戦って、それを知っているから助けを求めたのだろうけれど、出来れば後方支援に徹してほしいと思った。

作戦は簡単だった。
暗くなってから、闇に乗じて各個撃破していく。
ただ、本当は少しオーガと話もしてみたいと思っていた。
人間の村を襲っている時点で、オーガとは敵対関係しかないかもしれない。
でもこのゲーム、この世界ではオーガは亜人種として扱われているのだ。
もしもこの世界が永遠に続くとしたら、きっといつかは皆が仲良く暮らす世界があると思う。
別に今すぐ共生とまでは言わない。
上手く住み分けができればいいのだ。
オーガは人を食らうから駄目だというけれど、人間の歴史の中にも近年まで人を食べていた民族、地域がある。
今ではそんな人たちの子孫と仲良くしているのだ。
オーガと仲良くできないと決めつけるのはどうかと思う。
しかもオーガは、成長すれば見た目人に近づく。
知能レベルも人並みになり凶暴性もなくなってくる。
俺には一つの考えが浮かんでいた。
妖精王国が創れたのだから、オーガ王国が創れる可能性だってあるのではないだろうか。
やっぱりじっとしていられない。
景色はかなり暗くなってきている。
探索魔法のエリアの隅に、高レベルのオーガがとらえられていた。
少しこいつと話がしたい。
俺はヒカゲにコッソリ話をした。
「俺は砂の分身を残してちょっと離れる。この程度のオーガなら俺達なら問題ないし、ちょっとオーガの大将と話をしてくる」
「分かったわ」
俺はトイレに行くフリをして砂の分身と入れ変わった。
直ぐに知里ちゃんとアマテラスにも魔法通信で事情を話した。
姿を消して俺は飛翔した。
オーガの大将がいるのは約2キロ先。
千里眼で見てみると、そこには城のような建物があった。
「あそこか」
俺はすぐに城へと降り立った。
早く大将と話したい。
千里眼で探すも、窓もないこの城の中を探すのは時間がかかった。
いる場所は分かっているのだから、全部ぶち破って進めればすぐなのだけれど、それだと話し合いにはならないだろう。
砂の分身は既にオーガ討伐作戦に動き出していた。
迷路のように入り組んだ城を、俺はとにかく進んだ。
姿を消しているので、偶にオーガとすれ違うが気づかれない。
ここに居るオーガの姿はもうほとんど魔人に近い。
いや、羽の無い悪魔か。
でも話したいのはこいつではない。
最も高い魔力を持った、おそらくこの群れのボスと思われるオーガだ。
更に進むと、ようやくそのボスらしきオーガのいる部屋へと入った。
なかなか強い魔力を持っている。
魔王クラスに近い。
俺はそいつが群れのボスと信じて、そいつの前で姿を現した。
「何者だ?!」
「初めまして。俺は人間族の達也って言うんだけどさ、ちょっと話がしたくてやってきたんだ」
そもそも敵意はないのだが、俺は自然な笑顔で話しかけた。
少し警戒しているように見えるが、オーガのボスらしき者とは一応話ができそうに思えた。
「いきなり入ってきて、話がしたい?」
「失礼は詫びる。申し訳ない。ただ俺の話はあんたたちの仲間の命がかかっているから、早急に話がしたい」
「どういう事だ?」
「今、あんたの手下たちが占拠している村、あるよな。あそこの村を取り返す為に、人間たちが反撃を開始している。既にあんたの仲間10人が倒されているぞ」
「なんだと?直ちに俺が出向いて人間どもをぶっ殺してやる!」
仲間がやられているとなれば、当然ボスならそうなるか。
「あんたが行った所で無駄だよ。あんたは確かにそこそこ強いが、あんたより強い人間があそこに3人いる。そして此処にもな」
「なんだと?俺が負けると言うのか?!」
「今それを証明してやってもいいが、今は俺の話を聞いて対応した方が良いと思うぞ。まずは早々にオーガ達を全員こちらに戻せないか?」
俺は少しだけ俺の力を開放し魔力を見せつけた。
並の人間なら卒倒するかもしれないくらいだ。
「なんだこの魔力は?普通じゃない。体が‥‥体の震えがとまらん」
俺は魔力を再び抑えた。
「俺の強さは今ので分かるだろう。話は別にお前たちに悪いものではないと思う。今のままだといずれお前たち種族は全滅しかねないぞ?安住の地を得て静かに暮らす気はないか?」
「そんな事ができるのならとうにやっている。しかし我ら種族は食べ物に困れば人を襲うしかない。人に敵視される以上この世界で安住の地などないんだ」
「食べ物なんて自分で育てればいいじゃないか。人間はそうしているぞ?仕事をすれば対価として食べ物を得る事もできる。お前たちは誰よりも優れた力を持っているのに、バカで凶暴だからただ駆除されるだけの存在に成り下がっているんだよ」
ちょっと言いすぎたか?
でも流石オーガの中でも高レベルまで成長してきたボスだ。
言っている事は理解しているようだ。
「で、具体的に我々にどうしろというのだ?」
「この大陸の西の端に、人間もほとんど入らない未開の地がある。そこに俺がお前たちを送って、その場所で安全に暮らせる方法を教えてやる。家畜の育て方や、人間と共に生きられる方法も教えてやる。だからとりあえず今は村から引け」
「どうやってそんな所まで行けるというのだ。此処よりも西は人間が大勢いて、俺達は決してそこまでたどり着けないだろう」
「俺に任せろ!連れて行ってやる」
いやしかし、俺はそんな事をしていいのだろうか。
仮にオーガの住む場所が確保されたとしても、人間がそこを襲わない保証はない。
逆も然りで、そこから出て人間を襲う者が出てくるかもしれない。
まああの地にたどり着ける高レベル冒険者が集まるスーパーシティを襲った所で、返り討ちにあうだろうけれどね。
「分かった。どうせこのままではお前さんに全員やられて終わりだろう。さっきの力を見せられては、俺達に選択肢はない」
オーガのボスらしきそいつは、胸に付けていた何かを口に咥えて、吹いた。
大きな音が辺りに響き渡った。

村の方では、その音を聞いたオーガ達が町から森へ逃げ出していた。
この村が占拠されてから既に何人かの人間が食われていたが、助かった人も多かった。
村の方は尚も砂の分身に任せつつ、俺は知里ちゃんが転生してきた場所へと瞬間移動した。
そして年齢を18歳の自分に戻し、魔力を最大限まで高めた。
久しぶりのほぼ全力魔力である。
ここまでする必要はないかもしれないが、俺はその場所から南北に万里の長城のようなものを一気に魔法で造った。
城壁の高さは20メートルで、その上に結界魔法もかけておいた。
門はその場所に1つだけ。
しばらく解放するつもりは無い。
オーガたちにはこの場所よりも西の地だけで生きていってもらう。
そして自分たちで上手くやれるようになり、人間と交流できるようになったら解放する事にしよう。
そこから西へ飛翔で1分、大陸の西の端まで行った。
今は魔力がほぼ全開放なので、約30倍の力が発揮できる。
つまり普段なら飛翔で30分の距離だ。
この半島を調べるとほぼ断崖絶壁で、外から船で来る事はできないと分かった。
ならはこの辺りにオーガ王国を創っても、しばらくは気づかれないはずだ。
俺はそこに、森にあったオーガの城を真似て、オーガ王の城を建てた。
その城と将来の町となるエリアを囲うように、今度は高さ10メートルほどの城壁を立てた。
これで妖精王国同様、王国を創る為の基盤ができた。
俺は一旦6歳仕様まで若がえり、姿を元へと戻した。
「よし!」
いくつかの場所にチェックも入れて、俺はオーガのボスの所へと戻った。
「準備はできたぞ!」
急に現れた俺に、オーガのボスはビックリしたようだ。
「で、これから俺たちはどうすればいいんだ?」
「とりあえず全員どこかに集めてくれるか?」
俺がそう言うと、笛のようなもので何か支持を出しているようだった。
ここまでやっておいて今更だが、又やっちまったのかもしれない。
でもこの方が、人間にとってもオーガにとってもこの先良いはずだ。
西の地は、どうせ全く使っていなかった場所だし、人も魔獣も全く来ない場所。
俺が勝手に使っても大丈夫だろ。
「所でまだ名前を聞いてなかったんだが教えてくれるか?」
「俺の名はガザだ」
「ガザか。お前がこのオーガ達のボスでいいんだよな?」
「ああ。オーガは王の言う事には忠実に従う。俺がタツヤに従う以上、全オーガが今タツヤに従う事になる」
俺はなんとなくトップの気分を味わって嬉しい気持ちになっていた。
会社で社長をしていたが、全然社長らしくなかったからね。
責任は俺だけど、取り仕切っているのは俺じゃないみたいな。
まあそれも信頼関係あっての事だから、それはそれで嬉しかったのだけれどね。
「そろそろ広間に集まっているはずだ。一緒に来てくれ」
ガザに促され、俺は共に城内を移動した。
広間には、約200人のオーガが集まっていた。
思っていた以上に少なかった。
とは言え最初は少ないくらいの方が教育しやすいだろう。
「では全員移動するぞ。この城とはおさらばだ」
「どうやって?そんな事ができるのか?」
「極一部の者しかできない魔法だ。今回限りだから忘れてくれ」
「ああ」
「持って行きたい物とかあるか?」
「一応宝物庫の中の物は持って行きたい」
「分かった。それは後ですぐに取りにこよう」
俺は瞬間移動魔法をこの辺り一体に発動した。
全員が一瞬のうちに、オーガ王国城の前へと移動した。
オーガ達は騒いでいた。
「今日からお前たちが住む城だ。とりあえずだけどな。皆がガザのようなハイレベルのオーガになれば、人間のような生活もできるだろう」
「凄い‥‥お前は神なのか?」
「いや、ちょっとだけ魔法が得意な人間だよ。じゃあ少しここで待っていてくれ。宝物庫の宝も持ってくる」
俺はそう言って元の城へと戻った。

その頃砂の分身である俺とみんなは、町の人を助けた後、魔法転送装置の事を村の者たちに聞いていた。
「これが魔法転送装置か。おそらく転送先は東にある天使の大陸、魔王城内だ」
魔法転送装置は、リオの村にある教会の奥、隠し部屋になっている所にあった。
「これは少し前に、マスターと呼ばれる神官長がこの教会に設置されたものです。動かす為には三龍の魔石が必要と言っておられました」
確かに3つある転送装置に、魔石をはめ込む穴がそれぞれにある。
それもかなり大きい龍クラスのものだ。
俺は異次元アイテムボックスから龍の魔石を一つ取り出し、それをはめ込んでみた。
「これよりも大きな魔石か‥‥」
「それは龍の魔石じゃないのか?倒した事があるのか?」
ガゼルは少し驚いたように聞いてきた。
俺みたいに弱そうなヤツが持ってるのが驚きなのかな。
「仲間と一緒にね‥‥」
俺はそう言って他のメンバーを見た。
「なるほど」
ガゼルはそれで納得してくれたようだった。
さてしかし、魔法転送装置はまだ使えない事が判明した。
或いは使えなくされたのかもしれないが、今考えるのはそこではない。
つまり、ゲームイベントを考えるのなら、これからその三龍を倒す事が必要になる。
帰ってくるまでがミッションだからね。
とりあえずこの日は、村人の家に泊めてもらう事になった。
しかし俺達はそれを断り、明日の朝10時に村の入り口で待ち合わせという事でその場を去った。

宝物庫にあったオーガの宝物を全て持ち、俺はオーガの王ガザの元に戻った。
その場に宝物を置くと、部下たちが城へと運び込んでいた。
王に命令されている時のオーガ達はおとなしいものだった。
「今は皆普通におとなしいな」
「オーガはそもそも凶暴な種族とは違う。飢餓状態が続く事で凶暴化するんだ。潤沢に食料さえあれば、皆俺のように成長できる。俺は王になる為に優先して食料を与えられて育ったんだ」
「そうなのか?」
ならばちゃんと食料さえ与えておけば、直ぐに良い成長をするという事である。
いやそもそも凶暴化せず、人間と同じように普通に育つのではないだろうか。
俺はとりあえず異次元アイテムボックスから200人1週間分の食料をとりだした。
「とりあえず、1週間くらいはこれで精神的にも落ち着くかな?」
「おお、凄い!いただけるのか?こんな大量の肉どうしたんだ?」
「狩ったり、買ったり、貰ったりと色々だ。城の中に肉を保管する部屋も作ってあるから、そこに入れておくと良いぞ」
「助かる。ありがとう」
とは言え、これで俺の異次元アイテムボックス内の食料がかなり減ったな。
俺は天使の大陸で種集めをしている分身たちを使って、同時に狩りもするようにした。
義経はゴーレムの魔石も集めに行かせた。
行かせたという表現はおかしいな。
全部俺自身だからな。
その後も俺は、話の分かるオーガ連中を集めて、今後のオーガ王国構想を話した。
正直妖精王国の時よりも難しいだろう。
穏やかで人間に敵対しない妖精の場合は、人間の世界を侵略しないという約束で上手く収まった。
しかしオーガはそもそも敵対している種族である。
しかも過去に人間を食らいまくっているわけだ。
恐れもあるだろうし、そう簡単ではないと思う。
「まずは全てのオーガが穏やかなハイレベルオーガになる所からだな」
そうしたら、今度は少しずつ人間と交流していく。
オーガは基本魔法は使わないが、変身魔法だけは使うと聞く。
角を隠せれば、人間として町に入っても問題ないだろう。
ハイレベルオーガなら、魔人として普通に受け入れられてもおかしくない。
角の大きさが違うけれど、ハイレベルのオーガなんてほとんど見た者はいないはずだ。
ぶっちゃけゲーム知識がなければ、魔人と言われても信じる。
そもそも魔人と悪魔の違いすらまともに理解していなかった。
ほぼ人間の姿ならなんとかなると思った。

俺達は一旦、俺の屋敷へと戻ってきた。
そこでオーガ王国の話を改めて皆に話した。
明日から三龍を探して討伐しなければならないわけだが、これからもしばらく俺は砂の俺を残し、知里ちゃんの砂のマイヒメを借りて、オーガ教育をする事にした。
「結局厄介ごとに首を突っ込んでしまったな」
「お兄ちゃんらしいね」
夜風に当たりながら、少しだけ穏やかな時間を過ごした。
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