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26話 黒船来航

天使の大陸には無事に戻ってこられた。
俺たちはすぐに自宅に戻り、俺は砂の和己を自由活動用に、ツクヨミをオーガ王国に残して他のゴーレムは回収する事にした。
あまり多くの思考を展開していると、疲れが酷いんだよね。
ゴーレムの魔石も食料も大量に確保したし、ステータスの種も一万個になった。
砂の和己だけでもゆっくりなら、この大陸を隅々まで把握していけるだろう。
焦る事はないのだ。
知里ちゃんと相談し、1週間は一緒に休養する事にした。
夜は頻繁にこちらに戻って来ては、風呂に入ってゆっくりもしていた。
しかし一日中休めるのは久しぶりだった。
俺の場合ツクヨミと和己がずっと動いたままだから、休んでいるのかは疑問なんだけどね。
それで『天使の大陸ご当地食べ歩きツアー』とか言いながら、知里ちゃんと各町の名物を食べ歩いていたのだが、休みに入って5日目、アークレイリの港町で食事をしていると、町が何やら騒がしくなっている事に気がついた。
「ん?何か騒がしいな。しかしこの町の魚は美味いなぁ」
「お祭りでもあるのかなぁ。まさか刺身が食べられるなんて思ってなかったよね」
騒がしいのも気にはなるが、俺も知里ちゃんも騒ぎよりも食い気だった。
尚も食事を続けていたが、騒ぎはますます大きくなり、気が付けば店の前の人たちが何かから逃げるように走っていた。
「港の方で何かあったのかな。しかしまさかギルドランクがAに上がっちまうとはなぁ。目立ちたくないんだけどな」
「海から放射能怪獣が現れたのかも。ヒカゲちゃんは一気にSランクになったらしいね」
「怪獣あり得る。ヒカゲちゃんはもう大魔王クラスかもな。アマテラスは神クラスだよ」
「そうだねぇ。ねえあれ。アルファ王国軍の軍服じゃないかなぁ?」
「ああ、そうだねぇ。ってえっ?」
騒ぎを気にしないように食事を続けていたが、流石にその軍服の話はスルー出来なかった。
「どういう事だ?もしかしてあちらの大陸からこっちに攻めてきたとかそんな感じか?」
「一般人には攻撃していないようだけど、この町の治安部隊はやられているかもね」
魔人の大陸で4ヶ月過ごして分かったこちらの大陸との一番の違いは、皆力が強い事だ。
最後の町スーパーシティほどではないにしても、他の町の住人もレベルが高い。
当然軍の連中も同じで、ドラゴンクラスは当たり前。
隊長辺りは魔王クラスもいたように思う。
「こりゃこの町が占拠されるのも時間の問題か。しかしどうやってこちらの大陸に来たんだろうな」
「おそらくこの町が最初だよね。つまり船じゃないかな」
「黒船来航ってやつか。一体何が目的なのかね」
俺達がそんな会話をしていると、拡声魔法なのか、町中に声が響き渡った。
「私はアルファ王国王国軍大将、ベルガモットである。この町は我々が完全に占拠した。そしてこの先は国ごと我々配下に収めるつもりだ。我々は平和的に目的を達成したい。代表者と話ができるよう希望する」
何を言っているのだろうか、このベルガモットくんは。
国を乗っ取るのに平和的に話し合ってとか。
まあでもこれだけの戦力を見せられたら、こちらの国じゃ対抗できない‥‥
「あれ?探索魔法と千里眼で確認したら、敵の大将はだいたい魔王クラスで、兵は概ねドラゴンクラスだよね。これでガブリエルに勝てると思う?」
「無理なんじゃないかなぁ。クラスが1つ違えば、普通に戦っても勝てないだろうし、2つ違えば数がいくら集まっても意味がないくらい差があると思う」
前のガブリエル王なら、こんな奴らに攻め込まれたら多分勝てなかっただろう。
国全体の戦力でも負けていた。
でも、今のガブリエル王は元皇帝ルシフェルなわけだし、それについてきた側近たちも魔王クラスなんだよね。
もしかして又、俺がやった余計な事で歴史が変わるのではないだろうか。
俺達はゆっくりと食事を済ませた後、しばらく店の中で待機する事にした。
今出て行ってトラブルに巻き込まれるのはゴメンだからね。
下手な事をすれば圧倒的に目立ってしまうだろう。
特に町の人を襲っているわけでもないし、俺達は静観する事にした。
皆が不安になって動向を見守る中、俺達だけは普通に冒険やオーガ王国の未来の話で盛り上がった。
1時間くらい話していただろうか、そこでようやく状況が動き出した。
猛スピードでガブリエル王が王都から飛んできたのである。
これだけの魔力を持った者はこの天使の大陸にはいないのですぐにわかる。
もちろんこれくらいの者なら強さを隠す事もできるだろうが、おそらくあえて魔力を見せつけているのだと感じた。
外の様子は分からないが、ガブリエルはベルガモットの近くに行き、何やら話しているようだった。
相手も魔王クラスだし、ガブリエルの強さが分からない訳がない。
早々に決着がつくと思った。
店の前にいたアルファ王国軍兵士が港の方へと戻り始めた。
勝てない戦いはしないという事だろう。
「黒船来航かと思ったら、旅客船来航で終わったって所かな」
「おそらくだけど、アルファ王国って魔人の大陸じゃ一番国力が低いよねぇ。きっとこちらから兵を出させて戦争するつもりだったんだよ」
この国を配下に収めて徴兵したかったのか。
でも逆に相手の方が強くて、実は友好関係を築きに来たとか、路線変更せざるを得なかったんだろうな。

アルファ王国軍の兵がいなくなってから、俺達は様子を探りに港まで行ってみる事にした。
そんなに遠くは無いので、直ぐに港の様子が見えてきた。
「確かに黒船だわ」
船はこちらの大陸では見かけない、黒い蒸気船だった。
「この世界の天使の大陸は江戸時代末期の日本って所なのかな」
「こういうゲームの設定は、大抵中世ヨーロッパなんだけどね」
中世ヨーロッパと、江戸末期のヨーロッパで何がどれくらい違うのかは分からない。
ただ、王が戦争を楽しむ時代は終わっているか。
俺達は更に黒船に近づいていった。

どうやらガブリエルは、ベルガモットと共に海沿いの迎賓館のような建物の中にいるようだった。
他にもこの地の領主、或いはアルファ国軍副官らしき人物も確認でした。
テーブルに座り話しをしているようだった。
俺はデビルイヤーを試みるも、音を遮断する魔法により何も聞こえなかった。
「デビルイヤーでも聞こえないか。魔法で音を遮断にされているな」
「魔法を無効化したらバレちゃうし、このメンツじゃ透明化しても気配を察知されちゃうね」
実は前にもガブリエルの所には忍び込んだ事があるんだよな。
その時気配を察知されているから、又察知されれば当然同じ人物だとバレるだろう。
まあその後会う事も無ければ俺だとはバレないだろうけれど、その内会う事もありそうなんだよなぁ。
俺は仕方なく、千里眼で見て確認できる情報だけ集めようとした。
知里ちゃんも千里眼で同じように見ていた。
「敵の大将ベルガモットくん、愛想笑いが凄まじいな」
「ガブリエル王とは格が違うもんね」
「多分ガブリエル王は、アルファ王国の王よりも強いんじゃないかな」
「同じ魔人だし、ガブリエル王に乗りかえようとか思っていたりしてね」
「この対応だとあり得るわ。逆にアルファ王国を攻めてみませんか?とか言ってそう」
「ギャグ漫画の世界だね」
確かにギャグにもならない展開が起こってそうなんだよね。
実際そんな事が起こり得るのかどうかは別にして、この世界ならあっても不思議じゃないと思えてくる。
「何にしても、この様子なら酷い事にはならないな」
「うん。じゃあ今日は帰ろうか」
俺達は安心して妖精王国の自宅へと戻った。

だから次の日の朝、セバスチャンから聞いた話に少しだけ驚いた。
アークレイリと魔人の大陸の港町『ガナバラ』の間で、船の定期便が行き来する事になったというのだ。
その第一弾として、昨日来ていた黒船何隻かに、ガブリエル王国の主要人物を含めた500名が一緒に向こうに渡るというのだ。
更にその後、アルファ王国の王がガブリエル王国を訪問するという話も決まったらしい。
おそらく対等な関係での付き合いだろうが、完全にアルファ王国が尻尾を振って寄ってきている感じに思えた。
まあなんにせよこれで、交流が活発になっていくのだろう。
少しご都合主義的展開に思わなくも無かったけれど、ゲームの世界だし、何時までもギルドカードの統一使用ができないとなると、ゲーマーも面倒だもんね。
そんな思惑がこの世界に働いたのかどうかは分からないが、とにかく本格的な冒険の旅が、再び始まりそうな予感がした。
あくまで予感ね。
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