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第五十二話 帰省

年末。
人間が勝手に決めた年の終わり。
何かがあるわけでも無いのに、ああ終わるんだなぁと思うのは何故だろう。
気持ちとしては、付き合ってきた恋人と別れる時の感覚に似ていると思うが、いかがだろうか?
まあなんにせよ、年末だから、実家に戻る人が多数だ。
ゲーム部の面々も、例外なく皆実家に戻って、家族と年を越す。
もちろん俺も戻るわけだけど、俺が戻るのは、もちろん神村家ではない。
 達也「本当は俺も会いたいけど、流石に無理だからな」
俺は舞と話していた。
舞はこれから、義経である俺の両親がいる実家に戻る。
 舞「うん。まあ信じろって言われても、きっと混乱すると思うし」
普通は混乱するだろう。
で、説明して証明して、それでようやく信じてくれる事になるのだろうか。
でもそうなったら、星崎達也の存在が無くなってしまう。
あっちを立てればこっちが立たず。
俺はもう戸籍上死んでいて、そして星崎達也なんだ。
 達也「そう言えば聞いてなかったけど、俺って交通事故で死んだ事になってるんだよな?」
なんとなく聞いた。
俺の、義経の体は、一体どうなって死んでいたのか。
 舞「あっ!そう言えば話して無かったね。えっと、お兄ちゃんと仲が良かった先生、だれだっけ?」
 達也「ああ、安藤だろ?」
 舞「そうそう。その先生と歩いてて、橋を渡ってる時に、お兄ちゃんにいきなり、後ろから何かがぶつかってきたんだって」
ふむ。
そうなんだ。
後ろから衝撃をうけたんだよ。
そこで俺の記憶はとぎれている。
 達也「何がぶつかってきたんだ?」
交通事故ってなってるから、おそらくは車かバイクなのだろうけど。
 舞「それがわからないんだって。安藤先生が振り返った時には、そこに何も無かったらしいから。でもその現場を見ていた人は、みんな何かがぶつかってきたって」
どういう事だろう。
まあ俺がこうしている事から考えて、不思議な事に巻き込まれてしまったとしても納得出来る。
この話をきいていたから、舞は俺が義経だった事にあまり驚かなかったのだろうか。
狂乱するようなのを想像していたのに、そこまでじゃなかったから、人間驚いてもこんなもんかと納得していたけど。
 舞「それで、河に落ちて。落ちたのは通行人含めて沢山の人が見てたんだけど。結局見つからなかったんだよ」
 達也「えっ?」
それってどういう事だろう。
死体が見つかってない?
 達也「それで何故死亡と確定してるんだ?」
 舞「あの河だからまず助からないだろうし、いくつか所持品が見つかったんだ。河の中から」
それだけ?
見つかってないのに、死亡になるのか?
普通行方不明者として、どれくらいかはわからないけど、捜索期間とかありそうだけど。
でも、そうなっているのだから、納得するしかないか。
 舞「あっ!そろそろ出ないと、電車間に合わなくなっちゃう」
時計を見ると、舞の出発の時間ぎりぎりだった。
 舞「お兄ちゃんは、どうするの?」
 達也「ああ、俺は後1時間くらいしてから出るよ」
 舞「そう。じゃあ私は行くね。良いお年を」
 達也「良いお年を」
年末の挨拶を交わし、舞は俺の部屋から出ていった。

1時間後、俺は星崎の実家を目指して出発した。
寮の入り口で夢ちゃんと会ったが、急いでいたので「良いお年を」と挨拶だけして駅を目指して歩いた。
この景色ももう見慣れた景色となっていて、懐かしさは無かった。
星崎の実家への道は、正直はっきりとしてない。
森学に来るまでは、なんだか夢の中にいるような生活をしていたから。
正直義経の頃の記憶より、転生後の記憶の方が薄く感じる。
というか、毎日ばれないように考えながら生活していたのだから、記憶はそれだけしか無くて当然。
その中でも、徐々に問題ない事をアピールしなくてはならなかったから、しんどかった。
ココに来たときは、それから解放される喜びで、有頂天だったかもしれない。
今考えれば、田舎にきただけで、裸で川に飛び込むか?
苦笑いした。
電車を乗り継ぎ、気がつけば星崎の実家のある街についていた。
懐かしく感じた。
あれだけの生活しかしていなかった街でも、懐かしく感じるものなのだなぁと思った。
道を歩くと、ちゃんと覚えていた。
来るまでは不安だったけど、確かに半年以上生活した街である事がわかる。
商店街を抜け、住宅街に入ると、まもなく実家が見えてきた。
ドキドキする。
俺にしてみれば、ココはまだ実家という感覚ではない。
他人の家なのだ。
まあ両親に会ってしまえば、おそらく大丈夫だろう。
俺は実家の鍵を取り出して、玄関のドアに近づいた。
すると鍵を使うことなく、内側からドアが開けられた。
でてきたのは、星崎の母。
そして俺は、星崎だ。
もちろん挨拶はこうだ。
 達也「ただいま。母さん」
 星崎母「ああ、お帰り」
星崎の母は、俺を抱きしめて迎え入れた。
相当心配だったのだろう。
偶に電話もかかってきたが、いつも心配しているような感じだ。
その度に申し訳なく思う。
せめて少しでも記憶が有れば、少しは安心させられるのだろうか。
家に入ると、コタツに入っている父がいた。
 星崎父「おかえり」
 達也「ただいま」
星崎の父は何も言わないが、きっと父も心配しているだろう。
俺は着ていたコートを脱いで、自分もコタツに入る。
遠慮はできない。
ココは俺の家。
心配させてはいけないのだ。
俺は遠慮なく、コタツの上のミカンに手を伸ばす。
そして一緒にテレビを観ていた。
 星崎父「で、その後どうだ?記憶の方は」
何食わぬ顔で言ってはいるが、心配しているのがわかる。
良い親だと思う。
だから悲しませたくはない。
でも、嘘も本当の事も言えない。
 達也「人の名前と思い出以外は大丈夫だよ。生活に支障は無いし、楽しくやってるよ」
 星崎母「前にテレビに出ていた時はビックリしたよ」
後ろに、お茶を入れて持ってきた母が立っていた。
 星崎父「それに凄いじゃないか。その後も何か賞をとったんだって?」
 達也「うん。金賞だよ。俺ゲーム好きだからね」
 星崎母「そうね。好きだったもんね」
これは間違いない事。
星崎もゲームは好きだった。
でもなんだか心が入らない会話が続く。
事務的な会話。
俺は心配させないようとする会話。
両親は心配を隠して気遣う。
正直苦しい。
でも、これはきっと必要な事。
いずれ普通に話せるようになる為に。
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