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魔法研究の為、嬢ちゃんと模擬戦

この所、もう俺が道場に通う事は無くなっていた。
成長が見込めなくなったからだ。
剣は達人クラスの動きが頭に入ってはいるが、自分でやろうと思うと全くできない。
武術はマスタークラスに近い所までは行ったと思うが、やはりそもそもの素質はなさそうだ。
一方魔術は完璧なまでに完璧で、後は魔法研究で伸ばしていく事に決めた。
そんなわけで、今はスクロール作りと魔法研究だけの毎日になっていた。
魔法研究で最近分かったのは、蘇生魔法は一人一つしか覚えられないのではないかという事。
俺はそもそも神クラスの蘇生魔法が使えるのに、それ以下の蘇生魔法が覚えられない。
スクロールや魔法書は描けるのだけれど、覚えられないというのは明らかに何か理由があるのだろう。
そんなわけで、俺はそういう結論を出して、研究は次の段階へと進んでいた。
「各種スクロールは大量に作り置きがある。魔法書も十冊ほど作った。次やるべきは『新魔法の開発』だぁ!」
俺が今試しているのは、二つの魔法を同時に発動したら、或いは三つ同時だとどうなるのかという事だ。
左手にスクロールを持ち、右手に魔法書、そして自前の魔法も同時に発動する。
魔法書の呪文を唱えながら、自前の別の魔法を発動するのは結構難しいが、俺は何度も繰り返して挑戦した。
ちなみに、俺の使える高位魔法は、どちらも二種の属性が付与されている。
つまり二つの魔法の複合魔法と言えるかもしれない。
コロニーレーザーは、エネルギー系と光系、イキナリは、ファイヤ系と闇系だ。
そう考えると、三つ同時に発動できれば、更に上の魔法になる可能性がある。
そして更にそれを組み合わせれば、最強最大の魔法になるはずなのだ。
まあ相性もあるから、例えばファイヤ系とアイス系だともしかしたら駄目かもしれない。
しかし一度熱した物を急に冷やす事で対象を破壊できたりもするわけで、アイデアが重要なのだという事も忘れない方が良いように思う。
そんなわけで、俺は組み合わせ魔法を徹底的に研究するのだった。
それともう一つ、それに伴ってなのだが、魔法アイテムの作成にも取り掛かっている。
ようやく宝石に魔法が描けるようになってきたので、これを使えば複合魔法もたやすくなる。
ただ、まだまだハイクラスの魔法は描けないので、とりあえずどういう相乗効果が出るのか試すくらいにしか使えなかった。

それから数日後、俺は嬢ちゃんと共に渓谷の入り口辺り、何もない荒野で戦闘の練習相手をしてもらっていた。
昨日は朝里ちゃんにお願いし、剣術の対戦相手をしてもらった。
達人である剣心先生の剣捌きを見てきたので、朝里ちゃんの木刀の動きは分かるのだけど、やはり木刀で止めるのは難しく、剣術での勝負だけなら力は五分だった。
俺の方が圧倒的に何もかも上なんだけどね。
パワーもスピードも反射速度も勝っているのに、朝里ちゃんには勝ち切れなった。
理屈だけではない何かが、朝里ちゃんにはあるように感じた。
ちなみに木刀を捨て拳で戦ったら俺の楽勝だった。
武器を持たない方が強くなるとか、本当にファンタジーな世界だと思った。
そして今日は、嬢ちゃんと魔法による模擬戦の中で、新魔法を試すつもりだ。
魔法のランクは壱に限定する。
それでも嬢ちゃんが本気で放てば神クラスに匹敵する威力が出るので、油断はできない。
まあ俺の防御力も並ではないので、この程度では死なないだろう。
逆の場合は語る必要もないかもだけど、俺のクラス壱の攻撃魔法なんて、嬢ちゃんにとっては水鉄砲で当てられる程度のものだ。
ただ、今日はそれだけでは終わらない予定である。
少しは嬢ちゃんの動きを止められるような、そんなクラス壱魔法を食らわせてやるつもりだった。
「行くぞ嬢ちゃん!攻撃手段はクラス壱の攻撃魔法のみ。よろしく!」
「分かった‥‥ワクワクする‥‥初めて‥‥本気でやれるかも‥‥しれない‥‥」
「いや本気になっちゃダメだよ。クラス壱の魔法だけだからね」
頼むよ。
本気でやられたりしたら、俺の防御力でも死ぬと思う。
マジで止めてね。
「クラス壱だけ‥‥分かってる‥‥」
本当だろうな。
まあでも、嬢ちゃんに殺されるのなら、それはそれで割とアリかもしれない。
そんな事を頭の片隅で思ったりした。
「じゃあ行くよ!」
「来て‥‥」
俺はまずは軽くクラス壱ファイヤで牽制攻撃。
当然嬢ちゃんは軽く横へとかわす。
俺が見ていても、横に瞬間移動したようにしか見えない。
やはりこの子だけは完全に人間離れしている。
戦いの中で魔法を当てるだけでも、それは限りなく不可能に近いと感じた。
嬢ちゃんも軽くクラス壱ファイヤを撃ってきた。
俺の魔法とは魔力が圧倒的に違う。
百倍以上威力が強い。
おそらく俺以外がくらえばほぼ即死だ。
剣心先生でも死ぬレベル。
これがクラス壱なのだからチートなんてもんじゃない。
通り越して無敵モードだ。
さて、しかしこのまま魔法を打ち合っていてもお互い当てる事はできないだろう。
俺だって普通ではないのだ。
武術も学び、相手の些細な動きから先を読んで行動できる術も得ている。
拳銃の引き金を引く筋肉の動きを見て、素早く射線上から身をかわすような芸当もできるのだ。
俺は自然植物系魔法、葉っぱ攻撃で相手の視界を奪った。
葉っぱの攻撃自体は弱いが、包み込むように攻撃するので逃げ場はない。
確実に敵に当てる事のできる魔法と言えるが、弱すぎるので普通は攻撃ではなく目くらましに使う魔法である。
俺は視界を奪っている間に、あらゆる方向から魔法を放った。
しかしそれは全てかわされているようだった。
「手ごたえがない」
するとそこから嬢ちゃんが飛び出してくる。
すぐ目の前に来た。
此処から物理攻撃は禁止だが、拳の代わりに魔法を放ってくる。
格闘ゲームにありそうな、拳からエネルギーを飛ばすような感じだ。
でもそれは逆に、格闘と同じと考えれば回避はしやすい。
俺は目の前にきた嬢ちゃんのいる位置に魔法を発動させた。
嬢ちゃんはすぐに気が付いて回避するが、俺の近くに来た事でその魔法は少し嬢ちゃんに当たった。
「よし!まずは先制だ!」
「そんな手が‥‥あったんだ‥‥流石南ちゃん‥‥」
まあ当たった所で、これはダメージを与えらえるようなものではない。
ルールのあるゲームだからポイントにはなるが、こんなもので倒れる冒険者は初心者レベルくらいのものだった。
しかし、距離をとっていては勝負にならない。
お互い目くらましの中でも魔法はかわせるし、近づけばポイントを取られる。
もちろんポイントを取る事もできるが、結局それでイーブンだ。
ただ、俺はこのような状況を打開する為の、或いはこの模擬戦をする事にした理由となる魔法を用意してあった。
複合魔法である。
色々な魔法を組み合わせ、威力や相手に与えるダメージを強化する事も出来たわけだが、それ以外にも複合する事で面白い効果が得られていた。
今日はその中で最も軸になる魔法を試させてもらう。
「行くぜ嬢ちゃん!俺の放つ魔法がかわせるかな?」
「何かするの‥‥南ちゃん。顔が‥‥いやらしいよ‥‥」
おっと、幼女をイジメるシーンを思い描いて、うっかり悪役面になってしまっていたようだ。
当然俺にそんな趣味はない。
本当だよ?
俺はコロニーレーザーのクラス壱を発動する為、小さな円柱型の発射砲塔を召喚した。
剣心先生を殺った神クラスのだと、長さ二十メートル、直径五メートルといった大きさだったが、これは指にはめられるくらいの小さなものだ。
しかし侮ってもらっては困る。
この魔法に別の魔法を複合して攻撃するのだ。
水晶からスクロールを一つ取り出して俺は魔力を込めた。
「クラス壱コロニーレーザー!と、こいつだ!」
複合された魔法が放たれた。
本来は一直線に相手に向かうレーザーが、放たれた瞬間に複数に分かれた。
コロニーレーザーは、魔法速度がバカ速いのでそもそもかわせる者など嬢ちゃんくらいのものだ。
でもかわせない事はないし、嬢ちゃんには通用しない。
しかしこれなら、嬢ちゃんでもかわせまい。
別れたレーザーは更に分裂を繰り返し、フィールド全体に広がる。
そして一気に嬢ちゃんへと収束していった。
「これは自然植物系魔法との複合魔法!かわせない魔法と攻撃魔法を組み合わせる事で、かわせない攻撃魔法ができたのだ!」
「そんな‥‥かわせない‥‥」
と思っていたのだが‥‥
「‥‥あれ?魔法が途中で消えた?」
「だね‥‥自然植物系と‥‥エネルギー系‥‥それに光系‥‥相性良さそう‥‥なんだけど‥‥」
どうやら相性が良ければ上手く行くというモノでもなさそうだ。
改めて研究が必要だな。
俺は一から見直す決意をした。

この後も、嬢ちゃんには模擬戦に付き合ってもらった。
毒や麻痺を複合したり、三種の属性を一つの魔法にしたり、魔法書を使ったり、或いはスクロールや魔法書を使わずに試したりは、思った以上に上手く行った。
でも魔法は、相手に命中しなければ意味はない。
俺は課題を持ち帰り、その日からまた魔法研究に打ち込むのだった。
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