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2013年11月4日【月】19時43分21秒
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ミッション!ゴキブリを退治せよ!

この日俺と嬢ちゃんは、ある依頼を遂行せよと姐さんから言い渡された。
何度もギルド冒険者に依頼として出していたのだが、どの冒険者も手を付けなかった仕事だった。
そんな仕事をわざわざギルド職員がする必要もないのだけれど、これはどうも街全体に関わる問題らしく、卑弥呼からやってくれと頼まれたらしい。
仕事内容は『ゴキブリの駆除』だった。
「これはどういう事でしょうお嬢ちゃん。ゴキブリのような汚い役人か何かを暗殺せよという命令でしょうか」
「もしかしたら‥‥勇者を‥‥亡き者にせよと‥‥いう命令かも‥‥」
嬢ちゃんは、未だに勇者が魔王を倒そうとしていた事を根に持っているようだった。
しかし困った。
私はゴキブリは嫌いなのだ。
この世界にはホウ酸団子もゴキスプレーも存在しない。
ゴキハウスも無ければ、ハリセンすら存在しないのだ。
対応は虫よけの草を家の周りに植えたりするだけで、駆除の方法など確立されてはいなかった。
とりあえず俺と嬢ちゃんは、重い足を引きずりながら依頼者の家へと向かった。
依頼者は、家の前で待っていた。
あまりのヤバさに、今は別の所で暮らしているらしい。
「依頼を受けたギルドの者です」
「おお!!よく来てくださいました。もう私にはどうにもならないのです。完全にこの家は奴らに乗っ取られてしまいました」
「は、はあ。そうですか‥‥」
ちょっと大げさすぎやしないだろうか。
いくらゴキブリが増えたとしても、目に入る所にチラチラと姿を現すくらいだ。
転生前の世界では飲食店でアルバイトをしていたけれど、当然ゴキブリは沢山いた。
確かにあんな所で寝泊まりするのは厳しいとは思うが、この世界の衛生環境から考えれば、それでも普通に暮らせる範囲内だと思う。
「とりあえず‥‥確認‥‥してみる」
「おおっ、そうだな。それでは確認させてもらいますね」
「ど、どうぞどうぞ!」
そういう依頼主のおばさんは、何故か我々から離れて十メートルくらいの距離をとった。
「おい嬢ちゃん。俺は今凄く嫌な予感しかしないんだが」
「大丈夫‥‥何かあったら‥‥骨は‥‥ゴミは拾って‥‥帰る‥‥」
「嬢ちゃん。何故言い直した?俺はもしかしてゴミなのか?」
「違う。骨だと死んじゃってるけど‥‥南ちゃんは死なない‥‥って事を‥‥伝えたかった」
「生きてる俺がゴミって事ですか。そっちの方がヤバくね?」
「気にしないで‥‥頑張って‥‥南ちゃん」
俺は嬢ちゃんに押されるように玄関へと近づいた。
既に黒い影がいくつも視界に入ってくる。
網膜剥離の初期症状ではないのかと疑ってしまうくらいだ。
アレはイモムシのような影だったか。
何にしても俺のSAN値はピンチだった。
「マジックミサイル!」
俺は魔法で視界に入るゴキブリを倒していった。
ふっふっふ、この程度のゴキブリ、俺の敵ではないわ。
死体も見たくないので、俺はウォーター系クラス壱の魔法で彼奴等を水で流してやった。
「ふぅ~‥‥任務完了」
俺は袖で額の汗をぬぐった。
「まだ‥‥何もしてない‥‥家の中の‥‥駆除が依頼内容‥‥」
「そ、そんなバカな!」
俺はまだ何も成し遂げてないというのか。
恐るべしゴキブリだ。
今までで一番の強敵と言えるだろう。
「嬢ちゃん隊員、此処から先は君に任せる」
「何を‥‥言ってる軍曹‥‥大尉の‥‥命令だ‥‥突撃せよ‥‥」
「嬢ちゃん、『隊員』と『大尉』を間違えているぞ」
「そんな日も‥‥あるよね‥‥」
俺たちは二人でため息をついた。
仕方なく二人で一緒に玄関のドアノブに手をかけた。
「同時に押すぞ?」
「引きドアじゃ‥‥ないかな‥‥」
「じゃあ俺は押すから、嬢ちゃんは引くという事でどうだろうか?」
「分かった」
「じゃあ行くよ。壱弐の参!」
嬢ちゃんと俺では当然力の差で嬢ちゃんの勝ちだ。
ドアは綺麗に引き開けられた。
中から何か黒い影が家の外に出てきた。
「影が!影に家が飲まれている!」
「‥‥」
俺が嬢ちゃんにそう言った時には、嬢ちゃんは既に依頼者の所まで下がっていた。
俺は勢いよくドアを閉めた。
それでも流れ出た黒い影は、俺の足元へも広がってきた。
「ギャー!死にくされ!クラス六ファイヤ!」
俺は炎の魔法でその黒い影を焼きにいった。
一部は燃えたようだが、黒い影が飛び散り俺の方にも飛んでくる。
「マジックシールド!」
間一髪俺は敵の返り血から逃れた。
あぶないあぶない。
あと少しでゴキブリが俺の服にとりつく所だった。
俺も素早く玄関から距離を取り、そこからあふれ出た影たちを魔法で攻撃した。
「死ねぇ~蛆虫どもめぇ~!」
「南ちゃん‥‥蛆虫ちゃう‥‥ゴキブリや‥‥」
嬢ちゃんはそういって俺の肩に手を置いた。
くっそ、しかしどうすればいいのだ。
乗っ取られてしまったとか云っていたけど、完全にこれは乗っ取られている。
もう取り戻す事は不可能だ。
「依頼主のおばちゃん。これはもう家を取り戻す事は不可能です。家ごと焼き払いましょう」
俺はマジで、大真面目に方法はこれしかないと思った。
「いやでも‥‥まだ買って数年の家なんです。燃やされるのはちょっと‥‥」
「じゃあゴキブリと一緒に暮らしますか?さっき乗っ取られたって云ってたじゃないですか。残念ですが、もう家は返ってきません」
おばさんは少し涙目だった。
だいたいなんでこんなゴキブリが集まって来てるんだ?
俺は疑問だった。
少々不衛生な家でも此処まではならない。
「おばさん‥‥どうして‥‥こんな事に‥‥なったの?」
嬢ちゃんが俺の代わりに聞いてくれた。
「いえね、ゴミもね、考えると肥料だとかペットの餌だとか色々と使えるなと思ってね、全部取っといたのよ。そしたら急にそこからゴキブリが増え始めてね‥‥どうしちゃったのかしら」
「お前はアホか!」
ついツッコミを入れてしまったが、これは仕方がないだろう。
嬢ちゃんですらおばちゃんにチョップをかましていた。
もうこれはやっちゃっていいよね。
「ではそういう事で、家ごと処理します。いいですね?おばさん?」
「えっ?でも‥‥」
「大丈夫‥‥家は‥‥私が‥‥作り直す‥‥から‥‥」
「はい!オッケーでましたー!じゃあ嬢ちゃん!家の周りに飛び切り頑丈な結界をよろしく」
「えっ?あの?オッケー?」
「今‥‥云った‥‥」
嬢ちゃんは家の周りに結界を張った。
流石嬢ちゃん、この結界は絶対に破られないと思えるほどだった。
俺はジャンプして結界の壁の上に飛び乗った。
「嬢ちゃん、結界の上だけ解除しちゃっていいよ」
「了解‥‥」
「さて、それじゃあ行きますか。今日俺の名は歴史に刻まれるだろう。百万の軍勢を一瞬にして葬り去った英雄として」
俺はコロニーを召喚し頭上に掲げた。
嬢ちゃんは目を閉じ耳を塞いだ。
いくぞ!
「コロニーレーザー!」
頭上から発射された魔法は、家ごと全てを消滅させた。
空が輝き、セカラシカの町が少し揺れた。
「嬢ちゃん、後は頼んだ!」
「ちゃんと素材は‥‥回収しておいた‥‥ほとんど‥‥同じ家が‥‥作れるはず‥‥」
前に俺の家を魔改造した時と同じように、嬢ちゃんは家を組み立てていった。

ほどなくして家は完成した。
「うむ。ちょっと生前と違う気もするが、問題ないだろう」
「うん‥‥自信作‥‥」
「えっと、あのぅ‥‥全然違うと思うんですが‥‥」
「そうですかそうですか。気に入っていただけで良かったです。ではこれでクエスト完了って事で、ここにサインをお願いします」
嬢ちゃんがペンを押し付けていた。
それを受け取ったおばさんは、魂が抜けたような表情でサインしてくれた。
まあ確かに新しい家は前のと全く違うけど、きっと内装は以前よりも良くなっているはずだ。
かなり小さくなったから、狭くはなっているだろうけどね。
「それでは、又のご依頼をよろしくお願いします」
もうゴキブリ退治は嫌だけどね。
つかもう二度と依頼してこないと思うけど。
こうして俺たちのクエストは終わった。
何故か後日、このおばさんからのクエスト依頼が続いた。
この謎は、しばらく俺の頭から離れなかった。
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