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冒険者案内係の研修

今日は、ギルド協会が派遣してくる冒険者が、セカラシカギルドにやってくる予定の日だった。
正直俺は不安で不安で仕方がない。
何度も言うが、そうそうチート仕様の冒険者なんていないのだ。
この町にいると猫魔獣もいるし感覚が麻痺してくるが、軍隊にすら卑弥呼クラスの隊長はなかなかいないと思われる。
ギルド協会の人選がまともである事を俺は祈っていた。
夕方になった。
俺は冒険者の案内役を終えてギルドへと戻ってきた。
入口からギルドに入ろうとした所で、俺は中になかなか強い者たちが集まっている事に気が付いた。
こいつらがギルド協会から派遣されてきたヤツらに間違いないだろう。
もし違ってたら泣いちゃうよ。
でももしそうなら、何とか案内役をやってもらえそうだと思える者たちだった。
中に入ると、そこには勇者と話す『元勇者パーティーの三人』の姿があった。
なるほど。
これならなんとかなると思った。
では、勇者パーティーだった者たちの紹介をしよう。
此処まではただの通りすがりのキャラだったので、俺も今まで名前を記憶はしていないのだ。
この機会に覚えておく事にしよう。
まず一人目は、女の|魔術師《ソーサラー》だ。
名前は『|山中蝶々《ヤマナカチョウチョウ》』。
各種属性魔法を得意とする|職業《クラス》だが、主に使うのはファイヤ系と爆裂系との事。
少し気の強いツンデレタイプに見える。
続いて二人目は、男の|治癒術師《ヒーラー》、ではなく、|修道僧《モンク》だそうな。
人は見かけによらないのだ。
名前は『|林蘭丸《ハヤシランマル》』。
素手での戦闘もできるが、前には行かないタイプ。
優男といった感じで、治癒術師の方が合っているようには見える。
最後に三人目は、女の|軽戦士《ケイセンシ》。
名前は『|玉城乙女《タマキオトメ》』。
スピードで圧倒する両手剣の戦士で、容姿は普通に可愛い女性に見える。
まあ朝里ちゃんのような事もあるから、普通かどうかはこれから見ていくとしよう。
「皆さんよろしくお願いします」
俺は丁寧に挨拶をした。
あの魔王城の時、俺は結構酷い扱いをしたんだよね。
勇者にバレているのだから、あの時のサターンが俺である事を知っているかもしれなかった。
しかし勇者は話しておらず、他のメンバーにはバレていなかった。
ひとまずホッとした。
話すと皆俺よりも年上だった。
当たり前といえば当たり前か。
剣術にしても魔術にしても、極めるのには時間がかかって普通なのだ。
やっぱりこのセカラシカギルドが|異常《チート》なのだと、改めて思った。

さて次の日、まずはこの北の森の事を、派遣冒険者に知ってもらわなければならない。
ガイド役はモンクの林さんに決まっているようだが、他も見回りをする以上、この森の事を知ってもらう必要があった。
「まず、森に入る前には必ず各種状態異常耐性を百パーセントにしておいてもらう必要があります」
「全て必要なの?」
「はい。毒、麻痺、幻覚、呪い、睡眠、混乱、恐怖、洗脳、精神攻撃 酔いなど、全てです」
「それだと一つずつだと駄目だな。まとめて状態異常耐性魔法が必要か」
「林さんの云う通りですね。魔法アイテムでなんとかするか、魔力によって耐性を百パーセントまで上げられる人なら大丈夫ですが」
俺や嬢ちゃん、或いは元々森に住んでいたミケなら、耐性を持っているので大丈夫だ。
でもそうでない人は、何かしら対応が必要となる。
朝里ちゃんは精神力によって抑えられるから、この森であっても死ぬことはまずないだろうが、それでもノーダメージではないので危険はあった。
「私は魔力でほとんど抑えられるけどどうかな?」
「山中さんほどの魔力があれば、おそらく大丈夫だとは思います。でも絶対とは言えません」
まあ誰であっても絶対なんて言えないんだけどね。
「私はこのアクセで耐性つけてるんだけどぉ~。やっぱ無理ぃ?」
「見せてもらってもいいですか?」
「うん、いいけど‥‥」
俺は玉城さんからブローチを受け取って魔力の流れを見てみた。
結構無駄が多いように感じるな。
スクロールとは違うが、こういう魔法アイテムに関しても少し研究をしている。
原理としては似ているからね。
魔法アイテムとは、魔石に魔力を貯めて、その魔力を使って自動的に魔法を発動し続けるスクロールのようなものだ。
スクロールは紙だから一度使えば消えて無くなるが、魔法アイテムは宝石を使うのでずっと使えると考えれば分かりやすい。
宝石に魔法が記されていれば、何度も使えるスクロールのようにも使える。
ただ宝石に魔法を描く事は、今の俺にはできないけどね。
でも、既にあるものの魔法の流れを修正するくらいはできる。
自分でコンピュータプログラムは書けなくても、改造するくらいはできる人っているでしょ。
そんなもんだと思ってもらえればいい。
いずれは宝石にも魔法を描けたらとは思っているけどね。
「ちょっと流れが悪いので、修正させてもらっていいですか?」
「えっ?うん。そんな事できるならいいけど、大丈夫なのぉ?」
「はい。もう終わりました」
俺はそう言ってブローチを返した。
「早!何々?なんか凄く効果が上がった事を感じるんですけどぉ~」
「このブローチならここでも大丈夫だとは思いますよ」
自分でやっててなんだが、魔法技術に関しては俺って本当にチートなんだな。
どれだけやっても嬢ちゃんに勝てる気はしないけど、レベル九十九は伊達ではなかったという事か。
「ではもう少し説明しておきますね。何故この森でそこまで耐性が必要なのかです。先に渡してあるギルド手帳を見ればおそらく分かると思うのですが、状態異常からの回復が必要な場面が、他の森と比べて桁違いだからです」
普通の森と思って入ったらべらぼうに驚く事になる。
出てくるまでに十や二十程度の状態異常じゃ済まないのだ。
「そしてその状態異常が特殊なのが多いのです。他の森なら、毒なら毒消し草と言われる汎用的なもの一つで事足りますが、此処では毒ごとに対処しなければならないのが十種以上あります。毒だけの数でです」
「ドクトカゲとかだっけ?」
「はい。アレは最も厄介で、完治までに一日を要します。更にドクトカゲ用薬草を服用すると、副作用に高熱も出ます。だから熱さましの薬草も必要ですが、ご存じの通りそれにも麻痺の副作用が出ますね。だから麻痺消しの草も必要になります」
「つまり三つの薬草が必要になるわけか」
「それだけではありません。これらの薬草には相性の悪い薬草も存在しますから、無暗に服用するとまずいです。その辺りの事はギルド手帳に書いてあるので調べてください」
「はーい!分かりましたぁ!」
薬草ってのは、薬なんだよな。
「それで、薬草だと複雑になるので、ポーションで対応する人も多いです。ポーションは色々な効果が一つにまとめられていたりするので、お金があればこちらの方が安全ですね」
「でも高いから使えるのは冒険者の約三割くらいって所かしら」
「その辺りはよく知りませんが、ただポーションにも欠点があります」
「何かな?」
「薬草も同様ですが、この森だと服用する機会が多くて限界がきてしまうという事です。お腹がいっぱいになってしまうのです」
まあそれだけ薬を体に入れるだけで、気分も悪くなるだろう。
効く薬はそれだけ毒なのだから。
「だから耐性で対応が必要という事か」
「魔法で治すにもそんなに魔力も消費できませんからね。でも優秀なヒーラーやクレリックがいれば、魔法で対応するのが一番でしょうね。マスタークラスの魔法が使えるのなら、この森でも大抵なんとかなります」
「僕は使えるけれど、マスタークラスというだけあって、使える人はほぼいないね」
治癒回復系の魔法は、クラスが上がる事によって、酷い症状でも治す事ができるようになる。
普通自然界にあるもので状態異常になった場合は、マスタークラスまででほぼ対応が可能だった。
「保険にスクロールや魔法書を持っていればいいんですが、これらはポーション以上に高いですからね。仕事の報酬よりも経費が掛かる事になります。使う人はほとんどいない状況です」
「結局、耐性を付ける事が一番の対応というわけね」
山中さんの云った通り、そういう事になるわけだ。
俺が簡単に安く魔法アイテムを作れるようになれば、問題は色々と解決しそうだが、そうなったらそうなったで別の問題も出てくる。
きっと安くは売れないだろう。
欲しい人が殺到して俺が社畜にならなければいけなくなるし、他の魔法技術者が育たなくなるだろうから。

この後は具体的に、状態異常を起こす動植物とか魔獣や魔物、その特性等を説明していった。
流石元勇者パーティーの人たちだけあって、一日で全て理解してくれたようだった。
ようやく俺の雑用も終わるのだな。
そしてこれで、死者がほとんど出なくなってくれればいいなと思った。
次の日、林さんに案内役を任せ、俺はそれを離れた所から見守ってついて行った。
俺が見る限り問題はなかった。
明日から、俺の生活は元に戻る事となった。
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