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終了!ゾンビの森

姐さんがギルドを去った後、ギルドの隣には一夜にして領主の屋敷が建っていた。
こんな事ができるのは嬢ちゃんしかいないわけだが、住んでいた人たちは一体どこにいったのだろうか。
いや、そんな事を考えてはいけない気がする。
触れない方が良さそうなので、俺は気にしない事にした。
勇者もギルドを去った事で、ギルドの様子も勇者が来る前に戻りつつある。
危機管理の無さすぎる冒険者も減り、派遣されていた勇者パーティーのメンバーもセカラシカを去った。
山中さんは、洗脳された事がショックだったようで、また一から魔法の修行をするとか。
林さんと玉城さんは二人で冒険の旅に出るらしい。
男女二人で冒険とか、間違いなくこの二人はできてますな。
年齢的にもこの二人は適齢期だし、これは婚前旅行であると俺は断言する。
今更だけど、山中さんは勇者が好きだったのではないだろうか。
そんな事を考えるとちょっと切なくなるので、これ以上は考えない事にした。

さて今日も俺は魔法の研究をしていた。
最も重点を置いているのが、『魔法書の作成』と『蘇生魔法の確立』である。
俺自身蘇生はできるが、それを魔法書なりスクロールなりに描き移す事ができない。
だったら別の蘇生魔法から研究し、良いモノを作り上げようと考えていた。
最近新たにできるようになったのは、魂の保存だ。
成仏する前の魂を魔法のカゴに入れておけば、何日かは留めて置けるようになった。
「蘇生のポイントは、器と魂さえあれば蘇生は可能なのかって所なんだよな‥‥」
動物実験では割と上手く行くのだが、人間で上手く行くのかどうかは確かめられない。
その場で人を殺したり蘇生させたりって、流石に機会もないからだ。
でも実験が出来なければ魔法は完成しない。
俺は蘇生については一旦諦めようかと考えていた。
魔法書の方は、順調に進んでいた。
蘇生の中でも粗悪とされるものなら、描き移す事ができる。
スクロール同様高度になればなるほど難しいのだが、蘇生魔法にもランクの低いものはあった。
俺が元々使えるものは神クラスで最高レベルだから、描き移す事は難しい。
でもハト化蘇生は、蘇生の中では割と低クラスのマスタークラス蘇生だ。
だから最初から描き移す事ができた。
おそらく付属効果が、術者や蘇生対象にとって、クオリティやリスクがどうなのかによって決まっているのだろう。
ハトになればせいぜい十年の命だし、言葉も喋れない。
死ぬよりはマシって程度のものだ。
おそらくこれよりも駄目な付属効果なら、もっと簡単にできそうだし、これよりも良い効果を期待するなら、描き移すのは困難になるかもしれない。
とりあえず俺の魔法研究はそれなりに成果を上げつつあった。

研究を終えて俺はギルドに戻った。
「戻ったよー!」
俺がバックルームに入ると、何故かそこにいた嬢ちゃんと朝里ちゃんが目をそらした。
どうしたんだろうか。
「待っておったぞ。ちと南に頼みたい事があるんじゃ」
「なんだ?」
そそくさと嬢ちゃんと朝里ちゃんは受付カウンターの方へ行こうとする。
なんだか嫌な予感しかしない。
「最近北の森でな、ゾンビが湧いておるようなのじゃ。比較的今まで穏やかだった所にも出現してきておっての、調査と駆除を頼みたいんじゃ」
そういう事か。
嬢ちゃんも朝里ちゃんも断ったんだろうな。
俺もあんな所には二度と行きたくないと思っていたからな。
「どの辺まで出て来てんの?」
「北の森に入ってすぐの、低クラス向けエリアでも多数確認されておる」
「はぁ‥‥」
そりゃどうにかしないとだよなぁ。
そこで仕事ができなくなれば、冒険者の九割が職を失う事になってしまう。
「分かったよ」
しかし、嬢ちゃんも朝里ちゃんも逃げたし、俺一人ってのもなぁ。
すると嬢ちゃんと朝里ちゃんと入れ替わって、ミケがバックルームに入ってきた。
「うひ~!今日もよく働いたのだ!私って子供なのに偉すぎるのだ!」
よし!
ミケを連れて行こう。
「おおミケ!良い所に来たな。これからお兄ちゃんは北の森に散歩に行くんだが、一緒にこないか?」
「うほぉ!お兄ちゃんと散歩とか久しぶりなのだ!行くに決まっているのだ!」
「そうかそうか。じゃあ行くぞ!そんなわけで卑弥呼、ミケをつれていくぞ!」
「ああ構わんぞ!」
こうして俺とミケは、北の森のゾンビ調査へと向かうのだった。

森に入ると早速ゾンビに出会った。
「うわぁー!なんでこんな所にゾンビがぁ!気持ち悪いのだぁ!」
「ターンアンデット!」
俺は瞬時に魔法でゾンビを浄化した。
「どういう事なのだ?この辺りにゾンビはでないのではなかったのかぁ!」
やっぱりミケもゾンビはあまり好きではなさそうだった。
いや、ゾンビが好きな奴ってまずいないよね。
「どうしてだろうなぁ~。こりゃお兄ちゃん調べないと駄目なんだろうなぁ。仕方ない、ミケ!ちょっと東の森に向かうぞ!」
「マジなのだ?!お兄ちゃん!ミケは帰ってもいいのだ?」
「ミケはお兄ちゃん一人にゾンビの森に行かせるつもりなんだね。よよよよよ~」
泣き真似をしてみた。
それでもミケは帰る方向にゆっくりと歩いてゆく。
仕方ない。
俺はミケの首根っこを掴んで持ち上げ、懐にその体を抱えた。
「さあ行くぞ!ゾンビが俺たちを待っている!」
「仕方ないのだ。全くお兄ちゃんったら、そんなにミケと一緒がいいのだ?」
抱きかかえてやったミケは、まるで猫のようにゴロゴロニャーニャーしていた。
猫なんだけどね。
「俺はミケをなでながら、東の森へと向かった。
何時もゾンビがいるエリアに着くまでに、五十以上のゾンビを浄化してきた。
これは明らかにおかしい。
数が多すぎる。
そもそもゾンビは何故湧いて出てくるのだろうか。
勝手に出てくるとも思えないし、普通はリッチとか上位のアンデットに作られた存在だよな。
この世界でどうなっているのかは分からないが、そういう頭を潰せばもしかしたらゾンビを撲滅できるかもしれない。
そんな期待を胸に、益々増えるゾンビを浄化しながら、俺は森の奥へと進んでいった。
ミケは気持ちよさそうに、俺の胸で『ニャオニュール』とかいう猫魔獣用のお菓子を食べていた。
更に進むと、ゾンビとは違う、顔がガイコツのアンデットが現れた。
「スケルトンか?!」
俺がそういうと、ちょっと怒ったようにそれを否定してきた。
「スケルトンなんかと一緒にしないでくれ!俺はリッチだ!アンデットを統べるものだぞ!」
ふむ。
期待通りリッチに出会えてしまったぞ。
「ミケ、どうする?壱!戦う!弐!逃げる!参!魔法!四!仲間にする!さあどれだ!」
「ん~‥‥仲間にするのだ!その方が楽しそうなのだ!」
そうか、ミケがそういうなら仕方がない。
俺はリッチと話す事にした。
「はじめましてリッチさん、ちょっとお訊ねしたいのですが、もしやこの森に出るゾンビは、全てあなたの仕業なのでしょうか」
「はっはっは~!凄いだろ!俺は超優秀なアンデットの支配者なのだ!」
「つまり、あなたを殺してしまえばこの森のゾンビはいなくなると?」
俺は一歩体を乗り出し、魔力を高めた。
「まてまてまて!俺を殺したらもっと酷い事になるぞ!?人々の怨念がこもった魂があふれているからな。ゾンビどころかゴーストになる!町まで出て人間の魂を狩る死神に進化する可能性だってあるぞ!」
口から出まかせを言っているような雰囲気はなかった。
「でもなぁ~、最近ゾンビが増えすぎて、なんとかしろって云われて来てんだよなぁ。ターンアンデットなら浄化できるんじゃないのか?」
「駄目だな。人間はそれで浄化できてるつもりだろうけど、実際はまた魂は戻ってきている」
そうなんだ。
「ちょっとそこのゾンビ、こっちへ来て」
俺がそういうと、ゾンビが一人こちらに歩いてきた。
「ターンアンデット!」
俺は容赦なくそいつを浄化してみた。
「うわっ!こいつ何しやがる!一瞬ゾンビも心開きそうになってたのに!」
「いやね。一度実際に試してみないと分からんでしょ」
俺は浄化された魂がどうなるのか見守っていた。
ゾンビという体を失い、魂は空へと舞い上がっていく。
しかししばらくして上空で止まり、再びゆっくりと俺の前に降りてきていた。
「ホントだな。全然浄化できてないじゃん」
「だから言っただろ!その魂をそのまま放置すれば、ゾンビなんかよりも恐ろしい怪物になる可能性がある。だから俺はゾンビにしてやっていたのだ」
そう考えると割と良いヤツなんだな、このリッチ。
でもゾンビにするのはねぇ。
別の何かに魂を入れられないかねぇ。
俺は近くにいたウンコ魔獣を捕まえて殴り殺した。
「うわっ!お兄ちゃん!臭いよ!」
ウンコ魔獣は、特に人間に危害を加える魔獣ではない。
ただ、その容姿は巻きグソみたいで少し可愛いが、とにかくニオイがクサイのだ。
このゾンビエリアに住み着いている事もあり、このエリアが嫌われる要因の一つにもなってる。
俺はそんな魔獣を殺して、魂を引きちぎった。
俺はおもむろに先ほど浄化に失敗して帰ってきた魂をわしづかみにし、ウンコ魔獣の死体へとねじ込んだ。
「リザレクション!」
蘇生の研究で、動物は別の動物の体にもそれなりに定着する事が分かっている。
ちゃんと定着しているのか、それでどれくらい生きられるのかは分からないが、人の魂だとどうなるのか試してみた。
「何しちゃってんの?人の魂をよりによってウンコ魔獣に入れるなんて、かわいそ過ぎるだろ!」
「とりあえず実験だ!おい!どうだ?調子は?」
俺はウンコ魔獣をペチペチと叩いてみた。
「‥‥」
何も云わんな。
そりゃそうか。
ウンコ魔獣は話せないからな。
するとリッチが少し近寄ってきた。
「どうやら居心地が悪いらしい。こりゃ一時間もすれば死ぬな」
死ぬという事は、また魂は彷徨うって事か。
これでは駄目だ。
俺は再び、一旦そのウンコ魔獣を殺した。
「うわっ!こいつマジでひでえ!何回殺せば済むんだよ!死ぬのは辛いんだぞ!」
「気にするな。これはこいつの未来に繋がるかもしれないんだ」
俺は水晶から魔法書を取り出し、ハト化蘇生を試した。
「ぽっぽっぽー!ハトぽっぽー!」
すると魂が光輝き、周囲から何かが集まってきてハトを形取り、ハト化蘇生は成功した。
「おっ!ハトになったのか?」
ん~‥‥正確には、ハトの体を作って、そこに魂を宿したって感じだろうか。
「居心地はどうだ?」
「かなり良いと言っている。自分の体のようだとも」
「ほう」
他の生物の体だと相性は悪いけど、このハト化蘇生ってのは、蘇生対象の魂と相性の良いハトの体を作るって事なのだろう。
分かりやすく言うと、これは普通の蘇生とは違う。
普通の蘇生は、本来の自分の体に魂を戻す行為だ。
しかしハト化蘇生は、ハトというその魂にあった器を作り、そこに魂を入れる魔法だという事。
「となると、その魂に合った人間の器を作る事ができたなら、普通の蘇生ってのはできるようになるのかもしれない」
「そんな事できるのか?!」
「いや、今の俺だと多分無理だ。このハトでも生成の限界を感じる」
「じゃあなんならできるんだ?いくらなんでもハトじゃ駄目だろ。この森で生きていけない。町で生活するなら問題ないが‥‥」
「ふむ‥‥」
ここのゾンビをハトにしたら、多分町に押し寄せてくるな。
そうなると、人間の知能を持ったハトで町があふれかえる事になる。
生前男だった魂は、きっと覗きとかを楽しむに違いない。
「駄目だ駄目だ駄目だ!」
「お兄ちゃん、いきなり大きな声出さないでよ」
寝かかっていたミケが目を覚ました。
「悪い悪い」
ハトが駄目となると、なんなら良いのか。そして俺にできるのか。
「なあリッチ。小さくて、可愛くて、この森でも生きていけそうなものってなーんだ?!
「そうだなぁ。可愛くはないけど、ゴキブリとか」
「却下!」
「お兄ちゃんなんか怖いよ。そんな怖い顔で大きな声をださないで」
「悪い」
又も感情的になってしまった。
「他にないのか。ゾンビたちの魂がなりたい生物とか、そんな感じで」
「やっぱ人間が良いって言ってるな。少なくとも喋れる方が良いって」
喋られるか。
確かに蘇生するならそっちの方が便利だよな。
「そうか。別に実際にいる生物にこだわる必要はなかった。妖精コロポックルなんてどうだ?」
「なんだそれは?」
「木の葉一枚をベッドに昼寝ができるくらい小さな人型の妖精だよ。それだけ小さければ、俺でも作れるかもしれない」
「そうなのか?」
俺は早速試してみた。
俺の魔法で、あの時の指輪を作ったように。
嬢ちゃんが家を魔改造した時のように。
この森から妖精を構築する素材を集め、コロポックルを作り出せ!
俺の手元が光った。
そこには、俺のイメージ通りのコロポックルが横たわっていた。
「できた。よし!早速試してみるぞ!」
俺はスクロールの紙を取り出し、ハトではなくコロポックルを生成して蘇生する模様をイメージして魔法を描いた。
先ほど蘇生したハトの首をひねり再び殺す。
もう誰も何も言わなかった。
スクロールを開いてコロポックル化蘇生の魔法を発動した。
そこにあったコロポックルの体が、少し変化する。
おそらく魂に合わせているのだろう。
そして魂はその中へと入り、蘇生は成功した。
「やったぜ!蘇生が成功した!」
しかし‥‥蘇生されたコロポックルは、何かを訴えるように話しかけてきているが、俺には聞こえなった。
「どうした?声がでないのか?失敗だったか?」
俺が少し不安になっていると、ミケが俺の肩を叩いた。
「ちゃんと聞こえるよ。この子、お兄ちゃんに感謝しているのだ」
「ミケには何を言っているのか聞こえるのか?」
「聞こえるのさ!普通に言葉を喋っているのさ!」
どうやら、このコロポックルは、こちらの言っている事は理解しているようだった。
しかしコロポックルの言葉は、俺にもリッチにも聞こえなかった。
ただミケにだけは聞こえているようで、それが何故だか理由は分からなかった。
「何にしても、この蘇生は使えるな」
俺は水晶から、ゼロの魔法書を取り出した。
魔法が何も書かれていない魔法書だ。
それに俺は、コロポックル化の蘇生魔法を描いた。
別のゾンビにそれを試してみたら、見事魔法は成功した。
「よし。この魔法書をリッチ、お前にたくそう。お前が全てのゾンビをコロポックルにしてやってくれ。集まる魂も全てだ。ゾンビにするよりこっちのがいいだろ?」
「おっ!おう!凄いな。お前実はかなりの魔法使いなのな」
「まあな。でも一つ約束してくれ。コロポックル化したヤツが町で悪さしたりしたら困るから、この森からは出ないように」
「分かった」
こうして、ゾンビの対応は終わった。
俺としても魔法研究の実験ができ、そして成果が出たのは良かった。
この後、この森は『コロポックルの森』と呼ばれるようになる。
そして何故、ミケにだけ声が聞こえたのかも後に明らかになった。
どうやら小さい子供にしか声は聞こえないのだそうだ。
そんなわけでコロポックルは、子供の前にしか姿を現さない妖精として認知されていく事になった。
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