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決戦前夜

インターネットが使えなくなって三日が過ぎた。
そろそろ遣いの者が情報を持って王都に到着する頃だろうか。
それから対応したとして、インターネット回復までにはまだ幾日か必要だと俺たちは考えていた。
そんなわけで仕事量も少なく、今日も早めに朝の冒険者ラッシュは終わった。
俺は嬢ちゃんと二人、ボーっと受付で惚けていた。
こういう時も嬢ちゃんは割と付き合いが良くて、俺と同じように惚けている。
それが俺はなんだか楽しかった。
そんな時間を過ごしていると、一人の町民がギルド内へ走り込んできた。
俺と嬢ちゃんはビックリして我に返った。
「嬢ちゃん!悪魔が、悪魔が嬢ちゃんを呼んでるんだが!」
一体何事だ?
悪魔が呼んでる?
もしかして町に悪魔がやってきたのか?
しかも呼んでいると云っている。
これはただ事ではないと感じた。
「どう‥‥したの?落ち着いて‥‥教えて」
嬢ちゃんがそういうと、その町民は息を整えてから、改めて云った。
「悪魔が二人、町の外まで来ている。治安維持部隊と話してて、その悪魔はとにかく嬢ちゃんを読んで来いって言ってるんだ」
もしかして悪魔と人間の間で、何かが起こってしまったのだろうか。
約束を破る、悪魔たちを怒らせる何かがあったのだろうか。
俺は後ろの部屋にいる姐さんに声をかけると、嬢ちゃんと共に一目散に町の入口へと駆けて行った。
朝里ちゃんは休憩中だが、ギルドにはミケもいる。
最近は治安も良いし大丈夫だろう。
とにかく俺と嬢ちゃんは急いだ。
町の入り口を出ると、上空に悪魔が二人いた。
俺の知っているヤツだ。
しかし悪魔となれなれしくするのは、人間の間では受け入れられないものだ。
悪魔と友達とか言った日には、町から出て行けと言われかねない。
人間に害をなさないから放置で良いというこれだけでも、受け入れられない冒険者は後を絶たないのだ。
下手に話す事はできなかった。
「何用だ悪魔!」
俺は空へ向けて話しかけた。
「愚かな人間どもよ、少し話がある!嬢ちゃんというのはどいつだ?少し話があるから来てもらいたい。ついでにお前もだ!」
悪魔はアイコンタクトを送ってきた。
どうやら何かに怒っているわけではなさそうだ。
俺はホッと胸をなでおろした。
「分かった。二人でそちらに行こう!」
俺は嬢ちゃんと頷き合うと、二人で町から魔王城の方へと歩いていった。
嬢ちゃんは、このセカラシカの町では『ギルドの悪魔担当』みたいな感じで周知されている。
仲良くしているなんて言えないが、交渉の窓口みたいな感じだ。
だから悪魔に名前を知られているのも問題なく、此処へ呼ばれるのも特に違和感はなかった。

俺たちは神妙な面持ちで、人々の視界から外れるまで慎重に歩いた。
そして周りに人の視線が届いていない事を確認すると、ダッシュで魔王城の方へと移動した。
しばらくして俺たちは止まった。
「この辺でいいだろ?」
「うん‥‥もう誰の‥‥気配も‥‥ない」
すると悪魔たちは上空から降りてきた。
「悪い。これは多分かなり急ぎで伝える必要があったから、仕方がなかった」
「いやいや、俺たちはお前らの事は信頼している。気にしないでくれ」
「で‥‥何か‥‥あったの?」
これだけの事をしてまで伝えようとした事だ。
きっと急ぎの何かがあったに違いないのだ。
「ああ。大和王国の西に、飛騨王国ってのがあるだろ?そこの連中がこのセカラシカの町に侵攻を始めた」
一瞬何を言っているのか分からなかった。
飛騨王国が戦争を仕掛けてくる?
「それ‥‥どういう‥‥こと?」
「既に飛騨王国の軍勢約十万は、国境を越えてこちらに向かって来ている。魔王城の監視部隊が知らせてきた」
何かの間違いではないだろうか。
飛騨は確かに兵力はあるが、有能な戦士が少なくてそんなに強い国ではないと聞いている。
「飛騨にはそんなに強いヤツがいるって話はない。どうしてそんな国が攻めてくるんだ?」
この世界の戦争は、数ももちろん戦力にはなるが、一人の有能な戦士が何万何十万の兵士を上回る場合もある。
だからどちらが欠けても戦争は仕掛けられないというのが、常識としてあった。
「もしかして‥‥強い人が‥‥いるの?」
おそらくそういう事になるのだろう。
「ああ。話によると、信じられないくらいに強いヤツが二人もいたって話だ。あくまで偵察部隊からの情報だけど、一人は南ちゃんよりも強い魔力持ちだって言ってたぞ」
マジかよ。
俺よりも強いヤツなんてそうそういる訳がないと思っていたけど、案外いるもんなんだな。
かといって嬢ちゃんよりも強いかと言えばあり得ないけれど、これは面倒な事になってきたな。
だいたいなんでセカラシカに攻めてくるんだ?
そうだ。
今インターネットが繋がらないのはそういう事なのか?
王都との連絡を絶つ意味は、各個撃破する為。
つまり狙いは町ではなく、大和王国全ての可能性がある。
連絡を絶って順番に奇襲してゆく‥‥
もしかしたらもう既に王都は落ちているかもしれない。
そこまでは無いにしても、別の町が落とされている可能性はあるだろう。
いや、時間的に見ればおそらく、セカラシカの町が最初のターゲットか。
だが、確かにセカラシカの町は防衛力が弱いようには見えるが、舐めてもらっちゃ困るぜ。
嬢ちゃんや朝里ちゃんもいれば、猫魔獣が沢山住んでいたりする。
返り討ちにしてやるよ。
「ふっふっふっふ‥‥」
俺はなんだか楽しくなってきてしまった。
「どうしたの‥‥急に‥‥笑い‥‥だして‥‥」
「あ、いや。ちょっと色々妄想してしまってね。とにかく一度町に戻ろう。姐さんや卑弥呼に知らせないと」
「ああ。早く知らせて対応してくれ。俺たちはお前らが好きなんだ。こんな所で死ぬんじゃねぇぞ!」
「ありがとう。情報たすかった。この礼は終わってからするから期待していてくれ!」
俺はそういうと、嬢ちゃんを連れてもうスピードで町へと戻った。

ギルドでは早速姐さんに情報を伝え、そこから卑弥呼へも伝えてもらった。
「何かの勘違いって事もあるかもしれないが、俺は多分マジだと思う。早速東へ向かって偵察してこようと考えているが良いか?」
「そうね。まずは自分たちの目で確認しておきたいわね。嬢ちゃんと二人で行ってらっしゃい」
嬢ちゃんと一緒なら、何があっても問題ないだろう。
俺たちはすぐに東へと向かった。
魔王城の南にある渓谷を抜け、しばらく行った所で飛騨の軍隊を見つけた。
情報通り約十万の軍勢だった。
「こりゃまたすげぇ数だな。実際に見るとやべえよ」
「うん‥‥どうしたら‥‥いいんだろう‥‥」
嬢ちゃんはとても不安そうだった。
ハッキリ言おう。
嬢ちゃんが本気になれば、今すぐ魔法をぶっぱすれば、あんな十万の軍勢なんて瞬殺できてしまう。
俺のコロニーレーザーでも三発打てば十分だろう。
ただ、殺すという選択肢を、嬢ちゃんは持っていない。
だから俺も持ちたくない。
そこが問題だった。
「とりあえず飛騨の進攻はマジだった。嬢ちゃん、一旦戻るぞ」
「うん‥‥南ちゃん‥‥なんとかできるかな‥‥」
「ああ。一応作戦はある。間に合わせる為にもダッシュで戻るぞ」
俺がそう言うと、頷いた嬢ちゃんは先に町の方へと駆けだした。
直ぐに俺も後を追った。

町へ戻ると、俺は俺の作戦を実行する為、卑弥呼に素早く防衛軍を組織させた。
治安維持部隊と猫魔獣警察を合わせたものだ。
そこに嬢ちゃんとミケ、そして俺が加わる。
朝里ちゃんには万一の為、町に残ってもらう事になった。
町には他にも猫魔獣が住んでいるので、多少強いヤツが工作員として入ってきてもなんとかなるだろう。
そしてその日の内に、俺たちは渓谷まで行き、飛騨の軍勢を待ち構える準備をするのだった。
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