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新たな能力者

テレビを見ていたら、スズメバチの特番が放送されていた。
温暖化により狂った生態系が原因か、春から活動が活発らしい。
確かに五月くらいから、真夏かと思うくらい暑い日があったりする。
テレビでは、大量のスズメバチを退治する映像が放送されている。
確かに人を殺す事もあるから、退治するのも仕方の無いところだけれど、温暖化や、住処を奪っているのは、人間なんだ。
その報いを受けるのも、仕方ないと言えばそう思う事もできる。
俺は、スズメバチが少し可哀相に見えてきた。

しかし、実際退治する仕事を受けてみると、怖いんです。
テレビを見た次の日、スズメバチ退治の仕事を頼まれた。
テレビで何か放送すると、その影響力って強いのがわかる。
だからテレビでは、あれほどCMを放送しているわけだ。
頼まれたのは、郊外の一軒家を囲む大きな庭にある、スズメバチの巣の駆除。
裏手だから、普段はこちらの方にはあまりこないらしい。
テレビを見た後、心配だから探してみたら、見つかったと。
正直此処なら放っておいても大丈夫そうだけれど、近所の人に迷惑になるかな?
遠くからだけど、スズメバチが巣から出たり入ったりしているのが見える。
オオスズメバチではなく、キイロスズメバチの方だ。
思ったより小さい。
俺がガキの頃見たスズメバチは、本当にスズメみたいに大きかった記憶がある。
丸々太ったスズメバチが、頭の上5mくらいのところを5匹旋回していた。
あの時のスズメバチと比べれば、可愛いものだ。
と、言い聞かせてみても、やはりスズメバチ。
Gの生命力パワーで死にはしないだろうけれど、刺されると痛いだろう。
俺は巣が丸々入る、大きく丈夫な袋をもって来ていた。
全てのスズメバチの動きを止めて、Gで退治する方法も考えたけれど、巣ごと全て捕らえる方が楽そうだ。
「よし!」
俺は気合いを入れた。
「あなた。もしかして、スズメバチを退治する気?」
振り返ると、学校から帰ってきたばかりといった感じの、少しお嬢様っぽい女の子が立っていた。
制服は、都内で一番の、お嬢様高校の制服だ。
まあこのばかでかい庭のある家に住んでいるわけだから、実際お嬢様なのだろう。
俺の嫌いな金持ちってわけだ。
それでも俺が此の仕事の依頼を受けたのは、周りに住む人達が危険な為。
「ええ、奥様から頼まれましたので、そのつもりですが。」
なんだろうか。
顔は可愛いんだけど、いかにもお嬢様っぽくて、俺の好きなタイプではない。
でも、本能と言うか勘と言うか、俺にはこの子が凄く身近な存在に見えた。
「それ、待ってもらえません?」
少し悲しそうな目。
その目をすぐにそらして、俯く。
「私は頼まれたからやろうとしていただけなので、やめてほしいならやめますけど。」
「えっと、やめて欲しいとか、じゃなくて・・・」
どうもはっきりしない。
この人は、何が言いたいのだろうか?
「注文があれば言ってみてください。出来る限りは善処しますから。」
俺は俳優時代に鍛えた笑顔で、女の人をのぞき込んだ。
「あ、え、えっと、その、殺してしまうのは、どうかと思っただけで・・・」
なるほど。
この子も、俺やメグミと同じで、害虫だとか気持ち悪いとかで、虫を殺してしまうのが嫌なんだ。
「そうだね。ゴキブリだって、ハチだって、生きているんだもんね。」
「ゴキブリは、死んで欲しい・・・」
・・・
よくわからないけれど、Gはダメらしい。
いや、やっぱり駄目かな。
まあとにかく、殺さないように俺は駆除しないといけないようだ。
それでも、それは嫌ではない。
殺さずにできるものなら、俺もそうしたいと思うし。
「えっと、俺は高橋光一って言います。名前聞いてもいいかな?」
俺の勘どおりに身近に感じる、この女の子の名前が知りたくなった。
「えっと、神野華恵です。」
「ありがとう。神野さん。」
「えっと、華恵で結構です。」
いきなり名前で呼んでくれって人も珍しいな。
まあ、どっちでも良いけれど。
「うん。では、スズメバチを殺さずに、どうすれば良いか考えるか。」
華恵ちゃんは、嬉しそうだ。
だから、ふと、聞いた。
「もしかして、ハチが好きなの?」
「ええ、大好きです。」
ハチが大好きって人も珍しい。
だから、理由が有るんじゃないかと思った。
「どうして、好きなの?」
華恵ちゃんは少し照れくさそうに、そして少し真剣にこたえてくれた。
「前に私、誘拐されそうになった事があったの。その時に「たすけてー!」って言ったら、スズメバチが助けてくれて。偶然そう見えただけなのだろうけど。」
もしかして、この子も?
俺は何となく確信した。
会ったばかりなのに、この身近に感じる感覚。
最近メグミといる時の感覚に近い。
「ちょっと、お願いしても良いかな?」
俺は、真実を確かめる事にした。
「何をです?」
「あのスズメバチに、巣に戻れって、命令してみてくれない?」
「な、なんで?恥ずかしいですよ。」
まあ、いきなりこんな事頼まれて、言ってくれる子も少ないだろう。
どうするかな。
「どうしても、確認したい事があるんだ。」
俺は、良い案が思いつかず、とにかく頼み込む。
「あのスズメバチを殺さないって、約束してくれるなら・・・」
おっ!マジで?
この子良い子かも。
俺基準で!
「うん。約束するから。お願い!」
俺は顔の前で手を合わせた。
「で、では・・・」
・・・
「約束ですよ?」
顔を少し赤らめて躊躇していた。
「うん。」
やはり恥ずかしいようだ。
「えっと、巣に戻りなさい!」
・・・
真っ赤になって、俯いた。
可愛いと思った。
おっと、華恵ちゃんを見ている場合ではなかった。
命令されたハチは・・・
巣に戻っていった。
「戻りましたね。」
「華恵ちゃんは、ハチと会話ができるんだね。」
「したことないですよ。」
そらまあ、知らなかったみたいだからな。
「もう一つ、聞いても良いかな?」
「何を?」
もう一つは、温暖化により、永久凍土が溶けている場所に、行った事があるかどうかと、夢を見たかどうか。
「ハチに助けてもらったのって、何時?」
「数ヶ月前だけど。」
「じゃあ、その前に、北極とか南極に近い場所に、旅行なんて行ったりした?」
「ええ、旅行は頻繁に行きますから、行っていると思うけど。」
やっぱり。
後は夢。
「じゃあ、ハチの神様が出てくるような夢は見たりしてない?」
これで見ていれば、華恵ちゃんも間違いなく、俺達と同じ。
「んー、夢はあまり覚えていない方なので、でも、ハチに助けられる夢はよく見てる気がするかも。」
このままでは微妙だな。
さっきのハチは、偶々巣に戻った可能性もある。
此処はわかりやすい命令をするべきだ。
「もう一度、今度は、巣にいるハチ全てに命令する気持ちで、此処に集まれって、言ってみて。」
「どうしてそんな事を?もしかして、私って、ハチとお話できるの?」
「おそらくは、全てのハチと話ができて、自在に操る事ができると思う。」
「何故光一さんが、そんな事わかるの?」
ココまで話して違っていたらごまかせない気もするが、おそらく華恵ちゃんは、ハチを自由にできる、俺達と同じ能力者だと確信していた。
だから話しても問題ないだろうと思った。
「俺も、別の虫を自在に動かせるんだ。」
「まさか、そんな事あるわけないよ。」
「だから、試してみて。」
・・・
華恵ちゃんは、少し腑に落ちない感じだったが、しっかりした声で、巣に向かって叫んだ。
「みんな集合!」
すると、1匹、また1匹と、スズメバチが巣から出始めた。
そのハチ達は、迷う事なくこちらに向かってくる。
華恵ちゃんは少し怖がっていたが、俺が後ろから肩に手を置いて、逃げられないようにした。
ハチはドンドン集まってきて、30秒ほどで、大量のスズメバチが目の前で空中停止していた。
「どうだ?言う事聞いてくれただろう?そのまま、あっちの山で生活するように、言ってみな。」
華恵は最初怖がっていたけれど、既に愛するものを見る目になっていた。
「ごめんなさい。此処に巣があると、みんな怖がるから、あっちの山の中で、暮らしてくれない。」
命令って言うよりは、お願いだ。
何となく、華恵ちゃんの人となりが伝わってきた。
スズメバチ達は、なんとなく頷いたような気がした。
「じゃあ、巣を山の方に持っていくか!」
俺は無人ならぬ無ハチになった巣を、借りた鋸で切って袋に入れた。
巣と華恵ちゃんを車に乗せて、山へ向かう。
自動車で行けるところまで言って、後は歩いて15分。
先ほどのスズメバチ達が向かった辺り。
木に付ける事はできなかったので、少し洞穴みたいになっている所に入れた。
「どうだ?さっきのスズメバチ達が、何処にいるか感じないか?」
「なんだろう?わかるよ。」
「この能力、いろいろ後で説明するけど、華恵ちゃんは、ハチのいる場所ならすぐわかるんだよ。」
「うん。此処に、巣、置いておくからー!」
華恵ちゃんは、おそらくスズメバチがいるであろう方向に叫んだ。
その表情に、この能力に対しての驚きはなく、とてもすがすがしい笑顔をしていた。
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