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始まりの日

今日は7日、学生なら春休み最後の日。
俺は4日の敗戦から立ち直り、なんとか知里ちゃんにメールを送った。
別に決勝戦の話をしたわけではない。
ああ、まあ、言ってしまえばデートしませんか?みたいなぁ。
メールでって言うのがポイントだ。
電話でなんて、恥ずかしくて言えるわけないのだ。
で、返事がきたんだけど、あっさりとオッケーだった。
返事は、「いいよぉ~♪」と書いてあった。
たったこれだけの返事ってのも寂しかったが、それ以上に嬉しくて、俺は部屋で一人、はしゃぎまくった。
当日、俺は新宿アルタ前で知里ちゃんを待つ。
時間は午前10時。
俺は14時くらいに待ち合わせしようとしたんだけど、どうやら森学の女子寮からココまで、3時間以上かかるらしく、それだとあまり遊べないらしい。
だからって10時に待ち合わせじゃ、ほとんど始発じゃね?
俺としては嬉しすぎる事なんだけど、知里ちゃんは大丈夫なんだろうか?
そんな事を前日から考えていたわけだけど、やはりと言うか、30分ほど前にメールが届いた。
内容は、「遅れちゃうよぉ~ごめんなさいだよぉ~」
・・・
いや、遅れるのは、俺は一向にかまわない。
だけどこれだと、どれだけ遅れるねんって話。
俺はメールを返信する。
「どれくらいおくれそう?」
送信っと。
しばらくすると、メールが返ってきた。
「320bitまでならタダだよぉ~」
・・・
意味がわかりません。
なんですか?
どこかの国の通貨ですか?
俺は再び返信する。
「意味がわかりません。」っと。
しばらく待つと、再び返事が返ってくる。
「えっとぉ~全角で20文字かな?」
どう理解すれば良いのだ?
全角で20文字ほど遅れるって。
ん?
遅れる?
おくれる。
送れる。
ああ、なるほど。
直通メールで送れる容量か。
って、わかるかぁー!!
俺は再び返信メールを打ち込む。
「そうだね。20文字だね。で、知里ちゃんは」
これで20文字か。
少なくね?
って、俺の機種は200文字だったぞ。
文字数も天然に間違っていたのか。
俺は再びメールを打ち直す。
「違うよ。200文字までオッケーだよ。で、知里ちゃんは、今日の待ち合わせ、どれくらい遅れるのかな?」
今度は漢字で書いたし大丈夫だろう。
しばらくすると、またメールが返ってきた。
内容を確認。
「さっき、メール書くのに夢中で、駅降りるの忘れてたよぉ~」
・・・
知里ちゃんて、こんなに天然だったんだ。
あんなにゲームでは強いのに。
ガッカリ・・・
なんてするわけない。
むしろ大歓迎、ますます好きになった。
まあそんなわけで、結局何時間遅れるかわからないけれど、俺は今、ただただ待っているってわけだ。
今が10時だから、最悪14時くらい、早くても後1時間はこないだろう。
そう思っていたけど、知里ちゃんは10分後、俺の前にあらわれた。
 知里「ごめんだよぉ~」
走ってきた知里ちゃんは、俺にすがりつくように俺の肩に手を置いた。
な、なんて幸せなんだろう。
たった10分の遅れで、俺はこれだけの感動を得る事ができた。
だったら1時間でも2時間でも待つっちゅーねん。
 大輔「いやいや、たった10分だし。それに電車ちゃんと降りてれば、間に合ったんじゃない?」
そうだ。
メールして乗り過ごさなければ、きっと間に合っていたはず。
 知里「違うよぉ~。駅に到着が9時59分予定だったから、30秒は遅れてたよぉ~」
なんと!
たった30秒遅れるからって、メールで謝ってきたのか。
 大輔「知里ちゃん、君はなんてステキで良い子なんだーー!!」
あれ?
俺の心の声が、マイイヤーから聞こえてきたのだけど、気のせいかな?
 知里「え、えっと・・・そ、そんな事ないよぉ~」
やばい。
可愛い。
てか、アルタ前で向かい合って、俺達は何をしているのだろう。
通り過ぎる人々の視線が痛い。
 大輔「えっと、じゃあ、とりあえず、ちょっとお茶でもするか。」
 知里「うん。」
なんだなんだ、この中学生の恋愛のような空気は。
純粋にもほどがあるだろう?
俺、高校生の頃彼女いたし、一通り経験していたはずだ。
おかしい。
俺はいつからこんなピュアボーイになってしまったんだ?
もしかして、付き合っていたのは全て夢だったとか?
 知里「あ、アイスクリームがおいしそうだよぉ~」
ちょっとお茶が、アイスクリームですか?
望むところです。
俺は飯の代わりに、チョコパフェを食う男なのさ。
 大輔「じゃああそこでアイスを食べよう。」
俺は知里ちゃんをつれて、アイス店に入った。
おっと、ココは、女性同伴でしか入れない店らしい。
て、アイス屋ってよりは、フルーツ関係の店なのかな?
フルーツパフェにフルーツポンチ、杏仁豆腐。
ああ、なんて甘い。
 知里「じゃあ私は、トリプルアイスパフェを~」
 大輔「じゃあ俺も。」
選ぶのも面倒だし、アイスだったらなんでもいいや。
俺はただただ、知里ちゃんの顔を眺める。
いやぁ~、目の前に、あの知里ちゃんがいるのですよ。
俺は今人生最良の日を過ごしているのではないだろうか?
 知里「大輔ちゃん、決勝は負けたと思ったよぉ~」
なんの話だ?
俺は頭にクエスチョンマークを出してみる。
 知里「バトルグリードのチーム決勝だよぉ~」
ああ、あれか。
すっかり忘却していた。
 大輔「いやぁ、俺も勝ったかと思ったんだけどね、神が俺に試練を与えやがってね。」
もう負けた事なんてどうでも良い。
目の前に知里ちゃんがいるだけで良いのだ。
 知里「そうなんだぁ~。最後どうして攻撃しなかったのぉ~?」
 大輔「ん?あれか。あれは、俺がコントローラーを引っこ抜いてしまって、一瞬フリーズしちゃったんだ。」
いやぁ、ホント頭真っ白になっちゃったよ。
 知里「ええ!そんなトラップがあのゲームにあったんだぁ!普通コントローラーが抜けても、フリーズしないよねぇ。」
 大輔「そ、そう?まあ俺が焦ってたからフリーズしたんだろうね。」
 知里「ええ!人が焦ってる事を、ゲーム機が察知しちゃうのぉ~!ビックリだよぉ~!」
なんだか話がかみ合ってるようでかみあってないけど、まあ知里ちゃんが目の前にいるから良いのだ。
 店員「おまたせしました。トリプルアイスパフェです。」
「ドンっ!ドンっ!」と、二つおかれたトリプルアイスパフェ・・・
ドンって、ドンだけぇ~って感じ。
うまい!
 大輔「そんな事いってられるかぁー!!」
 知里「だ、大輔ちゃん、急にどうしたのぉ~?」
おっとやばい、少し我を忘れそうだった。
風邪の谷のナオシカ、私を沈めておくれ。
 大輔「ああ大丈夫。チョッピリパフェが大きかったから、嬉しくなっちゃって。」
 知里「そうなんだぁ~。私も、ほんのチョッピリ大きいから、嬉しくなっちゃったよぉ~」
いやいや、これをほんのチョッピリっていうのはどうかと。
トリプルだから、3倍なのはわかるけど、縦横両方3倍だから、実質9倍なんじゃね?
まあ、値段は・・・5倍くらいだから、良心的っちゃ良心的だ。
お得だね。
 大輔「じゃあ、食べようか!」
 知里「食べちゃうよぉ~」
・・・
ああ、パフェを一生懸命ほおばる知里ちゃん、ステキだ。
 大輔「いや、ステキってか、もう抱きしめたくなるね。」
 知里「何がぁ~?」
うわぁ~口の周りにアイスつけちゃって可愛い。
 大輔「いやね。知里ちゃんがあまりに可愛いから、ついうっかり抱きしめたくなるんだよ。」
って、やべ、本音だ。
 知里「え、えっと・・・大輔ちゃんも、かわいいよぉ~・・・」
あれ?知里ちゃんが真っ赤だ。
俺も真っ赤だ。
ツタ~の葉っぱも真っ赤だなぁ~♪
いやそれはどうでも良い。
喋れない・・・
何を喋れば良いのだ?
こんな時、世の男と女は何を語るのか?
 知里「大輔ちゃんと、こうやって会うようになるなんて、不思議だねぇ~。」
ん?それは、俺の第一印象は、なによこのカス男は!みたいな感じだったのだろうか?
 大輔「最初、俺っておかしかった?」
 知里「ん~・・・おかしかったよぉ~」
ええ!!ショックー!!
 大輔「ど、どのへんがおかしかったかな?顔?それとも神経?」
 知里「顔なんて見えないよぉ~!」
ガーン!
顔すら見てくれてなかったのか・・・
 大輔「そ、そう。じゃあどのへんが?」
 知里「ん~。面白いギャグばっかり言ってたよね。だからとってもおかしくて笑っちゃったよぉ~。」
何それ?
おかしいは、面白いの意味か。
でも俺、知里ちゃんにそんな恥ずかしい姿を見せた事ないけど。
俺が駄洒落が好きだとか、面白おかしい事言うのは、一部の親しい友人しか知らないはずだ。
 大輔「俺、そんな事言った記憶、ないけど・・・」
 知里「え~。毎日言ってるよぉ~!」
なんと!
俺は知らず知らずに、そんな事を言っているのか。
 大輔「って、毎日?」
 知里「うん。毎日だよぉ~」
なんだ?
夢の中で俺が出てきて、そんな事を言ってるとでも?
もしかして知里ちゃんは、天然なだけでなく、世界一のイタイ子なんでは・・・
ガクガクブルブル・・・
 大輔「毎日、会ってないよね?」
 知里「ん~。偶に休むよね?」
 大輔「休む?」
 知里「うん。だからその時は、一人で狩り行ってるよぉ~」
 大輔「狩り?」
 知里「うん。あの街、なんだっけ?首都の港から行ける・・・」
ああ、リノ2の話してたのか。
って、いつも一緒に狩り行ってるって・・・
 大輔「チサト?」
 知里「あれ?言って無かったっけ?」
 大輔「聞いてないし言ってない。」
 知里「あれ~そうだったんだぁ~。」
・・・
 大輔「なんで俺だってわかったの?」
 知里「なんでだろぉ~?」
おいおい、勘なのか?
普段の俺と、リノ2で使ってるキャラ、雅之は、全く印象違うと思うけど。
愛の力か?
 知里「ああ、これかも~。」
そういって知里ちゃんが、携帯を差し出した。
そこには、俺が知里ちゃんに送ったメールがあった。
 知里「ほら、今時、半角記号だけの顔文字使う人、いないよねぇ~」
俺は面倒だから、顔文字登録はしてないからな。
 大輔「って、ええーーー!!!知里ちゃんとチサトが同一人物!!」
 知里「読み方変えてるだけだから、わかると思ってたぁ~」
じゃあなにかい?
俺と知里ちゃんは、知らず知らずのうちに、5年も前から知り合っていたと。
それも、ゲーム内とは言え、とても仲良しだったと。
なんせゲーム内で俺が連んでるのは、チサトと、ゴッドブレスの仲間だけだ。
 知里「雅之には、私かなり助けられたよねぇ~」
 大輔「ああ。」
あれは俺もチサトも、まだゲームを始めたばっかりの頃、チサトは一人でゲームをしていたんだ。
俺ももちろん一人。
で、狩り場で狩りをしてたら、チサトの狩りがあまりに見事で、つい話しかけてしまったんだ。
その頃、友達がいないって言ってたチサト。
だから俺は放っておけなくて、なんとなく連むようになった。
それからすぐに、チサトには友達が沢山できたらしい。
悩みを聞く事は無くなったけど、俺達は一緒していた。
2年くらい一緒してて、かなり仲良くなって、気が向いたら会おうかとも話してたっけ。
でも、突然チサトがリノ2にこなくなった。
何かあったんだろうけど、俺は何も出来なかった。
なんせつながりは、リノ2だけだったから。
で、再び会ったのが、俺が高校1年の2月。
チサトが中学3年の2月。
受験勉強をしていたって言ってたけど、チサトはなんとなく出会った頃のチサトに戻っていた。
友達のいなかった頃に。
聞いても友達はいると言っていた。
俺は傷つけるのが怖いから、どうして良いかわからなかった。
当時付き合っていた彼女にも相談してみた。
あまりいい顔はしてくれなくて、何も言ってくれなかったな。
今思えば当たり前か。
で、なんとか聞き出せたのが、春休み。
好きだった先生が亡くなったとか。
その先生に助けられて、友達も沢山できたとか。
俺はどうしたらいいかわからなくて、寒いギャグとか言いまくって、なんとか笑ってもらいたくて。
それから半月くらいして、チサトはまた元気になったんだ。
新しい友達が出来たから、楽しく頑張れそうだって。
そういや、ゲーム部で頑張ってるって言ってたな。
バトルグリードの話しも少しはしたかもしれないけれど、記憶にないから大した話はしていなかったんだろう。
リノ2をやってるわけだから、基本はリノ2の話。
それ以外は、俺が寒いギャグを言ってるくらいか。
それでも、今思えば、知里ちゃんとチサトが重なる事が多い。
友達にゲームの天才がいるとか言ってたし。
俺は、知里ちゃんを好きになって当然だったんだ。
何故なら俺は、チサトが放っておけなくて、会いたくて、とても好きだったから。
 大輔「そう言えば俺、チサトの事守ってあげるって、言ってたよな。」
 知里「うん。チサトはちゃんと守られていたよぉ~。寂しくても、頑張ろうって思ったもん。」
 大輔「そう言えば俺、ゲームの世界が実現したらとか、言ってたよね。」
 知里「うん。言ってた。実現しちゃう?」
 大輔「ああ、知里ちゃんが良ければ、俺は絶対そうしたいね。」
 知里「うん。じゃあ、とりあえずは、私の・・・」
 大輔「うん。俺の彼女になって・・・YO!」
 知里「ははは。うん。」
俺達がゲーム内で行った事。
このゲームには、結婚システムってのがあって、キャラ同士結婚させる事ができる。
だから俺は、守ってあげる約束を果たす為、ゲーム内で結婚したんだ。
いつのまにか、目の前のトリプルアイスパフェは、溶けてシェイクみたいになっていた。
でも、今の俺達には、これを楽しめるだけの相手がいたから。
二人で一気に飲み干して、店を出た。
中学生のようなピュアな恋愛をしているみたいだけれど、それで間違いないのだ。
俺達は、ゲーム内では、中学生から恋愛をしていて、今チサトと初めて会って、リアルの恋愛を始めたばかりなのだから。
 大輔「わかってしまうと、チサトの方がしっくりくるな。」
 知里「じゃあ、私は雅之だぁ~」
 大輔「・・・いや、大輔って呼んでくれ!」
 知里「じゃあ、私も知里だよぉ~」
 大輔「だな。」
 知里「うん。」
俺達はこの後も、新宿で遊べるだけ遊び倒した。
今日だけは、お金なんて考えずに遊んだ。
なんせ今日は、俺の超幸せ人生スタートの日なのだから。
【<┃】 【┃┃】 【┃>】
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