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カズミン~和己と夢~

バトルグリード全国大会決勝。
俺は姉貴に勧められて、テレビを観ていた。
姉貴が卒業したばかりの高校、そこのゲーム部の後輩が出ているらしい。
別にゲームに興味が無いわけではない。
でも、特に好きだという訳でもない。
俺は特に本気になれるものがなくて、ゲームもその中の一つというわけだ。
そんなゲームの一つである、バトルグリードの決勝を観て、俺は少し感動していた。
いや、正確には、ある一人の女性に。
たかがゲーム、そんなものに本気になる気がしれない。
そうは思うのだけど、この女性のプレイは、俺を魅了していた。
高鳥うらら、それが彼女の名前。
俺はメモした。
書かなくても、それくらい既に覚えていたけど、なんとなく書いた。
ゲームが終わった後、そのうららさんが、同じゲーム部の部長に告白していた。
ショックだった。
全く知らない人が、全くしらない人に告白しただけなのに。
でも、ショック以上に、更にうららさんが好きになっていた。
強く魅力的な彼女に。

入学式を終え、俺はうららさんと同じ場所にたっていた。
そう、偶々なのだが、俺は同じ学校に通う事になっていた。
歳は2つ上だけど、そんな事は関係ない。
絶対、俺の彼女にしたい。
その想いが、俺をゲーム部へと誘った。
初めての顔合わせは最悪だった。
うららさんには、そっくりな妹のきららってのがいて、俺は間違ってしまったのだ。
初めて会った人で見分けたのは、部長の達也先輩だけで、みんな気にする事はないって言っていたけど、俺は悔しかった。
好きな人を間違うなんて。
だから俺はしばらくの間、うららさんを観察していた。
ゲーム部での活動目標は、うららさんときらら先輩を見分ける事ができるようになる事。
俺は本気だった。
今までこんなに本気で何かにとりくんだ事は無かった。
そして9月になる頃、ようやく完璧に見分けられるようになった。
だから俺は、意を決して告白した。
返事は、バトルグリードで勝負して勝ったら、付き合ってくれると。
俺はゲーム部にいたけど、全く真面目にやっていなかったし、勝てるわけも無かった。
一応期間は、うららさんが卒業するまで。
挑戦は10回を越えた。
それでも、結局卒業まで、一度も勝てなかった。
種目シングルでは、ドリームが絶対的強さを誇っていたし、知里先輩のダストもそれに近い強さだ。
その影に隠れていたせいか、ただあまり参戦していなかったからか、どちらかはわからないけれど、うららさんのブライトは、少なくともダストには負けない強さがあった。
俺は悔しくて、夢先輩と組んで、全国一を目指した。
せめて見返す為に。
そして見事全国ナンバーワンになったけど、今回は夢先輩の力で勝てたと言われても否定できないと思った。
夏の大会、俺はシングルでナンバーワンを目指す。
俺の順位は、決勝戦進出確定日前日に3位だった。
ドリームと対戦するには、後一つ順位を上げないといけない。
知里先輩に頼んで、ゴッドブレスの大輔さんに連絡してもらう。
2位の沙羅さんと、直接対決がしたいと。
直接対決で勝てば、俺が2位になれる。
対決の申し込みは、快く受け入れて貰えた。
対戦時間を合わせて、俺達のバトルが組まれる。
バトルが始まった。
互角の勝負。
流石に今まで、夢先輩に練習に付き合ってもらっていたから、かなりやれる。
敵はドリームとほぼ同じ武装だ。
ドリームにはほとんど勝てないけれど、このレッドストーンならいける。
そして、俺は勝った。
その後、勢いに乗ったからか、決勝でドリームにも勝った。
夢先輩は負けたのに、俺の強さを、いや、強くなるためにした努力を誉めてくれた。
この時思ったんだ。
俺は高校に入るまで、何も努力して来なかったけど、努力するのも良いものだと思った。
うららさんに、そして夢先輩に、俺は教えられたんだ。
そしていつのまにか、俺はうららさんと同様、いや、それ以上に、夢さんが好きになっていた。
春の大会も一緒に頑張って、あの辺りから俺はきっとわかっていた。
凄く気が合って、二人だと普通よりも大きな力が出せる事を。


我がゲーム部に、あの頃のメンバーは俺だけになっていた。
正確には、サークル☆ドリームダストのメンバーは、皆、森学ゲーム部を辞めていた。
新しく新入生が30人ほど入ってきたので、皆☆ドリームダストに専念する事にしたのだ。
だから今後は、もしかすると森学ゲーム部が俺達のライバルになるかもしれない。
でも、いままで積み上げて来た努力が、そう簡単に覆されるなんて、全く思っていないけど。
で、時は流れて2014年の春。
夢先輩も、知里先輩も、あの五月蠅い今日子も、皆卒業していった。
かといって、俺達のつながりが無くなるわけではない。
サークル☆ドリームダストは、まもなく会社となり、俺も来年にはそこの社員になるのだから。
それに夢先輩とは、バトルグリードで一緒している。
シングルでは、ドリームとカズミンの決勝が決まっていた。
ダブルでも、チームでも、俺達のペア、チーム共に決勝進出だ。
チームダブルは、二人ではでれないので今回は辞退。
たしか森学ゲーム部か、ゴッドブレスの人達が出ていたと思う。
知里先輩は、ゴッドブレスの大輔さんと一緒にダブルにでていて、決勝での俺達の相手だ。
この二人は付き合って既に1年になるし、コンビネーションも抜群な強敵だ。
でも、俺達は負けるつもりは全くないけど。
コンビネーションだって、絶対に負けていない。
付き合おうとはっきり言ってはいないけど、俺と夢先輩は、最近はいつも一緒にいるんだ。
って、はっきりさせても良いんだけど、それは今日の大会で優勝したら言う予定。
うららさんを越える為に。

 アナ「シングルは、☆ドリームダスト同士の戦いとなりましたが?」
 和己「当然です。」
 夢「う、うん。」
 アナ「えらい自信ですね。」
 和己「俺達が他に負けるなんて、ありえません。」
 夢「ちょっと言い過ぎだって。」
 和己「俺達は誰よりも努力してきたんだから、言うくらいは良いんだよ。」
そうだ。
俺達は努力してきたんだ。
 アナ「そうですか。では、早速シングル決勝を始めてもらいましょう!」
俺達は、それぞれの席についた。
最近の戦績は、ほとんど五分。
若干ドリームの方が上かってくらい。
スピードのあるドリームに、正確な操作で俺のカズミンが挑む。
接近出来ればこちらが有利だけれど、そう簡単にはいかない。
ゲームがスタートする。
ドリームが開始直後から接近しない相手なんて、おそらくはカズミンだけだ。
まずは離れた位置で様子を見る。
ドリームが警戒しているだけで、俺のカズミンが強い事が観衆に伝わる。
それだけドリームが築きあげてきたものが、大きいって事だ。
お互い正確な攻撃に、正確な回避。
ゲージはお互いに減らない。
このところは、判定での決着ばかりだ。
5分では勝負はつかない。
でも今日は、無茶もしてみたい気分。
俺はブーストも使って、一気に左から回り込む。
近距離まで近づいた。
イニシアチブはドリームにある。
ビーム弾がカズミンに命中する。
それでも急所は完全に避ける。
今度はこちらの番だ。
今日の対戦の為に、密かに機関砲を搭載しておいた。
普通なら、ビームバルカンを搭載するスペースに。
連続する発射音。
ほとんどがドリームに命中する。
一気にゲージは逆転だ。
うまくいった。
これで後は普通にやれれば、俺の勝ちだ。
しかし流石にドリームだ。
一気に接近してきた。
本来なら、こちらが更に有利になったと言えるだろうが、今日はビームバルカンは積んでいない。
そのメリットは既に使用済みだ。
だからココからの戦いは、敵が夢先輩だけに五分。
ミスした方が負けるか、ミスしなければ俺の方が有利。
ドリームはビームバルカンとビームソードでの連携攻撃。
こちらはビームソードだけ。
ただ、こちらのビームソードの方が威力がある。
なんせこちらは、移動スピードよりもパワーを少しあげているから。
夢先輩は、素早い動作での連続攻撃。
相手が夢先輩以外だったら、こんな攻撃はできない。
素早い指さばきがなせる技だ。
それを正確に押さえながら、俺も攻撃する。
それを正確に押さえられ、また連続攻撃が襲ってくる。
ミスしたら負けだ。
同じような事の繰り返し。
しかし俺は、今日はミスする気がしない。
不思議な感覚だ。
告白したい、ただそれだけをすると決めただけで、人はこれほどの感覚を手に入れられるのか。
あの時のうららさんも、今の俺のような感覚を味わっていたのだろうか。
息つく間もない時間。
このまま終わるのか?
 夢「あっ!」
ドリームの連携攻撃が崩れた。
その分こちらに余裕が出来た。
俺の得意な急所攻撃。
一番攻撃を受けたくない場所、右腕の関節を正確に捉えた。
この攻撃が決めてとなり、俺はシングルで優勝した。
 アナ「おめでとうございます。」
 和己「ありがとうございます。」
 アナ「どうですか?ドリームを倒した気持ちは?」
 和己「嬉しいです。」
俺は夢先輩を見つめていた。
そして見つめ続けた。
 アナ「あのぉ~、こちらに、マイクに話して・・・って、愛でも語りそうな勢いですね?」
俺がずっと夢先輩を見つめていて、夢先輩が照れていたから、アナウンサーも悟ってくれたようだ。
 アナ「えっと、愛をささやくのは、帰ってから・・・」
 和己「今じゃだめですか?」
 アナ「えっと、どうぞ!」
 和己「夢・・・さん、愛しています。付き合ってください。」
俺は右手を出した。
 夢「え、え、あっ・・・うん。」
真っ赤になった夢さんが、俯いて、俺の右手を握ってくれた。

1年後、俺は夢と共に会社で頑張っていた。
森学に入った頃には考えられない事。
頑張る事が嫌だった俺に、頑張る事のすばらしさを教えてくれたうららさん。
そして、頑張りの中で生まれた恋と、努力を認めてくれた恋人。
今の幸せが、頑張り努力する事を肯定してくれる。
何故俺は、一生懸命に生きる事がいやだったのだろう。
何故、格好悪いと思っていたのだろう。
わからないけれど、もし同じような気持ちを持っている人がいたら言いたい。
たとえ無駄な事でも、頑張って努力する事は、無駄にはならないと。
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