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二十七回目

 今日も俺は、レベルを上げる為に、いつもの交番に来ていた。
 キムタクと、お姉ちゃんと、そして陽菜ちゃんの顔を見るのは、もう当たり前の毎日になっていた。
「さっかもっときゅ~ん。今日も元気かぁ~い!」
 そう言う安藤の顔だけは、日に日に見たく無くなってゆくわけだが、どうしてこんな奴が、警察官になれたのだろうか。
 それとももしかしたら、この安藤もまた、リアの被害者なのかもしれない。
 俺はリアの恐ろしさに身震いした。
 さて、今日も俺は、四人で町中や公園を走る。
 走る順路は特に決まってはいない。
 全ては俺の気まぐれた。
 だけど今日は、キムタクから、コース、と言うか、タイムスケジュールに注文が入った。
「今日は、適当な時間に、公園で休憩したいんじゃが」
 キムタクは、この歳なのに、今ではマラソン大会の時に競った、陸上部並に走るのが速いと思われる。
 もしも六十歳以上限定のオリンピックがあったら、世界に通用するのではないだろうか。
 そんなキムタクが、休憩を入れて欲しいとな?
「ええ、分かりました」
 理由は分からないが、俺は休憩を入れる事を了承した。
 一時間以上走ってから、とりあえず俺たちは公園で休憩する事にした。
 ぶっちゃけ全く疲れてはいないが、まあ偶にはこんな日も良いだろう。
 陽菜ちゃんは、キムタクともお姉さんとも、話すのが楽しいみたいだし。
 ベンチに座って、楽しそうにしているみんなを見ていると、なんだか家族のようだ。
 キムタクがお父さんで、お姉さんがお母さん?
 なんだかややこしいな。
 そんな事を考えていると、おじいさんのようなお父さんのキムタクが、ポケットから何やらとりだした。
 レシートのようだけど、やたらと貯め込んでいるようだ。
 よく見ると、それはアイテム交換の番号が書かれた、アイテムチケットだった。
「陽菜ちゃん、これをあげよう。アイテムが貰えるんじゃろ?」
 キムタクはどうやら、陽菜ちゃんに上げる為に集めていたようだ。
 なるほど、以前キムタクが執拗に尋ねてきたのは、こういう事だったのか。
 俺はなんだか心が和んだ。
 柄にもなく、俺がその和む情景を眺めていると、お姉さんが俺に、アイテムチケットを差し出してきた。
「じゃあ私は、直也くんに上げるね」
 おいおいおいおい~。
 ちょっと嬉し過ぎるじゃねぇかよ。
 こんな綺麗なお姉さんが、俺にこんなプレゼントをくれるなんて。
「あ、ありがとう」
 俺は照れる顔を必死に隠して、アイテムチケットを受け取った。
 俺と陽菜ちゃんは、早速スマフォを取りだして、番号を登録し始めた。
「きゃー!このアイテム可愛い~!」
 なんて言って、陽菜ちゃんは大喜びだ。
 その姿を見て、キムタクも満足げだ。
 一体どんなアイテムが貰えてたのか気になって、陽菜ちゃんのスマフォを覗いてみると、「クマの鎧」だった。
 それは、クマのきぐるみのような装備で、「エビの鎧」のように、いくつかの装備個所を利用する装備アイテムだ。
 能力的には「エビの鎧」に似ているが、必要装備個所が、兜、鎧、靴の三か所だけで、「エビの鎧」よりも高性能の装備アイテムだった。
 こんな良い装備、一体いくらの買い物をすれば貰えるんだよ。
 俺は疑問に思ってアイテムチケットを見ると、二十万円の会計記録が残っていた。
 おいおいおいおい~。
 キムタク気合入りすぎだろw
 だけどまあ、分からないでもない。
 こんな嬉しそうな陽菜ちゃんの顔を見る事ができるわけだからね。
 でも、一つだけ俺は反論したい。
 この「クマの鎧」・・・可愛いか?
 顔に傷があるし、眼帯してるし、耳が半分えぐれてるし、縫い目がいっぱいだし。
 女の子の「可愛い」は、俺には一生理解できないのだろうと思った。
 さてそれよりも、俺は「俺」のアイテムをチェックだ。
 すると俺が前から欲しかった、「切れる厨二病サーベル」が手に入っていた。
「やっほーい!」
 俺は一瞬、我を忘れて大喜びしてしまった。
 しまった、と思ったが既に遅い。
 俺は踊るように立ちあがっていた。
 そしてその格好のままで、固まってしまった。
 お姉さんや陽菜ちゃんも固まったまま、俺を見つめていた。
 この状況を打開する策を探してみたが、俺の頭の中には、そんなものはなかった。
 どうする事もできず、俺は固まり続けるしかなかった。
 だけど次の瞬間、陽菜ちゃんも立ちあがって、俺と一緒に手を挙げて、踊るような格好をした。
 と言うか、踊りだした。
 するとお姉さんも、そしてキムタクも踊り出した。
 俺はなんだかどうでもよくなってきて、気がついたら一緒に踊り出していた。
「わーい!わーい!」
 陽菜ちゃんが楽しそうに声をあげた。
 するとお姉さんも、キムタクも声をあげた。
「わーい!わーい!」
 なんだか楽しい気分に感じてきた。
 でも、夜にこんな声をだしていると、きっと近所の人には、聞こえているのだろうな。
 少し恥ずかしい気持ちもあったが、俺も一緒になって、声を出した。
 後で振り返ると、この時の俺は、きっと何かに操られていたに違いない。
 その日布団に入ってから思い出し、恥ずかしさから頭の中がムニムニして、すぐに眠りにつく事はできなかった。
 ちなみに、この日手に入れた「切れる厨二病サーベル」は、「切れる中二病ソード」の上位武器で、その威力は凄まじいものだった。
「俺」はまた、一気に強くなっていた。
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