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第四話 エイリちゃんの復活と不老の存在

スタッフに付ける魔石の効果は決まったが、どのモンスターの魔石にするのか、二人は相談していた。
「元々付いていた宝石ってなんなの?」
「それがよく分からないさ。赤い宝石なんだけどさ‥‥」
映里はそう言いながら、異次元からその赤い宝石の欠片を取りだした。
異次元魔法使えるんかーい!
日本人以外ほぼ使えないと思われた魔法だったが、映里は日本人でもないのに使えるようだった。
日本人と違うよね?
神様も自信がなくなるほど、映里は割とチートレベルだった。
「この欠片は‥‥ルビーではない。魔石だね。何かの魔石だけど、赤い魔石って言えば、聞いた事があるのはレッドドラゴンくらいか」
この世界のモンスターの魔石は、概ね紫色をしている。
偶にレア物として緑がかったものもあるが、それ以外はほとんど確認されていない。
「付いていたのはこの大きさだったのさ」
映里が指さした先は、スタッフに宝石が付いていたであろう形跡そのままの大きさを示していた。
それはかなりの大きさで、スタッフに使用できる宝石としては、あり得ないサイズだった。
つまり、ほぼ間違いなく魔石であると言えた。
しかも金属で装飾加工していなかった事から、最大級のモンスターの魔石と断言できた。
「魔石の大きさや性能にこだわらないなら、うちにある魔石で対応できるけど、かなり装飾でごまかす事になる。でも映里は、そんなんじゃ納得しないよね」
拳魔は、どうせやるなら最高のスタッフに仕上げたいと思っていた。
自分にどれだけのモノが作れるのか試してみたかった。
そして良いモノにしたいというのは、映里の想いと同じだと確信していた。
「当然なのさ。おばあちゃんに貰った大事なスタッフなのさ」
映里の言葉を聞いて、拳魔は思った事を自然と口に出していた。
「もしかして、そのスタッフは形見なのかい?」
きっとおばあちゃんはもう亡くなっているのだろうと思った。
「ん?ピンピンしてるのさ!あのおばあちゃんは殺してもしなないのさ!」
映里は笑っていた。
少ししっとりとした空気になりかけていたが、悪い意味で空気が乾いていった。
映里は時々、俺や拳魔の期待を裏切る所があったが、そろそろ慣れてきていた。
「どうする?ドラゴンの魔石くらいしか良いのが思いつかないんだけど、僕は手持ちがない」
拳魔がそういうと、映里はやっぱり異次元からドラゴンの魔石を取りだした。
ドラゴンの魔石持ってるんかーい!
拳魔もツッコミを入れたくなったが、俺とは違って冷静だった。
「持ってるんだ。ちょっ、ちょっと見せてもらっていいかな?」
拳魔は映里から魔石を受けとると、じっくり鑑定し始めた。
内心はとてもワクワクしていた拳魔だったが、表情には出さなかった。
いや少しにやけていた。
魔力の流れは十以上。
先日みたオーガのレア魔石と同程度の魔力の流れが見えた。
赤い魔石なので、おそらくレッドドラゴンのモノだろう。
魔力の流れから、この魔石は魔力の魔石と判断できた。
「この魔石はなかなか良いモノだけど、必要としていた魔石とは少し違うな」
欲しかったのは魔法効果を高める魔法が付与されているものだ。
これでも十分パワーアップできるし、むしろ使用者を選ばない汎用的なスタッフを作るのならこっちの方がいい。
でもせっかくだから、拳魔は最初に決めたモノを作ってみたかった。
拳魔が少し残念そうにしていると、映里は更に異次元からドラゴンの魔石を取りだした。
次々にテーブルに並べていく。
その数は他の種類のドラゴンも合わせて、百個を超えていた。
「映里ちゃん、凄いね‥‥」
何となく拳魔は、ちゃん付けで呼びたくなった。
気分によって一人称や二人称って変わったりするよね?
まあ拳魔としては感動を表したというわけだ。
「好きに使っていいのさ!どうせ私が持っていても仕方ないし、全部上げるさ。その代わりいいスタッフに仕上げて欲しいのさ」
拳魔の顔が輝いた。
いや、本当に輝いた訳ではないが、喜びいっぱいにあふれた笑顔をしていた。
「うん!任せて!これだけあれば実験もできるし、最高のスタッフにして見せるよ!」
「任せたのさ!」
お互い笑顔で見つめ合った。
「それで、何時できるのさ?」
何かが生まれそうな雰囲気になった二人だったが、映里には全くフラグは立たなかった。
拳魔の方も頭はスタッフ作りでいっぱいで、お互い様だった。
「一週間くらい時間貰える?」
「分かったのさ。来週また来るのさ」
二人は頷き合った。
こうして拳魔は、ミッションコンプリートを目指して頑張る日々に突入するのだった。

まずは必要な魔法が発動する魔石を探す所から始まった。
最悪魔石を殺してしまい後で魔法を付与するという手もあったが、持ってる力をそのまま使う方が効果は上がるので、できればそのまま使いたかった。
少なからず元々持っている魔力というのがあるからね。
ドラゴンの魔石は他のモンスターと比べて、元々持っている魔力が半端なく大きいので、魔石を殺してしまう選択肢はなかった。
魔法効果を高める魔法は、主にレッドドラゴンとグリーンドラゴンの魔石に多かった。
魔石の効果というのは、元のモンスターに依存する所が大きい。
攻撃的なモンスターの魔石には、攻撃系の魔法が付与されている事が多いし、守備的なモンスターなら守備的な魔法が付与されている事が多くなる。
拳魔はドラゴンの魔石を軽くカットし、色々な魔石と組み合わせて効果を確認していった。
それで分かったのは、本来魔石の組み合わせは同じモンスターでやるのが相性が良い訳だが、ドラゴンならどれでも相性が良かった。
むしろ違う種類のドラゴンを組み合わせる事で、効果がアップされていた。
そこで魔石の組み合わせは、レッドドラゴンの魔石と、グリーンドラゴンの魔石に決めた。
魔力を分ける役割は、ブルードラゴンの魔石にした。
魔力の流れをコントロールするのに一番優れていた。
魔力を分散させるので、形としてはラウンドブリリアンカットのような、下が尖った形になった。
それを見て拳魔は組み合わせた全体像をイメージした。
「これがいい!」
拳魔はイメージに合わせて、レッドドラゴンとグリーンドラゴンの魔石をカットしていった。
しかし、拳魔は納得いかなかった。
魔石は大きいし無駄が多いと感じていた。
この大きさの半分くらいにカットした方が、魔力の流れがスムーズになって効果が高まる気がした。
左右対称に流れる魔力が、此処で切ってくれと云わんばかりにも拳魔には見えた。
効果自体が変わる可能性もあるが、拳魔は思い切って半分に切ってみる事にした。
駄目なら魔法付与の方向で対応しようと考えた。
切ってみると、効果はそのままに完全に二つに分かれた。
つまり一つのドラゴンの魔石から、二つ分のドラゴンの魔石ができあがったようなものだった。
「こんな事もできるのか。ドラゴンの魔石クラスのモノじゃなきゃ難しそうだけど‥‥」
魔法効果発動の魔石が四つになった。
「映里なら四つでもやれると思うし、これならスタッフを通すだけでも効果が得られるから大丈夫だよね‥‥」
スタッフを魔法発動に使う時、二種類のやり方がある。
スタッフに発動魔法の魔力を通すだけの場合と、スタッフにも魔力を送って持っている効果を発動させる場合だ。
魔力を通すだけの場合は、スタッフが持つ魔力を借りて魔法を発動するという事になる。
魔力を持っていなければ意味はなく、多く持っていればそれは結構な助けになる。
おそらくエイリちゃんは、多少魔力を持ったスタッフだったとは思われるが、それは小さなもので、あまり助力は得られていなかったと予想できる。
でも拳魔が作ろうとしているものは、実質ドラゴンの魔石を五つ付ける事になり、魔力だけでもそれなりの助けになるものになりそうだった。
つまり、魔石による魔法効果を自分の魔力を使って発動させなくても、スタッフを使って魔法を撃つだけで結構な威力アップが得られるものができそうだった。
大まかな完成像は見えた。
後はそれに向けて、拳魔は慎重に魔石をカットしていった。
集中を切らしたくないので、カットは深夜から朝にかけて行った。
陽が昇り始める頃、魔石のカットは終了した。
「できた。これは今まで僕が研磨した魔石の中で最高のできだ」
拳魔の手にあった魔石は、桃太郎の話に出てくる桃を逆さにしたような、ハート形をしていた。
表面はツルツルではなく、無数のカットが施され輝いていた。
拳魔は早速それを簡易取り付けが可能な『ワンド』に取り付けた。
ワンドとは、魔法を発動する時に使う杖の中で短めのモノを指す。
長くてもせいぜい五十センチくらいまでのものだ。
それより長い棒状のものは『ロッド』といい、背丈ほど長くて、武器になったり、曲線を描いたり、魔法以外の用途にも使えるものを『スタッフ』と表現する事が多かった。
拳魔はワンドを持って地下の実験場へと下りた。
「これを使って僕が本気でやれば、この町が軽く吹っ飛ぶな」
結界のあるこの実験場も耐えられそうにないと拳魔は判断した。
拳魔は極力魔力を抑えて、最弱の炎魔法を放ってみた。
次にワンドを通して放ってみる。
すると計算通りのパワーアップが見られた。
倍率は二倍から三倍といった所だった。
今度はワンドに最低限必要な魔力を込めて魔法を放った。
計算通り十五倍から二十倍といった威力の炎魔法となった。
「僕の力だと問題ないけど、映里だと少し重く感じるかもしれないな」
最終的に、魔力の流れは四つに分けられている。
スタップに魔力圧力を上げる効果があったとしても、分けられた分だけ魔力をしっかりと流し込まなければならない。
分かりやすく言えば、インターネットからファイルを一つダウンロードするよりも、四つダウンロードする方が重くなるでしょ。
でも回線が太ければ大差はない。
拳魔の持つ回線速度なら四つ同時でも最速でダウンロードできるが、映里なら少し速度が落ちるかもしれないというような話だ。
それでも今までのエイリちゃんより、全てにおいてパワーアップしている事は間違いと思えた。

映里との約束の日が来た。
映里はこの日も開店前から店にきていた。
「開けて欲しいのさ!普通なら開いてる時間なのさ!」
拳魔はもしかしたらと思っていたので、直ぐに店に出て入口のドアを開けた。
「いらっしゃい」
「いらっしゃったのさ!」
映里は訳の分からない挨拶を返した。
ドジっ子属性っていうか、天然属性もありそうで、萌えキャラとしての素質はかなりありそうだった。
拳魔は映里を迎え入れると、店の鍵は閉め、バックヤードへと案内した。
普通なら『何?カギ閉めちゃうの?』みたいな事も思うシーンだったが、映里は全く気にしていなかった。
二人はテーブルに座った。
拳魔は出来上がりの魔石を真ん中に置いて見せた。
「これが新しくそのスタッフに付ける魔石だよ。前に付いていた魔石よりも全てにおいて性能アップしていると思う」
「凄いのさ!なんか凄く綺麗なのさ!複数の魔石が一つになってるのさ!ハート型なのさ!」
映里はどうやら大満足したようだった。
「どうする?スタッフに付ける前に試してみる?」
拳魔は最高のモノができたと自負していたが、一応確認した。
「大丈夫なのさ。ここまでのカットをした人は見た事がないのさ。間違いなく良いモノだと分かるのさ!」
映里は、流石にドラゴンの魔石を百以上も持っていた魔法使いだけあって、理屈は分からなくともモノを見る目は割としっかりとしていた。
「じゃあどういう風に付けるか、要望があれば教えて」
「お任せするさ!」
映里の言葉に拳魔は頷くと、魔法でスタッフやハートの魔石を操作して、新しいエイリちゃんを完成させた。
組み合わせた魔石は、魔力によって引き合っているので簡単に分解されるものではなかったが、衝撃にも耐えられるように、ピンクゴールドを使って多少補強しておいた。
後はなるべく元のイメージに近い形へと持って行った。
拳魔は元の形を見た事はなかったので、あくまで状態から想像したものだけどね。
「完成!」
「おお!なんか三倍強そうになったのさ!」
「いや、八倍だよ!」
ビジュアル的には三倍、実質性能は八倍強くなったという事で、二人は納得した。
二人はエイリちゃんを持って地下の実験場へと向かった。
一応念のため、映里には半分の力で魔法の実験をするよう拳魔は注文した。
全力でもおそらく大丈夫だとは思っていたが、念の為だった。
「エイリちゃん無しの魔法と、エイリちゃんを通しての魔法と、エイリちゃんの効果を発動しての魔法、順番に試してみて」
「分かったのさ!」
映里は拳魔の云う通り順番に魔法を放って行った。
そして発動した魔法は、全て予想通りの結果だった。
「どう?エイリちゃんの効果を使うとちょっと重く感じられなかった?」
「確かに少し感じたのさ」
「でもエイリちゃんを通すだけで今までの最高レベルと同じくらいの魔法が撃てたと思うけど」
「その通りなのさ。ただ使い慣れるまで怖いのさ。逆に魔法の威力が強すぎるから慎重に魔法を使わないと駄目なのさ」
映里は冗談を言っているようで、案外マジの目をしていた。
拳魔には、映里がうっかり魔法を放って町が消滅するシーンが想像できてしまった。
もしかしたら作ってはいけないモノを作ってしまったのかもしれないと思ったが、なんだかそう思った自分がおかしくて、拳魔は少し笑った。
二人は店へと戻った。
「ちゃんとお金は払うのさ!」
「いいよ。ドラゴンの魔石も貰ったし、これ以上は流石に貰いすぎだよ」
「そんな事ないのさ。こんな事できるのは拳魔だけなのさ」
二人はお金を払う払わない、受け取る受け取らないで揉めていた。
映里はギルドカードを取りだし、数字を打ち込もうと操作を始めた。
ギルドカードや住民カードは、マイナンバーカードや銀行カード、或いはクレジットカードなんかを一緒にしたような機能をもっていた。
表側には数字を打ち込むボタンがあり、横型のカード電卓のような見た目だった。
裏には銀行カード番号というか、マイナンバーというか、クレジットカード番号のようなものが書いてあるので、基本裏は他人に見せないのが当たり前だった。
他にも裏には重要情報が記されている事があり、お金の受け渡しは両方のカードの表を上にして、支払い側が受け取り側のカードに重ねる事でできるようになっていた。
そんなカードを、このやり取りの中で映里はうっかり落としてしまった。
すると裏面が上になるように落ち、情報が拳魔の目に入ってしまった。
そこには、映里の割と重要な情報が記されていた。
「えっ?もしかして映里って不老なんだ」
この世界には、不老の人間が割と存在していた。
かつての日本人が作り上げた魔法薬によって、不老の人間になる事ができたからだ。
その日本人は、今では拳魔を除いて皆死んでしまったが、それ以前にその薬は高値で売られていたのだ。
皇族、王族、貴族、或いは大金持ちくらいしか手に入れられない高価な物だったが、それなりの数が出回っていた。
だから不老の人に出会ったとしても不思議ではなかったが、拳魔にとっては日本人以外で初めて出会う不老の人間だった。
ギルドカードや住民カードの裏には、その不老の存在を表す印がつけられていた。
何時までも姿が変わらないわけで、人を管理する側としては一応確認しておく必要があったからだ。
住民データに年齢が五十歳と書かれているのに、見た目が十代ではおかしいと思われるからね。
でも不老の印があれば納得できるという事になる。
あくまで行政側が確認する為の印だった。
だから普通の人は、それを見てもその印が何なのかは知らないはずだった。
それを知っていた拳魔も又、不老の存在であると自ら言ったようなものだった。
「そうなのさ!もしかして拳魔もなのか?偶然なのさ!」
「まあね」
拳魔は自分の住民カードの裏面を映里に見せた。
映里も拳魔も、少なくともこの二人の間で知らせ合う事には、何の抵抗も持っていなかった。
そしてお互い、何時何処でそうなったのか聞く事もなかった。
「私の知り合いにもまだ不老の人がいるのさ。不老の人が集まる所もあるのさ。拳魔も一度来てみるといいさ」
でも、拳魔にとっては好ましくない話が映里の口から出てきた。
そういう集まりに行けば、何処で薬を手に入れたとか、そう言った話になる可能性が排除できない。
それに日本人が皆殺しにされた理由は、その辺りにもあると拳魔は考えていた。
日本人に対する不満が大きくなったのは、確かに過酷な労働を外国人に任せてしまった事もあっただろう。
でもこういう事が起こるのは、大抵特別な人たちに対して起こるものだと拳魔は知っていた。
怖いから殺す。
強いから殺す。
特別だから殺す。
人間の歴史の中では、そういう事が多々あるのだ。
だから自分が特別な存在であるとしたなら、それを隠した方が良いと拳魔は考えていた。
「ごめん。それは止めておくよ。僕の事も内緒にしてくれると助かる」
「どうしてなのさ?不老って悪い事じゃないのさ}
「特別な存在ってのはね、普通の人から見れば妬ましくて疎ましいものなんだよ。だからそれを晒すというのは、殺される覚悟をするのと同じかもしれないよ」
少なくともこの世界では、拳魔の云っている事は間違いではなかった。
そういう犯罪は多々あるし、実際に日本は滅ぼされたのだから。
「確かにそうかもしれないのさ。分かったのさ。今日から私も人に言わない事にするのさ!」
相変わらず映里は軽かった。
でもそれが拳魔にとっては凄く好ましく思えた。
だから自分が不老だと知られても何とも思わなかったのだろうと、拳魔は納得した。

「じゃあ又なのさ」
「うん。またね!」
結局映里は少しだけお金を払った。
お互い歩み寄った結果だった。
映里が店を出て行くと、拳魔は店を閉めた。
まだ開店時間までは時間があった。
拳魔はそれまでひと眠りするのだった。
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