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魔王討伐!お姫様と楽しいこと

「悪魔の魔石がほしい」
孔明は、この日らしからぬ決心をしていた。
実は孔明、前々から悪魔の魔石が欲しいと思っていた。
大きさは魔石の中では大きい方だが、大型種のモンスターよりも小さいのに、魔力容量はこの世界最大の魔石だからだ。
この魔石を蓄魔池にすれば、どんな魔法道具ができるのか試したかった。
色々と実験してみたかった。
何故これよりも大きな魔石があるのに、魔力容量が大きいのか調べたかった。
だから前々から孔明はギルドに依頼を出していた。
悪魔の討伐だ。
しかしこの世界最強の冒険者と言われている勇者ですら、それよりも難易度の低いとされるエグイデダンジョンを攻略できずにいた。
尤も、エグイデダンジョンを攻略できないのは自分のせいではあったが、そんな事は孔明は知った事ではなかった。
「しかたない。自分で取りに行く」
この町からできるだけ出たくない孔明の一大決心だった。
この大陸に住む悪魔は、主に三ヵ所で確認されている。
一つは西の端、次に東の端、最後に中央にそびえたつ山の天辺にある魔王城であった。
その山の高さは、現在ドラゴンが住んでいる孔明の家の裏にある岩山よりも若干低いが、この大陸ではかなり高い方だった。
そしてそこに住む魔王こそが、全ての冒険者が目指すラスボスとなっていた。
「今度は、冒険者の夢を壊さないようにしよう」
そんなわけで孔明は、西か東、どちらかの悪魔を狩りに行こうと考えた。
そうすると、ドラゴンの羽でも三日以上はかかる距離だし、普通に歩いて行くとなると何ヶ月もかかる。
孔明はしばらく店を閉める事に決めた。
魔法道具はそんなに売れるものでもないし、いくつかギルドに置いてもらう事で話はついた。
移動はドラゴンに乗せてもらうに決まった。
その都合から、討伐先は山の多い西に向かう事に決まった。
ドラゴンが身を隠せる場所を確保しつつ、何日かの旅になるからね。

出発を明日に控えた日の夕方、家里が孔明宅を訪ねてきていた。
いつものポジションに座り二人は話していた。
「私も行きたいよー!」
「でも、国王様が駄目だって言ってるんでしょ?」
流石に大切な娘が危険な悪魔討伐に行くというのは、父親には許可してもらえなかった。
「何かいい方法ないかな?私も悪魔と戦ってみたいよ!」
家里は結構やんちゃなお姫様になっていた。
祝福のブローチと、孔明からもらった魔力によって、今や最強のお姫様と言われるほどだった。
尤も実際の戦闘経験は多くはなかったが、町から町の移動中などにモンスターを軽く倒してしまう姿は、そう言わせるだけのものがあったのだ。
「僕なら勝手に行く」
「ん~‥‥それは最後の手段ね。つまり行く事は既に決定しているわ」
行く事は決定していたようだった。
「とりあえずもう一度魔法通話機で話してみる」
既に魔法通話機は色々な所に広がっていて、家里の父親である国王も使っていた。
ちなみに今国王が使っているのは、孔明が沢山作った汎用機の内の一つだ。
「あ、お父さん?家里だけど、明日からしばらく出かけるからね。‥‥ダメって言われても行くのは決まってるの!‥‥うん!凄く!‥‥うん!‥‥大丈夫だって!‥‥ん~‥‥孔明に聞いてみるね?ねぇ孔明、斎藤も連れて行って大丈夫?」
「ああ、伊集院さんね。僕は構わない」
「分かった!?父さんそういう事だから。‥‥イコマイまで三日はかかる?孔明、どうしよう?」
孔明はカウンターまで歩いて、ギルドボックスに地図を投影させた。
「この辺りなら人は少ないし、此処で待っててもらおう。こっちからドラゴンで迎えに行く」
「そうね!じゃあ今から地図送るから、そこで斎藤には待つよう言ってもらえる?‥‥孔明、何時ごろ?」
孔明は地図に印をつけて王城のギルドボックスに送信しながら答えた。
「多分三時頃には迎えに行けると思う」
「オッケー!そういう事で明日の三時!大丈夫ね?‥‥王都からそんなに遠くないわ。よろしくね!」
そう言って家里は魔法通話機を切った。
「行ける事になったわ」
かなり強引だったが、一応許可は出た。
そんなわけで次の日、孔明と家里はドラゴンに乗って西へと出発した。
その前に一旦東に向かって、王都近くの荒野で斎藤を回収してからね。

斎藤を回収すると、孔明は斎藤に魔法道具を一つ渡した。
「これはなんでしょう?」
「祝福のネックレス。祝福レベル三百が一週間続く魔法アイテム」
「そんな強力なマジックアイテムなんですか?!」
家里のブローチは祝福レベルは百二十程度だった。
でも家里は、孔明の魔力を貰って桁違いに強くなっている。
護衛が家里よりも弱いと話にならないので、ある程度強くなれるようにと孔明が出した結論だった。
「一応護衛だから、悪魔に負けるようだと話にならない」
「それはそうですが‥‥」
ちなみにこのネックレスには蓄魔池は使用していない。
元々魔力を多く貯めておけるダイヤモンド、しかもかなり大きなものを使用していた。
蓄魔池は使っていないが、当然値段が付けられないレベルのアイテムだった。
「この大きさのダイヤモンドだと、魔力を一杯にするのに何人もの魔法使いが一日がかりで行う必要がありそうですね」
「そう?」
孔明ならたったの五秒だった。
「とりあえず今日はどの辺まで行くんだ?」
孔明たちを乗せてくれているのは、孔明がパワーアップしたあのドラゴンだった。
「こっちの方は山が多いから、山に沿って行けるとこまで」
「全速でいいんだよな?」
「待って。伊集院さんがネックレスを着けてから」
ドラゴンが飛ぶスピードは速く、全速で飛ぶとなるとその風圧に耐えられる人は少なくなる。
しかもこのドラゴンはパワーアップしているドラゴンだ。
勇者レベルの冒険者でないと耐えられない速さになる事は予想できた。
「着けておけばいいんですね?」
斎藤は慌ててネックレスを付けた。
ドラゴンは準備が整ったのを確認すると、スピードを徐々に上げていった。
上に乗る孔明たちは、ドラゴンの背中にしがみついた。
いや、孔明だけは涼しい顔で普通に|胡坐《アグラ》をかいて座っていた。
魔法を使ってドラゴンから離れないようにしていた。
「孔明!私たちにもそれやってよ!吹き飛ばされちゃうよ!」
「あ、そうなんだ」
孔明はこれくらいは皆普通にできるものだと思っていた。
自分がどれほどチートなのか、まだ完全には理解しきれていなかった。
直ぐに孔明の魔法で、家里と斎藤もドラゴンの上で体が安定した。
「死ぬかと思った‥‥」
「ドラゴンとはこれほど速く飛ぶものなのですね」
そんな訳なかった。
普通のドラゴンなら此処までの速さでは飛べない。
まあ皆ドラゴンに乗るのは初めてだし、家里も最初はドラゴンに‥‥ビビってはいなかったが、未知の生物に間違いはなかった。

さて冒険の旅に出発したわけだが、家里と斎藤はいっても普通の人間だ。
孔明のように何も食べなくても生きていけるという所までは人間離れはしていない。
一応食事は取るし、トイレ休憩も必要だった。
このペースで飛んでいけば、孔明だけなら二日とかからなかっただろうが、やはり旅は三日以上かかりそうだった。
孔明にとってはじれったくあったかもしれないが、それ以上に孔明も楽しいと感じる旅だった。
道中強力なモンスターが出る森で狩りをしたり、見つけたダンジョンや遺跡を攻略もした。
孔明は冒険者も悪くないと、思ったり思わなかったり、つまり家里と共にいるのが楽しかった。
四日目の昼過ぎ、孔明達はとうとう西の目的地へと到着した。
ドラゴンの背から前方に見えるのは、西の魔王城だった。
「私が戦うからね!」
「では私もお供します」
女性二人がやる気なので、孔明は見守り係に徹する事にした。
いや、魔石と素材回収係をする事にした。
魔王城近くまでくると、どうやら先客が来ていた。
見るとそれは勇者だったが、孔明は知らなかった。
「誰かが先に来て、戦ってる」
「あれ、勇者だよ。でもかなりピンチみたいね」
「助太刀しますか」
魔王城の外で勇者とその仲間たちが必死に悪魔を相手に戦っていた。
しかし状況は悪く、今にも殺られそうだった。
孔明はドラゴンから飛び降り、一気にその戦場へと向かった。
「助けるのね!」
「分かりました。ドラゴンさん、我々をどこかに降ろしてください」
斎藤がそう言うと、ドラゴンは戦場から少し離れた森へと降りて行った。
一方孔明は、戦場に到着すると、一瞬の内に蹴散らしていた。
勇者パーティーを。
勇者とその仲間たちは、気絶して皆倒れていた。
「これで大丈夫」
孔明は後からそこにいた悪魔たちを一瞬で倒していった。
「これが悪魔の魔石。全部僕のモノ」
孔明は夢中で悪魔から魔石と角、羽や目などを回収していった。
遅れて家里たちがやってきた。
「孔明ー!どうなってるのー?」
「勇者たちは気絶してるだけ。放っておいても大丈夫。魔王城に入ろう」
孔明はもっと魔石や素材を集めたかった。
「分かったわ。私がドンドン倒してあげるからね」
「私もお供します!」
女性二人が先行し、魔王城へと入っていった。
中には沢山悪魔がいて、次々と家里たちを襲った。
しかし家里や斎藤の敵ではなかった。
家里は完全に『私無双』を楽しんで戦っていた。
ほどなくして、三人は魔王の部屋へと到着した。
「私にやらせて。私が魔王と戦えるなんて、夢みたい」
家里はノリノリだった。
魔王との戦いが始まった。
魔王もやはり魔王と言われるだけあって、家里でも今までのようにはいかなかった。
西の魔王は、東の魔王や中央のラスボスの魔王よりも弱いと言われているが、それでもやはり強かった。
「殴る蹴るだけじゃ無理そうね」
家里はようやく此処で剣を抜いた。
それを見た魔王は少したじろいだ。
家里の余裕に恐怖したのだ。
「くそっ!魔王みたいな嬢ちゃんだぜ」
魔王の額に汗が流れた。
魔王へ向かって家里が跳んだ。
魔王は逃げたい気持ちを我慢して迎え撃つ。
部屋に勇者が入ってきた。
なんとか意識を取り戻し、此処まで進んできたのだ。
勇者の目に家里の勇士が飛び込んできた。
「あの女性は、江戸王国の姫君‥‥」
家里の雷撃系魔法が放たれ、魔王に命中した。
「ぐっ!痺れて動けん!」
「じゃあね魔王様!」
家里の剣が魔王を斬り裂いた。
魔王は割とアッサリやられてしまった。

魔王を倒すと、部屋の奥に宝箱があるのを見つけた。
「これは大きな宝箱ですね」
「うん。あけてみよーよ!」
家里の言葉を聞いて、孔明は宝箱を開けた。
すると中から大量の宝石と魔法具が流れ出てきた。
「凄いよ孔明!」
「うん。魔王討伐の報酬」
「こんなにも手に入れられるのか。冒険者で一攫千金を目指す人が多いのが分かります」
家里は喜び、孔明はいつもと変わらず、斎藤はとにかく驚いていた。
「でも持って帰れないよ?」
「大丈夫」
孔明はそういうと、ブレスレットに全て入れていった。
「そういえばそんなのがあったわね」
家里は孔明のブレスレットの事を知っていた。
斎藤はただ唖然としていた。
宝物の回収が終わり、三人が帰ろうとすると、魔王の部屋の出口に勇者が立っていた。
孔明は目をそらして横を通り過ぎようとした。
しかし家里は普通に勇者に話しかけていた。
「どうして勇者さんが此処にきてたの?まだエグイデダンジョンの攻略終わってなかったよね?」
この世界の冒険者には、セオリーというか、暗黙の了解みたいなものがあって、三人の魔王は最後に戦う相手となっていた。
「はい。エグイデダンジョンのラスボスがドンドン強くなってしまって、こっちの方が倒せそうだと考えこちらに来ました」
確かにエグイデダンジョンのイフリートは、此処の魔王よりもはるかに強くなっていた。
「そうだったのね」
「でもこちらでも死にかけました。危ない所を助けていただいたようで、姫様、感謝します」
「いーのいーの。私は楽しかったし。これにへこたれず、勇者がんばってね!」
孔明は、勇者がショックで冒険者を辞めない事を祈った。

こうして西の魔王は、江戸王国の姫である家里の手によって討伐された。
このニュースは、すぐに勇者からの投稿で大陸中に広がった。
領主として評価されつつあった家里は、一流の戦士としても評価される事になった。
更に家里は、魔王討伐で得た宝物を使って、ますますイコマイ町を良くしていった。
宝物は、孔明が必要とするもの以外はすべて家里のモノとした。
向こう三百年くらいは、財政に困る事はないだろう。
伝説級の剣などを手に入れ、装備も充実していった。
「ねぇねぇ孔明。暇だし何か面白い事しようよ」
「ん?実験面白いよ?」
「一体なんの実験してるの?」
「悪魔の魔石とドラゴンの魔石を融合させたらどうなるか」
「どうなるの?」
家里がそう聞いた時、魔石は大地を揺らすほどの爆発をした。
実験室だったので、特に町への被害はでなかった。
「爆発した」
「そ、そうみたいね」
そんな爆発をしても、孔明も家里も傷一つ負わなかった。
前世では爆発で死んだ孔明だったが、今度は問題なかった。
「次は何するの?」
「楽しい事」
孔明たちは今日も楽しく過ごすのだった。
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