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チート転生したけど魔法道具屋をするよ

この話は、わたくし秋山華道がお伝えします。

此処は、何処からどう見てもRPGのようなファンタジー世界。
その世界のとある村の|端《ハズレ》で、とある少年が魔法道具屋を営み始めていた。
その少年の名は『|高鳥孔明《タカトリコウメイ》』、年齢は十五歳。
ビジュアルは、何処にでもいる普通の少年である。
しかし、普通というのはこの世界においてではない。
孔明が転生する前の世界での話だ。
孔明は、日本という国の東京という所に住んでいた。
実験が大好きで、毎日自分の部屋にこもっては『本能の赴くまま』に実験を繰り返していた。
本能の赴くままというのは、正に言葉通りの意味で、勉強して何かを理解し、そこから答えを導きだして実験をしていたわけではない。
何となく思いついた事をただやり続けるだけの実験だった。
そんな事をしていたら、突然アタリを引いてしまう事もあれば、ハズレを引いてしまう事もある。
その日孔明は、そのアタリとハズレを両方いっぺんに引いてしまった。
実験結果は大きな爆発を引き起こし、少年は命を落とす事になった。

さて亡くなった孔明だが、その後神に選択を迫られていた。
「最近転生もののアニメが流行っているようだな。もしもお主が転生するとしたら、やっぱりRPGのようなファンタジー世界を望むのか?」
そう尋ねるのは、少しダンディーなガタイの良い神様だった。
『ゼウス』とか『アポロン』とか、そんな名前がしっくりくるようなビジュアルをしていた。
「これってもしかして、転生させてくれる話の流れですか?」
孔明は少し眠そうな顔で、特に感情を表情に出す事もなく、神に対して質問を返していた。
質問をされているのに質問で返すのは、それは一般的にはあまりよろしくはないのだけれど、孔明は何故か許されるキャラであった。
「そうだ!転生を希望するのなら、どういう世界がいいのか言ってみなさい」
「希望しない場合はどうなるのでしょうか?」
孔明は又も質問を返した。
神は心が広いので、当然質問には答えてくれた。
「希望しない場合でも、どこかの世界にランダムで転生する事になる。だから希望があれば申した方がよいぞ」
「どういう世界があるのでしょうか。一覧があるのなら見せていただきたいのですが?」
孔明は、慎重なのかなんなのかはよく分からないが、表情も変えず又も質問を返した。
神も少し面倒くさくなってきたようだったが、流石は神、しっかりと孔明の言葉に対応した。
「これがリストだ。結構色々な世界があるから、だいたいの希望を言ってくれれば私がいくつか良い候補を挙げてやるぞ。RPGのようなファンタジー世界なら、五百四十六番の世界がお勧めだ」
神様はそう言って、何処からともなく取りだした分厚いリスト本を孔明に手渡した。
孔明はそれを手に取ると、少しパラパラとめくった。
「結構ありますね。全部確認したいので、お時間いただいてもよろしいでしょうか」
孔明の表情は相変わらず変わらないが、神の眉間には少し血管が浮き出ているようだった。
「もちろんかまわない。ただ、こちらも暇ではないのでな。できるだけ早く決めてもらえると助かる」
「わかりました。ざっと見た所十時間もあれば確認できると思いますから、その間は別の事をしていただいて構いませんよ」
「‥‥十時間後に又来る」
少しイラっとした表情を見せた神だったが、流石は神、なんとか耐えてその場からスッと姿を消した。
孔明は、神がその場から消えるようにいなくなった事が気になった。
それをきっかけに、今更だけど更にここが何処で、どうなっているのかが気になりだした。
真っ白で何もない空間に、自分と転生先が書かれた本だけが存在する世界。
孔明は、この場所がどうなっているのかを確認する為に、どこまで行けるのか試しに歩いてみる事にした。
前後右左、全て行ける所まで行ってみた。
どうやらここは閉鎖空間のようだと孔明は判断した。
そんな場所から、神はいったいどうやって消えたのかが気になって仕方が無かった。
転生先リストもチェックしなければならないが、孔明にはもうこの空間の事で頭がいっぱいになっていた。
孔明は更に正確に調べる為に、本を目印に置いて、くまなく部屋を調べていった。
神が消えた辺りは特に入念に調べたが、種も仕掛けも無かった。
その後も調べてみたが、部屋には何も見つからなかった。
孔明はふと気が付いた。
自分が最初にいた場所。
今は本が置かれている場所をまだ調べていなかった。
本をどけて床を調べてみた。
するとそこに、小さな穴がある事を孔明は発見した。
孔明はおもむろに人差し指を差し入れた。
すると景色は、孔明が実験を繰り返していた、自分の部屋に変わった。
見るとそこには、死ぬ前の自分がいた。
爆発する直前を見ているようだった。
孔明は、その時の実験で使用した液体を手に取った。
自分を死に至らしめた爆発を引き起こしたその液体が、一体どのような効果を発揮して爆発したのかが知りたかったのだ。
その時は、液体をアルコールと混ぜて火をつけた。
だったら今度は、もう自分は死んでいるのだし飲んでみようと思い、孔明は一気に液体を飲み干した。
辺りは光に包まれ、孔明が死んだ時を再現していた。
ほどなくして、気が付けば元の白い閉鎖空間へと戻っていた。
「そろそろ時間だが、転生先はきまったか?」
直後、部屋に神様が戻ってきた。
まだそんなに時間は経っていないと感じていた孔明だったが、なんとなくもう十時間経ってしまったのだろうと悟った。
流石に孔明もこれ以上神を待たせる訳にはいかないと感じ、転生先を決めて伝える事にした。
「五百四十六番の世界でお願いします」
結局最初にお勧めした場所だったので、神は少しイラっとしたが、表向きは快く転生させてくれた。
こうして孔明は、RPGなファンタジー世界の、最ものどかで安全とされる、新人冒険者が集う始まりの村、『イコマイ』にいる人として転生するのだった。

転生を果たした孔明だったが、別に冒険者になりたかったわけではない。
気の赴くままに実験を続けてきたのは、不思議な事が大好きだったからだ。
まずは転生した事そのものが、孔明の気持ちを高揚させていた。
いや、表情にはまるで出ていないが、孔明は間違いなくテンションアゲアゲだった。
しかも転生先がファンタジー世界ともなれば、当然『魔法』の事を知りたいと思った。
既に転生した時に、この世界に住む十五歳の少年が、普通持っている程度の知識は記憶として追記されていたが、孔明はその程度では満足できなかった。
孔明はデフォルト装備のまま、早速色々試そうと、人目のない所を探す為村を出ていった。
デフォルト装備とは、身なりは転生前の服装そのままで、孔明の場合は上は黄土色のシャツに、下は黒のジーンズ。
武器は無く、盾も無く、持ち物はポケットに二百ゴールド、腰に付けた道具入れには『毒消し草』と『回復の草』が入っているだけだった。
本当は村にある『万事屋』で、装備一式買いそろえてから冒険に出るのが基本である。
そういう知識もデフォルトで記憶に追記されてはいたが、孔明はアゲアゲテンションを抑えきれず、ドンドン村から離れて行った。
普通の冒険者の場合、イコマイ村を出て最初に目指すのは『イクサカイ』という町である。
この道中には、新人冒険者たちでも相手にできるような、弱いモンスターだけが生息している。
普通は此処である程度戦えるようにしてから、イクサカイを中心に活動できる冒険者になる。
しかし孔明は、まるっきり逆の方向、|人気《ヒトケ》もないもう少し強いモンスターが生息するエリアへと足を踏み入れていった。
当然すぐに、モンスターが現れた。
新人冒険者が歩むルートではない場所に現れるモンスターは、こちらが攻撃するまで攻撃してこないような、甘っちょろいものではなかった。
その蛇モンスターは、いきなり孔明にかみついてきた。
孔明はアッサリと蛇モンスターに足をかまれた。
「ん?この蛇、額に綺麗な石が付いてる‥‥これが魔石かな」
足をかまれたはずの孔明だったが、何事も無かったかのようにその蛇を鷲掴みにし、額の魔石をもぎ取った。
実は孔明、現在メチャメチャチートな能力を手に入れてしまっていた。
孔明が先ほど飲んだ実験に使用した液体は、あらゆるものをパワーアップさせる液体だった。
それもそこいらのアニメでよく使われる三倍程度ではない。
約一億倍になるというとんでもないものだった。
つまり現在孔明のステータスは、オール一億以上が確定していると言えた。
そうなれば、この辺りでは多少強いモンスターでも、孔明に一ミクロンのダメージも与える事はできなかった。
「この辺りのモンスターは弱いんだな」
孔明はそうつぶやきながら、蛇モンスターの皮を剥いだ。
蛇モンスターの皮は、村の万事屋で買い取ってもらえる。
そういう知識が追記されていた孔明は、しっかりと素材と言われるものも回収していった。
数十匹ほど蛇モンスターを倒した辺りで、孔明は次に魔法を試してみる事にした。
覚えている魔法は二つだけだった。
初心者魔法によくある、『|魔力弾《エネルギーブラスト》』と『|回復《ヒール》』である。
孔明は人差し指を立てて、その先に魔力を集めるイメージをした。
指先に、バスケットボール大の魔力エネルギーが光り輝いた。
「これが魔力か。これだとちょっとエネルギーが大きい気がする。もう少し小さくしよう」
孔明は勘が良かった。
今まで気分の赴くまま、勘だけを頼りにやってきたのだ。
死んだ時は失敗したが、その後修正して実験用の液体を飲んだのは、孔明の勘が鋭い証拠と言えた。
「こんなもんかな」
指先にある光は、米粒よりも小さくなっていた。
孔明はおもむろにそれを発射した。
するとそれは瞬時に大きくなって、大玉転がしの玉くらいの大きさで前方へ飛んで行った。
「まだ少し大きいかな」
発射された魔力弾は、三十メートル先にいた蛇モンスターに命中し、魔石を残して全てを消失させていた。
「皮の回収失敗。でも魔法は凄い」
孔明は満足げだった。
といっても表情は一切変わっていなかった。
とりあえず魔法の発射実験に満足した孔明は、今度はその場に座り込み、集めた魔石と素材を眺めていた。
魔石にはいくつかの使い道があった。
一つは売ってお金にする事。
冒険者ギルドやその関連店で買い取ってもらう事ができる。
次に、冒険者ギルドに依頼されたクエスト達成の証拠として使われる。
蛇モンスターを十匹倒して欲しいという依頼があれば、蛇モンスターの魔石を十個持って行く事でクエスト達成となる。
更に魔石は、安価な宝石としても使う事ができる。
宝石は、|魔法道具《マジックアイテム》作成に必要な素材で、魔力を貯めたり魔法を付与したりする事が可能である。
ただし、硬度が七以上無いと魔力に耐え切れず割れてしまうので、マジックアイテム作成時は注意が必要となる。
魔石はギリギリ硬度七であり、マジックアイテム作成にも利用できる。
孔明はなんとなく『炎の魔法』をイメージして、一つの魔石に魔法を付与してみた。
「できた」
孔明は少しだけ、ほんのチョッピリだけ嬉しそうな表情を作った。
魔法付与に成功したであろう魔石を左手で握ると、ほんのチョッピリだけそれに魔力を込めた。
すると炎の玉が手から発射され、向こうにいた蛇モンスターを燃やし尽くしていた。
「また素材回収失敗。でも魔法生成と魔法付与は成功」
回収した魔石に、今度は『壊れない汚れない劣化しない魔法』をイメージして魔法を付与した。
更に今度は魔力も蓄えてみた。
「なんとなく上手く行ってる気がする」
孔明は元々勘の鋭い少年だったが、一億倍効果でドンドン魔法の仕組みを自分のモノへとしていった。
その魔石をシャツの第二ボタンに埋め込んでみた。
魔法による物質コントロールは、イメージと感覚で簡単にこなした。
「魔力を感じる‥‥」
孔明は立ち上がり、木の枝や岩などでシャツをひっかいてみた。
傷一つ付かなかった。
「でも‥‥魔力はすぐに無くなるな」
孔明は第二ボタンに付いた魔石を眺めた。
「これ、もっと魔力貯められる気がする」
孔明は再びその場に座り、魔力を圧縮して容量を大きくするイメージで、魔石に魔法を施した。
「やっぱりできた」
魔石の魔力を貯める容量は、一億倍の力によって限りなく大きくなった。
孔明は改めてその魔石に魔力を注いだ。
先ほどと違って、魔力を満タンにするのに少し時間を要した。
「時間かかったけど、ほとんど永久に魔力は切れない」
孔明の手によって、蛇モンスターの安価な魔石は、値段の付けられないほど高性能な魔石へと変化していた。
「服とかこれしかないから、全部壊れないようにしよう」
先ほどと同じように魔石を高性能化してから、魔法を付与して魔力を注いだ。
そして身に着けているモノ全てに魔石を埋め込んだ。
「できた!」
孔明は今日一番の笑顔で達成感を表した。

さてそろそろ村に戻ろうかと孔明は思った。
しかし倒した蛇モンスターは多くて、素材を全て持って帰れそうになかった。
「いくらでもモノが入れられるアレが欲しいな」
魔石に『いくらでもモノがしまっておける道具』をイメージして魔法を付与した。
「これもできた」
正直そろそろ『全部できるんかーい!』とツッコミを入れたくなってきたが、とりあえずここは事実だけを伝えておく。
孔明は魔法を使って、蛇モンスターの皮でブレスレットを作り、その中にできた魔石を埋め込んだ。
そのブレスレットを右手にはめると、サイズはピッタリに変化した。
「我ながら凄い高性能」
そのブレスレットに向けて蛇モンスターの皮を持って行くと、吸い込まれるように入っていった。
直ぐに取りだすイメージで手を持って行くと、入れたものはすぐに出てきた。
「魔法凄すぎる」
孔明はもう一つ『壊れない汚れない劣化しない』魔石を作ると、それもブレスレットに埋め込んだ。
「今度こそ完成だー!」
孔明は立ち上がり、再び満面の笑顔で両手を上げた。
「そろそろ帰るか」
いきなり気持ちを入れ替え、孔明は村へ向けて歩き出した。
村へ帰る途中にも蛇モンスターは何匹も現れたが、孔明の敵ではないので全て瞬殺され、死体はそのままブレスレットへとしまわれた。

村に到着した孔明だったが、よく考えたら家も何もなかった事に気が付いた。
とりあえず此処は『始まりの村』なので、冒険者ギルド協会が宿屋を置いてくれている。
しかも格安だ。
云ってみれば、新人冒険者の為の格安宿屋なのである。
学生相手に、格安で大盛りの食事を用意してくれる食堂みたいなものと考えてもいいだろう。
新人には皆親切なのだ。
孔明はそんな宿屋に百ゴールドを払って泊まる事にした。
転生前の世界での価値に換算すると、だいたい千円くらいである。
それで寝泊まりできる部屋が借りられ、食事が付くのだから十分だろう。
さてしかし、このままではあと一回泊まったらお金がなくなってしまう。
蛇皮の素材や魔石を売れば結構生活はやっていけるだろうが、何時までもこの格安宿屋のお世話になるわけにはいかない。
此処はあくまで新人冒険者の為の宿であり、一週間もいたら白い目で見られかねない。
孔明は何とかして家を建てたいと考えていた。
魔法で建てるのはたやすいが、土地と素材は集める必要がある。
素材は森で調達できぞうだが、土地は買わないと駄目だろうと孔明は思った。
手っ取り早く金儲けをする方法を考えた。
直ぐにひらめいた。
マジックアイテムを作って売ればどうだろうかと。
孔明は宿屋の部屋で、魔石に色々な魔法を付与していった。
魔力を多く貯めておける魔石も作った。
「これは、|蓄魔池《チクマチ》と名付けよう」
孔明はそれがいっぱいになるまで魔力を注いだ。
魔力一杯の蓄魔池を五つ作った。
「これは結構時間がかかるから止めよう‥‥」
孔明は再び魔法付与の魔石を作り続けた。

朝になった。
眠ったのは二時過ぎだったので、孔明はまだ眠かった。
しかし冒険者宿屋の朝は早く、眠い目をこすりながら朝食を食べると、直ぐに時間となって追い出された。
孔明は早速万事屋に向かった。
昨日作った魔法を付与した魔石、或いは蓄魔池を買い取ってもらう為だ。
魔法付与の魔石はだいたい相場が決まっているので、おそらくこれくらいの価格で買い取ってもらえるだろうという予想はできたが、蓄魔池は予想できなかった。
「たぶんそれなりに高い値が付くと思う‥‥楽しみ」
孔明はいったいいくらで買い取ってもらえるのか楽しみだった。
万事屋に着くと、店の前には新人冒険者が既に沢山集まっていた。
この村にはギルドは無いし、冒険者が行く場所と言えば、宿屋か此処だけだった。
宿屋に泊まっていられる時間は過ぎている事から、この万事屋に冒険者が集まるのは必然だった。
冒険者はそこで、昨日の冒険で手に入れた素材を売ったり、それで手に入れた金で新たな武器防具などを揃えたりしていた。
孔明はしばらくボーっと待っていた。
別に慌てる必要もないし、冒険者ならすぐに冒険に出ると考えていた。
その通り、一時間もしない内に冒険者は店の前からいなくなった。
孔明は冒険者がいなくなった事を確認すると、万事屋の中へと入っていった。
中にも冒険者はいなかった。
「いらっしゃい!」
万事屋の親父という表現がピッタリと当てはまるような男が、孔明に挨拶した。
「こんにちは」
孔明も挨拶を返した。
「あんたも新人冒険者かい?みんなもうパーティー組んでいっちまったぞ?」
どうやらこの万事屋は、パーティーメンバーを探しにくる場所でもあるようだった。
しかし孔明は別に冒険者をやりたいとは思っていなかったので、そんな事はどうでも良かった。
「ちょっと魔法を付与した魔石を買い取ってもらおうかと思って来ました」
孔明はズボンのポケットにしまってあった魔石を取りだした。
それを順番にテーブルにならべていった。
「ほう‥‥確かに魔力を感じるな‥‥えっ?こちらの五つはかなりの魔力が感じられるが、この魔石はなんの魔石なんだ?形や大きさは蛇モンスターのようだが、魔力が尋常じゃない」
万事屋の親父は驚いていた。
「それは蓄魔池です。魔力が多く蓄えられるように魔法がかけらた魔石ですね」
「そ、そうなのか。これは結構なものだと思うが‥‥ちょっと鑑定機を持ってくるから待っててくれ」
万事屋の親父は少し慌てたように奥の部屋へと向かった。
ほどなくして太いまな板のような、金属でできたマジックアイテムを抱えて戻ってきた。
それをテーブルに置いて、隅に付けられた宝石に魔力を注ぐ。
するとそのマジックアイテムは、少し光ったように見えた。
「ではその魔石を順番に鑑定機で調べてみる」
「よろしくお願いします」
万事屋の親父は、まず最初に蓄魔池を手に取ってそれを鑑定機の上に置いた。
すると隅についた宝石から何か文字が投影された。
そこには『登録無し、鑑定不能』とでていた。
「これはやっぱり、今までにないマジックアイテムのようだ。今此処で値段をつけて買い取る事はできないな。しばらく預かってギルドの方で値を付けてもらう事になるが良いか?」
「だったらいいです。こっちのだけ買い取ってください」
孔明は、何やら面倒な事になりそうだと感じ、五つの蓄魔池をポケットの中に回収した。
「そ、そうか。ではこちらの十五個の鑑定をさせてもらう」
万事屋の親父は順番に鑑定していった。
そちらは問題なく値がついた。
しかしどれもべらぼうに高かった。
「これら十五個、全部買い取る事は可能だが、この万事屋にはそれだけの準備金がない。後日銀行振り込みになるが構わないか?」
「はい。でも口座は持ってないです」
「そりゃそうか。新人冒険者だもんな」
この世界の銀行は、ただ金を預かり、お金をやり取りするだけのものだった。
冒険者ギルド協会が、魔法道具によるネットワークを使ってお金を管理している。
つまり冒険者ギルドに登録する事で銀行口座が持てるといった感じになる。
「僕、冒険者になるつもりはないんですが」
「えっ?そうなのか?それだとギルドでの仕事を受ける事ができないが、何か他にやりたい事でもあるのかな?」
「はい。魔法道具屋をしようと思っています」
「なるほどな」
万事屋の親父は納得したようだった。
「だったら一般人登録だけでいいから、此処でも口座を持つ事ができるぞ。登録していくか?」
「はい、お願いします」
こうして孔明は、冒険者ではなく一般人としてこの世界で生きていく事が確定した。
とはいえ、何時でも冒険者をやろうと思えばできなくはない。
ただ普通に考えれば、若い内から冒険者をやっていない人が、後に冒険者になるなんて事は難しかった。
冒険者としてのスキルを得る事は、『本来なら』そうたやすくはないのだから。
孔明は名前と年齢を登録し、住民カードを発行してもらった。
カードにはギルド番号が記されており、その番号が本人を表すものとなる。
同時に口座番号でもあった。
「ではこちらの魔石は預からせてもらう。今出せるのは十万ゴールドまでだから、残りの百四十万ゴールドは後日振り込みになる。早ければ明日、遅くても三日後くらいには振り込まれるだろう。カード発行手数料は後日振り込み金から差し引いておく」
「分かりました。ありがとうございます。所で、この村で土地を買いたいのですが、そういうのを取り扱っている所はありますか?」
土地の取引については、孔明の頭の中に全く情報がなかった。
だから不動産屋のようなものがあると思っていた。
しかし現実は違った。
「土地?もしかして店を出す場所か?それとも住まいか?」
「両方です。今は宿屋生活ですから」
「ははは。ならば土地は基本ただだ」
そういって万事屋の親父は、カウンターに備え付けられた魔法道具を使って村の地図を投影した。
「人が使っているのはこの赤く塗られたエリアだ。これ以外ならどこでも家を建てていい。住宅兼店舗でも大丈夫だ。建てる前にこちらに来て登録してくれ。ただしあまり大きな土地は占有できないぞ。こちらで登録する際にチェックするから、とりあえず必要な分だけ申請してほしい」
「ありがとうございます。では少し村を見てきます」
孔明はそういうと、一礼してから万事屋を出ていった。
その後、孔明はしばらく町の端から端までを見て回った。
村は一応魔獣が入ってこないよう柵で囲まれてはいるが、孔明にとっては内に建てる魅力はあまり感じられなかった。
しかし店を出す事を考えている以上、村の中でなければならない。
孔明は悩みに悩みぬいた末に答えを出した。
「決めました。この場所に建てようと思います」
万事屋に戻ってきた孔明が告げた場所は、村の北西の|端《ハズレ》、岩山の崖に面した少し高台になっている場所だった。
「こんなに端に店を出すのか?その辺りは人も住まないし、土地の評価が最も低い。その辺りで良ければ全部占有してもいい。、店はこの辺りに建てたらどうだ?」
万事屋の親父の提案は、店を出す人に対する当たり前のアドバイスだった。
無一文の土地はすべてやるから、家はもっと中心部に近い所に建てよという事。
でも孔明は、それを別の意味で喜んだ。
孔明は、商売上村の中には住もうと考えていたが、なるべく人から離れた所に住みたかった。
もしも広い土地を占有できれば、そこに後から人が入ってくる事はない。
ずっと人から離れた所で暮らせる場所を確保できる。
孔明はその辺り一帯の土地を貰う事に決めた。

土地が確保できたので、孔明は近くの森へ行き、木材やら素材を集めた。
一通りそろうと村へと戻り、魔法で家をドンドン建ててゆく。
自分が占有した土地は塀で囲い、村の中心に一番近い所から家まで道を作った。
家は三階建てで、一階は店、二階三階は住居スペースとした。
孔明は一億倍の力で、千年食事を摂らなくても大丈夫なほぼ不老の体になっていて、排せつ物も異次元へと自然排泄されるようになっていたからトイレは不要だったが、一応お客様用に一階に設置した。
風呂は三階に作り、工房として地下の部屋も確保。
その地下から山の中へと行けるよう通路を作った。
その先、山の中に巨大な一キロ四方の部屋を作り、壁は魔法結界で固めて実験部屋とした。
この部屋が作りたかったが為に、孔明は山に隣接した土地を選んでいた。
更にその先にも通路を作り、山の反対側へも出られるようにした。
孔明の身体能力と魔法はバリバリチートで、誰も成し得ないような作業はその日の内に終了した。
こうして孔明がこの世界で暮らしていく体制は整った。
孔明は次の日から『魔法道具屋コウメイ』をオープンするのだった。
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