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2013年11月4日【月】19時43分21秒
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初めての友達

孔明がイコマイ村で魔法道具屋を始めてから三日が過ぎた。
その間客はゼロ。
宣伝も何もせず、村の端の更に端にあるのだから、店ができた事を知る者もいなかった。
だから孔明はその間、地下の工房や奥の実験場で、ずっと魔法道具の作成と開発をしていた。
ちなみに敷地内に誰かが入ってきたら、分かるように魔法を施してある。
建物や山も魔法で強化しており、たとえ核ミサイルが撃ち込まれても壊れないよう頑丈にしていた。
営業は十二時からで、午後六時には閉店する。
孔明は朝が苦手だし、夜遅くまでやっても客なぞ来ない。
故にこの短時間営業となっていた。
この日も結局客は来なかった。
でも孔明は別にそれで満足だった。
新しい魔法道具も作れ商品もドンドン増えるし、今はそれが嬉しく感じられていた。

次の日も客がくる気配はなかった。
孔明はいつも通り工房にこもって、魔法道具の作成と開発にいそしんでいた。
すると敷地内に、誰かが入ってきたというメッセージが脳内に送られてきた。
孔明は魔法による監視カメラのようなもので映像をそこに映した。
「子供が入ってきたのか‥‥」
孔明は作業を中断し、階段を上がって店の方に移動した。
店で待っていると、子供がドアの前で中を覗いていた。
どうやら女の子のようで、孔明にはその仕草がとても可愛らしく感じられた。
孔明は手招きして女の子を呼んでみた。
すると女の子は、恐る恐る店に入ってきた。
「ここ、どこー?」
割とハッキリとした声で女の子が尋ねてきた。
孔明は少し笑みがこぼれた。
「ここは僕のお店だよ。魔法道具屋をやっているんだよ」
女の子相手だと、孔明はいつもと少し違って言葉に優しさがあった。
「道具屋ー?うちとおんなじ?商売敵かー?」
女の子からそんな言葉が出てくるとは思っていなくて、孔明は又も笑みがこぼれた。
そしておそらく、この女の子は万事屋の子なんだと思った。
「万事屋の子なの?商売敵じゃないよ。同じ物は売ってないと思うから」
万事屋で売られているものは、基本的に魔法道具はない。
始まりの村で売られるものだし、高いモノを出してもまず売れないからだ。
それなのに何故孔明はここでこんな魔法道具を売っているのかと言えば、全ては体裁を整える為だった。
生活費に困れば、万事屋に適当なモノを売りに行けばいい。
それくらいの感覚で店はやっていた。
「そうなのー?お兄ちゃんは今何してるのー?」
「うおっ!」
小さな女の子にお兄ちゃんと呼ばれた事は、孔明の心にかなり刺さったようだった。
孔明は胸を押さえた。
「どうしたのー?お腹いたいのー?薬持ってこようかー?」
「いや、大丈夫だよ。お兄ちゃんは今、ちょっと嬉しくて感動していただけだから」
「そうなんだー?お兄ちゃん暇だったらなんかして遊ぼー?」
又も孔明に女の子の言葉が刺さった。
よく考えたら、転生して知り合いも誰もいない世界に来て、やはり寂しい思いをしていたんだと孔明は気が付いた。
「そうだね。ところでお嬢ちゃん、名前はなんていうのかな?」
「あたしー?やわら。|山下柔《ヤマシタヤワラ》だよー!」
「柔ちゃんか。ちょっと強そうな名前だねぇ」
孔明は前世の記憶から、思った印象をそのまま告げた。
「あたし強いよー!この前兎モンスターを倒したんだよー」
「本当?凄いねぇ。流石は柔ちゃんだ」
孔明は、兎モンスターがどんなものなのか見た事は無かったが、おそらくこの辺りで一番弱いモンスターなのだと思った。
それでもこんな小さな女の子がモンスターを倒すというのは凄い事で、孔明の言葉は嘘ではなかった。
「外行こうよ外ー」
柔ちゃんは孔明の腕を取り、引っ張って外に連れ出そうとした。
孔明は『怠い』という思いもあったが、少し楽しくも感じていた。
二人は、孔明宅の敷地内、庭というか自然の丘というか、芝生の生えるそこで、走り回ったり花飾りを作って遊んだ。
東京で暮らしていたらあり得ない出来事は、孔明にとっては新鮮で割と楽しいと思えた。
気が付いたら二人は芝生の上で寝ていた。
二人にとって心地よい風が吹いていた。

二人が目を覚ました時には、既に陽は赤くなり始めていた。
「そろそろ帰らないと、親父さんが心配するよ」
「うん!帰るー!その前にこれあげるー!友達の証ー!」
柔ちゃんはそう言って、さっき作った花飾りを孔明に渡した。
孔明はこの世界にきて初めての友達ができた事に少し感動した。
「じゃあちょっと待ってて」
孔明はそういうと、一瞬店に戻って販売していない魔法のブレスレットを取ってきた。
その行動は一瞬だった為、柔ちゃんにはずっとそこに孔明がいるように見えていた。
「うん、待ってるー!」
「もう取ってきたよ。これ、柔ちゃんに上げる。友達の証だ」
孔明はそう言って、柔ちゃんの腕にそのブレスレットを付けた。
するとブレスレットは、柔ちゃんの腕の大きさに合わせてしっかりと装着された。
「なにこれー?」
「これはね、強くなるブレスレットだよ。こんな魔法が使えるようになるんだよ」
孔明はそう言って、とにかく威力を抑えた魔力弾を発射した。
「うわぁ。凄い!それ、柔にも使えるのー?」
「人差し指を立てて、先に光が集まってくるイメージを思い浮かべてみな」
孔明がそういうと、柔ちゃんの指先に光の玉ができた。
「それをあっちに飛ばすイメージで」
すると柔ちゃんは言われた通りにできた。
「凄いね!でもね、これはどうしてもっていう時以外は使っちゃダメだよ。」
「うん、分かったー!」
「それとね、この腕輪を付けていると、本気で誰かを倒したいと思ったら強くなれるから」
「あたし強いよー?」
「それ以上に強くなれるんだよ。でも普段は人を殴ったりしないようにね」
「うん」
それともう一つ、このブレスレットには魔法がかけられていた。
怪我など傷を負った時、自動で回復してくれる魔法だった。
「じゃあね!気を付けて帰るんだよ」
「じゃあねー!ばいばーい!」
柔ちゃんは何度も振り返り手を振りながら走っていった。
孔明は、柔ちゃんが敷地内から出ていくまでそこで見送った。
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