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嬢ちゃんとドラゴン

この日俺と嬢ちゃんは、外回りでドラゴンの山へと向かっていた。
「ちょっ!もしかしてドラゴン退治に行くの?」
俺はドキドキしていた。
『素材を手に入れる』聞いていたのはそれだけだ。
ドラゴンの皮や鱗は高値で取引される素材だし、魔石も大きくて高価だ。
運がよければドラゴン水晶なんかも手に入れられるかもしれない。
何にしてもドラゴン退治は、冒険者の華なのだ。
でもやっぱりというか、俺の思っていた通りそんな話にはならなかった。
「みんな‥‥頼まれてた‥‥肉‥‥持ってきたよ‥‥」
ドラゴンの巣に到着すると、嬢ちゃんは水晶から沢山の肉を取り出して並べていった。
「牛肉二十頭分‥‥豚肉百頭分‥鳥肉五百羽分‥‥」
メチャメチャ多かった。
前から疑問なのだが、ただのギルド受付嬢の嬢ちゃんが、どうしてそんなに手に入れらるだけ金を持っているのだろうか。
悪魔に上げた酒もそうだし、家を魔改造した時の資材もそうだ。
相当金持ちなのではないかと想像できた。
その割に住む場所も無いとか、意味が分からない所もあるけれど、とにかくどうやってこの肉を手に入れたかは謎だった。
「おお!いつも悪いな嬢ちゃん。この辺りの肉は自然には手に入れられないからな。助かっているよ」
「うん‥‥大丈夫‥‥こちらこそ‥‥いつもバカな人間が‥‥迷惑かけてて‥‥ゴメンね‥‥」
どうやら嬢ちゃんは、ドラゴンとも仲良しだった。
そして悪魔と同じように、討伐に行く人間に代わって謝罪していた。
こういうのを見せられると、俺は本当に冒険者になりたかった事が恥ずかしくも感じる。
決まっているからと敵認定とか、全く子供かよ。
誰が相手でも、とりあえず話してみる事は大切なんだと痛感した。
「嬢ちゃん、これは頼まれていたものだ。鉄や各種レアメタルの塊だ」
「ありがとう‥‥足りなくなってきていたから‥‥助かる‥‥」
ほうほう、ドラゴンにこの辺り集めてもらっていたのか。
ドラゴンと言えば、光る物を集める習性があるとか聞くし、パワーもあるから適役なのだろう。
「それとこれもついでにもっていってくれ。我々が持っていても意味がないからな」
見るとそれは、宝の山だった。
えー!
マジで?
人間が使っている金もあれば、高級そうな装備品もある。
宝石も沢山あるし、きっとこれらの価値は俺の生涯収入を上回っているだろう。
いや、そんなレベルではなかった。
「ありがとう。じゃあ‥‥これも‥‥貰っていくね‥‥」
嬢ちゃんはいつもの事といった感じで、それらを水晶にしまっていった。
「南ちゃん、半分は‥‥南ちゃん貰って‥‥今日は‥‥二人が貰った‥‥」
「えっ?いやいやいや。こんなに貰うなんて、俺何もしてないし」
そうだ。
俺はただついてきただけだ。
こんな宝の山を貰う訳には行かない。
「じゃあ‥‥その分‥‥今度‥‥お返しすれば‥‥いい‥‥」
お返しって‥‥
一体何をどれだけお返しすればいいのだろうか。
命を差し出しても足りないのではないだろうか。
するとドラゴンが俺に声をかけてきた。
「そうそう、猪鹿魔獣ってのが北の森に出るらしいが、それが美味いって話なんだ。俺たちはあの森に入れるだけの力がなくて獲りいけない。だからそれを獲ってきてくれたら助かるのだが‥‥」
えー!
ドラゴンでも力が足りないとか言っちゃうような森に、俺が獲りに行くの?
いやまあ、実際にドラゴンを見て、俺の方が圧倒的に強いのは理解したが、それでもそんな森に行って俺は大丈夫なのだろうか。
「私も‥‥一緒にいく‥‥南ちゃんなら‥‥一人でも‥‥大丈夫だけど‥‥」
「あ、ありがとう」
なんだか分からないけれど、俺はこの宝物の山を貰う代わりに、猪鹿魔獣を獲りに行く事が確定してしまった。
まあでも、嬢ちゃんが付いてきてくれるのなら安心だ。
それでこれだけの宝物が貰えるのだから、普通は大喜びしていい所だと思う。
俺は鼻歌を歌いながら宝物を水晶へと入れていった。
「それと嬢ちゃん、これも貰ってくれ。先日破門にしたドラゴンが使っていた水晶だ」
それは先日見たドラゴン水晶そのものだった。
なるほど、アレもこうしてドラゴンから貰っていたのか。
あんなレアアイテム、十八年の追記記憶で見た事が無かったのに、ギルドには普通に四つもあるわけで、入手ルートがあって当然だと思った。
「破門?何か‥‥悪い事‥‥しちゃったの?」
嬢ちゃんは水晶よりも、破門にされたドラゴンの事が気になっているようだった。
そう言われればどうしてなのか気にはなる。
俺はドラゴンの返事を待った。
「あいつは、嬢ちゃんとの約束を破ったんだ。セカラシカ以外の町の住民に見られるような所には行ってはいけない。なのに西の町の近くまで行って、人間たちを怖がらせパニックにさせてしまった」
えっ?
それで破門?
ドラゴンだってこの世界で自由に生きる権利があるんだから、それくらい良いように思えた。
しかし冷静に考えると、それは人間同士なら他国に勝手に侵入するのと同じだ。
前世では領空領海侵犯をすれば大騒ぎになる訳で、やってはいけない理由も理解はできる。
「これで西の町がドラゴンの討伐などに動かなければいいが、一応覚悟はしているよ」
そりゃそうだよな。
人間同士でも戦争になるような事なら、他種族だともっと大ごとかもしれない。
嬢ちゃんは俯き寂しそうな表情をしていた。
励ましてあげたかったが、軽率な事は言えない。
大丈夫なのかどうか、今の俺には全く分からないのだから。
俺は嬢ちゃんの頭に手を乗せ、ポンポンと叩くくらいしかできなかった。

帰り道も、俺はさっきの破門の話がずっと気になっていた。
なんでこう上手くいかないのだろうか。
人間にだって、良い人がいれば悪い人もいる。
外国人と仲良くできる者もいれば、出来ない者もいる。
人間同士でもそういうのはあるのに、力も能力も上のドラゴンを見て、恐怖したり排除しようとしたりする気持ちも分からなくはない。
俺なんか前世で、体の大きな外国人を見ただけで怖いと思ったんだ。
気持ちは痛いほど分かるんだよ。
だから否定もできない。
でもいざ仲良くできる事が分かってしまえば、それが凄く間違っているように思える。
本能的なもの、感情的なものだから、間違いなんて言えないけれど、どうしてそんな風に思ってしまうのだろうか。
話せばわかり合えるのに、どうして駄目なのだろうか。
それは、全ての人と話なんて不可能だからかもしれない。
人間同士であっても、生涯話をする人の数は限られている。
世界の一割ですら、話ができる人なんていないのだ。
嬢ちゃんだって、こうしてドラゴンと仲良くなって会いにきてはいるが、せいぜい数十頭のドラゴンとしか話はできない。
其の他大勢の方が数は多い。
その中には、破門になったドラゴンのような、迂闊な行動をするものは必ず出てくる。
或いはもっと酷い事をするドラゴンだっているはずだ。
どれだけ頑張っても、全人類と全ドラゴンが仲良くできる未来なんて、おそらく訪れたりはしないのだろう。
でも、今目の前にあるものだけは大切にできればいいなと思った。

ギルドに戻る頃には、嬢ちゃんはいつもの嬢ちゃんに戻っていた。
姐さんにドラゴン水晶を渡す時も、さっきの話を引きずっている様子は無かった。
でも俺がこれだけ引きずっているのだから、きっと今も辛い思いがあるだろう。
今回の事で、何もない事を俺は祈るしかなかった。
しかしこの『破門』の『波紋』は、ゆっくりと広がって行くのだった。
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