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第十六話 二度目の接近

俺の書き込みが効いたのか、日本でもあれはタダのテロだと思われるようになっていた。
魔女という言葉を気にする者は少なくなった。
とりあえず、現状では良い傾向だ。
政府や警察が手をあげてしまっては、正直俺達だけで対抗するのはきつい。
全ての朝の準備を済ませると、俺は一人、PCを立ち上げる。
今日から学生は二学期で、華ちゃんと未来ちゃんは学校だ。
夏休みが終わっているって事は、俺の誕生日もいつのまにか過ぎ去っている。
俺の誕生日は、8月だからな。
それだけ未来日記や、魔女ッ子の事に集中していたって事。
 宗司「俺も二十歳かぁ・・・」
なんとなく言葉に出した。
てことは、年金なんかも払わなくてはいけない歳だ。
きっと実家には、その旨伝える何かが届いているのだろう。
しかし俺は、収入なんて無いし、そんなものは払えない。
働こうにも、今は世界を守る事で手一杯だ。
おっ!俺なんか格好いい。
それよりも、今は未来日記だ。
みかんが寝いている間にやらないと、五月蠅くて邪魔だからな。
もう10時過ぎてるけど。
まずは、未来日記を確認。
カズオは、毎日夜に一度だけ更新する。
それを俺は朝確認。
これはもう日課になっていた。
確認したが、今日は大した事は書いていなかった。
といっても、悪意のある事が書いてあるから、本来ならとても重要な事なんだけど。
まあ、多少大きな金が、理不尽に動く程度だ。
やばいな、完全に最近金銭感覚麻痺しているかも。
続いて自分の未来日記サイトに繋ぐ。
本家には負けるが、毎日多くのコメントが書かれている。
大概が質問と応援。
応援って言っても本気のものでは無い。
野次馬が冗談半分で書いているものばかりだ。
さて、俺も書き込みは夜に行う事にしている。
朝未来日記を見た直後に更新すると、アクセスログと時間から割り出される危険があるから。
まあ、前にも言ったとおり、誰かに迷惑がかかる。
俺はみかんをつついた。
 みかん「う、うーん。朝なのだ?」
 宗司「いや、もうすぐ昼だ。」
 みかん「なんですとー!」
みかんは文字どおり飛び起きた。
 みかん「朝は早く起きないと、一日が短くなるのさ。」
一日の長さはかわらないけどね。
 宗司「今日は俺も出かけるから、そろそろ準備するぞ。」
そうなのだ。
俺は今日、ある場所へ行く事を強要された。
いや、正確には頼まれただけだけど、それが可愛い女の子のお願いで、しかも日頃お世話になっている人であるならば、断れるはずがない。
姫が、政界財界のお偉いさんの集まるパーティに参加予定で、俺に一緒に来てくれと頼んできた。
本当は華ちゃんが一緒に行く予定だったのだけど、学校があるから行けないとの事。
休んで行けば良いのかもしれないけど、華ちゃんは嫌だったから、学校をネタに断ったって事だ。
パーティは、総裁選を控えた与党の候補者の、顔見せやアピールが目的らしい。
確かに華ちゃんが行ってもむだだし、姫だってまだ18歳。
まあそう考えれば、俺が行くのが一番なのだろう。
準備を済ませて、昼食をとった後、俺は姫と合流。
 宗司「姫、マジで行くのか?」
 姫「しかたないでしょ。お母様が出ろって言うのですから。」
姫の母の名前は、三輪星子。
日本で第三位の総合商社、三輪商事社長。
話を聞いて金持ちの理由がわかった。
ただ、名字が違うのは、姫が父方の名字を名乗っているから。
戸籍上はそちらが正しい。
ただ、会社名から、母は旧姓で呼ばれる事が多く、わかりやすいからそちらを名乗っているらしい。
河崎邸内まで、迎えの車がきていた。
リムジンとは言わないけれど、高そうなオーラを発している外車だ。
俺は少し緊張して乗り込んだが、姫はいつもどおりだ。
みかんは車内を飛び回って、よくわからない歌を歌っていたが、まあみんなに聞こえないから良いだろう。
って、五月蠅いよー!
 姫「どうかしました?頭を抱えて。」
俺が耳を塞いで俯いていたら、姫が心配してきた。
 宗司「いや、ちょっと空耳な雑音が、俺を襲ってきただけだよ。大丈夫大丈夫。」
 みかん「なんだとー!私の歌は雑音かい!」
そうだよ。
それ以外どう表現したらいいんだよ。
 みかん「くっきぃーー!!」
みかんが俺の頭をけ飛ばし始めた。
 宗司「痛い、痛い!」
 姫「だ、大丈夫?今日は行くのやめましょうか?」
や、やばい。
 宗司「いや、今治ったから、大丈夫。」
俺はみかんが頭を蹴る痛みを我慢しつつ、平静を装った。
てか、もともとあまり痛くはないんだけどね。
 姫「そうですか。もしダメなら、言って下さいね。」
う、マジで心配してくれてる。
ああ、なんと素晴らしいのだろう。
心配されるなんて、そんな体験が今までの俺に有っただろうか?
 宗司「うん。ダメならちゃんと言うよ。」
みかんが蹴る頭の痛みが心地よかった。
30分ほどで、虎ノ門のどでかいホテルに到着した。
ココの2階で、パーティがあるらしい。
車を降りる。
かなりドキドキしてきた。
俺みたいなパンピーが、でても大丈夫なのだろうか?
いやでも、姫みたいに可愛いお嬢様がいっぱい集まっていて、結構楽しい合コンみたいになったりして。
おっとやべ、少し妄想の世界にトリップしそうになったぞ。
 姫「じゃあ、いきますわよ。」
 宗司「お、おう。」
今日の姫は、ずっとお嬢様言葉だ。
流石に今日は仕方のないところなのだろう。
俺は地下の駐車場から、エレベータで二階に向かう。
エレベータに乗って、二階に到着。
俺は急にトイレがしたくなった。
大ではない。
小だよ?
本当だよ?
 宗司「姫、俺、手洗いに行きたくなった。先に行っててくれ。」
 姫「わ、わかりましたわ。」
姫はそういうと、一人で部屋へと向かった。
俺は逆方向に歩く。
あれ?
さっきあれほどトイレしたかったのに、今は全くもって大丈夫だ。
おっかしいな。
俺はトイレをせずに、そのまま会場に向かおうとした。
 宗司「うっ!あれ?またすっげぇトイレしたくなった。」
 みかん「もしかして、ココに魔女ッ子がいるのかも。」
あり得る。
それもカズオがココにいる可能性もあるじゃないか。
日本人で金持ち。
今日はそんな人がココに集まっているのだから。
俺は走ってトイレに駆け込む。
やばい、おそらくこれがカズオへの接近を拒む現象だとしたら、カズオも俺が近づいた事に気がついている可能性が高い。
どうする?
少なくとも、同じ会場に入る事は不可能だ。
俺は帰るしかないだろう。
しかし、もしカズオが俺に気がついていたら、部下か誰かに、俺を捜させているかもしれない。
 みかん「どうするのさ。早く決断しないとまずいのさ。」
その時、ポケットに入れてあった携帯が震えた。
着信。
俺は携帯のディスプレイを見る。
相手は、未来ちゃんだ。
俺は周りに人がいない事を確認し、電話に出る。
 宗司「もしもし?」
 未来「宗司さん、逃げてください。大丈夫です。逃げ切れますから。」
 宗司「ああ、姫への連絡は・・・」
 未来「華ちゃんにしてもらいます。大丈夫です。」
 宗司「わかった。」
俺は電話を切ると、頭の中で日記を書いた。
無事、河崎邸に帰る為の日記を。
 宗司「な、なんだ?かなり困難だ。」
 みかん「悪意でも善意でも無い事だけど難しいなら、普通にやれば現状かなり困難な事なのさ。すでにカズオが手を打って何かしらしてるのさ。」
俺に気がついて、ホテルの周りや駐車場を見張っている?
まあ、未来日記どおりにやるしかない。
俺は、トイレの窓を開けた。
会場が二階で助かった。
もし最上階とか言われたら、俺はきっと今日ココでカズオに捕まっていたか、それとも殺されていたかもしれない。
少し震えた。
いや、かなり震えた。
二階とはいえ、かなり高い。
俺はココから飛び降りなければならない。
おそらくは無傷で降りられるのだけど、やはり怖い。
俺は意を決して飛び降りた。
下はふわふわの芝生で、衝撃は緩和されていた。
これが普通にアスファルトだったら、捻挫とかしていたかも。
そんな事を考えている場合ではなかった。
塀の向こう側で、なにやら声が聞こえる。
 男A「ホテルから出る者は見逃すな。追跡する。」
 男B「はい。」
見つかったらといって、すぐ殺されたり、捕まえられる事は無いようだ。
まあ、ホテルから出る人間なんて何人もいるだろうからな。
とにかく俺は、ホテルの敷地内を少し移動する。
裏手なので人目は無い。
まもなく目的の場所まできた。
下水道へと誘う、マンホールという名の入口。
俺はその横の、網目の方に指を突っ込んで、それを持ち上げた。
あいた。
俺はうまく中へと入って、網目のやつを元に戻す。
鉄のハシゴをつたって、俺はドンドン下へと降りていった。

俺が河崎邸に戻ったのは、既に日付が変わろうかという時間。
つまり0時前。
下水道を闇雲に走り回って、ドロドロになりながらたどり着いたのは、川へとつながる通路。
そこから出たところすぐにある公園で身を隠していた。
流石にこんな格好で、河崎邸には帰れない。
そこに、先ほど華ちゃんが迎えに来てくれて、一度俺から逃げた後、再び近寄ってきて。
夜中の公園で裸になって、公園の水道で体を洗うなんて経験ができるとは思ってなかった。
 宗司「ふぅ~、やっと落ち着いた。」
俺は風呂に入って、みんなが集まるリビングに向かった。
さて、今日の事を、皆に話さなければならない。
俺も聞きたい事があるし。
 宗司「今日、パーティ会場で、カズオと接近した。俺は魔女ッ子の力で出会う事はなかったが、明らかに向こうは気がついて、俺を捜していた。」
 みかん「そうなのさ。でも、無事戻れて良かったのさ。」
本当だ。
きっと俺一人だったら無理だっただろう。
 宗司「未来ちゃんが助けてくれたんだよね?」
おそらくは、未来ちゃんの未来日記によって、俺は助かったのだ。
俺が逃げるのは、善意でも悪意でもないけど、未来ちゃんが俺を助けるのは、明らかに善意。
 未来「う、うん。学校から戻って、いつもの、みんなの無事を、書いたら。」
 宗司「一応、何をしたか、教えて貰ってもいいかな?」
何をしたかは、重要だ。
未来ちゃんを信じていないわけではないけど、どこかにつけ込まれる隙があってはいけない。
 未来「まず、宗司さんに、逃げるよう、電話しました。」
これはもちろん知っている。
これで俺は、安心して逃げる事ができたんだから。
 未来「その後、華ちゃんに、電話しました。姫さんに、電話するように。」
 華「うん。宗司さんは頭が痛いから、帰るって。後は、今日は最初から、一人できた事にしてくれって。」
うん、これだったらおそらく大丈夫だろう。
もしかしたら、カズオが、もしくは命令をうけたものが、会場の人に、つれがいたかとか聞かれていたら、やばいもんな。
姫が最初から一人だったとこたえれば、俺につながる道は少なくなる。
ホテルの地下にいたガードマンとかに覚えられていて、聞かれたりするとまずいけど。
 未来「後は、夜に、公園に、迎えにいくだけです。」
 宗司「ありがとう。これなら、なんとか大丈夫だろう。」
しかし、かなりの絞り込みが可能になってしまった。
今日集まった人の関係者の中に、俺につながる人がいる。
逆に、カズオもいる。
 姫「あら、宗司、もう頭痛は大丈夫なの?」
姫がリビングに入ってきた。
皆視線で、この話は終わりだと目配せする。
でも、俺は姫に聞く事にした。
 宗司「姫、ちょっと聞きたいんだけど。」
みんなが驚いていた。
 華「えっ?いいの?」
 みかん「どうせ記憶は消えるのさ。」
みかんが俺の代弁をしてくれた。
記憶が消えるんだから、今聞いていても問題ない。
 姫「ん?何かな?」
 宗司「ああ、今日のパーティの事だけど。」
 姫「ああ、退屈だったよ。次の総理大臣に興味も無いし。」
そう言えば、次期総理候補が集まっていたんだよな。
よく考えたら、凄く危険な場所じゃないか。
でもまあ、予告してなかったし、カズオの性格ならいきなりはないだろう。
なんとなくそう思った。
 宗司「てかさ、今日誰かから、ツレがいるかとか、一人で来たのかとか、聞いてくる奴はいなかったか?」
 姫「ああ、それは毎回聞かれるわよ。」
・・・
くそ、姫がへたに可愛いのが災いしたか。
 宗司「若い男に聞かれるって事ね。」
 姫「だから、宗司に頼んだのに。」
なるほど。
俺は害虫よけだったのか。
でも、これでは、特定はできない。
俺は魔女ッ子の事を話す事にした。
話し終えたが、姫は全く信じていなかった。
証拠になる魔女ッ子もノートも見えないのだから。
 宗司「信じてもらえなくてもいいから、そうだと仮定して、俺が狙われてると仮定して、今日、ツレがいないかどうか聞いてきた中で、おかしいと思う者はいなかった?」
 姫「まあ、全く信じられないけど、でもそれなら、二人おかしな人がいたわね。」
 宗司「えっ?」
もしかして、それのどちらかがカズオか?
 姫「かなり年輩の男だった。おじいさんって言えるくらいの。」
なるほど、それは怪しい。
でも、俺ならおじいさんになっても、姫なら興味あるけどな。
 姫「で、もう一人が、美奈斗さんかな。女性だったってだけだけど。」
女性か。
確かに、ナンパ目的なら、女性が聞いてくるのはおかしい。
他よりは可能性として高い事も確か。
 宗司「その人達、誰だかわかるか?」
 姫「わかるわよ。一人は扇グループの総帥だし、美奈斗さんは、次期総理大臣最有力候補の、桜井豊のお孫さんだもん。」
 宗司「ええ!!」
驚きと考えが錯綜し、しばらく俺はフリーズした。
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