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ギルド職員のルール

ギルド職員には、いくつかの約束事がある。
その中の一つに、『ギルド職員たるもの、ギルド並びにギルド協会にとって不利益となる行為をしてはならない』というのがある。
具体的に言うと、例えばギルドでは魔石を売買しているわけだから、それを冒険者に上げたり安く売る行為が禁止されている。
或いはギルドへの依頼を、個人で勝手に対応してはいけない。
怪我の傷を癒してくれという冒険者が来たとしても、ちゃんとギルドに提示してある料金をいただく必要がある。
特に蘇生魔法は、よっぽどの事が無い限りやってはいけない事になっている。
許可されているのは、ギルド並びにギルド協会の職員と、その家族関係者に対してだけだ。
もしもそれ以外に許可した場合、『蘇生してくれ』とやってくる冒険者が後を絶たなくなるだろう。
これはギルドが、ちゃんと営利団体としてやっていく為に、必ず守らなければならないルールだった。
とは言え、そもそも蘇生魔法が使える人はほとんどいない訳で、そんな心配は普通なら不要である。
しかし今は俺がいるので、その辺りしっかりと釘を刺されていた。
「ギルド職員として蘇生は禁止だからね。やる場合は必ず料金も貰うように」
あの戦争で、俺が蘇生魔法を使えるって事は皆に知られた。
当然姐さんの耳にも入ったわけで、あの後俺はそんな風に言われたんだよね。
まあギルドの外での事なら、本人の判断で多少は目をつぶってくれるようだけど。

今日も朝から冒険者ラッシュを捌き、十一時前には落ち着いていた。
「じゃあ俺はいつも通り道場に行ってきますんで、何かあったら呼んでください」
「行って‥‥らっしゃい‥‥」
「今日こそは父をぶちのめしてきてくださいね」
「お、おう‥‥」
朝里ちゃんは無茶を言う。
つか自分の父親をぶちのめしてこいとか、本当に朝里ちゃんは両親の事が好きなのだろうか。
冗談だって事は分かるんだけどね。
俺はギルドの出口へと向かった。
すると突然、入口から冒険者が入ってきた。
背中には意識を失っているであろう冒険者が背負われている。
「誰か!蘇生魔法は使えないか!?仲間を、仲間を助けてくれ!」
俺はさっさと道場に行っていれば良かったと思った。
ギルドの規則で、蘇生はできても助けてあげるには相応の料金をいただかなければならない。
それもかなりの額になる。
助けてあげられる可能性は少ないのだ。
俺は冷静に対応した。
「ギルドに依頼という事であれば、百万ゴールドいただきます。それで良ければ、内容の確認という事になります」
百万ゴールドは、前世の世界での価値で言えば、だいたい一千万円だ。
冒険者でもかなり高いレベルの者でなければ払える額ではない。
「何を言っている!命がかかってるんだぞ!蘇生してくれよ!」
冒険者の男は涙目で訴えた。
蘇生してやりたいが、そいつを蘇生したら、月に最低五十人以上は無料で対応しなければならなくなる。
それはあくまでこのギルドの依頼で月に亡くなる冒険者の数だ。
前まではせいぜい二十人くらいだったが、勇者が受付をやるようになって客は増え、死者も倍増しているし、町で死ぬ人はそれだけではないのだ。
「申し訳ありません。無料で対応するとなると、沢山の方がこのギルドに押し掛ける事になります」
俺は悔しさをかみしめて対応した。
冒険者も悔しそうだった。
嬢ちゃんも朝里ちゃんも何も言えなかった。
その時だった。
一人の冒険者が声をかけてきた。
「百万ゴールド、俺が貸してやろうか?」
最近この町に居ついている一番の高レベル冒険者だった。
確かランクは神無月だ。
ランクにふさわしい能力もありそうで、人柄も悪い印象はない。
「本当か!借りる!借りるから、ギルドの人、仲間を助けてくれ!」
俺は少しホッとした。
これでとりあえず助けられるかもしれない。
「ではまず状況を確認させていただきます」
俺は死んだ冒険者を確認した。
魂はまだしっかりと体と繋がっている。
生への執着が強い人だったのだろう。
これは問題ない。
体もあるから多分大丈夫‥‥
俺は愕然とした。
その体は老化してやつれきっていた。
蘇生の条件は二つ。
体がある程度原型をとどめている事。
燃えて灰になっていたりしたら駄目だ。
そして魂がその場に残っている事。
魂を体に戻さなければならないわけで、出来ればまだ繋がっている状態が望ましい。
別の魂が間違って入る可能性もあるからね。
この二点は今回満たしているが、死体を確認する限り、これは老化の呪いによる老衰死。
つまり寿命で死んだという事だ。
寿命で死んだ場合、生き返らせる事は可能である。
しかし蘇生できても、またすぐに死ぬ事になるので意味はないのだ。
「残念ですが、これは老化の呪いによる死ですね。その場合、生き返ってもすぐに死ぬ事になります」
「老化の呪いを解く事はできないのか?!」
「できますが、老化した体を戻す事はできません。老人を若返らせる事はできないのです」
残念だが、もう俺には救いようが無かった。
それでも尚その冒険者は食い下がってきた。
「頼む。なんとか!なんとか助けてくれ!」
そこでふと、俺はある事を思い出した。
ハト化蘇生の魔法スクロールだ。
俺は試してみたいという思いもあり、水晶からそのスクロールを取り出した。
「どうしてもというのなら最後の手段があります。ここにハト化蘇生の魔法スクロールがあります。これを使えば命だけは助けられるかもしれません」
このスクロールを俺が使って助ける事はできないが、プレゼントする事はできる。
このスクロールはまだ販売しておらず、俺の研究中の物だからだ。
「ハト化?‥‥」
「はい。ハトとなればとりあえず十年くらいは生きられる可能性があるでしょう。その間に自分で元に戻す方法を探してみてはいかがですか」
戻せる方法があるかは分からないが、今此処で死ぬよりはマシだろう。
「この際‥‥仕方ないのか。分かった。それでもいいからやってくれ」
「申し話ありません。私がやるわけにはいきません。スクロールを差し上げますから、ご自分でお願いします」
俺はスクロールを冒険者に差し出した。
この冒険者の魔力量なら、なんとか魔法は発動するだろう。
少し唖然とした表情の冒険者に、おれはスクロールを渡した。
スクロールを受け取った冒険者は、背負っていた死者を床へと横たえた。
「既に魂が体から離れています。お急ぎください」
先ほどまで繋がっていた魂は、既に体から離れていた。
魔法に失敗すれば、別の魂を引き込む可能性がある。
体はハトになるのだ。
より相性の良い魂が他に無いとも限らない。
「分かった」
男は急いでスクロールを広げた。
そして魔力を注ぎ始める。
大丈夫、間に合いそうだ。
魔法が発動し、死者の体が光に包まれた。
そしてそれはハトの形に変わってゆく。
元の魂も体に戻され、ハト化蘇生魔法は無事成功した。
ハトは動き出した。
それを見た冒険者は、泣きながらハトを抱きしめた。
ハトはそれに対して何かを訴えるように動いていた。
しばらくして冒険者の腕から抜け出し、受付テーブルへと飛んでいった。
「おい!何処にいくんだ?!」
ハトはテーブルに置いてあるペンを咥え、メモ用に備え付けられた紙に、何かを書こうとしていた。
無理だったが‥‥
どうやら記憶は魂に宿っているようだ。
老化したハトではなく普通のハトのようで、体の状態も魂に引っ張られていると判断できるかもしれない。
つまりハト化を解除できれば、元の体に戻れる可能性はあるという事だ。
老化した体に戻る可能性も十分考えられるが、ハト化解除に向けて希望が残ったのは良い事だろう。
嬢ちゃんが少し大きめの紙を持ってきて、そこにコックリさん的に文字を並べて書いて行った。
これを使えば一応会話もできるし、完全に死ぬよりはマシか。
とりあえず俺は、一つの命が救えた事にホッとした。
でもこの後、俺は姐さんに注意されちゃったけどね。
スクロールを上げるのも駄目だってさ。
まあ罰則はなかったけどね。
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